四十七話『デウスエクスマキナが訪れる時まで』
その日の深夜。母さんが寝た後、カバンにR2を入れた俺はヒビキが待つキリストの像がある公園へ向かう。「…丸みを帯びたU字の水槽…♪」やけにメロディーが頭に入るサユリが歌っていた歌を口ずさみながら、夜道を歩く。「丸みのMで…蓋をした…♪底に…」小声で歌っていると、後ろを浮遊しているホノカが、「辞めろ。頭から離れなくなる」とツッコミを入れる。「サユリに言ってくれよ、俺も迷惑してるんだ、頭から離れない歌覚えさせられて。」俺が言うとホノカは、「後、お前って歌が下手なんだな。歌い慣れてないだろ」と指摘する。「カラオケとか別に行かないし…」と答えると、ホノカは「ふッ」と俺を鼻で笑った。公園まで歩くと、ヒビキが立っていた。ホノカもヒビキの前に姿を現す。「アンタたちこんなところに住んでるのね、わかりづらいわこの街…」いつものように文句を言うヒビキ。なんだか彼女らしいな、と心の中で呟く。「弐式、本当にめんどくさい事してくれたわね、この状況は私が人を殺さない限り永遠に続くって言うの?いつかは確実にママが死ぬって言うの?」ヒビキは俺に感情のまま叫ぶと、「答えてよ」と俺の胸ぐらを掴む。「もう人が死ぬとこは懲り懲りなの!また運命を書き換えてよ!どうして私は死ねないの!?こんなの間違ってるわ!!!」ヒビキの必死な訴えに、俺は「…」と黙る。「死神!!!」ヒビキはホノカにも叫ぶ。「私の運命をもう一度書き換えて」ヒビキの必死な頼みに、ホノカは「その頼みは聞けないな」と淡々と答える。「どうして!?」目に涙を溜めるヒビキ。「私もう帰る…!アンタたちなんかとはお別れよ!警察に通報してこの腐りきった面の汚い男を突き出してやるんだから!人の生命への冒涜を繰り返すこの男をね!」都合よくヒビキは後ろを向く。その瞬間、俺はヒビキの首元に持ち歩いていたスタンガンを当てる。「!?」ヒビキは力無くその場に倒れる。「痛い…!」と泣くヒビキ。だが身体に力が入らないのか、こちらを睨むばかりで何も行動はしない。俺はその間にカバンから注射器を取り出す。ヒビキが見ている前で、血のように赤い液体を注射器に入れた。「それって!」と瞳を震わせるヒビキ。「…ごめんね」あまりに怯えるヒビキに多少の罪悪感を覚えながら、彼女の服を捲り、腹部にR2を注射する。「はぁッ!?」ヒビキは腰を浮かす。「ぅ゛ッ…ぅ…♡」急な快感に悶えるヒビキ。「ねぇヒビキ、俺の為に人、殺せるよね?」ヒビキの頭を優しく撫でながら、ヒビキの手を取りゆっくり立たせる。「ふッ…ふぇッ……。」泣きながら俺の顔を見つめるヒビキ。ヒビキは「…あなたが…一番…」と悔しそうに声を震わせながら呟く。「…」口角を上げる俺。
ヒビキはよろよろと駅の方向へ帰って行く。「俺が駅まで送るよ。」ヒビキの身体を支えているとホノカは「だがカガミ。こいつは徐々に自我を失いお前の命令でしか動けない哀れな女になるぞ。人一人の人生を壊した自覚はあるのか?」と問いかける。俺は振り返り、優しい笑顔で「お前に言われたくないよ」とホノカに答える。ヒビキを駅まで送ると、ヒビキは「嫌だ、帰りたくない…弐式のそばにいたい…」と俺の胸に手を置く。「ダメだよ、ヒビキ。今夜は人殺しに行かなきゃ。」わざとヒビキを刺激するような甘い声で言っては、ヒビキは「…弐式♡」と瞳にハートを浮かべる。堕ちたな。「じゃあね、ヒビキ。君は今日から俺の為に奉仕するんだ、出来るよね?俺が呼び出した時はすぐ来る事」俺が言うとヒビキは、「分かった…」と頷く。「またね、」俺はヒビキに手を振った後、ヒビキが駅の中に入っていた事を確認し、時間差で改札に入り、ヒビキとは違う電車に乗る。空になったR2のケースと注射器は公園の砂場の中に破棄した。これで暫くは警察の目につく事も無いだろう。電車のつり革をぼーっと眺める。