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ウィルの拾い物

 帝都襲撃から一夜が明け――

 全容解明のために貴族や騎士が忙しなく動き回る。防衛に参加したトルキス家ものんびり構えることなどできず、シローたちも朝から会議に参加することになっていた。

 一方、ウィルたちはというと城内の襲撃から始まる一連の流れの調書作成に協力するため、人質となった貴族の子供たちと一緒に城内へと集められた。


「おおー」

「いらっしゃい、ウィルちゃん」


 マリエルをはじめ、貴族の子供たちに暖かく迎え入れられたウィルがセレナやニーナと共に上機嫌で彼らの輪に加わる。

 改めてお互いの無事を喜び合う子供たち。

 救出後も慌ただしかったせいでウィルには一つ忘れていたことがあった。


「はいんにーさま、これー」

「ありがとう、ウィル」


 ウィルが展開した『戯れの小箱』から取り出した袋をハインリッヒに差し出す。それを受け取ったハインリッヒは傍に控える執事に袋を渡した。中にはハインリッヒたちが人質となっていた時に没収された子供たちの装飾品などが入っている。装飾品は魔法発動のための魔力増幅を手助けする役目を担っていることも多く、人質に取られる際に没収されてしまうのだ。

 ウィルは森の広場で子供たちを助けた際、没収されていた装飾品をクレイマンを使って回収していた。


「ウィルが便利な魔法を使えて助かったよ」


 物が装飾品だけに思い入れがある者も多い。そういう意味でハインリッヒはウィルの成果を労ってくれたのだが。


「ちょっとあぶなかったけどー」


 ウィルから返ってきた反応は予想外のものであった。

 ウィルはその場にあって終始周りを圧倒していた。子供たちから見ても危ない様子はなかったように思えて顔を見合わせる者もいる。

 不思議に思ったハインリッヒは視線をセレナたちの方へ向けた。しかし彼女らにも思い至る節はないようで、ハインリッヒは視線をウィルに戻して聞き返した。


「あぶなかったのかい?」

「けっこーぎりぎりー」


 こくこくと頷くウィル。ハインリッヒは自然と視線をウィルたちに付き添っていたエリスの方へ向けた。

 当然エリスがその時の状況を知っているはずもなく、エリスはウィルを優しく促した。


「どういうことか説明できますか、ウィル様?」

「うむ!」


 ウィルが待っていましたと言わんばかりに頷く。どうやら説明したくてたまらないらしい。ウィルが大好きな魔法のことであるから納得できることではある。

 そんなウィルの様子にエリスも思わず苦笑いを浮かべてしまったが、ウィルはみんなの注目を集める中で堂々と解説し始めた。


「うぃる、きしさんとたたかったときにねーさまにたのまれて、にもつとりにいったんだけどー」


 森の広場で騎士たちと対峙した際、ウィルはセレナに頼まれて子供たちの荷物をクレイマンで回収していた。

 その時のことは子供たちの記憶にも新しく、すぐに追想できた。


「そんとき、ぬれぎつねさんたちがきちゃってー」


 ウィルの言葉の意味を理解した大人たちがどよめく。南の森の固有種である濡れ狐の恐ろしさを知らない大人はいない。子供たちはそんな危険な魔獣と対峙していたのだ。

 一方、すでに難を逃れて無事である子供たちは落ち着いたものであった。黙ってウィルの話に耳を傾けている。


「ぬれぎつねさんたちのきりってまほーをじゃましてくるのー」


 濡れ狐たちの登場とともに発生した霧は濡れ狐たちの阻害魔法であり、ウィルのクレイマンたちはウィルの繊細な魔法の重複効果のせいで濡れ狐の阻害魔法の影響を強く受けてしまった。


