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魔法を作る

 アジャンタとシャークティがトルキス家を訪れたのは昼食を終えた後だった。


「やさしいさんとつんつんさんもきてくれたのー?」

『やさしいさん?』

『つんつんさん?』


 優し気な風の精霊とツンツン頭の風の精霊が自分を指差して聞き返す。

 ウィルはコクコクと頷いた。


「そー。あじゃんたとしゃーくてぃがせーれーさんはおなまえおしえてくれないってー」


 ウィルの言葉を聞いて男の子の精霊たちは顔を見合わせ、それからアジャンタとシャークティに視線を送った。

 視線を逸らして頬を赤らめる二人に対し、男の子たちはまた顔を見合わせて笑った。


「ウィル、僕の名前はカシルだよ」

「俺の名前はシュウだぜ」


 いきなり名乗った二人にウィルが目を見開いた。

 それからバッ、とアジャンタとシャークティに向き直る。


「ちょっと、それ! 愛称じゃない!」


 抗議するアジャンタに優し気な風の精霊――カシルが肩を竦めて見せた。


「ウィルは友達だよ。名乗って当然じゃないか」

「そーそー。むしろいきなり真名を教えてるそっちの方がどうかしてる」

「うっ……」


 同属性の精霊たちに言い負かされて、アジャンタが口を噤む。

 だが、アジャンタにしてもしょうがなかったのだ。

 ウィルが知らなかった事とはいえプロポーズされた後では愛称ではぐらかす気にもなれなかった。

 シャークティも同じような気持ちだろう。


 そんなアジャンタとシャークティを背にウィルは両手を広げてカシルとシュウを見上げた。


「だめ!」

「「…………?」」


 ウィルの様子にカシルとシュウが首を傾げる。

 庇うように立ったウィルが声を荒げた。


「あじゃんたとしゃーくてぃをいじめちゃ、だめ!」

「ウィル、別に私達、いじめられてるわけじゃ……」


 誤解を解こうとするシャークティを肩越しに振り返り、ウィルは断言する。


「だいじょうぶ! うぃるがあじゃんたもしゃーくてぃもまもるから!」

「あ、はい……」


 キリッと凛々しい表情を浮かべるウィルにシャークティは頬を染めて引き下がった。

 それが間違いだった。


 忙しなくカシルとシュウに向き直ったウィルが続ける。


「あじゃんたもしゃーくてぃもとくべつなの! うぃるはせーれーおーになるんだから!」

「「あっ……」」

「「えっ……?」」


 精霊達が沈黙する。

 精霊を娶った人間【精霊王】になると発言したウィル。

 そのウィルに真名を教えた精霊の少女たち。

 それの意味するところをたっぷり三秒反芻して。


「「えええええええっ!?」」

『『『えええええええっ!?』』』


 いつの間にいたのか、絶叫したカシルとシュウの周りから土や風の精霊たちが多数飛び出してきた。


「えっ!? マジ!? これってそういう事!?」

「やっ! 違うの! ウィルはよく分かってなくて……!」

『シャークティ、おめでとう!』

「あうあう……」

『アジャンタ、真っ赤! あははははは!』

『みんなに教えてあげなきゃ!』

「「教えなくていいから!」」


「なんですか? 騒々しい……」


 ウィルの様子を見に戻ってきたレンは中庭の様子にポカンとした。

 ウィル達を中心に騒ぎ立てる精霊達。

 トルキス家は今や精霊達が好きに訪れる無法地帯と化していた。



「手を作る魔法……?」


 ひと騒動あった後、ウィルがシャークティに尋ねると彼女は首を傾げた。


「そう! おててだけつくるの! ごーれむさんみたいに!」

「ああ、なるほど……」


 シャークティもウィルが怪我で手足を失ってしまった人を気に掛けていると知っている。

 だが、【ゴーレム生成】はあれで一つの完成形だ。

 該当する魔法はなく、シャークティは首を横に振った。


「ないわね……」

「ないかー……」


 シャークティの返答にウィルががっくり項垂れる。


「ないかもしれないけど、作れなくはないんじゃない?」


 カシルの提案にウィルが顔を上げた。


