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ドワーフの女冒険者

 ドヴェルグ王国――

 ソーキサス帝国の東に位置し、国土の大半が山岳地帯となっているドワーフと人間が共生する王国である。

 領土の東側には険しい山脈が広がっており、冬場の寒気は特に厳しい。領内の開発が厳しく手付かずの自然が多く残されている国だが手先が器用で職人気質な者が多いドワーフたちを中心に山の恵みを享受し、様々な製造技術を活かして生活している。

 そんな山の民であるドヴェルグ王国は隣国であるソーキサス帝国が結んだ新たな同盟の対応に追われていた。


 その日、珍しく王城に呼び出されたマルガレーテは謁見の間ではなく応接室に通され不思議に思っていた。

 王国からの要件など大概は城からの使いで済まされる。褒賞があっても謁見の間に通されるくらいで時折世間話という風体で別室に通される。それも近況を報告して終わりだ。

 直接、王宮の応接間に通されるなどここ十年なかったことだ。


(一体何の用だってのよ……)


 特に思い入れのない城の廊下を案内に従って歩く。

 幼い頃は王城に住んでいた。だがそれも一時のことだ。彼女には多くの兄妹がおり、その中でも下の方。王位継承権など飾りのようなものだった。それもあってかほとんどの兄妹は城を離れ、自由に生きている。自分もその一人。

 自由の中で気の向いたことがたまたま国益に繋がっていて一定の地位を得たまでのこと。

 だからマルガレーテは城に戻りたいとも思わなかった。

 案内役が扉を軽く叩き、室内に確認を取ってからマルガレーテを送り出す。促されるままマルガレーテが入室すると扉が静かに閉じられた。


「久方ぶりだな」

「……陛下」


 室内にいたのはドヴェルク国王ブランドンただ一人であった。

 ドワーフにしては大柄で立派な髭を蓄えた精悍な男だ。鋭い双眸が真っ直ぐマルガレーテを見つめている。

 さすがに不用心が過ぎてマルガレーテは嘆息してしまった。


「せめて側近か護衛かを控えさせてはどうですか?」

「我が妹に会うのになぜ護衛が必要なのだ?」

「城に寄り付かぬ妹に危険がないとでも?」

「儂の命を狙っておるのであれば冒険者などに勤めまい」


 肩を竦めて笑みを浮かべるブランドンに僅かな毒気も抜かれてしまったマルガレーテはそれ以上とやかく言えなかった。

 兄王に促されるままマルガレーテがソファに腰を下ろす。その対面にブランドンも腰を下ろした。


「それで……どのようなご用件でしょうか?」


 素っ気なく用向きを確認する妹にブランドンは苦笑すると一息ついて真剣な面持ちで話し始めた。


「ソーキサス帝国の帝都で内乱が起こったことは知っておるか?」

「はい……ですが大事にならなかったと聞いています」


 マルガレーテも冒険者として情報は得ていたがほとんど被害の出なかった他国の内乱に興味はなかった。

 そんなマルガレーテの様子を観察しつつブランドンが顎髭を撫でながら続ける。


「フィルファリア王国から親善訪問で訪れていた貴族の助力があってな……だが報告書を見るによく大事に至らなかったと感心するような内容だ」

「親善訪問中の貴族……? 戦力の足しになるとは思えませんが?」


 ソーキサス帝国にフィルファリア王国の軍が入れるはずもなく、貴族の家臣たちだけでは数に乏しい。

 不思議がるマルガレーテにブランドンは肩を竦めた。


「そうだな……【飛竜墜とし】と【暁の舞姫】がいたとしても、戦局を覆すのは難しい状況だったのは間違いない」


 ブランドンの言葉にマルガレーテが微かに眉をひそめた。冒険者をしていて【飛竜墜とし】葉山司狼と【暁の舞姫】レン・グレイシアを知らない者はいない。

 だがそんな両名がいても難しいと思われる状況でソーキサス帝国は難を逃れた。

 マルガレーテも意味が分からず、静かにブランドンの言葉を待った。


「ソーキサス帝国は帝都で反乱軍の蜂起を迎え撃つも陽動にかかり、各国の貴族の子供たちを人質に取られたそうだ。そんな子供たちをフィルファリア王国の貴族の子供たちが機転を利かせて救出した。その後の出来事は正直現実味がなくてな……俄かには信じられん」


