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ルーシェの帰郷

 ルイベ村はそれほど大きな村ではないが魔獣の解体所はしっかりと整備されていて手入れが行き届いている。よほどの大物でもなければ対応できる施設になっていて管理者のこだわりが見え隠れしていた。

 そんな村の解体所にはシローたちが持ち込んだ大型のブラウンボアが横たわっており、筋骨たくましい中年が黙ってブラウンボアを見上げていた。

 解体するでもなくただじっとブラウンボアを眺める男の背を見た他の職人たちが顔を見合わせる。付き合いの長い彼らはなぜ自分たちの上司が微動だにしないのかなんとなく察して笑みを浮かべたり肩を竦めたりしていた。

 だがいつまでもそのままにしておけず、職人の一人が上司の背中に声をかけた。


「親方、手を付けないんで?」

「……だまってろぃ」


 感慨にふけっているというのはその場にいる職人たちの誰もが理解していることで急かす者は皆無である。

 声をかけた職人も親方と呼ばれた男の横に立って大きなブラウンボアを見上げた。


「あの村をちょこまか走り回ってたルーシェがこんな大物仕留めるようになるとはねぇ……」

「……よほどいい師匠に巡り合ったんだろうな」


 ルーシェが村を出て一年と少し。多くの冒険者はその短い期間で目の前の巨大なブラウンボアを狩れるようにはならないだろう。ルーシェは村を出るまでほとんど戦闘訓練らしいこともしていなかったので尚更だ。

 目の前の成果は幼い頃からルーシェを知る村の者たちを感心させるのに十分であった。


「結局、ルジオラの奴が正しかったってことなのかもな」

「……聞きましたよ。ルーシェの親父さんがルーシェを街の学校に行かせないって言った時、親方が最後まで反対してたんだ、って」

「誰がそんなことを……」

「長老が……」

「あのおしゃべりジジイめ……」


 職人の言葉に親方が深々と嘆息する。否定しないところを見るに本当のことだったのだろう。

 首に手を当てた親方が当時を思い返して口を開いた。


「あの年のガキどもはそこそこ粒ぞろいだっただろ? おれぁ、中でもルーシェに一番見所があると思ってたんだ」

「……親父さんに言われて村の手伝いに駆け回ってましたもんね」


 子供たちが家の手伝いをするなんていうのはよくあることだ。だがルーシェは父親のルジオラが村全体を見て回っていたこともあり家どころか村中の手伝いに奔走していた。


「ちっせぇ頃から大した泣き言も言わず、根気強くな……なかなかできることじゃない」


 村の仕事だけでは冒険者に必要な戦闘能力の有無まで分かるものではないが、ルーシェと一緒に働いたことのある親方や村の者たちからすれば違いを感じるのに十分な働きぶりだったのだ。

 だからこそちゃんとした教育を受け、気の合う仲間と巡り合うためにも街の学校に行っておいた方がいいと親方は思ったに違いない。冒険者が一人でできることなど知れているのだから。

 結局、ルーシェは家の貧しさを理由に入学試験は受けず、ルーシェ以外の子供たちが学校へと通うことになった。そして卒業した子供たちが村へと帰ってきて、他の子供たちと温度差を感じたルーシェは村を出ていく決心をしたわけだ。

 親方の予想は的を射ていた。やはりルーシェを街の学校に送り出してやるべきだったと。そうすればルーシェが肩身の狭い思いをせずに済んだかもしれない。そうできなかったことを親方は後悔していた。