あの女はどうなるんだ。とか。次々と脳裏に過ぎる心配事を心の中で除去しながら、今日もまた殺す相手を探しに夜に溶ける。少し遠くまで電車に乗った。四葉駅。聞いた事が無いような駅で下車する。「…」俺は下を向きながら辺りを見渡す。山々の中を電車で走った気がしたのに、その駅だけは如月より繁盛していた。ホノカは、「どこだここ」と浮遊しながら呟く。「美味そうだな…」とタピオカ屋の看板を見て釘付けになるホノカ。「ちょっとそこのお兄さん」俺は木の杖をついたベタすぎる風貌の老婆に声をかけられ振り返る。「…わしゃ八十三歳。占い師のサチコじゃよ。見える見える。お兄さんの行く末が、アンタ悪い事してるねぇ……」簡単に見透かされてしまっては、「!?」と目を見開く。「魔女には気をつけるんじゃぞ…。」老婆に意味深な事を言われては、「魔女…」と呟く。「秒針が終末へ向かう時、魔女が現れて男を破滅へ導く」老婆の言葉に、目を細める俺。「どういうことですか…」俺が問いかけると、老婆は「まあどんな理由があれ悪い事はするなって意味じゃよ…。ふぉっふぉっふぉっ…。」と言いながら去っていく。「予言か…。なんの信ぴょう性もない…」俺が呟くとホノカは、「凄いなあの婆さん。私が見ている結末と完全に一致する」と評価する。「ホノカは俺の何を見たって言うんだよ」俺が問うとホノカは、「教えてやったらつまらないだろ」と呆れたように先を歩き出す。そして浮遊状態から着地しては「私はあれが飲みたいから買ってくる」とタピオカ屋の中に入って行く。「はぁ…」溜息をつく俺。
ホノカが帰ってきては、「どっか商業施設に行くぞ、」とホノカに言う。ホノカは隣を歩きながら、「そんな目立つところで殺すのか」と俺に問いかける。「男子トイレで誰かと二人になるタイミングを待つ」俺の作戦にホノカは、「お前は本当にリスクある作戦をするな」と答える。商業施設の中に入ると、夜とはいえ買い物客で賑わいを見せていた。スーパーの前を通ると、軽快な音楽が聞こえる。「なぁカガミ。いま思いついたんだが、一人暮らししたらどうだ」ホノカの提案に、「…」と考える表情を浮かべる。「資金は」俺が問うと、「仕送りぐらい頼めば貰えるだろ」と答えるホノカ。俺は「…」とさらに考える。「どうだ」と問いかけるホノカ。「悪くない」俺はそう答えると、男子トイレの中に入る。混雑している割に誰もいない男子トイレ。全てにおいて都合がいい。やはり俺の良いように物語が動いている。待機していると、「そうだよな~~リュウジ!やっぱ俺はお前の親友だ!!」と言いながら陽気な男が入ってくる。隣にいるのは、「う、うん…」となんだかぎこちない表情のリュウジと呼ばれた男性。ホノカは、「お前、男を殺す時ってだいたい何かヘマしてないか?」と言うが、スタンガンを武装した俺はそんな事で躊躇うほど弱くなかった。「あ…」二人と顔が合ってしまう。その途端、俺は飛び出し一人目の男を刃物で刺し殺す。二人目の男は「なんだぁ!?」と声を裏返して叫ぶが、俺はその男の目玉にスタンガンを当てる。二人目の男が倒れた後、俺はその男の心臓を刃物で刺した。まるで作業のように。全ての工程を済ませた俺は走って商業施設の中を出る。そして事件が発覚する前に駅まで向かう。「はーッ…」急に走ったため心臓が痛くなっては駅のベンチに座り込む。ホノカは「身体鍛えろ」と俺に言うが、「そんな事出来るわけ無いだろ」と答え、来た電車に乗り込む。
いつまで続くんだ…。この状況は。ヒビキ。俺だってこの運命に満足行ってないさ。人を殺した時にふわっと気持ちよくなる事はあれど、こんな事、本来なら絶対あってはならない事だ。でも、その時が来るまで、辞められない。サユリが死ぬ可能性があるうちは、いつか俺にとってのデウスエクスマキナが訪れるまで、俺はこの理不尽と戦い続けるしか無いんだ…!!