 それだけ言ってブランドンは呆れたように息を吐き出し、ソファに身を預けてしまった。ブランドンは豪胆な性格をしておりマルガレーテに対しても隠し事はしないため、マルガレーテもよほどのことが書かれていたのだろうと推測はできた。

 しかしここまでの話を聞いていてもなぜ自分が呼ばれたのか、マルガレーテは理解することができなかった。


「陛下……兄上、本題は?」

「うむ……」


 マルガレーテが促すとブランドンはその身を起こして真剣に話し始めた。


「ソーキサス帝国とフィルファリア王国、そしてフィルファリア王国と同盟関係にあるフラベルジュ王国……この三国が新たに同盟を結んだことは知っているか?」

「はい……」


 冒険者をしていれば他国の動きも無視できない。マルガレーテも隣国の動きを理解していた。


「ソーキサス帝国皇帝レオンハルトからドヴェルク王国も同盟に参加しないか、と誘いを受けている。帝都に居る我が国の大使たちも同盟への参加を願っているようだ」

「それは……ドヴェルグ王国にとっても歓迎すべきことなのではないのですか?」


 山の資源が豊富なドヴェルグ王国ではあるが平地の資源は輸入に頼ることが多い。輸入先の選択肢が多いに越したことはない。それに加え、フィルファリア王国は近隣の国と比べて魔法技術に優れている。ドヴェルグ王国にとっても同盟のメリットは大きい。

 マルガレーテの言うことはもっともなのだがブランドンには他の懸念があった。


「我が国にとっては、な……他の国からすれば今回の同盟は脅威だろう」


 同盟の規模が大きくなればなるほど周辺の非同盟国にとっては脅威だ。同盟国に侵略する意思がなかったとしても他国は決して無視できない。


「それに加えて……渡り鳥たちが動き出しておる」

「渡り鳥……?」


 マルガレーテは一瞬なんのことかと首を傾げたがすぐに答えに行きついた。前もって渡り鳥に関連する人物たちを思い浮かべていたからだ。


「【大空の渡り鳥】……?」

「そうだ。フィルファリア王国の貴族としてソーキサス帝国へ訪れた【飛竜墜とし】と付き添う【暁の舞姫】……さらには【魔法図書】と【祈りの鎚】、最近では【百歩千拳】もフィルファリア王国へと渡った。ソーキサス帝国とフラベルジュ王国はフィルファリア王国に戦力が集中していることを容認しているようだが……」

「同盟に加えてテンランカーの集結……とても無視できることではないですね……」

「気の早い国は手を打ってくるだろうし、そうでなくても何らかの動きはあるだろうな」


 そこにドヴェルク王国まで同盟参加を表明すれば問題はさらに大きくなる。

 ここまで話を聞けばマルガレーテは自分がブランドンに呼ばれた理由がなんとなく理解できた。冒険者の問題は冒険者で解決する、というのが基本的な対応なのだ。


「ドヴェルグ王国は西方同盟に参加するつもりで動く。それとは別に冒険者ギルドへマルガレーテ宛で指名依頼を出すつもりだ」


 同盟とテンランカーの集結。どちらも脅威になるのであれば冒険者にできる対処は冒険者に任せて同盟の脅威から少しでも目を逸らそうという考えらしい。どれほどの効果があるか分からないが確かに放置するよりはいいだろう。


「フィルファリア王国での調査、頼まれてくれるか? テンランカー第十席【斧嶽断ち】のマルガレーテよ」


 改めて告げてくるブランドンにマルガレーテは複雑そうな顔をした。


「王国の指名依頼……それも冒険者に関わることなら断れないと知っているくせに……」

「そう言うな……儂としても信頼できるそなたに任せたいのだ」


 憮然とした態度を取る妹を見たブランドンは苦笑を浮かべると詳細な情報をマルガレーテに伝えるのであった。


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