ガイオスの用事
少し短めなのでもう一話アップします。
トルキス家の応接間では朝から訪れた客を持て成していた。
フィルファリア王国第三騎士団、ガイオス・ローゼンである。
彼は昨日取った調書の一部の照らし合わせと、その後の動向の報告にやって来たのであった。
応接間にはシローとガイオス、【大地の巨人】のメンバーがいた。
「そう固くならんでくれ」
「「「「は、はぁ……」」」」
緊張する冒険者達に笑みを浮かべたガイオスはシローに勧められるまま、応接間のソファに腰掛けた。
釣られて【大地の巨人】のメンバーも腰を下ろす。
「大体は部下から報告を受けているが……」
ガイオスが手元にあるシローの調書と他の報告書を軽く見比べる。
そもそも彼らに非がない事は分かっている事だった。
「君らが罪に問われる事はない。むしろ我が国の落ち度だ。申し訳ない」
深々と頭を下げるガイオスにモーガンが慌てて手を振る。
「い、いえ、気になさらないでください。我々も無事でしたし……」
そう言いつつ、安堵の表情が見え隠れしているのは正式に咎めがないと分かったからだ。
だが、続けて出たガイオスの言葉にモーガン達は目を剥いた。
「……と、国王陛下がおっしゃっておられた」
「「「「ぶふぉっ!?」」」」
思わず噴き出すモーガン達。
その前にガイオスが拳くらいの大きさの布袋と目録を置いた。
置いた瞬間、布の袋からジャラッと中身が擦れる音がする。
「本来であれば直々に目通しして詫びねばならんのだが、今は日が悪い。これで手を打ってはもらえんだろうか、と……」
「お、畏れ多過ぎますよ……」
ガイオスの言葉にモーガンが引き攣った表情で汗を浮かべた。
まさか、自分達の件で一国の王まで出張って来るとは思いもしなかったのである。
モーガンは布の袋を前に躊躇って、視線をシローへと向けた。
シローが黙って頷くのを見て、モーガンが恐る恐る布の袋に手を伸ばした。
ズシリと重い感覚が手に返ってくる。
口止め料もこの中には含まれているのだろう。
「あ、有難く頂戴致します」
深々と礼を返して、モーガンはそれを受け取った。
それを見て、ガイオスが笑みを浮かべる。
「受け取って貰えて助かる。正直、金貨100枚持ち歩くなんざ落ち着かん」
「「「「ひゃ……!?」」」」
【大地の巨人】のメンバー達が金額の多さに口をパクパクさせた。
大金貨で10枚分、白金貨で1枚分。
四等分しても一年以上の生活費になる。
「随分と大盤振る舞いだなぁ……」
少し呆れたような声音のシローだが、驚いてないのは彼が超一流の冒険者だった過去があるからだ。
ガイオスが椅子に深く腰掛け直して視線をシローに向ける。
「お手柄だからなぁ……カルディ伯爵を追い詰めるチャンスを作ってくれたわけだし」
「はぁ……?」
訳が分からず曖昧な返事をするモーガンに、ガイオスが説明を始めた。
モーガン達に絡んだのがカルディ伯爵の子息だった事。
そのカルディ伯爵が影で良からぬ事を企てているのではないかという情報があった事。
しかしなかなか尻尾を掴ませず、手を拱いていた事。
「一昨日の騒動で捕まえた奴らは詳しい事を知らされていなかったが、カルディを訝しく思う声が多数聞こえた。私兵を囲うにしては数が多過ぎるし、賃金も良かったそうだ。あれ以上の数を雇うのにどこから金が出るのか……」
伯爵とはいえ、彼は重要なポストにはついていない。
爵位のある者が私兵を雇う事は珍しくないが、彼の収入源でそれだけの私兵を賄うのは無理だ。
当然、裏があると考えるのが普通である。
「今回の騒ぎは渡りに舟ってとこだな。リックのやつ、早速手を打ったらしい」
リックこと、フェリックス宰相は国王から承認を得て、伯爵の子息であるグラムを王命により招喚した。
翌朝に登城せよ、と。昨日の夕刻の事である。
「夕刻……?」
シローは首を捻った。
本来、王命による呼び出しは朝の段階で行われる。
王に謁見する為の準備期間だ。
今回は咎められる立場にあるので、即座にカルディ伯爵邸に派兵されても問題ない筈だが。
不思議がるシローにガイオスが笑みを浮かべた。
「俺もリックに同じ事を聞いたが……なんでも、カルディを炙り出す為らしいぞ」
「どういう事?」
「ただ兵を差し向けた場合、踏み込めたとしてもグラム捜索が関の山だ。戻ってないと白を切られ、見つからなければそれ以上屋敷に踏み込めなくなるだろう」
カルディならそれぐらいやってのける、とガイオスが鼻を鳴らす。
「で、一日こっちの動きを警戒する相手に、押し入るではなく招き入れる姿勢をみせるとどうなるか……」
「王命には逆らえない。しかし、習いと違い夕刻に呼び出されたとなると……なるほどな……」
その時間に謁見はできない。
異議申し立ての時間はない。
「今まで馬鹿息子の起こしていた不始末は全部カルディが握り潰していた。親の情はあるだろう。代わりに今日、カルディが登城して異議を申し立てれば、王命に背いたとしてカルディをその場で拘束できる。何かを企てているのでは、とな。さりとて今回の件を揉み消そうにも相手が悪い」
ガイオスが人の悪い笑みをシローに向けた。
末席とはいえ、王族に喧嘩を売って、絡んだ相手がその庇護下にある。
誰が好き好んで飛竜を単独で葬り去る人間と事を構えようというのか。
ガイオスなら絶対にしない。
「つまり八方塞がりか……」
黙って聞いていたモーガンの呟きにガイオスが頷いて返した。
「まぁ、これでちっとは王都も平和になるってもんだ」
満足げな笑みを浮かべるガイオスにシローも心の中で笑みを浮かべた。
(あんた以外は、な……)
そんな風に胸中で呟く。
事前にガイオスが来ることは分かっていたので、それに合わせて本日は特別ゲストを呼んである。
「騎士団長、客人もいるので今日は軽く昼食会を開くんだ。よかったら一緒にどうです?」
その為にセシリアとステラとローザが朝から昼食の仕込みを行っている。
そうと聞けば、ガイオスが無碍に断ることもない。
「セシリア様の手料理か! いいな! ご相伴に預かるとしよう!」
「セシリアさんもそう言ってもらえると喜びますよ!」
セシリアが料理を始めたのは結婚してかららしいが、その腕はメキメキと上達している。
元より興味はあったらしいのだが、貴族令嬢が厨房には立たせて貰えなかったらしい。
なのでセシリアは今、喜んで料理を振る舞っていた。
ともあれ。
(罠にかかったな、熊め! 覚悟するがいい!)
シローは胸中で悪い笑みを浮かべて勝ち誇っていた。
この後に起こる大事件など、夢にも思いもせずに。