「うぃる、くれいまんさんたちにかんたんなまほーをつかわせることはできるんだけどー」


 生成魔法を起点に違う魔法を起動させるなどという技術、簡単なことではない。濡れ狐の霧に魔法の発動を阻害されれば難易度はさらに増す。

 霧の魔法に邪魔されそうになって、ウィルにはゆっくりしている時間はなかった。


「じゃまされるまえに、いそいでこばこのなかににもついれたのー」

「そういうことね」


 ウィルが荷物の回収に成功した状況をなんとなく理解してニーナが納得する。


「それでみんなの装飾品だけ回収できたのね?」


 ウィルにとっては間一髪で任務を遂行できたのだと。全員が理解を示した。

 しかしウィルはニーナの言葉に首を横に振った。


「ちょっとちがうー」

「違うの?」


 マリエルが不思議そうに首を傾げる。

 否定したウィルベルは誰もいない場所に向けて『戯れの小箱』を大きく開いた。その中から音を立てて荷物が転がり出てくる。

 出てきた物を見て全員が唖然としてしまった。


「ぜんぶもってきたー」


 机や椅子、何かの資料やら簡易の調度品のようなものまで。ウィルは子供たちの装飾品が置かれていた場所にあった物を丸ごと回収してきてしまったのだ。


「あはは……」


 あまりの規模にセレナが苦笑いを浮かべる。我が弟ながらなかなかの豪快さである。

 机の上からひらりと舞った紙面がセレナの足元に落ちて、セレナはそれを拾い上げた。なにかの図面のようで注釈が見て取れる。

 図面に目を通したセレナが何かに気付いて慌てて手を合わせるように図面を閉じた。手を打ち鳴らす音に驚いて全員の視線がセレナに向く。

 セレナは冷や汗を浮かべて視線をウィルに戻した。


「ウィル、これ、大事なやつ!」

「え?」


 セレナの様子に目を瞬かせるウィル。

 セレナの手の中にあったモノ――それは城内の隠し通路を詳しく記した図面であった。おそらく今回の事件で賊が城内襲撃の際に使用したものだ。

 ウィルはそんな重要な書類を意図せず持ち出してきたのである。


「大変! お父様や皇帝陛下に届け出なくちゃ!」


 セレナの慌てる様に大人たちも感付くものがあって。セレナから話を聞いた執事が急ぎ部屋を出ていく。

 そんな周りの様子を眺めていたウィルがぷくっと頬を膨らませた。


「うぃるのおみやげなのにー!」


 その主張は事の重大さをまるで分っておらず。聞いていた大人も子供も思わず苦笑いを浮かべてしまうのであった。




「陛下、大変です!」


 まるで扉を蹴飛ばすような勢いで執事が室内へと転がり込んでくる。

 室内では皇帝をはじめ、ソーキサス帝国の重鎮やシローたちをはじめとするトルキス家、ドヴェルグ王国の貴族などが加わって襲撃の事後処理の真っ最中であった。

 非礼を咎めようとする重鎮を手で制したレオンハルトが執事に続きを促す。


「どうした?」

「その、ウィルベル様が……」


 名前が出た途端、シローたちは頭を抱えたくなった。またウィルが何かをしでかしたのか、と。自分たちの目が届く範囲でならいいが、目を離している隙に事を起こすのは心臓に悪かった。

 そんなシローたちを気遣ってか、レオンハルトはシローたちを一瞬見ていたが。執事から内容を聞いて動きを止めた。


「敵の拠点から重要な書類をいくつか回収されてこられたようなのです。中にはセレナ様が『まずは皇帝陛下がお目を通されるべき』と申される書類もあるようで……」

「セレナが……?」


 レオンハルトもトルキス家の長女であるセレナの聡明さは高く評価している。そのセレナがまず皇帝自らが目を通すべきだと主張するような書類。おそらくただ事ではないはずだ。なにより魔獣の氾濫によって消失したと思っていた敵側の書類である。どんな内容であれ、手に入るだけでもレオンハルトたちにはありがたいものであった。


「よし、ウィルたちをここへ通せ」

「はっ!」


 レオンハルトの指示を聞き、執事が入ってきた勢いのまま飛び出していく。

 執事を見送ったレオンハルトたちが視線をシローたちに向ける。シローは申し訳なさそうな顔でレオンハルトを見ており、その表情からレオンハルトをはじめ、他の貴族たちからも思わず笑みが零れていた。


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