四話『少女』
「任務ってなんだ……」俺は女の子に静かに圧をかける。女の子は「どうやらお前にとってサユリは単純な恋人ではないようだな」と全てを見透かしたような言葉を投げる。「……俺の心を読んだつもりでいるのか」俺が問いかけると、女の子は「当然だ。私はお前の全てを知っている」と俺の頭から靴まで視線を動かした。なんだ。何が起きている。この女の子は何が言いたいんだ。女の子を映す俺の瞳は怒りに震える。サユリを傷つけた事は女の子であれ許せない。「今ここでサユリを傷つけたこと、俺に謝れ」俺は女の子に言うが、女の子は「高い正義感を持っているんだな。それは父親譲りか?」と俺を煽るように言って、動じない。「でも、彼女は裁かれるべき人間だった」と女の子は淡々と言う。意味不明だ。理解が出来ない。この女の子は一体何者なんだ。「なぜサユリが裁かれなければならないんだ」俺は拳を震わせながら女の子に問いかける。女の子は、「彼女には罪がある」と説明するが、俺は「サユリは悪い事なんかしない」と即否定する。「それはお前が作り上げた物語だろ。いつか必ず破綻する。これは忠告だ。私はお前の未来を読める」女の子はペラペラと語り出す。「じゃあサユリが何をしたって言うんだ!」俺は声を荒らげながら女の子に叫ぶが、女の子は「言えない。お前はサユリの全てを知ってるんじゃないのか?」と俺を指さしながら笑った。
俺は、「うぐ……」と言葉を詰まらせる。「裁かれるべき人間を地獄へ送る邪魔をした罰、お前に償ってもらう」と言った後、女の子は二回手拍子を鳴らした。同時に、俺は少しクラッとする感覚に襲われ頭を抱える。「私の名前はホノカ。よく覚えておくといい」そう名乗るとホノカは俺の目の前から消えた。「?」俺は一連の流れの意味がわからず、夢かと思ってその場に暫く固まる。悪い夢でも見てたのだろうか? なんだかはっきりしないまま、サユリを迎えに戻る。ぐすっ、ぐす、と女の子座りのまま泣き出すサユリ。「コンビニに行くなんて真っ赤な嘘じゃないか」俺がサユリに片手を差し出しては、サユリは「カレンちゃんに嫉妬しちゃったの……ごめんなさい……あなたにとってカレンちゃんはただの家族でしかないのにね」と少し寂しそうな顔で言った。俺は、「なんだ。そんなことか」と笑う。「そんなことって……」サユリは本気だったんだよ、と続ける。「そんなに俺が好きなんだな」サユリを揶揄うと、「わたし……わたしは、カガミがずっと好き。カガミはどうなの?」とこちらを心配するように見た。「真実の愛を信じるか?」ホノカの言葉が刺さる。でも俺は、これが真実の愛だと思う他無かった。「好きだよ。世界が君の敵になっても、俺だけは君の味方でいてあげる」とどこで学んだかも分からない臭いセリフを吐いて、サユリを安心させる。
「あの女の子……私には罪があるから死ぬべきって言ってた……。私、私、本当に何もしてない!!!私、悪い子じゃない!!!」それでも恐怖に震えているのか、サユリは両手で頭を抱え丸くなる。「あの子の事はもう忘れよう、きっとただの厨二病だよ」俺はサユリの背中を摩った。サユリは、「うん……」と頷き弱々しく立ち上がる。俺はサユリを支えながら守る。サユリを家に連れて帰っては、「遅くなってごめん」と母さんに言った。母さんは、「サユリちゃん大丈夫だった?」とサユリを心配する。「ご飯食べたらすぐお風呂入りなさい!」俺とサユリの二人に言った後、バタバタと足音を立てながら風呂を沸かしに行く母さん。サユリは食事に手をつける。ゆっくり食事を食べ進め、皿をシンクに置いた。そしてサユリは風呂に入る。俺はサユリの風呂を待っている間、ベッドの上に転がった。天井から現れるホノカ。「んもっふ!!!!!!」俺は思わず情けない声を出し、ベッドから崩れ落ちる。やはりあれは現実か─────!
