幕間4 ウィン祭で望む事
ハロウィン特別編です!終章は今週末更新開始予定です。お楽しみに!
雨木はかぼちゃをくり抜いている。明日からウィン祭だよとソフィアから伝えられ、郵便局全体で準備を進めていたのだ。いつも食事をするテーブルで直径70cm程のカボチャをくり抜いてはピクシー達に渡し、くり抜いては渡しを繰り返していた。様子を見に来たソフィアが雨木の前に現れる。
「おーやっとるな。どうじゃ、もうそろそろ終わりそうか」
「あと少しです。でも何でハロウィンじゃなくてウィン祭なんですか?」
「そーか、現世ではハロウィンと呼んでおるんじゃったな。まぁ似たようなものじゃ」
ソフィアはピクシーが運ぶカボチャの山の側に近寄る。
「ハロウィンもウィン祭も、元はサウィン祭という祭礼が起源じゃ。結構怖い文化だったんじゃぞ。だが長い時がたち、サウィン祭は文化と混ざり合って名前を変えた。そうして現世ではハロウィン、魔法界ではウィン祭と呼ぶようになったんじゃ」
「へーじゃあハロウィンとの違いって?」
「ウィン祭はの、先祖や故人が実際に現れる日なんじゃ。輪廻の渦へと還った魂達は、この時期にのみ姿を見せることができる。まぁ渦の不規則性で全員が毎年必ず来れるわけでは無いんじゃがな。だからこそ、いつでも来て良いように迎えの準備をするんじゃ。ちなみに、わしも幽霊じゃが、彼らと違って魔術を使って無理やり現世に止まっておるからの。凄いじゃろ」
「なんか……凄過ぎてよくわからないです」
ピクシー達がカボチャの調理を始める。キッチンには良い匂いが立ち込め始めていた。雨木がジッとカボチャを見つめていると、ソフィアが机の下から生えてきた。
「ウィン祭用のカボチャはとびきり美味しいからの。楽しみにしておきな」
「じゃあ、お腹空かせておかないと。えっと、とりあえずカボチャ全部の中身くり抜いたんですけど次はどうしますか?」
「それは羽山に渡してくれれば良い。ほれ、次は掃除じゃ。早よ行った行った」
「人使い荒いっ」
雨木は文句を言いながらも、両手でカボチャ達を抱えて郵便局のカウンターに向かう。
「あ、やっべ」
布に包んでいただけだったためか、小さかったカボチャが一つこぼれ落ちた。しかし、地面にあたる直前で通りかかった羽山がキャッチした。
「危ない危ない。お疲れさま。この量は大変だったでしょ」
「ありがとうございます。ピクシー達と話しながらでしたので楽しかったですよ」
「なら良かった。受け取るよ。そこに置いておいてくれ」
雨木は羽山の指示通りにカウンターにカボチャを置く。普通のカボチャよりも大きいものばかりで、郵便局のカウンターはすぐに埋まってしまう。何回かに分けて運ぶ必要もあった。
「よし、じゃあ残りは掃除だ。雨木は庭をよろしく」
「わかりました。ではまた後で」
雨木は散った落ち葉を掃く。乾燥し始めた空気は流れず、落ち葉は比較的集めやすかった。ものの30分程度で庭掃除は終わった。それから特にやることも無く手持ち無沙汰だったので、雨木は時間まで部屋の掃除をしていた。以前の生活のことを考えると、ずいぶん綺麗な方ではある。しかし、二度とゴミだらけの部屋にはしたく無かったので掃除はマメにしていた。
「もう夜か」
最後の本を本棚に戻して外を見れば、すでに辺りは暗い。
「雨木、降りてこーい!」
窓の外から凪の声が聞こえた。小走りで窓に駆け寄り、下から部屋を見上げている凪に向かって叫ぶ。
「すぐに行くよ!」
外に出ると、すでに様相が違った。何体ものの幽霊が辺りを漂っていたのだ。人間も、獣も、生を持っていた者達が集まっていたのだ。雨木はすぐ近くにいたヴィドに駆け寄る。
「こんばんは、雨木くん」
「こんばんは、ヴィドさん。これは凄いですね。やっぱりヴィドさんが知っている方もいらっしゃるんですか?」
「あぁ、いるよ。だけど彼らと話すことはできない。私たちがどんな風に時間を使ったのかを見にくるだけなんだ」
ヴィドが彼らを見つめる姿は、彼にしては珍しく寂しかった。雨木も幽霊達を見る。母親がいるかもしれないと思ったが、残念ながら姿は見えない。ヴィドもそんな雨木の様子に気がついたようだった。
「雨木くん、ウィン祭は魔法界で亡くなった者としか会うことはできない。もし、君が会いたいと思っていた人がいても、見つけることは不可能だよ」
「そうですね。この後に食べるカボチャ料理を楽しみにしておきます」
「私も楽しみだ。さて、そろそろ時間だよ」
ヴィドの視線の先、羽山は山のように盛られ、くり抜かれたカボチャを見つめていた。深呼吸をすると彼女は杖を取り出し、言葉を使った。
「 方舟よ 安らぎの場所は渦の中 瞬きの時 我ら迎えん 」
カボチャは形を変えていき、ランプのように辺りを照らす。そして空へ浮き上がると無造作に飛んでいった。幽霊達はカボチャを見ると、何体かはその光を追った。
「あれは?」
「あのカボチャは幽霊が長くこの魔法界に入れるようにする入れ物、休憩所のようなものだ。この時期に採れるカボチャは魔力が高い。その中で過ごせばもう一日だけ、魔法界にとどまることができるんだ。中身をくり抜くのは彼らが入りやすいようにするため。特に、小さい子供の幽霊はカボチャから魔力を補給してまた旅立っていくんだ」
羽山は杖を振っている。杖が空中をなぞればカボチャは空を飛んで、その中にいる子供達は楽しそうだった。
「素敵な催しですね」
「あぁ、そうだと思う」
雨木は気がついた。先程まで凪と話していたリックがこちらに向かっている。
「じゃあ、ちょっと凪と話してきます」
「あぁ、ウィン祭を楽しんで」
雨木と入れ替わるようにヴィドの隣にリックが来る。
「お姉ちゃん、来なかったね」
「……そうだな」
「今まで来た?」
「いや、来ていない」
「そう……じゃあ、来年もきちんと準備しなくちゃ」
ヴィドはリックの表情を見ると胸が苦しかった。リックも同様だろう。だけど、ヴィドは彼女の頭を撫でた。彼女の体は健康的になっていた。これ以上、彼が何も望むことは無い。
「戻って料理を食べよう。来年も健康に、ウィン祭を迎えれるように」
「うん」
幽霊達は空を漂って彼らを見守る。郵便局のウィン祭は、何事も無く過ぎていった。