 ルジオラの決断をとやかく言うつもりはない。親方にとってはその場にいた自分も同罪なのである。

 そんな親方の考えを周りの職人はなんとなく察していた。自分たちの親方は責任を誰かに擦り付けるような性格ではない、と。

 しかしルーシェはそんな親方の後悔を吹き飛ばすような成果を携えて村に顔を出したのである。心の中で自分を責め続ける親方が救われたのは言うまでもない。

 ルーシェが親方の救いになったことを知っているのかどうかは微妙なところだが。


「なんだい!? あんたら、まだ仕事に取り掛かってなかったのかい?」

「あっ、女将さん……」


 しんみりとしてしまった解体所に顔を出した女性に職人たちが視線を向けた。女将と呼ばれた女性は親方の妻であり解体所でも顔が利く人物だ。


「こっちは女衆を集めて炊き出しの準備してんだよ? 食材が届かなかったら作れるもんも作れないじゃないのさ!」


 差し入れられたブラウンボアを振舞うために人手を集めるのは女将の仕事で解体の進捗に苦言を呈するのは当然であった。

 そんな女将がブラウンボアを見上げたまま動かない亭主に呆れて手を腰に当てる。


「なに辛気臭い顔してんだい! せっかくルーシェちゃんが仕留めた大物を村に届けてくれたんだよ! 腕によりをかけて迎え入れてあげるのが筋ってモンだろ!」

「……そうだな。ああ、そうだ」


 女将の言葉に息を吸い込んだ親方が自分に言い聞かせるように呟いた。ここで感傷に浸っている場合ではない。村を飛び出していった子供が成果を上げて村に報告しに来たのだから。喜んで労ってやるべきなのだ。


「年を取ると湿っぽくなっていかんな……」


 大きく息を吸い込んだ親方が気を入れ直すように胸を張る。その表情には先程のような陰りはない。


「よし、やるぞ! お前らっ!」

「「「あいよっ!」」」


 親方の号令に職人たちが声を揃えて。いつもの活気を取り戻した解体所を見た女将は安堵したのか口元に笑みを浮かべ、自分の持ち場へと戻っていった。



 特大のブラウンボアが振舞われるといったこともあってルイベ村はちょっとしたお祭り騒ぎとなった。ほとんどがルーシェの顔見知りであり、そこに冒険者や行商なども加わってみんなで色んな肉料理に舌鼓を打った。

 ウィルたちも村の子供たちに混ざって色々と食べては感想を言い合って顔を綻ばせたのだった。


「おー、くったくったー」


 食後、ルーシェの実家に立ち寄ったウィルはルーシェの兄弟たちと一緒にくつろいでいた。

 大型化したブラウンボアの肉は普通のブラウンボアの肉よりも柔らかく美味であり、ウィルも満足いくまで食べてしまった。


「お行儀が悪いですよ、ウィル様」

「そうだぞ、ウィル」

「むーりー」


 ウィルの態度を見てレンとシローがやんわりと窘める。

 気心が知れたルーシェの実家とはいえ他人の家で貴族の子供が取っていい態度ではない。

 男の子たちはみんな似たり寄ったりで食べ過ぎた腹を抱えている。一方でセレナやニーナ、ルーシェの妹たちはちゃんと加減して食べていたのかレンと同じように少し呆れてウィルたちを見ていた。


「我々も少し食べ過ぎましたかな?」

「そうね。あんなにおいしいお肉、久しぶりに食べました」


 なぜかウィルたちについてきたスーリエとライラもしっかりと食べたようで、どちらかというとウィルたちに理解を示している。


「我々、普段は切り詰めて生活しておりますから」

「たくさん食べてしまう気持ちも分かります」


 自分たちの身に置き換えてウィルたちを擁護するスーリエとライラ。

 そんな二人を横目で見たレンが小さく息を吐いた。


「お二人とも、来賓用の宿舎でお待ち頂いてもよろしかったのに……」

「そうは参りません。ルーシェさんのおかげで魔獣も討伐され、我々の荷物も無事回収できたのですから。ご実家に立ち寄られるのであれば赴き礼を伝えるのが筋というもの」


 スーリエの横でライラも頷いてみせて。どうやら二人は感謝をルーシェの家族にも伝えようと同行したようなのだが。


「そうでしょうか……?」


 力強く言い切る二人にレンも迷うが、礼はルーシェとモニカに伝えるだけで十分で家まで押し掛ける必要はあまりないように思える。


(どうにもあのぐるぐるメガネが気になって必要以上に警戒してしまう……)


