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マホウヲハコブモノ  作者: まきなる
終章
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第一話 雪は熱を帯びた 前編

終章開幕

 トントン


 トントン


『誰だろう』


 トントン


「おーい起きろ〜!」


「うわっ!」


 雨木の眼前には、彼を起こしにきたピクシーが二人飛び跳ねていた。今日も元気いっぱいな彼らは雨木を呼び起こしに来ていたのだ。


「ちょ、起きるから、起きるから!」


 両手を上げて降参するポーズをとると、ピクシー達はわーいと叫びながら雨木が寝ていたベッドから飛び降りる。寝ぼけ眼を擦りながら彼はいつもの服装に着替え始めた。鏡を見ると傷が増えていた。エドワードの一件依頼、雨木は数ヶ月間仕事後に行う特訓の数を増やしていた。以前から、リックやヴィドには修行をつけていてもらったがジードからも指南を受けており、取り組み方も変わった。


「おはよう、凪」


「おっはよ。キョウモイチニチガンバロー」


「びっくりするぐらい棒読み」


「ねむてぇ、まじで今日やる気ねぇ」


 凪が両手をだらんとさせていると、ピクシー達がその手を引っ張ってテーブルに連れて行く。雨木もそれに続くとすでにリックとヴィドが朝ごはんを食べていた。


「リックちゃんおはよ〜ヴィドさんもおはようございます。ヴィドさんがこの時間って珍しいですね」


「二人ともおはよう。少し夜明け前にしないといけない事があってね」


「春香ちゃんおはよ。寝癖すごいけど大丈夫?」


「う〜ん。もう今日の私のぶんは雨木がやってよ」


 テーブルについた雨木は水を喉に流し込む。


「嫌だ」


「ちぇ〜」


 リックが凪のはねた髪を触っている。学校でこんな感じに先輩に懐く後輩とかを見たと思いつつ、雨木は朝ごはんを頬張る。すでに食べ終えていたヴィドは席を立ち、流し台に食器を持っていく。


「私は先に出てくるよ。三人はいつも通りに出勤してきなさい」


 ヴィドが郵便局の方へ向かった後、リックは立って凪の髪を梳かし始めた。


「りっくちゃん、私ご飯食べてるんだけど」


「別にいいでしょ。少しだけでも整えとくから」


 微笑ましい光景だった。郵便局内で過ごす内に、友達以上家族未満のような不思議な関係になっている。同じ釜の飯を食う仲間は、彼らの間に第三の関係性を生んでいるようだった。


 ご飯を頬張りながら、凪は大人しくリックのされるがままだった。リックは凪のピンク髪が好きで頻繁に触る。凪は年下の彼女に対して特に言うこともなく、反対にリックの黒髪を梳かしていることもあった。凪はご飯を食べ終わると、雨木をジッと見つめる。


「雨木は今日もジードさんの所?」


「そうだね。前の件があったからできる限り鍛えておかないと」


 少し呆れたように手をヒラヒラさせながら凪は吐き捨てる。


「頑張るね〜今日は予定あるの覚えてる?早く帰ってきなよ。私は行けないけどさ……」


「大丈夫、覚えてる。じゃあ僕は先に郵便局に行っているから」


 ヴィドと同じようにし、雨木は郵便局へと向かう。彼が出て行った後、凪は不機嫌そうだった。察したリックは凪のピンクの髪をまとめる動作をする。


「心配?」


「ちょっとね。あいつ、傷が癒えてないのに次々に無茶な特訓してるから流石に」


「やる気があるのは良い事だよ」


「そうなんだけどさ。実際、雨木ってどれくらい強くなってる?」


 リックはしばし考えて答える。


「私の六割ぐらいには魔術を使えるようになってる。アドバイスをキチンと聞いて裏でも練習してるみたい。ただ彼って元々魔力がないからアドニスのナイフを取られると、かなり厳しいと思う」


「以前の郵便局だったら、ちょっと野盗に襲われるぐらいだし別にそこまで鍛えなくて良かったんだけど。エドワードさんがな〜」


「頑張ってるよね、彼」


「そうだね。良い目になっちゃった」


 凪は梳かされた髪をクルクル指に巻きつける。窓から差し込む光が、随分と眩しく見えた。



 凪は部屋に戻り、一冊の本を取り出す。凪の家で見つけた最後の一冊だ。そこには凪家の真実が書かれていた。凪家は代々、魔術を使って地元の人々を守っていた家系である。そして魔術師達はもし一般人に見られても大丈夫なように、記憶の操作に長けるようになった。不必要に一般人が巻き込まれないようにするためでもある。


 凪の祖母がさらに記した本を挟んでいた。科学や医術の発展に伴い、魔術師はより身を隠すようになった。かつては魔法界と現世を行き来していたが、それも凪家以外は無くなる。だからこそ、魔法使いが現世に来た時に生じた異常は凪の祖母を驚かせた。その頃はまだ凪もそこまで成長していない。魔術の訓練も特にしていなかったために、何かを感じることは無かった。


 魔法使いの出現は予想外であった。祖母は考える。自分は長くない。動物としての本能があった彼女は、凪に魔術を教えることを決めたのだ。最後のページ以外、残りの記録は凪の観察日記のようだった。


「おばあちゃんって、やっぱりすごいな。でも読むたびに思うけど、何で日記部分をここに書いた。日記は別にあるし……まぁ昔からおっちょこちょいだったね」


 凪は本の時間を繰り返していた。何度通っても日記からは祖母からの愛情を受け取れる。やっぱり自分は愛されていた安心があったのだ。それ故に、考えていた事もあった。


「やっぱり恵まれているよ、私」


 椅子の背もたれに体重を乗せる。背中にある傷跡は残ったままだ。不運だと、不幸だと言われても仕方ない。それでも、雨木とリックに比べると恵まれていると感じてしまっていた。だが彼女は凪春香。自らの生き方に悲観的にならない。


「じゃ、もっと幸せにならなきゃな」


 勢いよく本に向き合い直す。最後のページは破られていた。凪は海斗から譲り受けたページを合わせる。詩篇は綺麗に最後のピースとしてはまる。海斗にかけられていた凪の魔術を破ったのはこの本の最後のページだった。詩だと思っていたものも、日記の文章部分が消えていただけだった。


 そして、魔術で復元したその内容は祖母から凪に宛てた最後の手紙だった。


『もし何かの縁があってあの子が魔法界に来た時、こちらに何も繋がりが無ければ生き方を迷ってしまうかもしれない。もし龍になって記憶を失ったとしても、私の魔力があれば自分のことを思い出すかもしれない。命短い私にできる最後の仕事はその可能性を潰さない事。どうか、どうかあの子が健康で生きれることを、私に望ませてください。元気でね、春香」


 凪はぐーっと伸びをする。彼女の好きな仕草だ。こうすることで気分も晴れる。


「行ってきます。おばあちゃん」


 凪は髪を靡かせながら部屋を出る。祖母と過ごした日々は、今も彼女の背中を押し続けていた。


 

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