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『俺にラブコメはまだ早かった!!~運命に振り回された俺の青春を返してくれ~』  作者: ミタラリアット


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九話『放課後ミッション』

 夜中。母さんも寝静まった頃。ナイフを持った俺は静かに家を出た。「まさか俺が人殺しになるなんてな」自嘲気味に呟く俺。「似合ってるぞ、そのパーカー」ホノカの返しにも、いつもの軽い茶化しとは違う含みがあった。静かに夜の風が吹き抜ける。やたら静かで、焦燥感に駆られる。「人を殺すのは怖いか?」安心させようとしているのか、優しく問いかけるホノカ。「自分が勝手に運命書き換えといて今更なにを」俺は冷たくホノカに言った。ホノカは、「そうだったな」と短く答えた。それきり何も言わず、ただ俺の隣を歩く。


街灯に照らされた横顔はどこか影が落ちていて、表情すら掴めなかった。一歩進むたびに、靴底の音だけが耳に残る。自分の呼吸さえ、やけに大きく聞こえた。 「ホノカ、お前は俺にどうなって欲しいんだ?」ふと無意識に口から出た問いに、ホノカはふっと笑った。「カガミ。私はお前に一人前の死神になって欲しい。お前は心が綺麗だ。だから適性がある」ホノカの言葉に、俺は「いまその心を汚そうとしているんだぞ……」と呆れながら返した。「なぜ心が綺麗なやつに死神の適性があるかわかるか?」ホノカの問いを「さあな」と適当に聞き流す。「心が綺麗な人間のほうが絶望した時美しくなるからな」思わず立ち止まってしまった。「冗談、だよな?」ホノカはゆっくりと振り返り、三日月の下で微笑む。「冗談に聞こえたか?」その声には、茶化しなど一切なかった。ただ、冷たい口調に胸がざわつく。怒りとも違う。恐怖とも違う。ただ、嫌な形に心臓が押し潰されるような感覚。俺は息を飲んだ。嫌に風が冷たく感じる。


 少し先を歩いていると、女性が一人で近くを彷徨いているのを見かけた。女性は、「あ~。仕事遅くなっちゃったな、タケルにご飯作ってあげないと」と腕時計を見ながら呟く。俺はその女性の足音を小さくしながら近づいていく。ホノカは「決まったか?」と俺を見て微笑んだ。何も悪くない女性。誰も悪くない犠牲。俺にはもう行く場所が無い。俺はナイフを握りしめながら、一歩一歩その女性と距離を縮める。全ては、サユリを守るため。みんなを守るため。傷つくのは、俺一人で充分だ。俺はナイフを握る。手が震えているのがわかった。俺は完全な殺人犯になれるほど冷徹な心を持っていない。恐怖で目を瞑る。なるべく一瞬で仕留める……。ナイフが何かに触れる感覚と、女性の「あッ……」とようやくこちらに気づく声が聞こえると同時に、目を開いた。女性の身体が、ドロドロに溶けたルージュのように鮮明な赤をアスファルトにぶちまける。


 「ッ……はッ……」急激に鼓動が早くなる。「逃げろ。カガミ」ホノカに言われるがまま、俺は逃げた。はじめて、はじめて人を殺した。俺は、全力で暗闇の中を駆け抜け家に入り、自分の部屋に帰ると机の上にそれを置いた。同時にふらっと視界が揺れ体勢を崩す。「ッはぁー、はぁ、はっはっはっはっ……はぁ……」ショックに反応し、過呼吸を起こす俺の身体。「……ごめん……なさい……」俺は暗い部屋で体育座りになり涙を流す。当然、その日も眠れなかった。翌日。朝の六時半。俺は部屋のテレビでニュースをつけた。『先程、如月駅周辺の住宅街で女性が血を流して倒れているとの通報が』さっそく昨晩のことがニュースになっている。マスコミの情報収集の早さには驚かされるばかりだ。


 「よくやったじゃないか」ホノカは俺を優しく抱き締め、背中を摩る。「私だって、そんな────」ホノカはまた何かを呟く。「……そんな?」俺が問うとホノカは、「……何でもない……」と言葉を閉ざした。その代わり、「なあカガミ。なぜ血は赤いか知っているか?」と俺を試すように問いかける。「知らない。そんな理由知ったところで、誰も助からないだろ……」俺が言うと、ホノカは「そこに命があるからだ。お前が殺した人間にも、人生があった」と馬鹿にするように笑う。「……お前が殺せと言ったんだろう?」俺が言うと、ホノカは「だがこちら側につくことを選んだのはお前自身だ」と今となっては反論しようがないことを俺に言った。「お前はサユリや周りの人間が死ぬのが嫌だった。私は罪人を裁きたい。winwinじゃないか」ホノカは俺の顎を持ち上げる。「喜べカガミ。私はお前の"共犯者"だ」


