海の向こうの国
フィルファリア王国会議室――
「次々と問題が起こって嫌になるが……」
「ですが想定の範囲内ですよ」
思わずため息をついてしまうフィルファリア国王アルベルトに宰相であるフェリックスが苦笑する。
会議室には王都レティスに住まう重臣たちの姿があった。シローたち【大空の渡り鳥】も会議に参加しており、ドヴェルク王国の使者としてマルガレーテの姿もある。
フィルファリア王国からの丁寧なもてなしにより会議の上座の方へと座らされたマルガレーテであったが彼女自身は王族とはいえ長く冒険者であり、慣れない待遇に戸惑っている様子であった。
そんなマルガレーテに気付かぬ振りをしてフェリックスが手元の資料から今ある議題を述べる。
「まずは光の国アルメア皇国から使者が送られた件。先んじて来訪を伝える文書が正式に届きました。使者の中には聖女も含まれているようで皇国の本気度が伺えますね」
聖女というのは光の大幻獣を祀っている女性たちであり、光の国を象徴する存在だ。光の大幻獣の巫女となれる素養のある者を国中から集め、切磋琢磨し、やがて国の運営を担っていく。その中で大幻獣の加護を強く受けた者が教皇として国のトップに立つのだ。
「やはり我々の同盟を警戒しているようだな」
「そうですね。規模から考えれば……フィルファリア王国とソーキサス帝国が同盟を組んだ場合の既定路線という見方もできますが」
アルメア皇国から見ても十数年前まで戦争状態にあった両国の関係改善は早いと感じているだろう。そこには両国の並々ならぬ努力があったわけだが両国が同盟を結び力をつけそうなのであれば国の中心を担う聖女が使者として赴きフィルファリア王国の動向を伺うつもりでいたとしても不思議はない。
話を聞いていたアルベルトが視線をフェリックスからマルガレーテへと移した。
「マルガレーテ殿は光の国の動きをどう見る? 他国の使者としての立場からより客観的に今の状況を判断して欲しいのだが」
「うっ……」
アルベルトの問いかけに重臣たちの視線がマルガレーテに向かう。アルベルトの問いかけはマルガレーテが会議に参加しやすいようにという配慮なのだろうがあまり注目されたくないマルガレーテにとってはどうにも居心地のいいものではなかった。
とはいえ黙っているわけにもいかず。気を取り直したマルガレーテは緊張を抑え込んで静かに口を開いた。
「フィルファリア王国、ソーキサス帝国、フラベルジュ王国の三カ国の同盟は非加盟国からすれば脅威でしょう。ドヴェルク王国はソーキサス帝国からの誘いもあり早い内から同盟に参加する意向を固められましたがそれでも無視できるものではありませんでした。そう考えれば光の国が使者を送るのは既定路線。聖女を送ってくるのも妥当な気がしますね。特に今のフィルファリア王国には戦力が集中し過ぎていますから」
マルガレーテの視線がシローたちに向かう。
フィルファリア王国には退いたとはいえ元テンランカーのシローとレンがおり、違う街にはヤームも住んでいる。そこに他国から足を運んだテンランカーであるカルツとロンも滞在しているのだ。
「【大空の渡り鳥】が集結しつつある状況を冒険者ギルド総本山のあるアルメア皇国が見落としているはずがありませんので……そのことを危惧したドヴェルグ国王から直々の依頼で私はフィルファリア王国へ訪れたのです。再び集結した【大空の渡り鳥】とその存在を囲う同盟に企てがないかどうかを調査しろ、と」
本来であれば密命とも言える依頼の内容を軽々に開示するべきではない。だがマルガレーテはもう知ってしまった。その同盟の中心に何が――いや誰がいるのかを。
微かに騒めく重臣たちをアルベルトは手の動きで制した。
「それで……調査の結果はどうだった?」
真剣に見据えてくるアルベルトにマルガレーテが緊張をほぐすように小さく息を吐く。
