四十六話『終末へ向かうためのスタート』
サユリと並びながら歩いて自宅に帰った俺は、「カガミ、昨日の夜何してたか素直に言いなさい」と母さんに迫られる。「ッ……!」俺は言い訳を考えるが浮かばず、頭をガックリ下げて「ライブハウス行ってました……」と嘘をつく。「宇宙人の儀式とか、ヒロムくんとの約束とか言いながらあなたって子は!私に嘘をついていたのね……」と怒る母さん。「あなたは学校で一番の優等生だと思ってたのに夜遊びなんて!本当に!もうッ!まあいいわ、次のテストで学年一位だったら夜遊び全面許可!!」母さんの言葉に「全面許可!?」と驚く俺。「学年一位よ、学年一位!」母さんはそう言うと、「はいこれ。本屋で買ってきたから!」と参考書や問題集を俺に渡す。「学生の基本は勉強!」と言う母さんに、「わかった」ととりあえず頷く俺。母さんから貰ったものをカバンに入れつつ、階段を上がり自分の部屋に戻る。
「お帰り。カガミ。今日の試合は惨敗だったな」口角を上げるホノカに、「わざわざ言わなくていいだろ」と適当に答えクリアファイルからレイの資料を取り出す。「レイの会社で起きている社員の不審死に関する資料とレイのセミナーの日程を掴んだ」俺が説明するとホノカは、「身体を犠牲にした甲斐があったな」と楽しそうな表情を浮かべる。「……辞めてくれ、思い出したくもない」俺が言うとホノカは、「思い出せない。の間違いじゃないか?あんなに激しくされちゃ思い出せないのも無理はない。それにメイド服だぞメイド服。クラスのみんなが知ったらどうなるだろうな。」と俺を煽る。俺は「だから辞めてくれ!」とホノカに訴える。
「それと、レイに会うのに先駆けてヒビキにR2を打つつもりでいる」俺の説明にホノカは、「ついにか。待ちくたびれたぞ」と溜息をつく。「さっそくヒビキに連絡するか……」俺はアドレス帳からヒビキの名前を選択し、電話をかける。『なんのつもり』さっそく電話に出たヒビキは、俺のコールに冷たい声で答える。「いや。情報交換は大事だろ。お前はまだ人を殺して無いのか?」俺が言うとヒビキは、『私のほうではクラスメイトが次々死んで影響は隣のクラスにまで及んでるわ。知らない?浄徳高校突然死事件って。ネットじゃ金田一みたいって話題になってる。もう大騒ぎよ。誰が犯人か、なんて考察も出回ってるの。意味不明よ。拳銃を持ってるおかげで隠さなきゃならないし。どうしてもアンタは私を殺人犯にしたいわけ??』と声を荒らげ感情的になる。「ヒビキ。今日の夜良かったら俺と会わないか」俺が誘うと、『はぁ……それ強制でしょ?』と嫌がりながらもヒビキは『わかったわよ、何時にどこ』と諦める。「物分りがいいんだな?? じゃあ二十一時に。場所は如月駅前の公園。キリストの像が目印だ」と待ち合わせ場所を説明する。『ちょ、如月!? 遠くない??』ヒビキは困惑するが、「必ず時間通りに来てね」と優しい声で言葉をかける。そして電話を切った。
ヒビキの学校名を聞けたのでとりあえずパソコンを開いて調べる。"浄徳高校突然死事件"と調べると、ヒビキが通う高校の詳細が出てくる。浄徳高校。偏差値三十八。今月に入ってから急に学生や教師たちが何人も立て続けに死亡している。今まで二年一組の生徒だけ亡くなっていたが、クラスの人数が十三人ほどになった頃から突然死は隣の二組にまで侵食。……人を殺さない事を選ぶとこんな事になるのか。全く、どちらに転んでも地獄だな。さっそく勉強に手をつけようか……。そのまま夕方まで勉強を続けた俺は、母さんに食事に呼ばれリビングへ向かう。「……父さん、最近忙しいみたいだね」俺が言うと母さんは、「まだ例の殺人事件を捜査してるみたい。犯人が範囲を広げてきたから追いかけるのも大変だって。それにカガミ。容疑者最有力候補としてあなたが疑われ続けてるみたい。もちろん、他に疑わしい人間も同時に捜査してるみたいだけど。私も困ったものね、たまたま近くで殺人事件があったってだけなのに実の息子が殺人犯だと疑われるなんて。でもカガミは白なのよね?」と俺に探るような視線を向ける。「俺も困ったな、そんな風に見られてるなんて。」俺が笑いながら言うと、母さんは「カガミも大変ね、あんまり怪しい行動はしないで、この家も昼間に度々警察が様子見に来てるんだから。最初に殺人事件が起きたのが如月市だったから如月市内をパトカーがずっと走ってるの。息子が冤罪で捕まるなんて私いやよ」と真剣な声のトーンで言った。
「大丈夫だよ、それよりもうお腹ぺこぺこだ、」俺が席に座ると母さんは、「はい、今日はお魚よ」と料理を俺の前に持ってくる。母さんも自分の分を手につけては、「いただきます」と笑顔を向ける。国民的アイドルグループのバラエティー番組が流れる。「……いただきます」全く顔の見分けがつかない男たちを横目に、もぐもぐと食事を進める。「母さんってこんなのが好きだったんだ、前は俳優が好きじゃなかった?」俺が母さんに問うと、母さんは「推しは増やすものよ、カガミ!変えるものじゃないの」とはっきり答える。「イケメンなんていくらいてもいいんだから!!!!」母さんの言葉の後、「でも母さんにとって一番のイケメンって父さんでしょ?」と俺が続けると母さんは、「な!?」と頬を赤らめる。「なんだ図星か」俺が呟くと、「あなたのお父さんは若い時、何度も私を守ってくれた事があるのよ」と嬉しそうに答える。「どこにいても自分の身なんて構わず飛び出してくるもんだから、私、惚れ惚れしちゃって」ニヤニヤが止まらない母さんに、「父さんと母さんの関係ってなんだったんだ?」俺が問うと、「ふふッ、幼なじみよ♡あら?どこかの誰かさんみたいね~」と揶揄うように笑った。
「父さんと母さんが幼なじみ!?」驚く俺。「じゃあ父さんは若い時からずっと一人称"私"であんなに堅物だったってこと!?」俺が前に乗り出し母さんに顔を近づけながら問いかけると、「嗚呼、あれ??? どうやら戦隊ヒーローの影響らしいわよ~、またもや誰かさんそっくり、やっぱりあなたは壱護の子供ね」母さんの言葉に、血には抗えないんだと思い知る。「カガミもカレンも、一生大切な私たちの財産よ」母さんの優しい表情を見て、俺は何をしているんだろうな。なんて考える。食事が終われば、「ありがとう、……ごちそうさま」と手を合わせ、風呂に入るために自分の部屋に着替えを取りに行く。脱衣場に入ると、バサッ、バサッ、と服を一枚ずつ脱いでいく。なんだか腹がタプタプしている気がする。腹を下したような、でも食事で下したわけでは無いだろうし。まさか……。俺は泣きながら髪と身体を洗った後、風呂にゆっくり浸かる。「……なんで俺ばっかこんな目に……」と呟いては、溜息を吐く。この運命は受け入れるしか無かった。でも、ここまで俺が抱える必要ってあるのだろうか?今更愚痴っても何も変えられない、サユリが死ぬ可能性があるうちは、俺は……