 スーリエたちは視力が悪いわけではなくファッションの一環としてあのぐるぐるメガネを着用しているらしい。

 そのように説明されたレンはどうしても怪しんでしまうのだ。どこをどう見ても彼女たちのメガネは洒落ていない。怪しさ満点なのである。

 とはいえエルフとドワーフという珍しい組み合わせのスーリエたちはルーシェの家族に受けがいいようで好意的に迎え入れられていた。

 そんなウィルたちの隣ではルーシェが父のルジオラから聞かされた話に驚いていた。


「えっ? 解体所の親方が?」

「ああ、お前が村を出ていったことに責任を感じていたらしい。確かにお前を学園に入学させてやるべきだ、って最後まで薦めてきてたのもあの人だったが……」

「そんな……親方が責任感じることなんてないのに」

「ほんとにな。問題があるとしたら俺のはずなんだけどよ。あんなに深刻になられるとはなぁ」

「父さんが変なこと言ったんじゃないの?」

「んな訳あるか」


 ルーシェに疑いの眼差しを向けられたルジオラがはっきり否定する。

 ルジオラもルーシェのことで解体所の親方と仲違いしているわけではない。ルーシェを解体所に預けて仕事を手伝わせたのは他でもないルジオラなのだから。

 ちょうどその時、炊き出しの片付けを手伝っていたルーシェの母がミーシャを連れて戻ってきた。


「解体所の親方がどうしたって?」

「えっと……」


 ルーシェたちが親方のことを話して聞かせるとルーシェの母は特に気にかけた様子もなく笑みを浮かべた。


「あの親方はね、昔から責任感が強いのよ。ルーシェのことも自分がもっと学園に行くことを進めていれば村を出ていくことはなかったんじゃないか、って考えているんだわ」


 ルーシェの母はこの村の出身で同じくこの村の出身である親方のことを昔から知っていた。親方の責任感から来る言動は今回が初めてではないらしい。

 ルーシェの母はそれだけ言うと部屋の奥の戸棚を漁り始めた。その姿を目で追ったルーシェが視線をシローやウィルたちの方へ戻す。

 もしルーシェが学園に通うことになっていたら――


(ウィル様に拾われることもなく……当然トルキス家の人たちと知り合うこともなかったんだろうな……)


 月の精霊であるルナの言っていた運命が変わる以前に、ルーシェは運命の変わり目にすら辿り着けなかっただろう。


(そう考えると父さんの決断に感謝するべきなのだろうか……?)


 なんとなしに眺めていたルーシェとミーシャの目が合った。

 学園に興味がなかったと言えば噓になる。だが行かなかったことでウィルたちと出会えたのであればルーシェにとっては行かなかったことの方が幸せに思える。

 思わずミーシャを見つめるような形になってミーシャが困ったように首を傾げた。


「どうかされましたか~?」

「あっ! いえっ……!」


 いきなり慌て出したルーシェにみんなの視線が集まる。気恥ずかしさにルーシェは俯いてしまった。


(そりゃ馬鹿みたいにミーシャさんの顔を眺めてたらミーシャさんだって困るだろ!)


 胸中で自分自身を叱咤するルーシェ。その脇を抜けてルーシェの母がミーシャに何かを差し出した。


「ミーシャさん、これ。さっき話してたやつよ」

「ありがとうございます~」


 何かを受け取ったミーシャをウィルが不思議そうに見上げる。ミーシャの手にあるのは小さな壺のようである。

 ミーシャが嬉しそうにウィルと目線を合わせた。


「ウィル様~これ、なんだと思います~?」

「なにー?」


 壺の蓋を開けたミーシャにウィルが壺を覗き込む。壺は乳白色のなにかで満たされていた。半固形で匂いもあまりしない。


「くりーむ?」

「正解です~」


 言い当てたウィルにミーシャは嬉しそうに続けた。


「クリームはクリームでも~これは食べられないクリームですね~」

「…………?」


 ミーシャのなぞかけのような言葉にウィルが困ってしまう。だが得意げなミーシャを見るに悪いことではないようで。

 ウィルが助けを求めるようにシローやレンを見上げた。


「どーいうことー?」

「ちゃんと分かるように説明してあげてください、ミーシャ」


 レンがミーシャを促すとミーシャは嬉しそうなままレンにも壺を差し出した。

 レンが見てもクリーム状のなにかということしか分からない。


「これ、手荒れを予防する薬なんだそうです」

「これが……?」


 きれいな乳白色をたたえた柔らかそうなクリーム。マエルが言っていた匂いも特に感じない。おそらくこれなら手に塗っても匂いは気にならないだろう。ウィルももう一度匂いを嗅いで確かめてみる。