「そうですね……私は彼らの中でもロンと一時、依頼を共にしていて人となりを知っていました。彼がいるのなら滅多なことはない、とは考えていましたが……実際、彼らから同盟の裏側を聞いて納得致しました」
世界で暗躍する邪神の影。そしてその対抗手段となるであろう幼いウィルの存在。この同盟はウィルを守るための同盟だと言っても過言ではない。
マルガレーテの脳裏に和菓子を頬張って笑顔を見せるウィルの姿が浮かぶ。その表情はマルガレーテも守りたいと思うものだ。
ウィルの顔を思い出したマルガレーテの頬が自然と緩み、そんなマルガレーテをアルベルトたちが不思議そうに眺めて。
視線に気付いたマルガレーテが慌てて姿勢を正した。
「あっ、いえ……私は今回の同盟に賛同いたします。そのためにドヴェルク国王からの依頼もお伝えしたのですから……」
依頼の開示はマルガレーテなりのフィルファリア国王アルベルトへの誠意であり、ウィルの味方になるという彼女なりの宣言でもあった。
そのことを理解してアルベルトが笑みを浮かべ深く頷く。それは心強い仲間が増えたことに対する無言の感謝であった。
「今回のアルメア皇国の使者の件は我々の味方を得るチャンスでもあり、秘密にしている存在を公にされる窮地とも取れる。また使者を出迎える西の辺境伯領にも同じことが言える。故に今回は西の辺境伯領に詳しい先王陛下の御助力を賜ることになった。そこでマルガレーテ殿、不躾ではあるが……」
いったん言葉を切って真剣にマルガレーテを見つめるアルベルト。マルガレーテはこのやり取りに昨日のワグナーの姿を重ねてしまう。真摯なところは親子そっくりだ、と。
「マルガレーテ殿、どうか先王陛下に同行し、ドヴェルク王国の代表として両国の会合を見届けてはくれぬか?」
不躾などとはとんでもない。アルベルトも最大限敬意を持ってマルガレーテに接してくれている。ドヴェルク王国の代表として扱われるのは冒険者として落ち着かないが、それでもテンランカーとしてマルガレーテの存在は下手な貴族よりも重要視される。冒険者ギルド総本山のあるアルメア皇国であれば尚更だ。
「畏まりました、アルベルト国王陛下」
マルガレーテが快諾して微かにあった会議室の緊張が解けていく。ひとまずはアルメア皇国の使者に対する問題は解決したといっていいだろう。後は話し合いの場でどうなるか。
アルベルトとマルガレーテの対話が一段落して気を見計らったフェリックスが議題の進行を続けた。
「同盟の拡大についてですが、ドヴェルク王国の他にフラベルジュ王国からの誘いを受けてシュゲール共棲国が興味を示してくれているようです」
「元々、シュゲールとは同盟を結ぶ手はずだったからな。良い機会だ」
フェリックスの報告にアルベルトが笑みを浮かべる。ウィルにほだされてシュゲールとの同盟計画を前倒しに進めていたのは記憶に新しい。
その成果もあってかシュゲール共棲国との話し合いは実にスムーズであった。
「残る懸念は光の国の隣国である闇の国ラピリスの反応とシロー殿から報告があったロコウ連峰を越えた先にある二つの国、ミズール国とアイオン国の雲行きでしょうか……」
明確に反応を示したアルメア皇国とは違い、その隣国である闇の国ラピリスはなんの反応もない。一方、ロコウ連峰の東に位置するミズール国とアイオン国の様子はウィルと懇意の風精霊カシルとシュウからもたらされた情報であった。
フェリックスから視線を送られたシローが話を続ける。
「闇の国はもともと他国に干渉するような方針は取らない国ですから特に問題ないかと思いますが……ミズールとアイオンは気になりますね。どちらもロコウ連峰に隔てられてフィルファリアに直接なにかがあるとは考えにくいですが」
「隣接しているソーキサスとフラベルジュに影響が出かねないか……」
シローの言葉にアルベルトが唸る。精霊たちがなにかを感じ取っているのであれば無視することもできない。
「精霊さまの話を聞くところによりますと風の精霊は微かな風雲を読むこともあるのだとか……」
