発表会
遅くなりましたが、更新しました。
「お帰りなさい、シロー様」
「ただいまです、ジョンさん」
シローが出迎えてくれた門番のジョンに軽く会釈をする。
その脇を通り過ぎようとした時、中庭の方から歓声が上がった。
何事かとシローがジョンに視線を向けるが、ジョンもよく分からないらしく、肩を竦めて応えた。
シローは玄関から入らず、回り込んで中庭の方へ進んだ。
「なにが……」
シローが顔を覗かせると、そこには喜び合うウィルと精霊達の姿があった。
「ウィル?」
「あ、とーさま! おかえりなさーい!」
シローに気付いたウィルがパタパタと駆け寄ってシローへ飛びつく。
「「「こんばんわー!」」」
「こんばんわ、精霊様」
シローがウィルを受け止めて、挨拶してくる精霊達に応える。
そんなシローの服をウィルが引っ張った。
「とーさま、あのねあのね!」
「どうした、ウィル? さっき歓声が聞こえたぞ?」
「うぃる、せーれーさんにてつだってもらって、いわれたようにできたよ!」
「…………?」
ウィルの言ってることが理解できずにシローは首を傾げた。
何か言っただろうか、と。
「だから、はっぴょーかいをします!」
「はぁ……」
鼻息を荒くするウィルにシローが曖昧に頷く。
まぁ、何かを見せてくれるという事だけは理解できた。
「とーさまはみんなをよんできて!」
「ん……分かった」
シローは頷くと、ウィルの頭を軽く一撫でし、そのまま家の中へ入った。
「ただいま、セシリアさん、トマソンさん」
「お帰りなさいませ、シロー様」
シローがリビングにいたセシリアとトマソンに帰宅を告げるとセシリアが笑顔で出迎えてくれた。
その表情に癒やされて、シローの頬も綻ぶ。
セシリアの笑顔を堪能したシローは視線をトマソンへと向けた。
「トマソンさん、すみません。みんなを中庭へ集めてもらえませんか? ウィルが何かをみんなに見せたいそうなんです」
「はっ、かしこまりました。少々お待ち下さいませ」
トマソンが頭を下げてすぐに動き出した。
「じゃあ、俺達も……」
「はい」
シローがセシリアの手を取って中庭へと向かう。
トルキス家の家族や使用人達が次々と中庭に集まってきた。
「ウィル、みんな集まったよ?」
「はい!」
全員の集合を確認したシローが向かい合うウィルに声をかけると、ウィルは元気よく手を上げて返事をし、みんなの前に進み出た。
「うぃる、あたらしいまほーおぼえたの! みんなみててね、いーい? いくよ?」
ウィルが一方的にそう告げて手にした杖を振り上げる。
新しい魔法と聞いて、使用人達が僅かに身構えた。
もしウィルが魔法の行使に失敗したら、すぐに動き出さなければならない事態に陥るかもしれないからだ。
詳細を知らないシローも自然体でありながら、いつでも動き出せる準備をした。
そんな見守る人達の前で、ウィルの弾んだ声が響く。
「きたれ、つちのせいれいさん! だいちのかいな、われをたすけよつちくれのふくわん!」
解き放たれた魔力が魔素と結びつき、ウィルを囲むように三対六本の土の腕が形成される。
ウィルの腕を模した小さなそれは宙に留まり、手を握ったり開いたり、あるいは力こぶを作ってみせたりした。
魔法の成功に見守っていた精霊達から歓声が上がる。
一方、魔法の内容を見たシロー達はポカンとしてしまった。
「えーっと、なんと申しますか……」
小さな腕だけが宙に浮かぶ絵面はなんというか、シュールだ。
ポツリと呟いたエリスは思った事を胸に仕舞い込んで、違う感想を口にした。
「エリスは見たことも聞いたこともない魔法ですよ、ウィル様?」
「でしょー? そうでしょー?」
勿体ぶってクネクネするウィル。
「しゃーくてぃにきいてもおててつくるまほーない、って。だからうぃる、せーれーさんたちにてつだってもらってあたらしくつくったの!」
「「「…………は?」」」
ウィルの言っている意味を理解するのに数秒要した使用人達がたっぷり間を開けてから疑問符を浮かべた。
なかったら作る。
道理とも言えるウィルの発言だが、作ってしまったのが魔法ではいささか意味合いが違ってくる。
「え? ええ? 魔法って作れるんですか?」
「作れますよ」
困惑気味なメイドのアイカにレンは真顔で答えた。
レンは今日一日ウィルの傍にいて、その工程を見守っていた。
黙って見守っていたのはレン自身、魔法が新しく作れるという事を知っていて、それがウィルに害を及ぼすものではないと判断したからに他ならない。
「簡単な事ではありませんが、精霊様のお力添えがあれば。そうですよね、シャークティ様?」
レンに話を向けられたシャークティが頷いて返す。
「はい。私達が作った魔法が人間に伝わり、人間達の魔法となっているわけですから……精霊ならば新しく魔法を作る事も可能です。ただ……」
前置いたシャークティがウィルの魔法を見上げて続けた。
「新しく作った魔法はまだ世界に定着していません……それに形は出来上がりましたが、まだまだ改善の余地を多く残している状態です……完成とは言い難いです」
「完成させるにはどうしたらいいですか?」
「それには、世界に定着するようにウィルが魔法として使い続ける事と、今回居合わせなかった空属性の精霊や樹属性の精霊にも見てもらって魔法を最適化してもらう事が必要です……」
黙ってレンとシャークティのやり取りを聞いていたシローは顎に手を当てて唸った。
無いものを作り出してしまったウィルには驚くばかりだが、手足を失った者達のために自分のできる事を最大限考えて出したウィルの答えである。
父として、その頑張りには応えてやりたい。
「ウィル」
「なーに、とーさま?」
ウィルの前で膝をついて顔を覗き込んだシローをウィルが真っ直ぐ見返してくる。
ウィルの魔法はまだ未完成だ。
このままでは、まだウィルの思う用途では使えまい。
だが、シローには一つ心当たりがあった。
「近い内に、お父さんの友達が遊びに来る予定なんだけど……魔法を見てもらうか?」
「とーさまのともだちー?」
「そうだ。ひょっとしたら、その手を作る魔法のアドバイスを貰えるかもしれないぞ?」
「ほんとー!?」
シローの言葉にウィルが目を輝かせる。
どうやらウィルもまだまだ魔法の出来に満足していないようだ。
「みてもらうー! はっぴょーかいします!」
両手を上げて喜ぶウィルの頭をシローは笑顔で撫でた。




