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マホウヲハコブモノ  作者: まきなる
終章
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第四話 対は青 中編

 一人の少女がいた。彼女の名前はリック。彼女は何の変哲もない両親の下に生まれ、姉と共に仲良く暮らしていた。朝、両親と姉妹で畑仕事を行えば、昼に魔術の訓練。度々、村に立ち寄っていた道の魔法使いだった時のヴィドとの交流も深い。


 両親共々、ヴィドとも友好的な関係を築いていた。だからこそ、あの日。火に落ちた村から娘達を守るため、リックの両親は彼に二人を託した。


 火、炎、灰。リックも、ヴィドも、本当は誰も彼も、火の原因を知らない。村を一瞬で焼き尽くした炎はどこから発生したのか。知らなかったのだ。村を物理的に襲った人物などいやしない。


 あれは実際には炎では無かった。ヴィドがエドワードと共に調査した時、呪いと言ったのは言い得て妙だ。それはなぜか。全てはアニマに起因するからだ。


 アニマは自身を目覚める準備を整える際、障害がいくつかあった。その内、魔法界においてはヴィドが最も危険な魔法使いであると考えた。彼は虚数空間を使って長距離移動を可能にする魔法を使う。最も次元を超える可能性があったのだ。


 彼から魔法を奪う方法。それは魔法の核となる部分を破壊すればいい。そうすれば、ヴィドは魔法を扱うことができなくなる。障害が一つ消えるのだ。リスクを負ったとしても、アニマに実行しない選択肢は無い。


 これこそが魔法の核。またの名を「座標に無い場所」と言う。魔法使いは例外なく、座標に無い場所で生まれている。世界の狭間であるその場所は、地脈と体の組成を近いものとした。密接に魔法使いの魔力と地脈が繋がっているのだ。何らかの手段でその場所を破壊すれば、対象の魔法使いは魔法を失う。なぜ、座標に無い場所が生まれるのか。


 世界は階層的だ。世界線として分岐しているのではなく、元来よりこの世界は階層に分かれていた。同一世界であるため、階層が違っていたとしても同一事象が起こる。階層になっているのは、人々の魂という作られた概念による揺らぎが原因だ。


 魂の揺らぎである階層と階層の隙間の座標、それこそが「座標に無い場所」の本来の姿である。座標に無い場所には、その空間を成り立たせるために異なる次元が流れ込む。それは全て、同一条件、同一な平面として階層と階層の間に具現化した。だがこれは精神的な世界の形の一つでもあり、普通は認識などできるはずがないのだ。


 ヴィドにとっての座標に無い場所は、リックが住んでいた村と密接する形だった。魔法使い本人の根源たる場所、そこを破壊するとどうなるのか。簡単だ。龍涙の池と同じようにエネルギーの放出が起こる。リックの村が燃えたのは、アニマという執着の呪いが行った行動に起因していたのだ。


 エリンの自殺もそうだ。アニマは直接現世や魔法界に干渉できないため、苦肉の策として呪いを込めた本を通じて二人を消そうとした。そう、本来ならばリックも殺す予定であったのだ。だがエリンが身を挺して妹を守り続け自殺し、リックは反動で記憶と感情が捻じ曲がったのだ。


 アニマがなぜそこまでして、ヴィドだけでなく二人も消そうとしたのか。座標に無い場所を全て破壊されると、呪いのようなものでアニマは活動を行うことができなくなる。


 彼らは、アニマ自身の急所でもある「座標に無い場所」を認識できる存在なのだ。彼らが例え何もしなかったとしても、アニマとしては害となる可能性は少しでも減らしたい。そのため、リックの村だけではなく、現世、魔法界を問わずにアニマは認識する者を例外無く可能な限り消した。


 座標に無い場所を破壊することは、アニマ自身の力を阻害することにも繋がる。しかし、彼は実行しなければならなかった。嬉しい誤算は、アニマにとってその数が極端に少なかった事だ。


 この内容も含め、全て過去の事象は彼方の書庫に記録されている。今、この内容を読んでいるのは、アニマが去ったことによってエリムの権利を得た雄一郎だ。


 そして本の最後に、雄一郎はアニマの感情らしき文章を見つける。


『イデア、貴女がボクにした全ての錠は解いた』


 アニマにとって、イデアが全てだ。他の矮小な存在などどうでもいい。


 だが、何の因果だろうか。彼方の書庫、エリムの部屋前。アニマはリックと対峙していた。どうしても消したかった存在だ。しかし、アニマは根本的に人間では無い。策はある。一つは黒い魔術だ。この黒い魔術はある種、龍の概念に近しい。通常の魔法使い、魔術師が努力してもたどり着くことどころか、きちんと認識することができない。


 アニマの魔術は次元の数が違う。三次元で生きるリック達はその黒い魔力や魔術を、黒い何かとしか認識できないのだ。今のこの状況、次の瞬間には彼女が世界から消されていても何らおかしくはない。


 しかし、何も起きない。生前の彼の力であれば、すでにリックは存在を消去されているはずだ。黒い海のようなものが膨れ上がったと彼女が認識した時には、輪廻の渦に帰ってしまっている。今もなお、彼女が立ち続けているのはおかしい事なのだ。


「そう、私はわかってた」


 リックは口を開いた。


「村のこと、ヴィドさんのこと、お姉ちゃんのこと」


 彼女はどんな存在だったか。本のみで道の魔法および魔術の概念を理解して研究し、実現直前までこぎつけた天才である。


「ずっと、ずっと考えてた。こんな事をしたのは誰なんだって」


 そして、常人では次元の違いから、命の代償を払わなければならない黒い魔術を使ってもなお、構造を解析することで対策をして生き続けている。今も、リックは自身に対策を施してアニマから身を守っている。


「わかる。あんただ。私の直感が叫んでる。だから殺す」


 アニマが最も忌避する事。それは同一面を認識できる存在と、壊すことに一番近い存在達が手を取り合える関係にあること。


「行こう。ヴィドさん」


「あぁ、リック」


 そこには龍涙の池にいたはずのヴィドがいた。世界にヴィドが二人いることはおかしいが、アニマは表情を一つも変えない。しかし、まだ復活の計画が終わっていない彼にとって、最悪の状況だった。

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