四十四話『対価』
暫く電車に乗り駅を降りると、そこは夜のビジネス街。少し街を歩いただけで「きゃあ♡」と女子から目をつけられる。「見て京子、あの人イケメンじゃない???」「私はああ言うの好みじゃないわ……順子はああいう男が好きなのね」耳打ちをする女子二人。半死神状態は聴覚が良くなるのか、少し離れていようが当たり前のように声が聞こえる。「高木って男はアパーアットトゥースホテルにいるはずだ、どうにか情報を聞き出さないと」俺が言うとホノカは、「そんなに都合よく行くか?」と問いかける。「情報を聞き出して始末するのが無理そうだったらお前に高木の運命も書き換えて貰って……急ピッチで適当なやつ殺すしかないな」俺が答えるとホノカは、「私は便利屋じゃないんだぞ……」と少し疲れたような表情を浮かべる。「ふッ、俺の行く末を特等席で見せてやるんだからそれぐらい対価だろ」笑いながらホノカに言うと、ホノカは「わかったよ。でも、薬も一つしか無いのにどうやって駒にするかは知らないが」と続ける。「レイに近づけられたら一番いいんだけどな。俺はレイの弱みも何も知らない、会社のセキュリティもそんなに甘く無いだろう、SNSなんか送っても相手にされないだろうし」俺が悩んでいると、かなり歩いていたようでホテルに辿り着く。「……」建物の中に入り、部屋まで歩く。その際、ホテルでヒロムたちと過ごした過去の情景と重なり自分に対する嫌悪感が増していった。でも止められない。俺に立ち止まる事は許されない。高木に指定された部屋に行きコンコン、と二回ノックする。「どうぞ」高木の声が聞こえた後、中に入って顔が合った瞬間。「おや……」と高木は瞬きする。「僕に教えを乞いたいって言うからどんな学生が来るかと思えば。僕が思ってたより数倍可愛らしい子じゃないか。火神くん、だっけ?入った入った」慣れた手つきで抱き寄せられ、ベッドまで連れてかれる俺。隠す気もない怪しい雰囲気が丸出しだ。来るんじゃなかった。なんて思いつつ、目的は遂行しなければならないので高木に「座って」と言われるがまま、ベッドの上に座る。隣に座ってくる高木。「……本当の目的は???」低い声色で俺をじっと見つめる高木。なんだ……なんだこの勘のいい男は。俺は目を見開いて動揺する。「ふふッ、動揺してるね、やっぱりあるんだ。真の目的が」俺の心を見透かしたように、俺の首筋に片手を触れ顔を近づける高木。「僕はそういうの慣れてるんだ。火神くん。だから、遠慮なく言って。」高木に言われては、「……俺は……」と目を逸らしながら言う。「レイ・テンダーさんに協力して欲しい事があって……」と声を震わせながら呟く。それだけで通じたのか、高木は「レイさんの弱み握りたいの???」と優しい表情で微笑む。「ぁ……」予想とは違う穏やかな雰囲気に、俺は精神を揺さぶられる。「じゃあ、それなりの事はしてもらわないと駄目だよね」高木はそういうと、俺を簡単に押し倒し力で抑えつけながら無理矢理着替えさせる。「ちょ、何するんですか……やだ……!」必死に抵抗するが、その抵抗も虚しく、あっという間にメイド服に着替えさせられる。「……どういう趣味してるんですか……」高木に姿を認識されないことをいいことに、後ろで爆笑するホノカにも腹が立つ。俺が着ていた黒一色の服は無慈悲にも投げ捨てられる。高木はベッドに転がると、「一晩僕の言うこと聞いてくれたら君の喉から手が出るほど欲しいレイのまだ世間に知られてない特大スクープをあげるよ」と俺を見つめて口角を上げる。
