ウィルベル精霊軍VSジャイアントアント
今回は少し短めです。
大きな足音を響かせて、巨大ゴーレムが中通りを前進する。
「どーなってんだ、こりゃあ!」
ジョンとトマソンは慌てて通りの端まで避難し、ゴーレムに道を譲った。
巨大ゴーレムがジャイアントアントの前で立ち止まる。
紅い瞳を輝かせて静かにジャイアントアントを見下ろした。
一方、ジャイアントアントの群れがギチギチと耳障りな鳴き声を上げながら、ゴーレムとの距離を詰め始める。
すぐにでも襲い掛かれるようにジワジワと。
獰猛なジャイアントアントが好き勝手に襲い掛かったりしないのは、最後方に位置取るジェネラルの影響が大蟻の魔獣達に行き渡っているからだ。
「わるいありさん、うぃるがやっつけてやるー! ごーれむさん!」
ウオオオオオッ!
ウィルの呼びかけに応えたゴーレムが右の拳を高々と持ち上げた。
硬く握り込まれた岩の拳を凄まじい勢いで振り下ろす。
豪快に風を切る一撃が、綺麗に舗装された中通りの石畳ごと、ジャイアントアントを叩き潰した。
「なんて破壊力……ですが、多勢に無勢! 行け、蟻達よ!」
ゴーレムの一撃を皮切りに、ジャイアントアントの群れが一斉に押し寄せる。
二つ三つと拳を叩きつけるゴーレムだが、数で優るジャイアントアントは同胞の死骸を踏み越えてゴーレムに肉薄した。
「あっちいけー! もー!」
しつこく迫ってくる大蟻の群れにウィルが憤る。
ゴーレムは奮戦しているが、体に取り付かれるのは時間の問題だ。
「このままではいけない……土の精霊達、出番よ!」
見かねたシャークティが上げた手で魔力を操って土の精霊に合図を送る。
《シャークティの合図だ! 土の精霊陸戦部隊、出撃!》
《よし、行くぞ! 08小隊、出撃だっ!》
《あれぇ? 1から7は?》
《よし、行くぞ! 08小隊、出撃だっ!》
不思議そうに首を傾げる精霊の少女に精霊の少年は二回同じ事を繰り返した。
地面から飛び出した土の精霊達が横一列に並んで、次々と精霊魔法を発動する。
高速で撃ち出された岩石の砲弾がゴーレムに取り付かんと群がっていたジャイアントアントを片っ端から弾き飛ばした。
「はわー!」
「すごいすごーい! 蟻の魔獣が次々に吹っ飛ばされていくわ!」
ウィルとニーナが土の精霊達の活躍に興奮して鼻息を荒くする。
「でも……」
一緒に並んでいたセレナは少し落ち着いた視点で見ていた。
「まだ生きているわ……」
吹き飛ばされたジャイアントアントが次々と起き上がる。
足を損傷したり、外殻がひび割れたりしているが、まだまだ活動できるようだ。
ギチギチと鳴き声を上げてゴーレムに向かってくる。
その度に土の精霊達から岩石の砲弾が撃ち込まれた。
「ジャイアントアントの外郭はとても強固です。その上、昆虫型の魔獣は部位欠損に強く、痛みを感じないと言われています」
「えぇー?」
「脚、取れてるのにぃ?」
エリスの説明にウィルとニーナが渋い顔をする。
エリスは真面目な顔で幼い姉妹を見返した。
「はい。戦闘において、相手の状態を正確に判断する事はとても重要な事です。覚えておいて下さいね?」
エリスの言葉にウィルとニーナがこくこくと頷く。
「ウィル、ニーナ、油断しては駄目よ?」
セレナの注意喚起にウィルが表情を引き締めた。
だったら、どうするか、ウィルなりに考える。
「わかったー! ごーれむさん、ありさんがうごかなくなるまでぱんちして!」
ゴーレムが命令受諾の声を上げ、ダメージを負ったジャイアントアントに繰り返し岩の拳を叩きつけた。
一匹ずつ確実に仕留める。戦闘の基本だ。
「うー、いっぱいー……」
取り付かれる心配はなくなったが、それでも大蟻の数は多い。
よく見れば、ローブの男が最後尾のジャイアントアントジェネラルの影で新たな大蟻を召喚していた。
「なんて言うか……セコい」
「あはは……」
率直な感想を漏らすニーナにエリスが苦笑いを浮かべる。
だが、魔獣による物量作戦は確かに効果的だ。
本人は危険を冒すことなく、相手を消耗させられる。
どんな相手でも弱ったところを狙えば勝率は高くなるのだ。
敵の誤算は、その作戦が精霊と懇意であり、戦闘の殆どを生成したゴーレムに任せているウィルにはまったく効かない事だった。
「土の精霊達に負けていられないわ!」
対抗意識に火がついたのか、アジャンタがシャークティと同じように手を上げて魔力の合図を送る。
《キター! 合図キター! 風の空戦部隊、突撃よー!》