「くさくない!」

「そうなんです~。最近、ルーシェさんのお母様が作られたそうで~」


 匂わない手荒れ防止用の塗り薬。ウィルが新しいメイドたちの手荒れを見て探していた物だ。ミーシャもそのことを知っていてルーシェの母との会話で塗り薬の存在を知り、ウィルに見せたがったのだ。


「うちは子供も多いし、娘たちにも洗い物手伝ってもらったりするから……」


 ルーシェの母も手荒れ防止用の塗り薬の匂いは嫌いだったようで。あまり使ったことはないそうだがある程度作り方は知っていたらしい。試行錯誤して今ある薬に辿り着いたそうだ。


「昔はルーシェが洗い物も手伝ってくれていてね」

「僕の時には作ろうと思わなかったのか……」


 ルーシェが思わず恨めしそうにツッコミを入れるがルーシェの母は華麗に受け流した。

 そんなウィルたちのやり取りに興味を示したスーリエとライラが顔を覗かせる。


「私たちにも拝見させて頂いても?」

「どうぞ~」


 ミーシャから壺を受け取ったスーリエが壺を覗き込み、続いてライラもスーリエから壺を受け取って覗き込む。

 傍から見ればただそれだけの事なのだが、ウィルは興味深そうにスーリエたちを見ていた。

 なぜスーリエとライラがヘンテコなぐるぐるメガネをかけているのか、ウィルには分かってしまった。


(あのめがね、まどーぐだ!)


 眼鏡からの魔力反応に気付いたウィルがそのことを指摘しようとすると眼鏡の隙間からスーリエと目が合った。スーリエがウインクして指を一本立てる。


(ひみつー……?)


 ウィルはスーリエの仕草から無言の頼みを理解した。確かに秘密にしたい事柄であればみんなの前で話してしまうのは良い事ではない。

 ウィルもそう思い留まってスーリエに笑顔を返す。

 そんな二人のやり取りをシローやレンが見逃すはずはないのだが。悪意があればウィルが敏感に反応することもシローたちは知っている。ウィルにそうした反応がないのであれば今は心に留めておくだけでいいだろう。

 ひとしきり観察したライラがミーシャに壺を返した。


「これは素晴らしいものですね。私も旅先で手荒れ防止の薬は何度も見てきましたがここまで香りもなく色もつきにくそうな薬は初めて見ました」

「ですよね~」


 ライラの評価にミーシャも同意見だと笑みを深める。実際、手に塗ってみても肌触りがよく、綺麗に伸びてしっかり手に馴染んだ。

 これにはレンも感心して従来あった薬との違いに疑問を持った。


「今までのものと一体何が違うんでしょう?」


 レンがマエルから教わった手荒れ防止用の薬のレシピをテーブルに広げる。匂いとべたつきのせいで王都では不人気の物だ。その横にルーシェの母が作った新しい薬のレシピを出してくれた。


「ふむ……」


 スーリエが二つのレシピに目を通す。そのメガネがきらりと光ったように見えた。


「成分的にはかなり良い物を調合したご様子……おそらく蜜蝋や植物から取り出した油などを使用しているのではないかと。一方、レン殿のお持ちのレシピでは主に獣脂や薬草が使われているようですな。これで匂いや色、べたつく感じがきつくなるのではないでしょうか?」

「へぇー」


 ウィルが感心したように唸る。話の内容を理解したのか定かではないが、街の人が困っている手荒れの問題を解決できるかもしれないということは理解できたようだ。


「れんー?」


 ウィルの言いたいことを察してレンが考え込む。ウィルはこの匂わない手荒れ用の薬を街に流通させられないかと考えているのだろう。

 だが事はそう簡単な問題ではない。例えば商品として売り出すのであればルーシェの母の了解がいるし、レシピの管理も問題になる。市場に出回れば模倣する者も出てきて、もし一般化すれば最初に作ったルーシェの母の特別感はなくなってしまうかもしれない。


「ふむ……」


 話を聞いていたシローもざっと目を通す。そしてシローなりの問題点を見つけて子供たちに向き直った。


「ここで問題です」


 いきなり仕切り出したシローを子供たちがぽかんと見上げる。トルキス家恒例の突然クイズの時間である。ウィルたちは慣れたものであったルーシェの兄弟たちは貴族のシローの問いかけに背筋を正してしまった。