なぜ俺の周りの男はこんなにも気持ち悪い奴らばっかりなんだ!!!「俺は……なにをすればいいんでしょうか」怒りを隠しきれないまま、引きつった表情で問いかけては、「乗って♡」と高木は寝転がり、俺に馬乗りになるように指示する。「……」ドン引き。ありえない。気色悪い展開に、「帰ります!!!」とホテルを出ようとするが、高木に「その服のまま?」と言われ立ち止まる。「サユリを守るためだぞ」とホノカに耳元で囁かれては、ッチ……と舌打ちした後、高木の上に馬乗りになった。その瞬間、何かと何かが当たる感覚を覚え……。頭が真っ白になって、その後は何も記憶に無かった。殺しもやり損ねて、気がつけば朝だった。なんだかぐったりと疲れが溜まる。高木の横で眠りについてしまえば、翌朝目が覚める頃、「お疲れ様、楽しかったよ」と寝ている間にどこかで印刷してきた資料を机に置かれる。なんだか染みているシーツといつのまにか着替えが済んでいる服。起き上がると同時に、ぐわん、と頭が揺れた。声もどこか掠れている気がする。「頑張ってくれたお礼に、良かったら駅まで見送るよ、」高木にそう言われては、「ぁ……ありがとうございます」と下を向きながら答える。「彼女大切にしてね」俺のスマホを返す高木。「!?」俺は携帯を覗かれていた事に気がつき、目をぱちぱちと瞬きさせる。まずい、俺が連続殺人事件の犯人だって事、バレ─────。「……秘密にしといてあげる」ふッ、と甘い声で耳打ちする高木。
高木とホテルの部屋を出ては、駅までの道を並んで歩く。始末出来ないとまずいな……。と考えた俺は、途中で立ち止まり、高木の片手をそっと取りながら、「話し忘れてた事があります……」と上目遣いと掠れ気味の声で誘う。高木は「ぅぐ」と唆るような表情を見せた。住宅街の路地裏に高木を誘うと、高木は「あれほどやってまだ足りないって言うのかい…????」と興奮するような視線を俺に向ける。「……いい夢は見れたか????」低い声で言う俺に「夢…?」と呟く高木。俺は多少の恨みも込めて高木の股間を一気に刃物で貫く。どこを刺しても一撃で死ぬ地獄のナイフ。「ぅ゛ッぅ゛」高木は苦しみながら倒れる。俺は大量に血を流す高木の遺体を踏みつけた。「死体蹴りなんて珍しいじゃないか」ホノカに笑いながらツッコまれるが、俺は「男に触られるのは不快だ」と静かな声で答える。「声が掠れてるぞ」わかっているのにわざと指摘するホノカに、「死ね」と一言だけ文句を言う。「私はもう死んでる」ツボに入り爆笑するホノカ。「それより、そろそろ学校の時間だろ。家に帰らなくていいのか」ホノカの言葉に、俺は青ざめる。「ぁ……」完全に忘れていた俺は、駅まで出来る限りの全力で走り出す。
そして電車に乗り、家まで帰っては、扉をバンッと開ける。「はぁー、はぁー、はぁー、」ただでさえ腰が痛むのに全力疾走して疲れきっては、扉を開けた瞬間、母さんに「浮気でもしてるの!? 何この朝帰り!!!!」と怒られる。「いや、友達の家に泊まりに……」俺が目を泳がせながら言うと、「あんな夜中から!? どこの友達!?私が電話……!」と母さんは怒りに震える。「ごめんなさい!!」謝りながら階段を駆け上がり部屋に入ると、制服に着替えバックを持ち出し、いちごジャムを塗った食パンを片手に「行ってきます!!」と学校へ向かう。さすがのサユリもこの時間じゃもう通学中か。下手したら学校にいるかもな。焦りに焦っている俺を見てホノカは、「ほら頑張れカガミ」と煽ってくる。「お前普段学校まで来ないだろ!」と俺が叫ぶが、ホノカは「いいじゃないか、学校見学だ」と満足気に言った。「もう知らない!」パンを一気に食べて学校まで辿り着いた俺は、教室に入った途端、岸田先生に「遅い!」と怒鳴られる。「弐式が遅刻?」「あの弐式が???」とザワザワする教室。俺は「すみません……」と謝りながら自分の席に座る。「どうしたの」と問いかけてくる分倍河原に、「どうもこうも無いよ、ただの寝不足だ」と事実のように答える。俺が答えると分倍河原は、「ひょっとして勉強してた?」と笑う。「そんなとこ」俺はそういうと黒板に視線を向ける。「気を取り直して教科書三十六ページ開け~、弐式は近くのやつにさっきまでの内容教えて貰いながら進めろ~」岸田先生の言葉の後、教室中からページを捲る音が輪唱のように聞こえた。




