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マホウヲハコブモノ  作者: まきなる
第二章
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第五話 これは何の 後編

 郵便局の外で雨木と凪がリックに魔術を教えてもらっていた。ヴィドは道具の修理をしながらその様子を眺めている。リックは魔術の事になるとどうにも力が入ってしまうらしく、口調も元のぶっきらぼうな感じになっていた。それだけ真剣に教えていると言う事なのだが、おかげで二人は気が引き締まっていた。


「また失敗か、むっずいな」


「そう簡単にできてたまるか。今まで基礎も何もやってこなかったんだから、その分変な癖が付いているんだ。強く意識しないといつまでも終わらない」


「リックちゃん、私はできたぞ!」


 凪の前にポンっと小さなイタチのような精霊が現れた。精霊は凪の姿を見ると一瞬首を傾げるが、すぐに彼女の肩に乗って彼女に頬擦りをする。悉く失敗する雨木に対し、しっかり成功する凪。幾度か練習を重ねてみたが、やはり雨木は魔力の扱い方から行うことになった。雨木の体をよく観察してきたリックは彼に教えるには最高の逸材だった。


「雨木透、お前は元々魔力が無かった。それ故に通常のやり方では魔術は中々身につかない。まずは、アドニスのナイフから魔力を供給され続ける感覚を覚えろ。でないと、一か八かでしか魔術を使うことしかできない。今までそうしてきたんだろう?」


 ぐうの音も出ない雨木はポーチからアドニスのナイフを取り出した。ナイフを太陽に透かす。持ち手と鞘は朴の木に石目塗りを施した、実用性を兼ね備えた代物だった。刀身は元の材料である鎌がさらに鋭利になったようで、カマキリの鎌特有のギザギザが残っていた。そして、透過した翡翠色の光が雨木の目を照らす。ヴィドがすぐに作ってくれたおかげで、エリムの嫌がらせにも対処できたようなもの。雨木はアドニスも守ってくれたのかと嬉しくなった。そのナイフを両手で強く握る。そして、そこから魔力をできる限り体内に流すように意識を集中させた。しかし、ある程度の量以上は自分の体を流れてくれない。


「雨木透、お手本を見せるから貸してくれ」


 見かねたリックは雨木にナイフを渡すように促す。雨木から受け取り、アドニスのナイフを持ったリックはその手の馴染み具合に目を見開いた。魔力といい、ナイフ自体の質感といい、今まで自身が使ってきたようなものとは全く比べ物にならない。リックは動揺を隠しながらナイフをクルクルと回す。透明なナイフをずっと扱ってきたため、ナイフ捌きも彼女は一流。そしてその姿は非常に絵になる。


「……じゃあ今は魔力が満タンだから、少し魔力を消費する」


 あれでいいかとリックは近くの丸太を指差すと大きく息を吐いた。雨木も丸太の方向を向く。彼女と丸太の距離は開いていた。だが瞬きの間に一瞬で距離を詰めナイフを丸太に刺して言葉を唱える。


「 見えない刃よ 焼ける刃よ 繋げよ血潮 ほどけぬ手でかき回せ 」


 刺された丸太は炎に包まれ、次の瞬間爆散した。


「は?」


 雨木は間抜けな声を出していたがそれどころでは無い。破裂して四方八方に木片が飛び散り、彼は咄嗟に顔を腕で守った。遠くで見ていた凪も、破片は届いていないが口をあんぐり開けていた。リックとは言うと興味津々な様子でアドニスのナイフを眺めている。


「このナイフ凄いな!さすが三骸体の素材でできているだけある。魔術の威力が根底から上がってくる。素晴らしい代物だ」


「ちょっと待って?!?!?」


「なんだ。これから魔力の回復の仕方を見せようと思ったんだが」


「その魔術ってさ!?僕に放ったことあるよね!?そんな威力してたの?」


 そう、リックが使ったのは雨木の腹に刺して使った魔術。聞き覚えのある言葉と放つ方法を思い出し、雨木は無意識に腹を抑える。


「刺した時は出力は抑えていたよ。あなた弱らせるためだったからね。今は結構本気で使った。この魔術は対象の身体中を流れている魔力と魔力回路に直接作用して焼き尽くすんだ。多くの魔力を込めれば一介の魔術師ならそれだけで機能停止、人によっては廃人になる。普通はどんなものでも魔力を持つから結構使えるよ」


「なんでそれ喰らって僕は動けたんだ……」


「あなたは魔力が無かった。それゆえに普通の人よりもダメージが少なかったから動けたんだろう。あの時は私も驚いたよ」


 膨大な魔術の経験と理解。リックの圧倒的な実力を前にして雨木はよく自分は生きてこれたなと考えた。


「じゃあさ」


 今はもう気にする必要がないことに感謝をし、雨木はついでに他の魔術についても聞くことにした。


「座標に無い場所ってどうやって行くの?」


「それはここじゃできない。そもそも、あの魔術は私が道の魔術を構築しようとした時に偶然行けるようになったんだ。私自身はヴィドから道の魔術は失われたと聞いていた。それで躍起になって開発した魔法に近い魔術。現世と魔法界の境目が曖昧になっている場所でしか使えないんだよ」


 遠くで聞いていた凪が頷きながら近づいてくる。


「へぇ〜リックちゃんてやっぱ努力家なんだね〜雨木、こりゃ私たち滅茶滅茶必死にならないとまずいかも」


「春香ちゃんは大丈夫だと思います。魔力量だけで言えば私とそこまで大差ありませんから。しばらく訓練すれば慣れるはずです」


「やった!練習してくる!」


 凪は肩に乗せたイタチと共に最初にいた位置に戻る。彼女が今練習しているのはリックが使っていた精霊の召喚術だ。リックが教えてすぐに扱えるようになっていたため、感覚だけで使っていた雨木よりもセンスが光っていた。


「精霊か」


 リックが呟いた。


「雨木透、私が話していない魔術がもう一つあったな」


「龍涙の池で使っていた魔術?」


「精霊術は自らの手数が増えるような強力な魔術だ。その分、維持のコストもかかる。さらに精霊も死んでしまうと二度と召喚することはできない。生物も精霊も、生から死への方向は常に一定なんだ」


 リックは相変わらずアドニスのナイフを調べている。


「そして、それすらも覆す魔術こそが魔法なんだ。魔術は魔法に勝てない。自分に対して悪意のある魔法使いが相手なら絶対に逃げてくれ」


「わかった。リックはそんな魔法使いに会ったことあるの?」


「あるさ」


 リックはまだ作業をしているヴィドを眺めていた。


「だけど、守ってくれた」


「そうなんだ。ヴィドさんカッコイイじゃん」


 リックはその後、雨木に魔力の充填方法を眼の前で見せた。効率的なやり方も、まずは基礎ができていないと使用できないらしい。ナイフを返す際には彼女の纏っていた空気が柔らかくなっていた気がした。そして、雨木の特訓の日々が始まる。魔術の実力は一朝一夕では身につかないのだ。


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