幕間3 大人達の郵便局
雨木達が冒険をしている頃、羽山、ヴィド、ソフィアの三人は琴吹郵便局にいた。羽山は受付と帳簿、そして時々顔を出すソフィアと談笑をする。ヴィドはいくつかの依頼を行い、しばらくして工房に籠って作業をしていた。全員の業務が終わったのは午後三時ごろ。まだ日は高くて草が風に靡かれながら歌っているようだ。
「あの子達がいないと静かね」
羽山がポツリと呟いた。その場に誰もいなかったため返事は無かったが、十数秒してから外にいたヴィドが帰ってこう言った。
「あの子達が居ないと静かだな」
「今、私も同じ事言った。考える事は同じか。それより大丈夫?リックちゃん帰って来たのは良いけど、外に出しちゃって」
ヴィドは受付のカウンターに座り、ピクシー達が淹れてきた紅茶を飲むのに戸惑っていた。コップを握ったまま液面を見つめている。
「気掛かりではある。子供の事はどうしても心配してしまうのは仕方ないだろう。前は過保護にし過ぎてしまった事は事実で、取り返しのつかない失敗をした。だからこれからは向き合うし、あの子とゆっくり話していくつもりだ。ダメな事はきちんと教える。でもリックが健康であれば、何も望む事は無いさ」
「肩の力抜きなよ。子供には親の緊張や期待は伝わるもんだから。見ていないと思っていても意外と親の背中を見ているもんだ。だからリックちゃんも戻ってきたんじゃない?ま、親としての先輩である私からのありがたいお節介かな」
「私には親の資格は無い。育てたとは言えないし所詮真似事だ。リックの人生はリックが決める。私は自らの成功だけでなく、泥臭く情けない失敗を隠さない。それを見てどう思うかは彼女次第だな」
羽山は紅茶を飲んでいる彼を見つめ、頬を軽く突く。
「それが親ってもんさ。ま、自分が潰れないようにな。ここには私もソフィアもいるから」
「心強い。でも飲んでる途中で突かないで頂けるか?」
「これは私なりの気遣い。それに、あの子達が帰ってくる頃合いだ。お菓子も買ってくるはずだよ」
ヴィドはカップをテーブルの上に置き、ハコの中に入れた。
「じゃあ、せっかくだ。待たせてもらおうか」
ヴィドは再び工房に戻って行った。羽山も彼の後ろをついて行く。工房に入るのはまだ禁止させられているため、彼女は入り口付近で見ていた。ヴィドは工具の魔術回路の調整を行なっている。先日羽山が爆破させた惨状はまだ直っていない。パッと見では綺麗に整理されているのだが、魔力と魔術が複雑に絡まって体をなしていた工房を完全に戻すのには中々骨が折れる作業なのだ。通常の作業を行うには問題無いが、ごく一部の作業はできない。大方、完全復旧まであと一割というところだろう。
「羽山」
工房に来ていたために怒られるのかと羽山は少し体を震わせたが、ヴィドは怒っているわけでは無かった。あくまで立ち入り禁止にしていたのも安全のためであるし、彼女も十分反省しているようであったから気にすることも無かった。
「どうして元のエルフの姿を見せるようになったんだ?」
羽山は自身の長い耳を触る。
「どちらかというと気まぐれ。そうだ、せっかくだし今度実家にでも帰ってみようかな。子供達に会いたいし」
「エルフの里にか。羽山一人で大丈夫かい。あの周辺は危険が多い、太刀打ちできるか」
「私をなめないで。と言っても、確かに誰か一緒に来た方が良い。若い組で一番強いのは誰だろうか」
羽山はしばし考える。
「やっぱりリックだね。凪は実力はあるが戦闘向きでは無い。雨木は応用力はあるけど元々魔力がない分、魔術に関しては遅れている。リックちゃんは外で生き抜くためにも、かなりの経験を積んでいそうだ。彼女を借りてもいいかい?」
「それは私が決めることではない。ただ、道の準備は進めておくよ。行く時は気をつけて」
「ありがとさん。お土産はエルフの里特性の良薬でも持ってくるよ。甘いものはあそこにないからね〜」
「ゆっくり楽しんできて」
羽山は朗らかな表情を浮かべた後、軽い足取りでカウンターへと向かっていく。子供達に会うのは随分久しぶりだ。何をお土産に買って行こうか。あの子達は今、何をしているのだろうか。時々やりとりする手紙とはまた違う高揚感が、羽山の中に渦巻いていた。そして、そとから談笑している声が近づいてきた。
「こっちも帰ってきたね」
郵便局の子供達が”ただいま”と扉を開ける。
「おかえり」
静かだった郵便局が、また少し騒がしくなってきた。