「このルーシェのお母様が作り出したハンドクリームのレシピですが……王都で生産するのはとても難しい物です。それはなぜでしょうか?」

「えっ? 難しいんですか? 村で作れるようなものだから王都でも作れそうなものですけど……」


 シローの問いに興味を示すルーシェ。その様子を見たルジオラが鼻で笑った。


「こんなことも気付けないとは……ルーシェは冒険者としてはまだまだだな」

「そんなこと言って……父さんは分かるの?」

「分かるさ。でも大人の俺が答えたら意味ないだろ」


 シローは子供たちに学ばせようとしているのだ。ルジオラが軽々しく答えるわけにはいかない。

 憮然とした表情を浮かべるルーシェを見て困ってしまう者が一人――


「セレナ様?」


 レンがセレナの様子に気付いて声をかけるとセレナは困ったような笑みを浮かべた。どうやらルーシェとルジオラのやり取りを見て自分がルーシェより先に答えるのを申し訳なく思ったようだ。つまりセレナはもう答えに辿り着いてしまったのだ。


「セレナ?」


 シローにも促されてセレナがさらに困ってしまう。


「お父様、せめてルーシェさんが答えに行きついてからでも……」

「いえ、セレナお嬢様。ルーシェが答えに行きつくまで待ってたら夜が明けちまいますよ」

「ぐっ……」


 ルジオラにはっきり言われてぐうの音しか出ないルーシェ。子供たちの視線もセレナに集まっておりセレナが最後の助け舟とばかりにニーナとウィルを見る。


「セレ姉さま、私は難しいことは分かりませんので!」

「せれねーさま、がんばれー」


 ニーナは元々小難しい流通の話などには興味がなさそうで、ウィルもセレナが答えに行きついたと知って声援を送っている。セレナの気遣いの味方はいないようである。シローもそれはそれで困ってしまうのだが。

 諦めたセレナが推測という形で答えを告げる。


「おそらくですが、ルーシェさんのお母様のレシピ……使われている材料は王都では使用頻度の高い物です。これをハンドクリームの量産のために用意するとなると材料費は高くつきますし、王国主導で再分配するにしても食料や医薬品の材料から見積もるわけですから材料に当てられた物の価格が高騰する恐れがあります。そうなると必要な物が必要な人へ行き渡らなくなる可能性も……」


 ほぼ完璧な回答である。子供たちからも感嘆の声が漏れる。ルジオラもセレナの回答に感心していた。


「つまり……王都では物資不足で、ルイベ村では物資に余裕があったから母さんは新しいハンドクリームが作れたってこと?」

「そうだ。どこの居住区でもそうだが納める税以外は自分たちが生活できるだけの品を確保する。余剰分を交易なんかで収入源とするわけだ。だが王都ほど広大で人口も多いと地産地消にも限界がある。不足分は輸入に頼る面も多くなるだろう。当然、流通にもコストがかかる。自然と価格は地方より高くなるだろうな。まぁそれでも王都はよくやってる方だよ」


 ルーシェがセレナの答えから推理するとルジオラが肯定して説明を加えた。ルジオラも村の中心人物のひとりであり、村と王都の物流には詳しいはずだ。そのルジオラが妻のためにハンドクリームの材料を調達していても不思議はない。


「村全体がもっとかつかつなのかと思ってたよ……」

「うちの村で貧しいのはうちくらいだな。なんせ子供が多いし」

「それだってルーシェの仕送りでだいぶ楽になったんでしょ!」


 笑いごとのように言ってのけるルジオラをルーシェの母が窘める。

 どうやらルーシェは自分の稼ぎを実家へ仕送りしていたようで。そのことをシローたちの前で話されたルーシェは少し恥ずかしそうにしていた。

 ウィルたちがルーシェの実家の仲睦まじさに笑みを浮かべる。その様子が窺い知れただけでシローは村に立ち寄った甲斐があったと思うのであった。


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美味いって事は身焼けしてなかったって事か 眺めて時間経ってるから身焼けしてるもんとばかり
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