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マホウヲハコブモノ  作者: まきなる
第二章
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第一話 闖入者は気まぐれ 前編

お待たせいたしました!やっとコロナの症状が落ち着いてきました。のんびりですが、本日より第二章の更新も開始いたします。皆様もコロナにはお気をつけください……


 琴吹郵便局に帰る道中、雨木は生まれて初めてとてつもない罪悪感に苛まれていた。相手は17歳の子だとは知らず、かなり暴力的な行動を取っていたことを今更後悔し始めたのだ。額に左手を当てて天を仰ぐ。彼女が刺した左手は動かすには問題が無いものの、しっかりと傷跡は残っていた。


「まぁお互い様か」


 凪が不機嫌そうに答える。


「何よ。気持ち悪い」


「気持ち悪いって。ひっどいな。僕は仕事をしただけだ。凪に文句を言われる筋合いはない」


 彼の反論を聞いて満面の笑みとなった凪は雨木の左手を握ったかと思うと、彼の傷口を爪を立てた親指でグリグリと押し込んだ。ただでさえツボがあって激痛が走るのだが、受けていた傷の相乗効果でその痛みは全身を駆け巡った。悶絶しながらしゃがみ込む雨木をよそに凪は腹を抱えていた。


「何おセンチになってんだ?気持ち悪い。雨木は会社の仕事をした、それだけだろう」


「生きてる事が普通だろう……働くってのはすごい事だ。褒めて欲しいぐらいだよ」


「ハイハイ、スゴイスゴーイ」


 凪はわざとらしく手を叩いていたずらっぽい笑みを浮かべた。かと思えば、神妙な顔つきになってしゃがむ雨木に手を差し伸べる。


「たしかに雨木はすごいよ。だから、帰ってからでいいから覚えてること全部話して。命令だから」


「すっごい落差。わかってるよ。ありがとう」


 彼女の手を取り立ち上がる。彼ら目の前にはヴィドに手を引かれて歩いているリックの背中が映る。少しだけ小さな背中には、生気はあまり感じられない。雨木は呟く。


「僕が一人で乗り込んで正解だった」


「流石ヴィドさんだよね。まぁ、私はカマキリは苦手だったからさ、どっちにしろ雨木に行ってもらわなきゃならなかったんだけど。昔から虫は苦手でどうにも慣れない。精霊だったらまだ大丈夫だけど、あそこまでまんま昆虫だと……今でも体が震える」

 

 ヴィドの予想では雨木は一人で行動した際、再び狙われる可能性が非常に高いと話していた。龍涙の池に向かうことになった際、雨木を餌にリックを釣る事にした。アドニスは元々、あの場所に行きたいがためにこの日に来ることは確定していた。それを利用した。


 リックが逃げられないようにするために、どうすればいいか。元々魔力を持っていない雨木が、馬鹿正直に膨大な魔力を持っている彼女の逃走を防ぐことは不可能だ。返り討ちにされて雨木が利用されるのが関の山。そのため、雨木は彼女の心を徹底的に砕くのが効果的であるとし、ヴィドに予め彼女の性格や固執している物は何かを確認していた。


「にしても、雨木って結構えげつないことするんだ。アレまじで郵便局内でぶっ放さないでよ?」


 凪が指差した方向には、雨木が放った魔術によってできた白い塔が聳え立っていた。森のどの木よりも高さがあり、巨大な質量を無から発生させた事実は龍涙の池周辺の魔力をかき乱していた。


「あれが空の魔女、僕を創った存在の魔術。もしかしたらただの魔術じゃないかもしれない。魔力の外付け器官もヴィドさんに強化してもらったけど、アドニスさんの魔力も無ければ発動すらできなかった」


「アドニスさんに感謝しなくちゃ」


「そうだね。この鎌もヴィドさんに言って加工してもらおうかな。ナイフとか良くない?」


 凪は怪訝そうな顔をして、雨木が見せてきたアドニスの鎌をみつめる。


「男子ってそういうの好きだよね。前から思ってたけど何で?」


「世の中の男は皆かっこいいからって答えると思うよ」


「あっそ」


 凪は興味の無さそうな感じで正面を見る。リックが一瞬こちらを向いた。泣いた痕が顔に残っていて、その表情を見た雨木は凪に問う。


「なぁ、凪。ヴィドさんが言っていたことなんだけど、エドワードさんが調べたことって本当?彼女が何らかの魔術の影響を受けていたってさ」


「さぁ?別にどっちでも良くない?それが真実かどうかは重要な事じゃない」


 雨木は少し思考した。


「まぁそういうものか。じゃあ、そろそろ僕たちも彼らを追いかけよう。お腹も空いたしね」


「私は帰ってシャワー浴びたいや」


 雨木と凪は二人の背中を追いかける。彼らの家はもう目の前にあった。



 リックは郵便局に入ると、羽山の顔を見て下を向く。この郵便局に一番長く勤めている羽山とも、面識はもちろんある。リックは彼女の姿を見ると少し眉間にしわを寄せた。雨木も凪もエルフの姿となっていた羽山を見るのはこれが初めてで、その場で固まる。羽山は何かあったのかと言わんばかりに、帰ってきた局員たちの顔を覗き込んだ。


「あんた達、そんなにこの姿が珍しいかい?それよりも、リック」


 羽山はリックの頭上に手を伸ばす。一瞬ビクッと反応して目をつぶる彼女だが、羽山の手は優しくリックの頭上を撫でる。


「よく帰って来た。とりあえず風呂に入って来な。あんたもここに住んだ事があるんだから、使い方はわかっているでしょう?」


「私を怒らないんですか?」


「怒って解決する問題なら今頃あんたをしばきまわしているよ。全ての問題は怒ることで解決するわけじゃない。私はただ怒ることしかできない能無しじゃない。すぐにでもリックと話したいけど、まずはお風呂に入ってご飯を食べて来なさい。話はそれからでいい」


 リックは静かに頷いて郵便局の裏に回る。今、完全に彼女はフリーだ。逃げることも難しいことじゃない。しかし、リックは自分の部屋があった場所に向かう。部屋は変わっていなかった。エリンと過ごした時のまま。変わったのは自分一人だけが帰ってきたただけ。


 二人分の部屋の真ん中にある鏡に、自身の姿を映す。リックは体が大きくなっていた。この郵便局内にあった服では小さくて入らない。


「そうだ」


 リックはエリンの服が入った引き出しを開けた。昔の彼女の身長は今のリックとほぼ変わらない。これなら着れるかもといくつかの服を持ち出して、風呂場に向かう。階段を降りる。あの頃と同じように様々な苔が壁を這っていた。撫でると柔らかな感触が彼女の手に伝わってくる。


 風呂場にはすぐに着いた。シャワーを浴びて泥や溜まっていた汚れを洗い流す。湯舟にお湯は張られていた。浴槽はリックには少し大きくて、彼女は浴槽内で浮かぶ。きちんとした風呂に入るのもいつ以来だろうか。空中に浮かんでいる羊のような精霊を眺めながら、少女は瞳を閉じる。だが、静寂はすぐに掻き乱された。


 バン!!!


 突如勢いよく扉が開いたと思えば、そこには凪が立っていた。彼女も服を脱いでおり、リックを見下ろしている。


「入るよ。私もさっさと汚れ落としたいんだ」


「え?」


 リックの事などお構いなしで凪は風呂場に入っていく。リックは思わず精霊を抱きかかえ、闖入者(ちんにゅうしゃ)を凝視した。


 

 

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