最終話 魔法を運ぶ者
アニマのもたらした災害は、現世と魔法界両方に大きな被害を与えていた。今はそれぞれの世界が協力して復興を目指している。
同一面が破壊され、魔法界は安定した。隔たり部分が無くなり、彼らは現世と行き来できるようになった。現世で起きた魔力災害は魔法界の住民が、魔法界で起きたインフラなどの整備は現世の住民が、それぞれの世界の人達と協力しながら行なっている。
「春香ちゃん。それこっちに運んで〜」
「はーい」
「リック、そっちは違うぞ。こっちに持ってくるんじゃ」
「私ソフィアさんみたいに通り抜けれないから待って」
郵便局では修繕工事が行われていた。ソフィアの力があったとはいえ、全てを守ることは厳しものがあった。今もこうして、郵便局の修繕工事が行われている。
「ヴィド」
「羽山、どうした」
「これからどうするよ。アニマの事があったせいで、琴吹郵便局を隠し続けるのも難しい。私たちの身を守りきれないぞ」
「修繕が終われば引越ししても良いかもしれないな。どこに行くにせよ、郵便局は続けていくつもりだ。それに、あの子が良い提案をしてくれた。おーい、リック」
ヴィドに呼ばれたリックは急いで駆け寄ってきた。
「前にした話、羽山にもしてやってくれ」
「え、ヴィドさんが話してたと思ってた」
「発案者が話すべきだ」
「わかったよ。じゃあ改めまして……」
リックは自身満々の笑みで答える。
「これからは郵便局だけじゃなくて、色んな場所で魔術や魔法でしか解決できない問題を解決しようと思うんだ。私たちの魔法や魔術を運び、届けたいの」
羽山は思考を巡らす。
「……いいんじゃないか。じゃあ、修繕が終わったら詳しく詰めていこう。より良いものにしないとね」
「うん!」
リックの笑顔にヴィドも釣られて笑ってしまう。
「ちょっと〜これどこに置いたらいいの〜?」
「あ、ごめん! 春香ちゃんの元へ向かわなきゃ」
「春香にもそろそろ時間だと伝えてくれ。彼を迎えに行ってもらう」
「わかった!」
リックは凪と話す。二人ともヴィド達の元へ駆け寄ってきた。
「あいつを呼んでくればいいんだよね。ひとっ飛びしてきます」
凪は翼を羽ばたかせ、瞬時に上空へと舞い上がった。
「えーっと、お守りの方角はあっちだ!」
ドゥーハを凌ぐ速さで彼女は空を飛ぶ。目的地は白の塔、その跡地だ。
――――――白の塔跡地
小さな家が立っていた。白の塔の瓦礫を用いて作られ、草原の中にポツンと立っている。その家に一人、青年が近づいていた。
コンコン
ノックがした。家の扉は勝手に開き、訪問者への道を開く。
「イデアさん、透です」
「……いらっしゃい」
イデアは気まずそうに雨木を部屋の中に入れる。
「お邪魔します」
雨木は臆しない。
「えぇ」
「ここでの生活は慣れましたか。それと体調は」
「大丈夫だよ。お父さんからも、後の処理は任せて休んで欲しいって言われてる。何をすればいいのかわからないけど、とりあえずここで過ごすよ」
雨木は少し視線を逸らす。話すかどうか悩んでいるようだった。
「……じゃあ、時々お邪魔してもいいですか。あなたの話を聞きたいんです。どんな事があったのか。僕は知りたい」
「途方もない時間がかかるかもしれないよ」
「丁度いいです。あなたの話を聞いたり、あと良かったら魔術とかの話も聞かせてください。エドワードさんのおかげで一度だけ魔法を使えましたが、何度でも唱えたいですし、僕にはわからないことだらけなんですよ」
「私も元々は興味の塊だった。君の気持ちはわかる。たまになら良いよ、おいで」
彼の表情が途端に明るくなる。
「良かったです! 今度色々お土産持ってきますね。あと、もし引っ越すなら教えてください。荷物が届けられなくなったら困りますから」
「しばらくはここで暮らすよ」
「じゃあ安心です!」
コンコン
家がノックされる。
「やば、忘れてた。今から時間ありますか?」
イデアは首を傾げる。
「あるよ。何かな」
扉が開き、凪がヒョコっと顔をだす。
「準備もうすぐ終わるよ。迎えにきたよ。早く行くよ」
「茶化さないで春香。さぁ行きましょう、イデアさん」
雨木に引っ張られ、イデアは家を出る。そして、彼の言葉が響く。
『 森よ森 茨の道はここにある 楔 その場所へ 』
雨木達は森を歩く。魔力の籠った森は、災害の影響で魔力が減っていた。しかし、その不思議な光景は目を見張るものがある。
現世の生き物も、魔法界の生き物も、同じ場所で暮らしていた。自然は混ざり合い、新たな生態系を作っている。命は芽生え、森は時間をかけて新たな世界を作り出していくのだ。
「着きました。あなたが今どんな感情かわかりません。ですが、これは僕たちの気持ちです。どうか受け取って下さい」
イデアの目に映る。琴吹郵便局、その庭で宴が開催されていた。ヴィドとリックが飾り付けをして、ピクシー達が料理を作り、海斗やジードが料理を運んでいた。精霊達やソフィアはつまみ食いをしていて、羽山がそれを止めていた。
「……ありがとう」
イデアは小さく息を漏らした。雨木はただ笑顔で頷く。
「やっと帰ってきた!こっち手伝ってくれ!」
料理を運んでいた海斗が叫ぶ。イデアの方向を向いていた雨木は彼女の手を取り、会場へと走った。
「ただいま!」
雨木の声が森にこだまする。ずっと遠く、どこまでも。
ここは琴吹郵便局。あらゆる人や魔法使いが利用する場所。ここの郵便局員は制服を着るわけでも、物をすぐに届けられるわけでもない。そんな郵便局で、雨木透は暮らしている。魔法の世界に触れたことで生まれるもの、失うもの。これからもきっと、彼は多くの経験を重ね、生きていくのだろう。一人の青年の魔法のような軌跡は、これからもずっと続いていく。




