第二十三話:女王の選択
「どうかなさいましたか、我が君。何か、悲しい夢でも?」
リリアが、心配そうに、私の顔を覗き込む。
その、あまりにも優しく、愛情に満ちた瞳。私が、焦がれてやまなかった、光。
この手を伸ばせば、全てが元に戻る。私の犯した過ちも、あなたの払った犠牲も、全てが、この甘美な夢の中に、溶けて消えていく。
(ああ、リリア…)
けれど。
その、完璧な笑顔を見つめているうちに、私の脳裏に、別の光景が、鮮やかに蘇った。
私を庇って、その細い腕を、短剣に貫かれた、あなたの姿。
崩れる遺跡の中で、私の外套を、強く、強く、握りしめていた、あなたの、震える手。
悪夢の森で、私の手を引き、光へと、導いてくれた、あなたの、感情のない、けれど、誰よりも、頼もしい、横顔。
目の前にいる、この完璧なあなたは、あの痛みを知らない。あの恐怖を知らない。
そして、あの、絶望の淵で、自らの全てを賭して、私を救うと決めた、あなたの、崇高な意志を、知らない。
この夢を受け入れることは、あなたの、その、あまりにも、気高い決意を、この私が、踏みにじることに、他ならない。
「…違う」
私の唇から、か細い声が、漏れた。
涙が、頬を、伝っていく。けれど、それは、悲しみの涙ではなかった。
「あなたは、リリアではない。私の知る、リリアではないわ」
私は、目の前の、幻影に向かって、はっきりと、告げた。
「困難な、『救済』の道を進むことこそが、リリアの想いに応える、唯一の方法だと、私は、信じているから」
偽りの幸福を、この手で、振り払う。
その、私の、強い意志に呼応するように、陽光に満ちた、美しい世界が、ガラスのように、砕け始めた。
リリアの、優しい笑顔が、歪み、ひび割れていく。
「――ちぇっ。つまらない選択をするのね、お姫様は」
最後に聞こえたのは、ネヴァンの、心底、がっかりしたような、声だった。
次の瞬間、私は、自分のベッドの上で、勢いよく、身を起こした。
心臓が、激しく、鼓動している。頬には、涙の跡が、生々しく残っていた。
ゲルダの家の、静かな、薄暗い部屋。
隣のベッドでは、リリアが、相変わらず、穏やかな寝息を立てていた。
私は、そっと、ベッドを降りると、その、眠るリリアの、傍らに、膝をついた。
そして、その、小さな手に、自分の手を、優しく、重ねる。
もう、迷わない。
私が、進むべき道は、ただ、一つ。
あなたと共に、この、困難な現実を、乗り越えていく。
その決意は、今、絶対的な覚悟となって、私の胸に、深く、刻み込まれた。
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