「白の教団が暗躍している可能性もある……ソーキサスとフラベルジュには知らせておいた方がいいかもしれんな」
精霊たちの予感がどれほどの事態を引き起こすか分からないが備えるに越したことはない。フィルファリアよりも隣国で影響が出る可能性が高いのであればフィルファリアで情報を止めておいていい話ではないだろう。
「アルメア皇国の使者との対談は父上とシローに任せる。後ほど話を詰めておいてくれ。それからミズールとアイオンの動向に関してはフェリックスが指揮を取れ。ソーキサスとフラベルジュへの報告も忘れるな」
「「はっ!」」
アルベルトの決定にシローとフェリックスが同時に応える。
シローたちの返事に満足したアルベルトが次の議題を促してフェリックスが会議を進行していく。
マルガレーテはその様子を眺めつつひとまずは自分の会議での仕事の終わりを感じるのであった。
一方、その頃ウィルはというと――
「昨日の今日でよく来てくれたわね」
「おまねきいただきありがとーございます」
第二王女フレデリカの招待もあってウィルは姉たちと一緒に王族の居住区へ訪れていた。
子供らしい丁寧なお辞儀をするウィルを見た第一王女のアルティシアが胸を張って出迎えるフレデリカに視線を向ける。
「フレデリカが誘ったの?」
王族の生活区というのは当然のことながら誰でも足を踏み入れることができるわけではなく国王の許しがなければならない。
普段はウィルたちの来訪に合わせて国王のアルベルトが許可を出しているのだが今回はフレデリカがアルベルトに直訴して許可を得たようだ。
「昨日は私だけ飛び出してウィルに会いに行ってしまったので」
厳密にはトルキス家に招待されたマルガレーテに会いに行ったのだが。マルガレーテを招待したウィルにも会うことになる。どうやらフレデリカはそのことに少なからず負い目を感じているようだ。
取り繕うフレデリカを擁護するようにウィルが続けた。
「テレスさまに会いにきてあげてっておねがいされましたー」
フレデリカの誘いは第三王女のテレスティアを思っての行動で誰に非難されることでもない。
そのことが分かっているからアルティシアも笑顔でウィルの頭を撫でた。
「大丈夫。怒っているわけではないのよ、ウィル。ようこそ」
「えへー」
撫でられたウィルはご満悦だ。
しばらくアルティシアの手の感触に身をまかせていると侍女に付き添われてテレスティアが姿を現した。
「あら、部屋で待っているかと思ったら……」
テレスティアに気付いたアルティシアがウィルから手を離す。
一礼する侍女を置いてテレスティアがウィルたちの下まで歩み寄ってきた。
「ご機嫌麗しゅうございます、テレスティアさま」
「こんにちは、テレスティアさま」
「セレナさん、ニーナさん、ごきげんよう……」
セレナとニーナがテレスティアにお辞儀をするとテレスティアも少しぎこちないながら挨拶を返した。
ウィルとはよく顔を合わせているが実はセレナとニーナはそれほどでもない。セレナはアルティシアと、ニーナはフレデリカとよく会ってはいるが居住区までは足を踏み入れてはおらず、居住区から出てこないテレスティアとはあまり会っていないのだ。
今現在、定期的にテレスティアと会えるのは家族や使用人を除けばウィルだけである。お披露目されていない王女と交流を許されるということはとても光栄なことなのだが残念ながらウィルもテレスティアもそのことをまったく理解していなかった。
二人とも友達感覚である。
そんな仲のいいテレスティアが視線で訴えかけていてウィルは快く頷いた。
「レヴィ、コトノハ、出ておいで」
ウィルに促されて風狼のレヴィと濡れ狐のコトノハが顕現する。
幻獣が足元にすり寄ってきて瞳を輝かせたテレスティアがその体を優しく撫でた。
「もっと、もふもふする?」
ウィルの問いかけにテレスティアが少し迷う。ウィルにはまだ幻獣が控えており、テレスティアの希望に添えるのだ。
