六十話『協力者』
ふらふらと代官山の街で暇を潰して約束の一時過ぎ。俺はレイが待つセミナー会場内のレストラン、クリスティに顔を出す。「お忙しいところお時間を設けていただきありがとうございます」微笑みながらレイに会釈しては、レイも「直接セミナーの参加者と二人で…なんて経験、今まで一回も無いのだが。どうやら君には惹かれてしまってね?まだ学生だろうに。確か高校生。と言っていたね。いいよ。君の志を私は応援したい」レイの真剣な目が俺の迷いのない顔に向けられる。彼の協力を得ることが出来れば、かなりスムーズに事が運ぶ。「みなさん、レイさんの話に夢中になっていました。それはレイさんにかなりの実績があるから成せる業。中途半端な人間の話なんて聞く耳すら持たれませんから」俺が言うとレイは「ふふッ、そんな。私は褒められることに慣れてないんだ。調子に乗ってしまうよ。」と、あっという間に機嫌がよくなる。「もっと話しがたい方だと思っていたので、ジョークを言いはじめた時は驚きました」俺が言うとレイは、「まず何よりも親しみやすさが大事だからな。人と話せるかつ、いい印象を与えることが出来ない人間に起業はやっていけない。起業は会社を作ったら終わりじゃないんだ。どれだけ社員を大切にするか。シンプルだけどそれが一番難しいのさ」と語りだす。
「どおりでレイさんの会社、表のバランスと裏のバランスを取るのが上手いんですね」俺が笑いながら答えると、レイは「…」とこちらを疑うような視線を向けた。レイは、「裏のバランス?どういうことだろう。」と問いかけてくるが、「和風きのこパスタ二つです。アイスコーヒーとカフェラテになります。」と店員が食事を運んできて、それに遮られる。「…」こちらを見つめるレイ。「でも実際どうですか?レイさんほどの優れた資産家なら、周囲で変なことを嗅ぎまわったりするような人も出てきますよね」俺が笑顔を浮かべるとレイは、「味方がいないのは仕方がない。私を恨んでいるひとも中にはいるだろう」と目を逸らしながら意味深なことを言った。ゆっくりと食事にも手を付ける二人。多少の緊迫感も漂うレストランで、陽気な性格とは裏腹に慎重な態度を取るレイ。
「…レイさんの会社で社員たちが次々に亡くなっている…と言う噂を小耳に挟んだのですが、それは事実ですか?」俺が問いかけるとレイは、ぴくっと表情を変える。「私は知らない」予想通り否定してきたレイに、「二千二十四年二月十三日。」俺が日付を言うとレイが「!」と明らかに動揺する。「二千二十四年三月十六日。二千二十四年四月…」俺が日付を次々読み上げると、レイは「…」と黙り込んでしまう。「表に出されたら困るのはわかっています。でも俺は暴露したいわけじゃない。俺の目的を果たしたいだけなんです。今から俺が言うことに協力してくれたら、これは存在しなかった話になります」俺が説明すると、レイは「わかった。わかった。君はなにを協力してほしい。君のような学生にまさかそんなことを言われるとは思わなかったよ」と焦るような早い口調で言った。「だがその君の提案に勝算はあるのか?マイナスになることは私は一切しないぞ」レイはそう言うと、「これが私の連絡先だ」と名刺を渡した。「このメールアドレスに後々しっかりした要望を送ってくれ」レイはそう言うと、「さすがに驚くよ、こんなこと今まで大の大人でも無かったんだ。それどころか君みたいな高校生だとは。私も危機管理をしっかりしておかなければ。誰に聞いた?誰が君の味方をしている」レイに問われるが、「さぁ誰でしょう?」と俺は微笑むだけだった。味方は殺しました。なんてまだ言える状況下じゃないし。その後も適当な雑談を繰り広げては、食事も終わり、「ではレイ・テンダーさん、すべてが整ったまた後日」とレイに言って軽く会釈する。レイは、「支払いは私が済ませておく。」と財布を出す。「あ、大丈夫ですよ自分の分は…」と言うが、「遠慮などしないでくれ」とレイが先にレジまで行ってしまった。
レストラン前で別れ際、「すみません…」とレイに謝るが、レイは「いいんだよ。」と優しく笑った。「駅まで送っていこう」とレイに言われては、「特別待遇…すごいですね」と呟く俺。代官山駅まで二人で歩いて来ては、レイは「協力できることはする。するからどうか君の知っているすべてのことを表沙汰にしないでくれ」と俺の両肩に触れながら言った。「わかりました、ありがとうございます」俺は笑顔で答え、レイと代官山駅で別れる。背後から追ってくるホノカ。「よかったな、カガミ。レイが協力的で」ホノカに言われては、「よっぽど自分が殺人犯だってことバレたく無いんだろう」と答えながらICカードを改札に通し電車に乗り込んでいく。電車に揺られながら、汚い手も使い慣れたな、なんて考える。さてと。これからまた計画をじっくり詰めよう。
如月市に帰り、サユリの家の扉を開けると、「おかえり」とサユリ本人が駆け寄ってきた。「大好き~!」サユリは俺に抱き着く。「知ってる」俺が言うとサユリは、「ふへへ、」と喜ぶ。「レイにも会えたことだし、さっそくはじめなければ」俺が言うと「はじめるってなにを」とサユリが問いかけてくる。「計画、だよ。まあサユリは楽しみに待っててよ。自分が神として崇められる世界を!!」俺が言うとサユリは、「神!?」と目を輝かせる。「嗚呼、全てはサユリのために作られる組織なんだ。楽しみにしてて??」俺の言葉にサユリは、「うん、楽しみにしてる!絶対!!!」と少女のように喜んだ。「本当にカガミは私の事ばかり考えてくれるね?」満足気に言うサユリに、「当然だ、俺にとって世界で一番大切なものがお前なんだから。」と微笑む。サユリは「もう、カガミしか見えなくなっちゃうよ??」俺に顔を覗き込む。「俺はとっくの昔にサユリしか見てないけどな」俺が答えるとサユリは、「ふふッ、幸せ」と俺の片手をキュッ、と握った。「ね、好き」とサユリに言われては、「俺も」とサユリを抱きしめる。サユリは、「幸せ過ぎてどうにかなっちゃいそうだよ…」と蕩けたような目で甘い言葉を呟いた。「サユリじゃないとダメなんだ、ずっとそばにいてくれ」俺がサユリに言うと、サユリは「当たり前♡」と嬉しそうな声で答えた。




