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カルディの足掻き

本日2話目です。短いお話です。

「そ、そんな馬鹿な……」


 破壊された部屋の前で膝から崩れ落ちたカルディは床に着いた手を震えながら握り締めた。


「私の夢が……王になるという、夢が……あんな子供に……!」


 顔を歪ませて固く握った拳を二度三度と床に叩き付ける。

 そんなカルディの様子をローブの男達は黙って見下ろしていた。

 彼らにもウィルの声が届いていた。

 そして、馬鹿げた大きさのゴーレムから放たれた飛翔する拳の一撃を目の当たりにして彼らは悟った。

 この謀反のパワーバランスを塗り変えたのが誰なのかを。


(気の毒な……)


 刺繍の入ったローブを着た男がカルディの背中を眺めながら胸中で嘆息する。

 これが【飛竜墜とし】や【暁の舞姫】に阻まれたのなら、まだ諦めもつく。

 だが、カルディの野望を阻んだのは年端も行かぬ子供なのだ。納得するのは難しい。

 おそらく、カルディの息子――グラムを恐怖のどん底に叩き落としたのもあの子供だろう。


「悪魔め……」


 男がローブの奥で誰にも聞こえないような小さな呟きを漏らす。


「ははっ! アレと共に騎士共が押し寄せてくるぞ!」

「ケヒヒ! 【飛竜墜とし】や【暁の舞姫】も来るな!」


 背後で嬉々とした声を上げる部下達に男はあからさまなため息をついた。


「引くぞ……作戦は失敗だ」


 男の声に顔を青ざめさせたカルディが慌てて振り返る。

 彼の部下達も慌てて反応した。


「そりゃねーよ、大将! ここからがいいとこじゃねーか!」

「ケヒヒ! 俺達にも肉を斬り刻ませてくれよー!」


 興奮した目に怪しい光を灯して見返してくる部下達を見て、男が目を細める。


(クスリが効き過ぎているのか……?)

「わ、私も……! このままでは引き下がれません!」


 男が思案しているとカルディが立ち上がり、真っ直ぐ男を見返してきた。

 部下達の異様な目つきとカルディの切羽詰まった目つき。

 完全に戦闘と野望に固執しており、正常な判断力を失っている。


(これは駄目だな……)


 男は諦めたように嘆息すると、まず部下達の方へ向き直った。


「好きにしろ。但し、途中で拾わんぞ。きっちりケリをつけてこい」

「よっしゃ!」

「了解ぃ!」


 部下達は返事もそこそこに、どちらが誰と戦うか相談し始めた。

 そんな二人を捨て置いて、男がカルディに向き直る。


「カルディ」

「はっ!」


 膝をついて頭を垂れるカルディの前に男は筒を一つ差し出した。


「これは……?」


 魔獣召喚の筒に似ているが、デザインが少し違っている。


「まだ開発段階の物だが、強力な魔獣が入っている。選べ」


 男の言葉にカルディが戸惑う。

 選べも何も、筒は一本しかない。

 男はそんなカルディを無視して続けた。


「ここで命を賭けて戦うか、それとも私と共に撤退して再起の時を待つか……」


 淡々と言い放つ男にカルディは息を飲んだ。

 だが、その手は迷う事なく差し出された筒を掴んだ。


「戦います。最後まで! あんなワケの分からないガキに! 私の夢を砕かれてたまるものか!」


 興奮したように叫ぶカルディを男は静かに見返した。


「良かろう。では戦いに勝ち、私を迎え入れるがいい!」

「ははっ! 必ずや崇拝者様を新たな王国に迎えて差し上げます!」


 勢い良く頭を下げたカルディが壊された部屋の縁に立つ。

 外が丸見えになっているがまだ室内だ。

 このまま召喚すれば屋敷が更に壊れる。


(構うものか! 王となればこの屋敷は用済みだ!)


 カルディは胸中で吐き捨てて、視線を真っ直ぐゴーレムの方へ向けた。

 筒を握った手が力んで震える。

 野望を阻止されそうになり、怒りが込み上げているという事もある。

 また、戦闘を得意としないカルディ自身の緊張もあった。


「いいか! 恨みっこ無しだからな!」

「ケヒッ! やっと肉が刻めるぜぇ!」


 話がまとまったのか、大男がカルディの左に立ち、小柄な鉤爪の男が右に立った。

 大男が興奮した野獣のような目でカルディを見下ろし、口の端を釣り上げる。


「真ん中のゴーレムはテメェにやる!」

「ケヒヒ! せいぜい気張って魔獣を召喚するんだな!」


 次々にカルディの背を叩く男達。

 それは彼らなりの激励だ。

 逃げず戦う事を選んだカルディを少し見直したのかもしれない。

 今のカルディには、それは何よりの力になった。

 たとえやれる事が魔獣の召喚だけだったとしても。

 カルディは大きく深呼吸して、手にした筒を掲げた。


「行くぞ! くそガキ!!」


 筒に魔力を注ぎ込むとその模様が妖しく輝き出す。

 同時に引きずり込まれるような感覚を覚えてカルディの背に悪寒が走った。


(こ、これは……!?)


 魔力が筒に吸い取られる。

 その筒は普通の筒と違い、消費魔力が桁違いだった。


(ぐっ、くっ……こ、これ以上は……!!)


 無理やり引き出される魔力にカルディは男の開発段階だという言葉の意味を理解した。

 いくら強い魔獣が召喚できるといっても、この消費魔力では召喚だけで動けなくなってしまう。

 ブルブル震え出したカルディが床に膝をついた。

 魔力の吸引が徐々に強まっていく。

 手を離そうにも、筒はカルディの手に張り付いたように離れなかった。

 蝕まれるような嫌な気配が筒から腕を這いのぼってカルディの身の内に根を伸ばしていく。

 ビシビシと何かを引き千切るような音が脳に直接響いてきた。


(……しっ……死ぬ……)


 朦朧とする意識の中でカルディが喘ぐ。

 耐えることしばし、魔力を吸い取られる感覚がなくなって、カルディの手から筒が零れ落ちた。

 カランと高い音を響かせる筒に遅れて、カルディの体が床に崩れ落ちる。


「はぁっ……はっ……」


 カルディが額にびっしょりと汗を浮かべ、荒く息を吐く。

 転がった筒は力を失わず、カルディの目の前で妖しい光を燈し続けている。

 視線を先に向けると、何かの巨大な魔獣がカルディとゴーレムの間に立ち塞がり、その脇をローブの男達が駆け抜けて行く姿が映った。


「これで……わ、私が……王に……」


 三つ重なる咆哮を聞きながら、カルディは意識を手放した。


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