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いずれ来る未来

 新人メイドたちが落ち着いてウィルがレヴィやコトノハと戯れていると玄関に通じる方からミーシャとニーナを伴ったモンティスたちが姿を現した。


「うぃるさまー!」


 ウィルを見つけたティファが元気よく声をかけて駆け出し、負けじとラテリアがその後を追う。

 ティファたちの方へ向き直ったウィルが嬉しそうに目を見張った。


「おおー」

「これはこれは……お三方とも、少し見ぬ間に」


 レンもウィルと同じような反応で目を細める。こちらに駆けてくるティファたち。そして相変わらず落ち着いた様子のモンティスも。ソーキサス帝国に旅立つ前と比べてかなり魔力が成長していた。

 会わなかった期間はほんの一月ほどだというのに。まだまだ子供ながらその成長は見違えるのに十分であった。


「なんでそんなにあっさり気付くかなぁ」


 本来なら魔力の成長など簡単に感じ取れるものではなく、すぐにティファたちの変化に気が付いてしまったウィルとレンに隣にいたローザも困り顔だ。魔力を目で見てしまうウィルと強者としての勘を働かせるレンに言ってもしょうがないことではあるが。

 ウィルたちがいない間ティファたちの指南はローザが中心となって行っており、ローザ自身もティファたちの努力と成長をとても誇らしく思っていた。


「ウィルさまがいらっしゃらない間に頑張って驚かせるんだ、って……指南した身としては嬉しい限りですね」

「えへー」


 ウィルもみんなが自分のために頑張ったと理解したのだろう。笑みがより一層深くなる。それから手を上げてティファたちに呼びかけた。


「おーい!」


 ウィルの反応を得られてティファもラテリアも駆ける足に力が籠もる。すぐにでもウィルの下へたどり着けるようにと。


「おー……」


 近付いてくるティファたちの姿にウィルの表情が固まった。徐々にだが確実にティファたちの勢いは増していて、それはもう駆け寄るというよりは押し詰めると表現した方が妥当であるような迫力に達しており――


「あっ、ウィルさま」

「どちらへ!?」


 レンとローザの間を抜けて、ウィルは思わずティファたちとは反対方向へと駆け出した。


「なんでにげるんですか、うぃるさま!」

「まって、うぃる……」

「なんでおいかけてくるのー!」


 少女たちは止まらず、ウィルも立ち止るタイミングを失って。新人メイドたちの周りを回ったりしながらウィルがティファたちから距離を測ろうとする。

 そんな駆け回るウィルたちを見ながらレンがぽつりと呟いた。


「あれも教えたんですか、ローザ?」

「まさか。久しぶりに会えて感情が高ぶっちゃったんでしょ」


 子供らしい素直な感情表現にローザも困って肩を竦めて。ウィルたちの追いかけっこはのんびりこちらへやってくるモンティスたちが到着するまで続いた。


「うぃる、げんきそーでよかったー」


 走り回るウィルを見たモンティスが笑顔でウィルの旅の無事を祝う。

 ひとしきり駆け回ったウィルだが結局ティファとラテリアに捕まって両腕を拘束されながら連行されてきた。体力的にはウィルの方が上回っていそうだが街娘であるティファとラテリアの動きも悪くなく、二人同時には相手しきれなかったようだ。


「しゃーしゃー」


 みんなの前に連れてこられたウィルが首に巻いたウカの蛇真似をしてみせる。それを見たモンティスが人の良さそうな細い目をさらに細めて微笑んだ。


「しゃーしゃーうぃるだ」

「しゃーしゃー」


 どうやらウィルは首に巻いている蛇の幻獣のウカの存在でティファたちの動きをけん制できると思っていたようだ。当てが外れて唇を尖らせている。


「うかをみてびっくりするとおもったんだけどなー」


 その場にみんなで腰を下ろしながらウィルがそんな風に言うとティファとラテリアは小首を傾げた。


「……へびのげんじゅーさんですよね?」

「なんで?」


 ティファにもラテリアにもウカに驚く要素などないと言わんばかりである。そんな女の子たちにウィルとモンティスが逆に不思議がってしまう。「蛇、こわいよ、蛇」と言いたげである。