《スカルリーダーから各隊員へ! これよりジャイアントアント殲滅戦を開始する!》
先陣を切った精霊の少年がゴーレムの頭上を飛び越えて行く。
それを皮切りに、風の精霊達が次々とゴーレムの頭上を飛び越えて行った。
《えー? すかるってなにー?》
《いつからアンタがリーダーになったのよー?》
《うっさいなー! わかったわかった!》
非難されて投げやりに応えた精霊の少年が上空に留まってジャイアントアントに手をかざす。
他の風の精霊達も同じように手をかざした。
精霊達の掌に風の魔素が集まり、急速に膨れ上がって緑色の魔力光を発生させる。
《ジャイアントアントォォォ……!》
《《《ぶっころっ!》》》
なんだか物騒な掛け声と同時に、風の精霊達から大量の精霊魔法が放たれた。
槍や弾丸、斬撃といった様々な風の魔法が上空からジャイアントアントに降り掛かる。
浴びせかけるような魔法群が石畳ごとジャイアントアントを飲み込んだ。
《あっははっ! たっのしぃー!》
《悪い魔獣をやっつけろー!》
《ウィル達の邪魔する奴は敵だー!》
《と、つ、げ、きぃぃぃぃっ!》
土の精霊達と風の精霊達による精霊魔法の集中砲火。
それを逃れてもゴーレムの岩の拳が降り注ぐ。
ジャイアントアントは瞬く間にその数を減らしていった。
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「トマソンさん! ジョンのダンナ!」
屋根の上から飛び降りたラッツとマイナがジョン達の方へ駆け寄る。
ウィルの巨大ゴーレムと精霊達による猛攻を呆然と眺めていたジョンとトマソンがラッツ達に向き直った。
「いったい……何があったのですか?」
説明を求めるトマソンに、ラッツとマイナが交互に告げる。
「そ、それが……お屋敷がカルディ家の者達の襲撃を受けちまって……」
「みんな、無事だったんですけど、その……ウィル様を、怒らせちゃって……」
マイナが苦笑いを浮かべた。
四人揃って暴れ回る巨大ゴーレムと精霊達を見やる。
ウィルを怒らせた結果、これである。
大蟻の魔獣は戦闘において逃走しない事で有名だ。
群れをなして標的を襲い続ける姿に恐怖する者も多い。
その大蟻の魔獣の群れが為すすべもなくフルボッコ状態である。
マイナでなくとも苦笑いを浮かべたくなるだろう。
トマソンが視線をマイナ達へ戻した。
「では、今回の魔獣騒ぎはカルディ家の謀反という事ですか?」
「ええ……カルディ家の子息であるグラムも国家転覆を企てているような発言をしていましたし、ウィル様に締め上げられた取り巻きも白状していましたから間違いないかと……」
「ウィル様に……?」
答えたラッツの言葉に、トマソンが難しい顔をする。
その表情にはカルディ家の謀反に対するものも含まれているが、大半は違う想いに占められていた。
(上手に締め上げたのだろうか……?)
単純に、三歳児が大人を締め上げるところを想像できなかったのである。
当然、ウィル自身が掴んでという事は不可能なので、先日のようにゴーレムを使ったのだろうが。
今回はこのバカでかいゴーレムである。
握り締める加減を間違えば、全身の骨が砕けるどころではない。
口と尻から破裂した内臓を撒き散らして絶命するという、精神衛生上たいへんよろしくないショッキングな場面を目の当たりにする事になる。
「あー、それで? 締め上げられた奴らは……?」
トマソンと同じ考えに至ったのか、ジョンが幾分緊張した面持ちでマイナの顔を見た。
「ぽいされちゃいました……」
「「ぽい?」」
同時に聞き返してくるトマソンとジョンにマイナが指先でアーチを描いてみせる。
その仕草で二人はウィルがゴーレムを使って相手を投げてしまった事を悟った。
「それであれば、一先ずは安心ですな」
「そうですね。思ったよりは全然いいです」
ゴーレムを使って人を放り投げるなど安心できる要素は何一つないのだが、トマソン達が安堵したように息を吐いた。
その様子にラッツとマイナは思わず顔を見合わせる。
「詳しくは道すがら聞くと致しましょう。まずは……」
気を取り直したトマソンが視線をジャイアントアントジェネラルの影に隠れるローブの男へと向ける。
ジャイアントアントが壊滅寸前まで追い込まれている今、敵を追い詰めるのは難しくない。
「敵を生け捕りにします。ジョン、ラッツ、マイナ。援護をお願いします」
トマソンの案にジョン達は表情を引き締めて頷いた。




