五十八話『朝』
その日もタスクのように淡々と殺人をこなし、サユリの家に帰宅。「スゥー、スゥー、」と既に眠っているサユリを横目に、俺は風呂場に向かった。「ほお。私の助言通り黒髪染め買ってきたか。」ホノカはそう言うと、脱衣場の中までついてくる。「これ以上はストップ」手を真っ直ぐ前に伸ばしホノカを止めると、ホノカは「ふんッ、お前の身体なんぞ一ミリも興味が無い」とどこかへ去っていく。脱衣場で服を脱いでは、風呂場へ。サユリが入った後だからだろうか。なんだか風呂場が暖かい。 とりあえず風呂を済ませたら髪を染めよう…。何気にヘアカラーは人生で初めてだな、そんな事を考えながら髪と身体を洗う。シャワーを流しては、「…」と天井を見上げる。隣に住んでる母さん、父さんは大丈夫だろうか。それにしてもサユリの家庭環境も問題だな…。サユリの母さんは施設行き、父さんは帰ってこないだなんて。いったい子供をなんだと思ってるんだ?俺の学校のほうはどうなってるんだ。…学校に行ってももう、ヒロムもユリカも分倍河原もいないんだな。まあ、こんな状況じゃ学校に行くことすら許されないけど。退学状態だろうな。俺が殺人で現行犯逮捕されたことは知られているんだから。はあ。俺にとっての幸せってなんなんだろう。そこにサユリがいることだと思っているけど。風呂に浸かっては、ゆっくりと身体をリラックスさせる。「はぁ…。いつまで経っても冷酷な殺人犯になれないな、正義にも悪にもどっちにもなりきれないなんて…」と呟く。
風呂を済ませ、髪も染め終わっては、やたらと黒髪が馴染む自分の姿に驚きを隠せなかった。鏡を見る。サユリの家には自前の歯ブラシと歯磨き粉がまだ無いのでとりあえず紙コップとホテルのアメニティの歯ブラシ、小さい歯磨き粉を使う。服も取りに行くか買いに行くかしないと足りない。出来ればパソコンも家から持ち出したいが母さんに見られたら終わりだ。大量に荷物を持っていかずにチマチマとホノカに運ばせるしかないか。資金は六万ちょっとしかない。さっさとレイ・テンダーに会って資金提供の交渉をしないとな…。表向きには弱者を救済する組織。でも本当はサユリを守るためだけに発足された組織。高二病もいいとこだ。歯磨きが終われば一先ずの自分の部屋。つまりサユリの母さんの部屋だった場所に帰る。スマホを覗き、ツイツイイッテシマッターで連続殺人犯についての情報を調べる。だが相変わらず俺はデジタルに疎い。興味が無さすぎて名前も会社も知らないような適当な携帯端末を選んだからか画面が人よりモサモサしてる気がするし読んでいた呟きを途中で見失う。まあ、仕方がない事だろう。人の命の重みがダイレクトに刺さる。わかってはいるさ。理解してはいるんだ。だけどこっちにも守りたいものが…。嗚呼…、それでは正当化出来ない、殺人はどんな理由があろうと正当化してはならないって父さんが小さい時に言っていたな。
「カガミ。」ホノカが浮遊しながら話しかけてくる。「画面にすら触れずぼーっとしてどうした」心配そうな表情を向けるホノカに指摘されてから「嗚呼…そうだったな」と気づく俺。「カガミ。今一番やりたいことはなんだ?」問いかけてくるホノカに、「寝たい。だから構って来ないでくれ」と冷たく対応する。ホノカは、「私は猫のテーマパークに行きたい。すぐそこだろう?如月駅から。可愛いじゃないか。ハローキ…」と言いかける。「じゃあ浮遊して行って来ればいいだろ明日でも。あと正式名称出すな面倒なことになるから」布団を被りながら言うと、「無垢な女の誘いを断るとは」と呆れるホノカ。「どこが無垢だ」はっきり言い返してやれば、ホノカは、「仕方ない、今度ひとりで行くか」と寂しそうに呟く。俺はそのまま朝までぐっすり眠った。
来たる朝。俺は目を覚ます。ベージュ色のカーテンから光が差し込む。俺はとりあえず持ってきた黒いパーカーに着替える。「髪染めたの!??ちょっと、かっこいい♡」サユリにかっこいいと言われた途端、気分が良くなる俺。「バレたら困るからな。色々」俺が答えると、サユリは「いいんじゃない???似合ってるよ」と微笑む。「いまご飯作ってあげるから」と言った後、サユリはキッチンへ向かった。今朝サユリの家に届いたばかりの新聞の朝刊を読む俺。「サユリ、この新聞もなんだけどさ、いまの生活費どうしてるんだ?」俺が問いかけるとサユリは、エプロン姿で野菜を切りながら「どうしてるかって?お母さんが病気になってから、おじいちゃんの知り合いが援助してくれてるんだ。お母さんは働けない状態だし、お父さんはいま何してるかわかんないしね」と答える。「サユリの父さん、なんの仕事してるんだっけ?」俺が問いを続けると、サユリは「知らない。」と答えた。「でも、小さい時にお父さんに後ろからついて行って、仕事してるところ見たんだけど英語喋ってたよ。」と説明する。英語を喋る仕事、か。「俺の父さんはサユリの父さんと会ったことあるらしいんだけどな。俺も小さかったから覚えてないや」俺が言うとサユリは、「お父さん、帰ってこないだけで優しい人なんだけどね?ちょっと飲み癖が悪くてさ。お母さんと喧嘩したりしてたからどこかで女作っててもおかしくはないなって…。お母さんもあんな状態だし」と自分の両親の事を心配する。「でも運命だったのかな。カガミと同居状態になっちゃった。私たちこのまま十八歳になったら結婚しようね?」とサユリは言葉を続けた。俺は「嗚呼、約束だ」と頷く。
出来上がった食事をアニメを見ながら二人で食べては、俺が二人分の食器を重ねて洗いに行く。「じゃ、学校行ってくるから、カガミは気楽に過ごしてて!」サユリはそう言うとスクールバッグを取りに部屋へ戻り、「行ってきま~す!」と玄関を開けた。サユリと入れ違いで窓を貫通し入ってくるホノカ。「地獄のカフェでモーニングを満喫してきた。」ホノカはそう言うと、「だがやはり地上の料理のほうがうまいな」と頷きながら続けた。「絶品地獄メシってブログでも書いたらいいんじゃないか。」俺が提案するとホノカは、「地獄の情報をバンバン発信したらシバかれるのは私だ。」と苦笑する。「そっちにも事情があるんだな」俺が軽く笑うとホノカが、「聞くのは最後だぞ。本当に死神にならなくていいのか?この世の因果を外れて私みたいにエンジョイできるのに」と口角を上げながら問いかけてくる。「俺は死神にはならないよ。」俺は再度断った。サユリがいるうちは…、ぜったいにこの世から離れたりしない。サユリと一緒にいたいから。「どうせまたサユリのこと考えてるな」ホノカはそう言うと、ムスッとした表情を浮かべる。「俺は常にサユリのことしか頭に無いよ」はっきり言い切っては、ホノカに「サユリは幸せ者だな。お前にここまで思われて」と鼻で笑われる。「俺のことも、思ってくれてるといいな」と俺が呟くと、ホノカは「…」と俺に黙って流し目を向けるだけだった。




