お団子一丁甘味増し増し
「もうすぐ王都に到着しますよ、【斧嶽断ち】殿」
「ええ……」
軍用車両の椅子に背を預けたマルガレーテが兵士の案内で顔を上げた。彼らはフィルファリア王国の王都に所属する巡回部隊であり、乗合馬車を待っていたマルガレーテを見かけて王都まで送り届けてくれたのだ。
「手数をかけたわね」
「いえ、我々も王都へ帰還するところでしたから」
マルガレーテの言葉に兵士が笑みを返してくれる。
ドヴェルグ国王の依頼でフィルファリア王国を訪れたマルガレーテは拘束される可能性も頭の片隅で考えていた。しかし対応してくれる兵士たちはみんな笑顔でマルガレーテを歓迎してくれている。その様子から裏表は感じられない。
親身に接してくれる兵士たちはマルガレーテにとって新鮮であった。ドヴェルク王国では王族の血縁として畏まる者も多い。また他国においてもテンランカーとして緊張されるのが常であった。ドワーフということもあり珍しがられることもある。
「どうかされましたか?」
黙って見返してくるマルガレーテを不思議に思ったのか兵士が首を傾げた。
本当に何も分かってないようでマルガレーテが小さく笑ってしまう。
「どこに居ても気を遣われることが多かったから……」
「はぁ……」
曖昧に頷いた兵士であったがなんとなく察してまた笑みを浮かべた。
「大丈夫ですよ。レティスは分け隔てのない、過ごしやすい街ですから」
「それは楽しみね」
それがどれほどのものなのか、マルガレーテには期待半分といったところであったが。
犯意害官の淘汰された王都レティスの治安の良さに彼女はすぐ驚かされることになった。
王都に入り兵士たちと別れたマルガレーテは感嘆した様子で通りを見渡した。
区画整理された街並みは今まで見てきた都市の中でも美しく、天気のよさも相まって引き込まれそうになった。
メインストリートは幅広くかなりの往来があるものの込み合っているという印象はない。またそれだけ人が行き交っていても殆どゴミは落ちていなくて清潔感が溢れていた。通りに活気もあって見ているだけでも胸が躍るようだ。
このまま足を止めていては田舎者だと宣伝するようなものかとマルガレーテはすぐに歩き出した。
時刻は昼過ぎ。すぐに冒険者ギルドに足を向けてもよかったがそれだとすぐにどこかしらへと案内されてしまう可能性がある。冒険者ギルドは緩い印象を与えがちだが事務的な作業になると兵隊なんかよりも融通の利かないお役所仕事になる。
(せっかく王都に来たのだし……)
すぐに拘束されて仕事をさせられるのも面白くない。テンランカーだって息抜きは必要なのだ。少しくらい王都の雰囲気を楽しんだって文句は言われまい。
(よし……)
マルガレーテは胸中で頷くと視察もかねて王都の人込みへと消えていった。
その日、ウィルはレンをお供に広場へ遊びに出かけた。
モンティスを誘い、ティファとラテリアも連れている。ティファが参加する時はティファの家のメイドであるルカエも付き添いで同行し、最近ではそこにアッシュも加わり子供五人で行動することが増えた。
広場へ向かういつもの道を歩いているとウィルはなにかの気配に気が付いて足を止めた。
「どうしました、ウィルさま」
ウィルの変化に気付いたレンが声をかける。
ウィルは一度レンを見上げ視線を元に戻した。ウィルの視線の先では小柄な女性が店先の商品を眺めている。
「レン、あのひと……」
「ドワーフ……珍しいですね」
トルキス家には最近家臣として加わったライラというドワーフの技術者がいるが王都でドワーフを見かけるのは珍しい。
それでもたまに冒険者の中に混ざったりもしていてまったくないわけではない。
だがウィルが気になったのはそういうことではないようだ。
「どわーふさんてお酒、好きなんだよね?」
「そう、ですね……」