だがテレスティアは廊下でこれ以上戯れていていいものかと幼いながらに考えたようで。
テレスティアが視線をアルティシアの方へ向けると意図を組んだアルティシアがウィルたちを奥へと促した。
「ここで立ち話もなんですから……部屋へと参りましょうか?」
「はーい」
アルティシアが導くままにウィルが返事をして。
礼儀のなっていないウィルにセレナは若干焦りつつ、そんな様子も微笑ましく子供たちは客間の方へと向かっていった。
「それで? お父様に聞いたんですけどウィルたちも西の辺境伯領へ行くんですって?」
「はい。せんおーへーかといっしょにー」
客間のソファに腰を下ろしたアルティシアに聞かれてウィルが愛想よく答える。ウィルには何やら自信があるようで。
「にし! ウィルしってる!」
うんうんと頷いてみせるウィルにアルティシアたちの表情も綻んだ。
「すごいわね、ウィルは……」
実際、ウィルほどの年齢で方角を正しく理解できているのはすごいことだ。それだけウィルはいろんなところへ出かけているということなのだろう。
アルティシアに褒められて気を良くしたのかウィルは自信満々に続けた。
「前にわるい貴族さんを投げちゃった方がにしなんだって! それでおぼえたの!」
違った。どこへ出かけたとか関係なかった。
アルティシアたちの表情が苦笑いに変わる。思い返してみればアルティシアたちがウィルの巨大ゴーレムを初めて見た魔獣騒動の時、確かにウィルはトルキス邸を襲撃した不逞の貴族を大遠投しており。
ウィルにとっては魔法で結果を出したことの方がより鮮明に覚えている、ということなのだろう。
そんなホクホク笑顔のウィルを見て困ってしまったアルティシアは席を立って。
「そうだ。ウィル、いい物を見せてあげるわね」
そう言い置いて席を外したアルティシアはなにかを持ってまた戻ってきた。それを皆が見やすいようにテーブルの上へ広げる。
「「おおー」」
折り畳まれた紙が広がってウィルとニーナが感嘆の声を上げる。それはフィルファリア王国の詳細な地図であった。領地ごとに区切ってあり、森や川などの地形や点在する街や村の情報も記されている。
ウィルたちは初めて見る地図に興味津々だ。
一方、その存在を知っているセレナは少し困っていた。
「アルティシアさま、よろしかったのですか? ニーナたちに地図を見せて……」
「問題ないわ、セレナ。ニーナもウィルも、フィルファリア王国のために活動してくれている一員なんだもの。貴族の子供たちなのだから少しくらい知っておいた方がいいわ」
セレナの懸念にアルティシアが笑みを返す。
国内の地図というのは重要な情報で誰にでも開示されるものではない。どこからか情報が漏洩してフィルファリア王国に不利益をもたらす可能性もあるからだ。
そのこと心配してのセレナの発言であったが地図から顔を上げたニーナはきっぱりと否定した。
「大丈夫です、セレ姉さま! こんなにいっぱいの情報量、必死に見ても覚えられませんので!」
「それはそれで困るのよ……」
ニーナの残念な発言にセレナが肩を落とす。ニーナも貴族の娘なのであるし、アルティシアが開示してくれた重要な情報は責任感を持って見て欲しいのだが。
そんな苦悩を感じ取ってアルティシアが苦笑いを浮かべた。
「気にしなくても大丈夫よ、セレナ。王家にも似たような娘がいますからね」
そう言って視線を隣のフレデリカに向ける。どうにも二人は似た者同士のようだ。
アルティシアもまだ幼いニーナにすべての情報を理解せよという気はない。
「でも二人とも、大好きな武人を目指すのであれば地図を理解するのはとても大事なことだと思うわよ? どこに何があるのか把握して戦えるのも強いと言われる武人の条件だもの」
「「た、確かに……」」
声を揃えて衝撃を受けるニーナとフレデリカ。そのまま二人して真剣に地図に視線を戻す。
