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ぐるぐるメガネのエルフとドワーフ

 ルイベ村で遭遇した白鬼の一団は小規模なものであり、数日の観察を決行したが異常は発見されず。

 後の経過観察をルジオラに任せたシローたちは白面の魔獣の討伐、スーリエたちの荷物の回収、白鬼の討伐をもって今回の遠征を終了とした。

 ウィルも村の子供たちとの別れを惜しみつつ、再会を約束して王都へ帰還することになったのである。


「本当にお疲れ様でした」


 馬車から降りたシローたちをセシリアやトマソン、メイドたちが玄関の前で出迎える。思わぬ遠征になってしまったがセシリアには村から早馬を送ってもらって事情は説明してあった。とはいえ家を空け、セシリアに寂しい思いをさせてしまったことをシローは理解していた。


「ただいま戻りました」


 セシリアに笑みを返したシローが傍まで歩み寄ってその手を取る。シローの大胆な行動に頬を染めたセシリアは照れながらもシローの手を握り返した。

 周りから見ても笑みが零れるようないい雰囲気である。

 そんな二人の足元を通ってウィルがセシリアを見上げた。


「かーさま、ただいまー」

「おかえりなさい、ウィル」


 変わらず元気そうな我が子を見たセシリアが目を細める。

 セシリアはシローから手を離し、優しくウィルを撫でた。

 ウィルはその手に身を任せ、満足すると一歩下がってシローとセシリアを視界に納めた。


「…………? どうしたの、ウィル?」


 いつもならもっと甘えてくるウィルなのだがあっさりと身を引く様子にセシリアが首を傾げる。ウィルの雰囲気がいつもと少し違うように感じた。

 どうやらウィルはシローとセシリアの雰囲気を子供ながらに察したようである。


(いーふいんきー)


 ルイベ村で遠目から見たルーシェとミーシャのように。自分の両親の分だけ僅かに気恥ずかしさもあったがシローもセシリアも幸せそうだ。

 ウィルは思った。これはきっと二人だから生まれる空気なのだ。邪魔をしてはいけない、と。

 ウィルは勝手に理解した気になっているが、ウィル自身がシローたちの輪に加わっても同じような雰囲気になるということは理解していないようだ。

 だからウィルは一歩身を引いて。満足げに頷いたウィルが再びセシリアを見上げて言う。


「あとはおふたりでごゆっくりどーぞー」


 ウィルとしてはシローたちを気遣って出た発言だったのだが。

 幼いウィルに気を遣われてしまったシローとセシリアは思わず苦笑いを浮かべてしまった。

 一緒にいるセレナもニーナも両親への配慮を隠そうともしないウィルに苦笑いを浮かべている。

 だがウィルにはそんな家族の反応よりも気になっていることがあって。


「じゃ、うぃるはこれでー」

「お待ちください、ウィル様」


 ウィルはセシリアへの挨拶もほどほどに歩き始めて付き従うレンと姉たちを連れて室内へと入って行った。

 残されたセシリアがしばらくウィルたちを見送って、それから説明を求めるようにシローに視線を向ける。

 ウィルの変化に戸惑うセシリアを見たシローが笑顔で答えた。


「また新しい魔法を創りたいんだってさ」

「新しい魔法、ですか……?」


 シローの言葉にセシリアが考え込む。

 ウィルには仲良くなった精霊たちがたくさんいて。そんな精霊たちの中にはウィルの知らない魔法を教えてくれる者もいてウィルは新しい魔法を次々と覚えて運用できるようになっている。

 トルキス家では見慣れた光景と化しつつあったが、そんなウィルが新しい魔法を創ると言うのはまた違う意味を持つということをセシリアは知っていた。

 ウィルは精霊たちも知らない魔法を独自に開発しようとしているのである。以前ウィルが精霊たちと協力して作成し、魔法の義手の元となった【土塊の副腕】と同じような魔法を。


「いったいどのような……?」


 ウィルは大好きな魔法を作ることに熱中するだろうが創る魔法によっては危険が伴うためセシリアが心配するのも無理はない。

 だがシローはウィルが創ろうとしている魔法を知っていて、今回は心配するような魔法ではないことを理解していた。


「ウィルが今回創ろうとしているのは探知魔法らしいよ」

「探知魔法……」


 ウィルが使用人のエジルと契約している幻獣のブラウンを真似して使えるようになった探知魔法。それをウィルは魔力的な感覚だけで操って類似の効果を発動させている。だがこの魔法は元が力の弱い幻獣の魔法なだけに普通の人間が扱えるような代物ではなかった。

 それをウィルは形にしようと決心したらしい。


「形にすれば冒険者や村で生活する子供たちの危険が減るのでは、と考えたらしいですよ」


 シローとセシリアの会話にカルツも加わる。

 ウィルが探知魔法を創りたいとシローに相談したのは帰りのコンゴウの中でカルツもウィルの話に耳を傾けていた。

 シローたちにもウィルの言う探知魔法がどのようなものになるか分からないがウィルの話を聞いて挑戦してみればいいとウィルを後押ししたのであった。


「そもそも実用的なものになるかどうかも分からないんだけどね」


 シローが肩を竦めてみせる。

 以前ウィルが精霊たちと創った【土塊の副腕】は魔道具として運用することはできたが今のところ魔法としてはウィル以外誰一人扱うことができない。魔法の構造が複雑過ぎるのだ。