子供の聞く話にも出てくるドワーフは酒に目がない。ライラも酒好きであり、ウィルの認識もそのようになっている。
だが視線の先で熱心に商品を選んでいるドワーフがいるのは甘味屋【夢心地】の前であった。ウィルは酒好きの多いドワーフが酒以外に執着していることに違和感を覚えているようだ。
「ドワーフもお酒だけで生きているわけではありませんので」
「ほむ……」
いくらドワーフが酒好きの多い種族とはいえ酒だけで生きているわけではない。好みの食べ物もそれぞれにあるだろう。
もっとも酒は百薬の長だの命の水だなどと熱弁するライラを見ていると説得力がないのはしょうがないのだが。
「とーちゃんが冒険者のドワーフ、見たことあるって言ってたぜ」
「野菜は買いに来ないかなー」
興味を示すウィルに対してアッシュとモンティスはそうでもないようだ。一方、ラテリアやティファは甘味の方に興味を示していた。
「お餅……おいしいよね……」
「わたしはおだんご、好きー」
「【夢心地】の和菓子はどれもおいしいですよね」
ラテリアとティファの手を取っていたルカエも二人に話を合わせる。しかしそのせいでティファに勘繰られてしまった。
「はっ!? まさかルカエは私に秘密でたくさん和菓子を……?」
「いえ! いえいえ、そんなことはないですよ、お嬢様」
気まずさからルカエが視線を逸らす。これでは食べていると認めているようなものだが。
そんなやり取りをする少女たちをひとまず置いておいてレンがウィルを促した。
「ウィルさま、そろそろ参りましょう」
いつまでも立ち止っていては他の通行人の邪魔になる。それに他人の買い物を凝視するのも失礼だろう。
それは子供たちも感じ取ったようでまた歩き出そうとする。ウィル以外は。
「ウィルさま?」
「レン、あの人強いよ?」
強い。ウィルが相手を強いと表現することは少ない。日頃からトルキス家の猛者たちを見ておりウィル自身にも戦闘経験がある。魔力を目で見られることもあってウィルの相手の強さを測る精度はかなり高かった。
(おそらく……そうなのでしょうけど)
レンも薄々は感じ取っていた。甘味に気を取られているドワーフだが隙は無い。手練れであることは間違いないだろう。だがレンとドワーフまでは距離がある。対峙もしていないため正確な力量を測るのは難しい。
レンを見上げてくるウィルは話しかけてもいいかと伺っているようだ。ウィルが警戒していないということはドワーフの魔力に害意を感じないのだろうが。当然のことながらなんにでも首を突っ込んでいいという話ではない。相手の迷惑になることもある。
(どうしたものか……)
他の子供の付き添いもあってレンが悩んでいるとこれまで興味を示していなかったアッシュが乗り気になっていた。
「あのドワーフ、つよいのか?」
「うん。魔力の流れがとってもきれー」
どうやらアッシュは強いということに反応したらしい。よく見ればモンティスも興味を示しているように見える。なんだか男の子っぽい反応だ。
ウィルに加え、アッシュとモンティスもキラキラした目でレンを見上げてくる。
子供たちの無言の圧力にレンは小さくため息をついて折れた。
「少しお話するだけですよ?」
レンの言葉を聞いて笑顔を輝かせたウィルたちがドワーフの少女に向かって駆け出す。
一方、ティファたちは少し呆れているようだ。
「ちょっと強そうだとすぐ興味持つんだから」
「男の子ってそういうの好きだよね……」
ティファとラテリアの評価にレンとルカエが思わず笑ってしまう。ウィルたちも随分と見透かされている。
このままウィルたちだけを行かせるわけにもいかないのでレンが向き直ってティファたちを促した。
「それではどうしようもない男の子たちに付き合ってあげると致しましょう」
見守る立場を強調するレンにティファとラテリアはまんざらでもなさそうで。
レンたちはウィルの後を追ってドワーフの少女の方へと歩き出した。




