二話『白イルカのストラップ』
デート当日。「お待たせ~!」駅前でこちらに手を振るサユリ。時計を見て待っていた俺は、「自分から誘ったくせにおそいぞ、」とサユリにジト目を向ける。「ごめんね、お母さんが誰と遊びに行くの?ってうるさくて」と両手を合わせながらあざとく謝る仕草をする、そんなサユリも可愛らしいものだった。遅刻を責めるに責められない俺は、「行くぞ」と先を歩いていく。サユリは「ちょっと待ってカガミ~!」と後から俺を追いかける。二人で電車に乗って二十分。ゴンドラに乗り換えてさらに五分。辿り着いたカムパネルラランド。稲城市の山の中にある遊園地。開園が十時でいまが十時半だというのに、家族連れやカップルで賑わっていた。二人分のワンデーパスを俺が購入し、サユリの手を引いて走る。「何から乗ろうか??」遊園地デートに気持ちが高ぶる俺。これは絶対失敗できない……!
「私メリーゴーランドがいい!」子供のようにはしゃぐサユリ。出会った頃を思い出す。俺が幼稚園ぐらいの時にサユリが隣の家に引っ越して来たんだっけ。なんだか和んでしまう。だってそのつぶらな瞳をした少女が、今では俺の彼女なんだから。「じゃあ一緒に馬車乗るか、」メリーゴーランド乗り場に並ぶ俺とサユリ。その後も、観覧車、コーヒーカップ、お化け屋敷とアトラクションを満喫した。そして俺は十二時手前になると同時に時計を確認する。昨夜、ホームページを見ていた時にたまたま知ってしまった事がある。「こっちだ!」俺はサユリの手を引っ張ってある場所へ連れていく。「な、なに!?」サユリは驚きつつ俺に手を引かれながら走る。「五、四、三、二、一!!!」俺が刻むカウントダウンの声が響く。「ゼロ!!!」噴水広場の中央に足を踏み入れた瞬間、水が一斉に噴き上がった。
サユリは「うわぁ……!」と目を輝かせる。「どうだ??? すごいだろ、」サユリの喜ぶ姿を見ているとつい得意げになってしまう。「すごい!かっこいい!」作戦成功。全て俺の計画通り……。あとは……。「ねえサユリ、こっち向いて?」サユリの顎を持ち上げこちらを向かせる。サユリは、「えっ??」と上目遣いで視線を合わせる。俺の心臓の鼓動が早くなる。あと少し……あと少し近づけば……。だが勇気が出ず顎を離してしまう。サユリは「もうッ! なによッ!」と頬を膨らませる。「いい雰囲気が台無しね!」呆れたように腕を組むサユリ。「悪い、まだ少し恥ずかし……」目を逸らしながら小声で呟く俺。あのまま唇を奪う勇気なんて俺には出来なかった。「もういい。ジェットコースター行きましょ」サユリは先を歩いていく。
「待てサユリ!俺を置いてくな!」サユリを追いかける俺。「嫌です~」サユリを追いかけていると、ジェットコースターの乗り場へやってくる。ジェットコースターに乗り込む最中、サユリのご機嫌取りをしようと話題を作る俺。ジェットコースターの安全バーを下ろしながら、「この間さ、カレンが俺に自分が作ったクッキーくれたんだよ、ちゃんと美味しくなっててさ、妹の成長を感じて……それでカレンが俺になんて言ったと思う?大好きなお兄ちゃんにあげる、だぞ? もうカレンも中学生だって言うのに……それでカレンが……」妹の話題をサユリに振る。これでサユリもご機嫌になってくれるだろうか。俺は不安を覚えながらサユリの顔色を伺う。「なんでせっかくのデート中に妹の話ばっかするわけ?」とさらに不機嫌そうになるサユリ。
俺は「あ、明るい話をしようと思って……」と戸惑う。キュッと俺の手を握るサユリ。「へ?」サユリはチラッとこちらを見る。「ねぇ、カガミ。私のことももっと見て???」サユリのセリフに、俺の興奮度は「うぐッ……」と上がる。「カガミ、好きだよ」とサユリが言った途端、ジェットコースターが稼働する。そして落下地点まで上昇した辺りで、サユリが「カガミ、怖い……」と目を瞑りながらこちらの手を強く握ってくる。俺はサユリの手を優しく繋ぎ返した。速度を上げ、一気に急降下するコースター。「きゃああああああ!」悲鳴をあげる乗客たち。ジェットコースターのせいか、サユリのせいか。今の俺の心拍数は測れば多分異常な数値を示すはずだ。ジェットコースターは二週すると、何事もなく乗り場に帰ってくる。
「ドキドキしたぁ~。」無意識に発せられたであろうサユリの言葉に、本当に俺の彼女……なんだよな。と世界に確かめたくなる。俺はいま最高潮に幸せだ。一日中遊園地を楽しんだ俺たちは、お土産屋に入る。しばらく店内を物色したあと、「私このシロイルカのストラップ」とサユリはストラップをこちらに見せつけてくる。「イルカァ?」俺が問いかけると、「だって、思い出なんだもん」とサユリは小さな声で呟く。思い出……? 俺が考えている間に、「買って♡」なんてあざとくサユリに強請られる。そうなるともう買う以外の選択は無かった。せっかくだから、俺もお揃いで購入する。八百円×二個。レジにてお買上げ。店を出るとサユリは、「幸せ♡」と嬉そうに購入した後のお土産袋を眺める。「落とさないようにしろよ」俺が言うと、「はぁい」とサユリは素直にお土産袋をカバンに入れた。
ゴンドラと電車に乗り、帰り道。サユリは「カガミってさ、本当に妹好きだよね。」と下を向きながら言ってくる。「ははっ……大切な家族だからな。」と俺は答える。「私も……。」声を震わせたサユリは続ける。「私もカガミの家族になりたい。」俺は突然告げられた言葉に、はッ……と動揺する。「いつかお嫁さんに貰ってくれる?」そういうとサユリは一歩踏み出し、俺の唇を奪った。その瞬間。時が止まったような感覚が訪れる。待て待て待て。嘘だろ? 急展開にも程がある。長い間キスをして、「はぁ……」と息を零し呼吸が出来なくなってきた辺りで唇は離れたものの、柔らかいその感触が残る。「ふッ……」つい笑みが溢れる。「俺からするつもりだったのに」「途中で止めるようなヘタレなのが悪いのよ」サユリの手を繋ぎ、駅から家まで歩く。デートの余韻で調子に乗った俺は、「今日は俺の家泊まってけよ」とサユリを誘う。サユリは「本当??」と俺を見ながら喜んだ。そんな俺たちの後ろを、緑髪の少女が少し離れた場所から付きまとっているなんて当時は気づかずに。