「つくる……?」

「新しい魔法を、だよ」


 意味がよく分からないのか、ウィルが目をぱちくりさせる。


「ウィル、精霊は新しい魔法を作る事ができるんだぜ」

「ほんと!?」


 シュウが説明すると理解したウィルが目を輝かせた。


「ああ、本当だ。ウィルの思う魔法になるかどうかは分かんねーけど」

「そうね。まずは形にしてみるといいんじゃないかな?」


 アジャンタも頷いて視線をシャークティに向ける。


「うぃる、やってみたい! いいでしょ、しゃーくてぃ!」


 向き直ったウィルがキラキラした目でシャークティを見上げた。

 手足を失った人達にやっと何かしてあげられるかもしれない。

 そんな気持ちがウィルのやる気に火を注いだ。

 そんなウィルの真剣な眼差しにシャークティが笑みを浮かべた。


「分かったわ、ウィル。やってみましょう……」

「やった!」

「ウィルー? 何してるのー?」


 様子を見にきたニーナにウィルが手招きする。


「にーなねーさま、まほうつくるのー!」

「…………?」


 なんの事か分かっていないニーナを加え、ウィル達は早速新しい魔法の制作に取り掛かった。


「腕は土で作るとして……量はそれほど多くないから魔素だけで十分作れると思うけど……」

「支えるには空属性の魔法も必要かな?」

「そうね……後、意思を伝える為に樹属性の核が必要かしら……」


 カシルと話しながらシャークティが適当な枝を拾って地面に腕の絵を描いていく。


「合成魔法……?」


 絵を覗き込みながらニーナが尋ねるとシャークティが頷いた。


「でも、くーのせーれーさんもきのせーれーさんもいないよー?」

「そうだね。そこはウィルの頑張りかな」

「…………?」


 ニコリと微笑むカシルにウィルが首を傾げる。


「本当は他の精霊に手伝ってもらうのが一番いいんだけど、今はいないから……ウィルが代わりにやるんだ」

「魔力の誘導は精霊達でするから、お手伝いしてね……ウィル」


 カシルとシャークティにお願いされて理解したウィルが力強く頷いた。


「わかりました!」

「じゃあ、始めるわね……」


 地面に手をかざしたシャークティがゆっくり魔力を込め始め、ウィル達の魔法作りが始まった。




「ただいま帰りました。お母様」

「あら、早かったのね」


 帰宅後、そのままリビングに姿を現したセレナはキョロキョロと周りを見回した。

 いつもなら帰ってくるなり特訓だ修練だと駆け寄ってくる弟と妹の姿が見当たらない。


「ウィルとニーナはどちらに……?」

「中庭で精霊様たちと遊んでるみたいよ」


 精霊は滅多な事で人前に姿を現さない筈だが、トルキス家では居て当たり前の存在になりつつある。


「もうすぐお菓子が焼ける頃だから、あなたも行って呼んできてちょうだい」

「分かりました」


 セレナは快く応えると、自室に荷物を置いて中庭へ出た。


「ウィル、ニーナ、何してるの?」

「あ、セレナお姉様、お帰りなさい!」

「うぃる、せーれーさんたちとおててつくってるのー」

「おてて?」


 セレナがウィルの指差す先を覗き込んでギョッとした。

 中庭の土が盛り上がり、精巧な腕の形になっていた。

 子供が適当に作ったようなものではない。

 よく見ればグロテスクですらある。


「う、腕……?」

「もーすぐできそーなのー」

「よく分からないけど、もうすぐおやつの時間よ?」

「「「おやつ!?」」」


 セレナの言葉にウィルを始め、全員が振り返った。

 期待に目を輝かせるウィル達にセレナが困った笑みを浮かべる。

 単純にお菓子の量が足りるだろうか、と。


「ウィル、ニーナ、みんなと手を洗ってきてね」

「「「はーい!」」」


 お菓子お菓子と連呼しながら手洗いに向かうウィル達を見送って、セレナは慌ててリビングに引き返していった。


●人物


カシル

優し気な風の精霊の男の子。


シュウ

ツンツンした髪型の勝気な風の精霊の男の子。

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