 今回の探知魔法も同じような結果になるかもしれない。

 だがシローたちはそれでもいいと考えていた。


「今回、ウィルの探知魔法で白鬼たちの襲撃を未然に防ぐことができた。これから同じようなことが起こるのであれば、どんな形であれ対処できるようにしなければならない」


 魔法として運用することが難しくても魔道具に転用することで何らかの成果を上げる可能性もある。ウィルの探知魔法開発は人々の安全に役立つかもしれないのだ。

 シローたちの話を聞いてセシリアは心配しながらも納得した。ウィルはまた誰かのために新しい魔法を創ろうと考えたのだから。


「魔法に対する懐の深さというか……分け隔てないところがウィル君の強みですね」


 そんな風にウィルを評価しながらカルツが笑みを深める。

 ウィルが月属性の加護を持ち、すべての魔法属性を操れるからかもしれないが。ウィルは誰かに魔法を教えるのを拒んだりしない。むしろ進んで教えに行こうとする。

 普通に考えれば秘匿できる魔法が多ければ多いほど人は得をする。他者との違いを生み出せるのはそれだけで財産だ。だがそれでは使用者が限定的過ぎて魔法技術の発展は見込めない。

 しかしウィルは誰かに教えたくて、見てもらいたくて魔法を追い求める。それはウィルの中で新たな発見へと繋がり、また他者の見解も取り込んで次の知識への足掛かりとなっていた。

 何でも人に教えて良いというものではないのかもしれないが、ウィルの影響で停滞していた魔法技術が動き始めたのは確かであった。

 そんなウィルの姿は【魔法図書】の二つ名を持つカルツから見ても楽しいらしい。


「もちろん私も協力させて頂くつもりです。ウィル君が自由な発想で魔法を思いついても……危険な魔法だと判断すれば私たちが止めればいいのです。もっとも、危険な魔法であればウィル君と共にある精霊たちが止めるのでしょうが……」


 自身も精霊と共にあるカルツからすればウィルと契約している精霊たちに対する信頼も確かなもので。


「そうですね」


 カルツの言葉でセシリアも安心した。セシリアもウィルと契約している精霊たちのことを信頼している。であれば必要以上に心配することもないのだ。

 そんな三人の会話に加わる影がもう二つ――スーリエとライラであった。


「セシリア様!」

「この度のご助力、誠にありがとうございました!」

「スーリエ、ライラ。いいのよ、これくらい」


 勢いよくセシリアの前に回り込んで頭を下げるスーリエとライラに気圧されながらセシリアが笑顔で答える。

 セシリアの許しを得て顔を上げたスーリエとライラのメガネが怪しく光った。


「しかしそのせいで新婚さんもびっくりなラブラブっぷりを発揮するセシリア様たちを離れ離れにしてしまい――」

「――大変申し訳なく思っている次第です!」

「いいのよ、余計なこと言わなくて」


 頬を赤らめるセシリアと口元に悪戯心のある笑みを浮かべるスーリエとライラ。

 シローとセシリアにとってはいつも通りの行動なのだが傍から見れば二人の熱愛ぶりは一目瞭然で。若かりし頃のセシリアを知るスーリエたちはそんなセシリアたちの仲睦まじい様子が見れて嬉しかったようだ。

 シローも困った様子でセシリアたちのやり取りを眺めていたがセシリアにとってスーリエたちは気心が知れた仲なのだろう。セシリアの態度にはいつもより柔らかさを感じられてシローも黙ってセシリアたちを見守っていた。

 にやけた表情から一変、真面目な表情を浮かべたスーリエとライラがセシリアと目を合わす。


「セシリア様、シロー殿ともお話させて頂いたのですが」

「…………?」


 改まって口を開いたスーリエにセシリアも思わず背筋を正した。久方ぶりの再会とはいえ、このような態度を取る時のスーリエが真面目な話をしようとしているということセシリアはよく知っていた。


「この度、シロー殿にお誘い頂きまして私とライラの両名、トルキス家にお仕えしたいと考えております」

「えっ……?」

「セシリア様、私とスーリエの知識と技術。必ずトルキス家に役立ててみせます!」


 驚くセシリアにライラも胸を張って宣言する。

 しかしスーリエたちはこれまで様々な知識を得るために冒険者として活動してきたのである。以前のように一時期の滞在ということなのであればトルキス家に仕える必要は全くない。


「本当にいいの? スーリエ、ライラ……」

「はい。話はシロー殿たちから聞きました。これからトルキス家が邪神との戦いに備えていかなければならないことを……そのようなセシリア様の窮状、見過ごすわけにはまいりません」

「むしろこのような時にこそ我らの探究も役立てられると思うのです!」


 スーリエもライラも迷う様子はない。もう決心は済ませているようだ。

 戸惑うセシリアの手をスーリエが取ってライラと共に手を重ねる。


「セシリア様、我らは長命種です。人の一生分トルキス家にお仕えしても寿命からすれば僅かな期間でございます」

「一緒に戦わせてください、セシリア様」


 セシリアにとってスーリエたちの願い出はとても嬉しいものであり。瞳を潤ませたセシリアが静かに頷いて笑みを浮かべる。

 それはトルキス家に新たな仲間が加わった瞬間であった。


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