第三十三話:女王の決意と、けじめの旅
黒氷の島は足元からゆっくりとエーテルの輝きを失い、ただの氷の塊へと戻っていく。
私とリリアが手を繋いだままその光景を見つめていた、その時。私たちの足元から岸辺へと、再び月光の橋が架かった。遠く対岸でこちらを見守っていたゲルダの、最後の道しるべだろう。
私たちは黙ってその橋を渡り、岸辺で待つゲルダの元へと帰還した。
私が旅の最初の目的を問うと、老婆は物悲しそうに首を横に振った。
「あの苔は黒氷の島の純粋なエーテルだけを糧として生きる、儚い命。儀式が崩壊し、島がただの氷塊に戻ると共に全て失われてしまったよ」
そしてゲルダは済まなそうに、しかしどこか全てを見通すような瞳で、私を見つめた。
「…許しておくれ、お嬢ちゃん。わしはこうなることを知りながら、あんたをここに導いた」
(…ああ、そうか)
私は、その老婆の瞳の奥にある、途方もない孤独と覚悟を見た。
この魔女は、私個人のことなど見てはいない。
この世界の歪み。その行く末。ただ、それだけを見据えている。
私をここに導いたのは、私ののためではない。この、世界のために。
私は、隣に立つリリアの手を、強く握りしめた。
「顔を上げてくださいませ、ゲルダ」
私の声は、不思議なほど穏やかだった。
「謝ることは何もありませんわ。私は、本当に探していたものを、見つけられたのですから」
私はゲルダに深く一礼した。
それは、ヴァイスハルト家の当主として、この世界の宿命の一端を、共に背負う者としての礼だった。
長く厳しい道のりを経て、私たちは白氷城へと帰り着いた。
温かい食事。柔らかな寝台。全てが懐かしく、そして愛おしい。
数日後、城が日常を取り戻したある晴れた日の午後。私は、新しい旅の計画を立てていた。
「老執事、少し良いかしら」
私は彼を執務室に呼び出すと、一枚の大きな羊皮紙を広げた。
それは私がこの数日、徹夜で作り上げた「リリア聖地巡礼マップ」だった。
「これよりリリアとの思い出の場所を巡る旅に出るわ。いわば、けじめの旅よ」
私はマップの上を指でなぞりながら、彼に熱弁する。
「最初の聖地は天媒院の温室。ここのベンチでリリアがわたくしに初めて…」
私のその尋常ならざる情熱に、老執事は一瞬呆気に取られたような顔をした。
けれどすぐにその瞳に温かい光を宿すと、静かに、そして深く頷いた。
彼のその優しい眼差しは、主君の不器用で、しかし純粋な愛情の形を、全て受け入れてくれていた。
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