 はじめて人を殺して落ち込んでいる俺とは裏腹に、嬉しそうな声色で言うホノカ。ホノカは続ける。「それと、今日からまた学校に行け」ホノカの言葉に、「なんで」と問いかける。ホノカは、「サユリが待っているぞ」と答える。俺は俯く。「なんだ。サユリに会いたくないのか?」ポカーン、とこちらに視線を向けるホノカ。「下手な言動して、俺が殺したってことバレたら……」警察に見つかる恐怖から登校を躊躇う俺に、「ずっと休んでるほうが不自然だ」とホノカは告げる。「……わかったよ……俺寝てないのに……」愚痴りながら、俺は久しぶりに制服に着替える。朝の支度を全て済ませ、制服を着て階段を降りると、母さんが「あら??! カガミ、学校??」とこちらを振り向いた。俺は「うん」と静かに頷く。「頑張ってね」母さんは俺の肩を優しく叩いた。俺は、何も答えず背を向ける。


 家を出ると、通学途中のサユリに遭遇する。「カガミ!」サユリは俺を見てはすぐ嬉しそうに手を振った。「寂しかったんだよ、ずっと一人で学校行くの」俺に片手を差し出すサユリ。「私がカガミのそばにいてあげる」サユリに言われた時、再び涙が出そうになった。「……サユリ……」静かにその名を呟く。「たまには私に甘えてよ。カガミは強がりなんだから。弱さを見せたっていいんだよ」サユリは俺に優しく言った。まるで天使のような笑顔。俺にとってその笑顔はかなり眩しいものだった。通学路を歩き、学校の門まで行くと、「あれ……ヒロム……」と一瞬記憶が誤作動を起こし、いるはずの彼がいないことに気づく。「カガミ?」サユリは首を傾げた。「ヒロムはどこにいるんだ……?」俺がサユリに問うと、サユリは「……え?」と目を見開いた。風が二人の間を吹き抜ける。


 「おはよー」「おはよー」生徒たちの明るい声が交差する。「何言ってるの……? ヒロムはもう……」サユリの言葉に、俺はハッと我に返る。「悪い……。いつも当たり前のようにそこにいたから……」俺が言うと、サユリは「そうだよね。まだ、実感無いよね」と俺の言葉に寄り添った。教室に入ると、ヒロムの机に花が添えられていた。嗚呼、現実の出来事なんだ……。と俺はこの数日を嫌でも振り返る。「聞いた? 今日のニュース、この近所で人が血を流して倒れていたらしいよ」「えー、物騒。嫌な世の中になったわね」生徒たちが集まって話をする中、俺はただ下を向いていた。こういう時にいつも話しかけてくれたのがヒロムだった。俺のもう一人の幼馴染で、同性の友人なんて俺にはあいつぐらいしかいなかった。生徒たちがザワザワ雑談を続けていると、担任の岸田先生が入ってくる。


 「ホームルームはじめるぞ~」すべての授業が終わり、放課後。スクールバッグを片手に、なぜかいないサユリを探そうとトボトボと歩いていると、廊下でユリカが制服姿で体育座りになり泣いているのを見つけた。「どうした?」俺が姿勢を低くし、ユリカに問う。「私に構わないでください……」ユリカは震えながら呟いた。「でも……」俺はユリカをほっとけなかった。「カガミ、こんな子に優しくする必要なんて無いわ。だって彼女は私たちとは違って陰の存在なんだもの!」数人の女の子を連れた茶髪ショートカットで黄色いカチューシャの同級生、ミサが俺に話しかける。「……なんだこれ……いじめか?」俺が問うと、「なに? いじめ呼ばわり? ひっどーい。私たちが悪いって言うの? こんなヤツ見捨ててカガミは帰りなさ……」とミサはペラペラ言葉を並べる。そんなミサに苛立ちを覚えた俺は反射的にミサの頬を叩いた。


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裏で●●をし、表でラブコメをしようとしてやがる。な、なんて作者だ…
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