プレゼント
「ぷれぜんとー?」
夕食を終え、一息ついたタイミングでヤームがトルキス家の子供達を並ばせた。
「なにかなー?」
期待に目を輝かせるウィルの前でヤームが手を開いてみせる。
その手にあったのは子供用の腕輪だ。
「順番にな」
「はわー♪」
ヤームが順番にウィル達の両腕に腕輪をつけていく。
伸縮性のある布で作られた綺麗な模様の腕輪だ。
「ねーさまたちも、いっしょー」
腕輪をニーナやセレナと並べてウィルはご満悦の様子。
どうやらひと目で気に入ったようだ。
「俺とターニャからだ」
「魔獣の革を織り込んで作った特別な腕輪よ」
ターニャの説明を聞きながら、子供達が思い思いに腕輪を眺める。
「ほら、あなた達。もらったらなんて言うの?」
セシリアに促されてウィル達はヤームとターニャに向き直った。
「「「ヤームさん、ターニャさん、ありがとうございます」」」
並んでペコリと頭を下げる子供達に二人が笑みを浮かべる。
ヤームが一つ頷いてから告げた。
「そいつは魔道具だ。うちの子供達もつけてる」
「「「えっ!?」」」
魔道具は高価なものだ。
セレナはその事を知っており、驚きに目を見開いた。
ウィルとニーナはその価値が分かっておらず、特別な贈り物に表情を輝かせていた。
「大丈夫だ、セレナちゃん。俺達は材料さえあれば自分で造れるんだ。手間さえかければ店で買うよりずっと安いよ」
「はい……」
ヤームが諭すとセレナもようやく子供らしい笑みを溢した。
将来を予感させる可愛らしい笑みだ。
嬉しそうに腕輪を見せ合う子供達の様子を大人達はしばし堪能した。
「先にその魔道具の効果を伝えておきたいが……」
ヤームがカルツに目配せをするとカルツが笑みを浮かべて頷く。
「ウィル君。私の手を取って、障壁を張ってみてもらえませんか?」
「こぉ?」
ウィルが右手でカルツの手を握って左手の前に意識を集中した。
「あれぇ?」
いつもより時間をかけて障壁を展開したウィルが不思議そうに首を傾げる。
「どうだ、ウィル?」
「これ、へん」
シローに尋ねられたウィルがもう一度障壁を展開して眉を寄せる。
「何が変なんだ?」
心なしか真剣な表情を浮かべるシロー。
ウィルがその顔を見上げて唇を尖らせた。
「うでわがまほーのじゃまするー。ちょっとつかれる……」
「腕輪を見てみな」
「あっ……」
腕輪を見たウィルが驚きに目を見開く。
「うでわ、まりょくですこしひかってるー。すごいー」
「カルツ、どうだ?」
シローがウィルからカルツへ視線を向けると、カルツはいつものニコニコした様子で頷いた。
「特に問題なさそうですね。少なくとも、急に魔力切れを起こしたりなんてことにはならないでしょう」
「そうか」
ひとまず安心して、シローがウィルの頭を撫でた。
「この腕輪は魔法を使うと少しずつ余分に魔力を吸収する効果がある。魔力の枷だな」
「「かせー?」」
ウィルとニーナが揃って首を傾げた。
「魔力につける見えない重りみたいな物かしら……」
なんとなく意味を理解したセレナが顎に指を当ててウィル達に説明する。
それを聞いたシローが頷いた。
「セレナの言う通り、その腕輪を付けた状態で魔法を使うには普段より強く魔力を込めて、多く魔力を消費する必要がある」
そうして常に魔力に負荷をかける事により、解放時の魔力強化を図るのだという。
「でも、疲れちゃったら腕輪外しても意味ないんじゃ……?」
「問題ないよ。この腕輪は解放した時に今まで吸収した魔力を持ち主に返還する効果がある。解放すれば魔力を回復し、一定時間魔力を強化してくれるんだ」
つまり、常時魔力の修練に励みながら、緊急時には強化アイテムとして役立ってくれるのである。
「うーん……」
シローの説明を聞いて、セレナが唸る。
魔道具としての効果は分かる。
だが、常に魔力を抑え込まれていては咄嗟の時に対応が遅れるのではないか。
そう思ってセレナがシローに視線を向けると、シローは楽しむような笑みを浮かべてセレナを見ていた。
その顔は「自分で考えてみて」と言っているようだ。
セレナは敏い子だ。
少し考えれば自然と答えを導き出せた。
(あ……そういう事ね)
父達の意図に気付いてセレナが納得する。
この腕輪は枷であり、強化アイテムだが、その存在を他人に知られてはならない。
知られるという事は弱みを知られる事であり、強みを失うという事だ。
つまり、腕輪を付けた状態でも付けていない人間と変わらぬ実力が発揮できなければならない。
「この腕輪を付けても他の子と変わらないくらい魔法を鍛えなさい、って事ですね」
セレナの答えにシロー達は満足げに頷いた。
セレナと大人達のやり取りを聞いていたニーナも腕輪の意味を理解してやる気に満ちた表情をしている。
その横でウィルだけが未だ意味が理解できず、ぽかんとしていた。
「ウィルはできるかな? 腕輪をつけたまま、魔法を上手に使えるようになるんだぞ?」
笑みを浮かべたシローに頭を撫でられたウィルがムッとした表情になった。
「できるもん! うぃる、うでわつけててもへいきだもん!」
どうやら魔法が使えないと思われていると解釈したらしい。
唇を尖らせてプイッと横を向いてしまった。
その仕草が可愛らしく、周りから笑みが溢れる。
「じゃあ、お姉ちゃんと競争ね!」
「ひゃー!」
ニーナがウィルを抱き締めて頬擦りすると、ウィルはくすぐったそうに身を縮こまらせて笑顔になった。
そんなやり取りに目を細めたカルツが子供達を見回す。
「では少し、腕輪をつけたまま魔法を使ってもらいましょうか。腕輪の反応も見たいですし……」
「「「はーい!」」」
子供達は元気良く返事をすると、カルツに従って魔法の修練を始めるのだった。




