第三十話:魂の共鳴と未来視
私の短剣が、私自身の胸へと振り下ろされる。
もう何もかもが終わりだ。
私が固く目を閉じた、その瞬間だった。
ゴッ、という骨が軋むかのような鈍い音。
そして私の体を貫くはずだった衝撃は、訪れない。
恐る恐る瞼を上げる。
目の前に、信じられない光景が広がっていた。
アザレアが振り下ろした短剣の刃。
その切っ先が、私の胸元数ミリのところで静止している。
そしてその腕を掴み止めているのは――悪夢に囚われていたはずの、リリアの小さな手だった。
彼女のか細い腕が、まるでこの世の理不尽そのものに抗うかのように、アザレアの動きを完全に封じ込めていた。
「なっ…!?」
アザレアの神のような無慈悲な表情に、初めて純粋な驚愕の色が浮かぶ。
リリアはゆっくりと顔を上げた。
その硝子玉のような瞳は今、アザレアが見せた無数の絶望の未来、そのさらに奥にあるたった一つの光を見通しているかのようだった。
そして、その唇が動く。
虚ろでありながら、しかし決して折れることのない、絶対的な意志をその響きに含ませて。
「その『未来』だけは…認めません」
その言葉。その意志。
私はまるで夢から覚めたかのように、はっとリリアのその小さな肩に手を触れた。
その瞬間だった。
それまで陽炎のように虚ろで、この世界の理から外れていたアザレアの存在が、私の感覚の中ではっきりと実体を結んだのだ。
触れられる。干渉できる。彼女は今この瞬間、確かに私と同じ世界に立っている…!
(…今、なら)
好機は一瞬。
私はリリアが作ってくれた、その僅かな世界の亀裂を見逃さない。
私は息を吸い、そして吐き出すその呼気に、術式を乗せた。
私の手のひらから放たれたのは、ただ純粋な、凍晶の一撃。
アザレアはリリアの腕を振りほどき、咄嗟に身を翻した。
凍晶の一撃は彼女の頬を僅かに掠め、一筋の赤い線を描く。
初めて、私の攻撃が彼女に届いた。
アザレアは自らの頬を流れる血を、信じられないといった表情で見つめている。
私はよろめくリリアの体を支え、そしてその手を強く握った。
指と指が絡み合う。
私の目に、最早、恐怖はなかった。
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