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マホウヲハコブモノ  作者: まきなる
終章
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第七話 それはあなたの選択 後編

 雨木の苦しみも虚しく、アニマの再生能力の方が上回っていた。やがて焼ける刃の魔術を何度も受けた結果、彼は心すらも焼きつき始めていた。意識が持っていかれそうになる。体の半分はもはやアニマの物になっていると言っても過言ではない。


 凡人が一矢報いようとした策はあまりにも浅はかだ。命をかける必要があっても目的に届くことなんてない。


「お、おかあさ……ん」


 目の前に少女がいた。今にも異形達に喰われそうだが抵抗の意思もない。雨木の体は思うように動いてくれず、呆然と眺めるしかない。


 しかし、次の瞬間には霧散していた。


「透!」


 かろうじて見上げる。空だ。空に人がいた。現世で人が浮いている訳はない。だが知っている。どう考えても魔法界には似合わない風貌の女性。雨木のヒーローだ。


「こっっれ楽しいな!!!」


「春香……?」


 彼女は龍と同じ翼が生えていた。そして、雨木にピースをしながら化け物達を殲滅している。彼女本来の力、アドニスやドゥーハのような力が振るわれていた。


「受け取れ!」


 戦いの最中、彼女は雨木にハコを投げた。まだ動く左手で受け取り、即座に展開させる。アニマの魔力もあってか、一瞬で開くことができた。中には一冊の本が入っていた。


「リックちゃんからの荷物! 本の1ページ目、空の魔女はそこにいるはずだ。今、彼女はヴィドさんと一緒に魔法界を守ってる。透は決着をつけろ。どうせなら自ら行ってやれ!」


「体は?!」


「エドワードさんのおかげでピンピンさ! それに自分のことを滅多刺しにしてるやつなんかに心配してほしくは無いな! 今の透の強がってる目、私は嫌いだぜ!」


 ぶち壊す。いつも真っ直ぐで雨木の前を駆け抜ける。やっと追いついたと思えば再び彼女は雨木の前を走っていた。いつもそうだ。それでも、凪も雨木ですらも満身創痍であったが笑みを浮かべていた。


「僕も嫌いだ!」


「はははっ! いいね! 胸張って帰ってこい。私達は、笑顔で迎えるから!」


 帰る場所があること。それがどんなに嬉しいことか。貴重なことか。大切なことか。雨木は知っている。


 アニマの意識で本に手がかかりそうになるが、雨木は踏みつけて動きを止める。


 地面が揺れていた。迷うことはない。本を置き、雨木はその一ページ目を開いた。誰かの独白だ。流れる文章の中、雨木は文字通り浮いている言葉を見つける。


 文字列は随分と綺麗に見えた。許されるのであればずっと触っていたいほど。文字に触ると思い出した。


「そうか……そうだった。エドワードさん、人が悪いですよ。今、発動するなんて」


 雨木は本の上に左手を乗せる。唱えるのは道の魔術ではない。


『 繋げよ風よ 地よここよ 灯火はここに 開くは扉 閉じるは理 虚の倉 空の瓶に注がれた甘美な毒よ はぐれ者を探せ 』


 道の魔法だ。


「アニマ、合わせてやるよ。空の魔女、イデアに!」


 異形が彼に攻撃を仕掛けようとしていたが、雨木の体が消える。




 目を開く。彼らは虚数空間内にいた。雨木は気がつく。せっかく取り込んだのに、彼の体からはアニマが抜け出してしまっていた。


「ほう、出れたじゃないか」


 雨木の脳裏によぎる危惧。ヴィドは一度ここに落ちた際、自らの膨大な魔力を持って無理矢理脱出することができた。つまり、それを上回るアニマならば、魔法界や現世に戻ることも容易だ。


「 入れ 」


 二人の脳内にこだまする音。二人の体は遥か上に引っ張られる。見えるはずのない虚数空間の天井、その白い床を二人は突き抜けた。


 アニマは視界に入った存在を前にして、嬉しさを隠しきれていない。彼女を見つけるや否や叫んだ。


「終わらせよう! イデア!」


 雨木は這いつくばり、見上げるのに精一杯だ。以前同様、淀みの影響は彼の弱った体を蝕む。だが倒れている場合ではない。


 雨木は出来る限り周りをみわたす。塔と同じように真っ白な空間。およそ四方10m、小さな箱の大きさのようなの部屋だった。ここで一人、彼女はずっと過ごしていた。


 病的なまでの白い髪と肌、青空より澄んだ水色の瞳、かぶる帽子の内側は藍の宇宙のような様相で、宙に浮いているようにも見える。帽子も服も、その境界線は世界と曖昧だ。溶けているのか。認識ができないのか、わからない。未知の素材であることは確かだ。


 彼女はアニマを見つめていた。二人を遠くから見れば姉妹にも、姉弟にも見える。だが互いに向けられていたのは、あまりにも冷たく、凍ってしまいそうな目。凍てつくような空間でも、彼女と同じ空気を吸っていることに感謝してしまうほどに錯覚してしまう。


 空の魔女、イデアは手に持っていた大杖をついた。


 カツン


 アニマとイデアの間に力が動いていた。双方ともに目の前の存在を消し去るほどの力だ。雨木は這いつくばってもいられず、衝撃で壁に叩きつけられる。高次元同士の戦い、魔術も魔法ももはや意味を持たない。


 アニマの方が明らかに優勢だった。龍の力を蓄えていた彼はあらゆる面でイデアを圧倒している。彼女の表情は動いていないが、大杖は崩壊し始め、左腕は真っ黒に染まっていく。


「ようやく果たせる。イデア、キミが何を考えていたのか知らないし知る必要もない。お別れだ」


 アニマが一歩ずつ彼女に近づく。ドンドン壁に追いやられ始め、イデアは苦悶の表情を浮かべていた。彼女はようやく雨木の方を見る。彼は壁に叩きつけられていたが、意識はあった。彼女の視線は雨木の目の前にあった本へと向く。


 届けなければ。雨木は動くようになった体で、イデアに近づく。


 アニマも黙っているばかりではない。意識を向けるだけで、雨木の体は紐のように解け始める。足の先から頭の先まで解けるには1秒も無かった。しかし、体が完全に解ける直前、雨木は本をイデアに投げる。


 崩壊しかけの左手でイデアは受け取った。本は凄まじいスピードで捲られていき、とある一ページで止まる。紡いできた、細すぎる希望が届く。


「 畢竟依 帰命(ひっきょうい きめい)せん 」


 言葉が下される。同一面の破壊が、始まった。


 アニマの体は白くなり始める。すかすかで多孔質のような体になっていくが、彼は出力を最大以上に上げる。やがて天使のような黒い翼が燃え始めた。


「ボクはボクの願いを叶える! イデア、キミだけは絶対に消す!」


 イデアも壁際に追い詰められながらも出力を上げる。身体中にヒビが入り、背中からは悪魔のように白い翼が顕現した。耐え続けるが、彼女の左腕は粉々に砕け散る。


 アニマは笑顔だ。龍の力を手に入れた自分は同一面の破壊が行われたとして、完全に消え切ってしまうわけではない。そのために、封印されていた自らの心臓に意識と力を移していた。もうあとは押し切るだけだ。


 イデアの陶器のような体は、ついに壁につく。


「さよなら、イデア」


「……さようなら、弟よ」


 不可解な言葉にアニマは揺らぐことはない。最後の一押し、その力を込めようとした瞬間、壁が崩れーー


 巨大な狼が、彼の胸を噛みちぎっていた。


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