「なぁカガミ。運命って面白いな」重度の厨二病に走っているような事を言う長い緑髪女。ホノカは十七歳ぐらいの見た目で、ルックスは可愛らしいが、ここまで頭のネジが飛んでいるとこいつを女として認識することすらできない。「その変な登場の仕方はなんだ。ファンタジーじゃないんだぞ。俺の妄想か?ついに俺が頭おかしくなったのか!? あと勝手に俺の家に入るな! どこから俺の家に入ってきた! 今すぐ警察に─────!」ホノカを見てパニックに陥る俺。ホノカはそんな俺を見て愉快そうに笑う。
「私はお前たちの運命を書き換えた」俺はその言葉に、「はぃ?」と首を傾げる。「一日観察させて貰ったが、お前はどうやら正義感が高くて心優しいが夢みがちで無知な人間。ということが分かった。あとシスコンだ。普通彼女とデート中に妹の話するか?」浮遊状態を辞めたホノカは静かに微笑む。「えっと……」未だに状況が飲み込めない俺。なんだなんだ。一体なにがはじまろうとしている。ホノカはニュースをつけた。『今日のニュースをまとめてお伝えする、トゥディトピックス。今日もニュースが色々ありました。まずはこちらのニュースです。本日警察庁より、日本の犯罪率が低下していると発表がありました。これを受け日本政府は──────』ホノカはニュースの映像を俺に見せる。俺はその映像を眺めた。「犯罪が無いなんていい事じゃないか。誰もが平和に生きていくに越したことなんてないさ」とテレビを消す。ホノカは、首を横に振る。「いいことばかりじゃない。日本の犯罪が低下すると私が困るんだ。地獄には圧倒的に日本人が足りていない。地獄の安定を保つには全人種バランスよく裁く必要があるのに……。一国でも犯罪が低下し続けると、そこから連鎖して罪人を裁く必要が無くなっていつか地獄の役割が無くなってしまう」ホノカの説明に、「地獄の安定?そんなの知らない。俺はただサユリと」言いかけると、ホノカは「イチャイチャしたいだけか?」と口角を上げた。「再度問う。サユリは愛するに値する人間か???」ホノカは俺で遊ぶように問いかけてくる。なんだその質問は。「当然だ」俺はサユリへの愛を付き合ってから一度も疑ったことが無い。
ホノカは続ける。「人間って奴は愚かだな。自分の知っている情報だけで物事を判断する。やはりお前には無知って言葉がお似合いだ」いきなり現れてはグサグサ毒舌を吐くホノカに、「お前はサユリの何を知っている」と俺の機嫌は悪くなる。ホノカは「全てだ。お前が知らない事もぜーんぶ」と不気味に笑いながら返した。「カガミ~。サユリちゃんお風呂出たわよ~」階段を上ってくる母さんの声。「!???」俺はホノカの方を見るが、ホノカは消えていた。「はぁい……」ニュースの映像を消し、風呂のほうへ歩いていく。その後、風呂を済ませては、服を着て自分の部屋へ戻る。俺のベッドで寝転ぶホノカ。「おい、サユリが来るんだぞ」と俺が言うと、ホノカは「寝床ぐらい貸してくれたっていいだろ。それに私の姿は私が見せたい人間にしか見えない」と不満気な態度を取る。「床で寝ろ。……それと教えてくれ。俺はさっぱり分からない。お前は何者だ」俺が問うと、ホノカは「私か??? そうだな。お前に分かりやすく言えば死神だ」と答えた。「死神????」俺は立ち止まる。「ははっ……嘘言うなよ……」と乾いた笑みが零れるが、「本当だよ。カガミ。私は地獄から来た」とホノカは真剣な表情で説明した。
「ははッ……死神……ってことは……俺は……死ぬのか??? 死期が近いのか……? 嫌だ……まだ死にたくない! サユリと結婚して幸せになって二人の子供を産んで都内にマンションを買って……」と願望を語る俺。ホノカは、「お前は死なない。お前はな」と強調した。「………」ホノカの発言の意図が読めないまま、サユリが「カガミ~」と俺の部屋へやってくる。同時に、ホノカはまた姿を消した。「今まで通りカレンの部屋で寝てくれよ。なんで急に俺の部屋で……」こっちも不可解な行動を取ってくる。サユリは「ううん、今日はカガミと寝たいの」と既にベッドを陣取ってしまった。待て待て待て。情報量が多すぎて俺はもうパニックだ。あの……これ……なに? 死神がくれたチャンス……? それとも俺は本当に妄想の世界にいる感じ? 不純な事を考える俺の横には、「スゥ……スゥ……スゥ……」秒で寝息を立てるサユリの可愛らしい表情があった。……この子が罪なんて持ってるわけない。俺はそう確信すると、サユリを抱きしめて眠りについた。その様子を見ていたホノカは、「無知って本当に罪だな」と和やかな顔で呟いた。