「おうちにかざってありますから」

「うちも……ちーさいけど」


 ティファたちの発言に何のことかとウィルたちが首を捻っていると一緒にいたミーシャが理解して説明してくれた。


「商いをしている家ですと~蛇の幻獣を模ったものを飾って~お祀りしたりするんですよ~。蛇の幻獣は~商売を繁盛させて~財産を守ってくれるって伝えられていますので~」

「あら、嬉しい」


 祀られていると聞いてウカが喜び大人たちも納得する。ティファもラテリアも実家は商売をしている。蛇の幻獣の置物が飾ってあっても不思議ではない。それで実際の蛇の幻獣を見て大丈夫かどうかは人によって違いがありそうだが。


「土地によって精霊や幻獣のお話は色々あって家で崇めていたりするんですよ」


 レンがウィルたちにも分かるようにあれこれ説明するとウィルたちはなんとか理解したようだった。

 なんだか誇って見せるように鎌首をもたげるウカと尊敬のまなざしを向ける子供たち。

 それがなんだかおもしろくなかったのか、ウィルから光が溢れ出して赤い狗が姿を現した。


「調子に乗ってらー」

「なんですって?」


 からかうような火の狗型幻獣に対してケンカ腰になるウカ。それを見たウィルが眉根を寄せた。


「もーうかも、にしきもけんかしちゃだめでしょー」


 別に双方、仲が悪いというわけではないのだが。火の狗型幻獣であるニシキはウカだけが褒められて少し拗ねているようだ。

 幻獣たちの仲たがいはウィルが悲しむだろうとレンが口を挟もうとした時、遅れてウィルから二つの光が飛び出した。


「愚かな……ウィルどののご厚意で庭園に座することを許されているというのに」

「我らがウィルさまのお心を乱してどうする」

「ていたにる、ばはりむ」


 土の山羊型幻獣であるテイタニルと闇の竜型幻獣であるバハリムが揃って呆れた声を出し、反省したウカとニシキが頭を下げる。


「「ごめんなさい」」

「いーよー」


 しっかりと反省してくれたようでウィルもそれ以上とやかく言わなかった。

 いままで様子を伺っていたニーナもウィルの横でうんうんと頷いている。


「幻獣たちには協力してウィルのことを守ってもらわなくちゃ」

「ニーナ殿、我らもその旨、しかと心に刻んでおりますゆえご安心くだされ」


 畏まって頭を下げるテイタニルにニーナも笑みを浮かべた。モンティスたちにはまだ打ち明けられないがテイタニルたちは月の精霊ルナが遣わしたウィルの助けとなるべき幻獣たちなのだ。

 そうとは知らず、次々と現れた幻獣たちを見てモンティスたちは感動したように息を吐いた。


「はー、うぃる、こんどはげんじゅーさんとなかよくなったのー?」

「えへー」


 モンティスに感心されたウィルが照れ笑いを浮かべる。精霊に幻獣にとすぐ仲良くなってしまうウィルに大人たちは困ってしまうのだが子供たちには関係ないようだ。

 バハリムたちは幻獣として生まれ変わり一から成長していかねばならず、その容姿はレヴィと大差ないほど幼い。モンティスたちが親しみを覚えるのも無理のないことであった。

 一方、生前の出来事に負い目を感じているバハリムたちはウィルと同じように自分たちを受け入れてくれた子供たちに感謝していた。だが感謝しているからこその迷いも生まれる。


「我らと同じようにこの子らもウィルさまと心を通い合わせ、共に成長すればあるいは……いつか肩を並べる時がくるのであろうか……?」

「そーだね! うぃるもいっぱいまほーのれんしゅーしておしえてあげるからね! みんなまほーがじょーずになってくれたらうれしーな!」


 バハリムの言葉にウィルは賛同して笑顔を溢しているが。ウィルはバハリムが本当に言いたいことは理解していない。

 ウィルはいずれ精霊王として世界の命運をかけて邪神と戦わなければならない。それはおそらく必ず生きて帰ってくるとは約束できない戦いだ。そんな戦いにモンティスたちまで関わることになるのか、というバハリムの危惧であった。

 そしてそれはウィルと関わる大人たちが皆心を砕かねばならない問題だ。

 最悪、精霊王の弱点とならぬようにモンティスたちをウィルから遠ざけるという決断を下さなければならないかもしれない。それがウィルたちにとってどれほど辛いことか考えるまでもない。


(いつか……)


 いずれ訪れるであろうその時を思って、レンは滲みだすような不安を無理やり胸中に押し込めるのであった。


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