一方ウィルは目新しいものに興味津々のまま、じっと地図に視線を落としていた。
「わかる、ウィル?」
優しく声をかけるアルティシアにウィルは食い気味だった体を少し起こした。
「わかんないけど……なんだか見たことないのがたのしーです」
どうやらニーナたちよりか素質はありそうだ。だが未だ字を読むのも怪しいウィルにとってはどこをどう見ていいのか分からないようだ。
そんなウィルのためにアルティシアが指で一点を示す。
「ここが王都レティス……私たちが住んでいるところね」
「ほうほう……」
地図の中ではやや南寄り。王国の都というのは地理的に中央寄り位置することが多いのだがフィルファリア王国は南寄りにある。これには理由があった。
「ここが大きな山なんだけど、なんだか分かる?」
王都にかかる広範囲の山があってウィルが顔を近付ける。
「れ……レ、ク……ス?」
たどたどしく字を読むウィルの姿にアルティシアの目が一層優しくなる。
「そう。ここがレクス山。レクスさまがいらっしゃるところね」
よく見ればウィルの言ったことのある精霊魔法研究所の表記もあった。王都はレクスを祀るために山の麓にあるのだ。
アルティシアの指が滑って中央寄りの大きな街に辿り着く。
「ここが学術都市クランメルン……中央に位置する第二の都市ね」
「ヤームさんたちが住んでるとこー?」
「そうよ」
ウィルの疑問にセレナが笑顔で答える。元【大空の渡り鳥】のヤームがこの街で鍛冶屋を営んでいるのだ。
王都がレクスを祀ることを重視しているためこの第二の都市が国の中央都市として機能している。
ふんふん頷くウィルを待ってアルティシアの指がそこから西の大きな領地に動いた。
「そしてここがウィルたちの行く西の辺境伯領ね」
「おっきー……」
「光の国の聖女さまを出迎えるのであればさらに西側の港町の方まで行くかしら」
「みなとまちー?」
聞き馴染みのない言葉にウィルが顔を上げる。
アルティシアは少し驚いたがあることに気が付いて笑みを深めた。
「そうよ。海辺にある町のこと。光の国は海の向こう側にある国なの」
「うみ!」
ウィルの跳ね毛が驚きにぴょこんと揺れる。その言葉に心惹かれるものがあるのは間違いないようだ。
アルティシアが気付いたこと。それはこの世界では珍しくない、海を見たことがあるかどうかということ。
「ウィルは海、見たことないかな?」
「ないですけどしってるー」
絵本の知識としてウィルは海を知っていた。ただしその知識にはわずかばかり間違いがある。
「おっきないけー」
「池……とはまたちょっと違うわね」
これにはアルティシアも苦笑いしてしまった。
やはりただの知識と実際に見るのとでは大きな隔たりがあるようだ。
「わたしも見たことないけど……」
おずおずと発言するテレスティア。引っ込み思案な彼女が会話に参加してきたことにアルティシアは少なからず驚いていたが気を良くしたフレデリカは笑みを深めていた。
「私も見たことないわね」
「私もありません」
「この中で見たことがあるのはアルティシアさまだけのようですね」
トルキス家は海を訪れたことはないのでニーナとセレナも見たことはない。
アルティシアは王家の訪問に同行した際、一度だけ広大な海を見たことがあった。
「とは言っても、私も幼い頃に見た記憶しかないのよね」
その時の感動を思い出すようにアルティシアが目を閉じる。今見ればまた違った見え方がするのだろうか、と。
目を開けたアルティシアがウィルを真っ直ぐ見つめる。その表情に真剣なものを感じてウィルの目も自然と引き寄せられた。
「ウィルたちにも見てきて欲しいわね。それでどう思ったのか、私に教えて欲しいな」
「うん……うん! ウィル、しっかり見てくるね!」
「私も! しっかりと見てきます、アルティシアさま!」
力強く頷くウィルと元気に答えるニーナ。
ウィルたちの目の光を見たアルティシアも嬉しくなってつい表情を綻ばせてしまうのであった。




