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時間稼ぎ

 二閃三閃するキースの曲刀をレンが前に出ながら捌く。

 鋭い斬撃の隙を伺っては距離を詰めようとするレンだがキースが深く踏み込むことはなく、二人は一進一退の攻防を繰り返していた。

 決め手を欠いて距離を取るレンとキース。お互い対峙したまま、レンは背後の城門前と城内の異変に気が付いた。


「城内に魔物が侵入しました!」

「なんだと!? いったいどこから!?」


 騎士たちのやり取りで何が起こったのか察する。一瞬、ウィルたちの安否がレンの脳裏をかすめるが、すぐに気を取り直した。

 目の前のキースは隙を見せていい相手ではない。


「守るモノが多いのは大変だなぁ」


 そんなレンとは対照的に笑みを深めるキースからは微かに余裕が見て取れた。


「最初から城内への奇襲が狙いだったのか」


 詰問するレンの目が細まる。

 キースの様子を見れば答えを聞くまでもない。


「街が襲撃されると考えれば、あんたら必ず出てきて街と城門を固める。兵力の足りない今のソーキサス帝国なら自然と城内は手薄になるわけだ」


 当然、それだけで奇襲を成功させられるはずはない。城門を固めている以上、外部から侵入することは不可能だ。城門付近で戦闘していたレンも城壁を破られた気配は感じていなかった。


「不思議か? この城は現皇帝とその派閥が奪い取った城だ。知られていない隠し通路があっても不思議じゃねぇだろ? 例えば前皇帝と側近しか知らない脱出路、とかな」


 もし本当にそのような通路があるならば敵はかなり自由な行動ができたことになる。

 キースが曲刀をゆっくりと構え直した。


「あとは簡単。攻め手を休めず、城門に圧力をかけ続ければ城内に救援へ向かうことも場外に助けを求めることもできない、って話だ」


 それだけで白いローブの集団は城内を孤立させ、有利に立ち回り続けることができる。

 白いローブの集団が圧倒的に優位なのは言うまでもない。

 そのはずであった。

 なにかが城壁から落ちてきてレンとキースが身構える。

 それが軽やかに着地するとレンは警戒を解いた。


「マイナ……」

「あっ、レンさん!」


 城壁から舞い降りたのはマイナであった。

 マイナはレンに気付くと矢継ぎ早に状況を報告した。


「子供たちが魔道具で誘拐されて、ウィル様が首謀者とみられる男を飛んで追いかけちゃったんです! 私はセシリア様の命令でこれからウィル様を追いかけます!」

「子供たちは? どこに連れ去られたか分からないんですか?」

「ウィル様が南の森にいるとおっしゃっていたので間違いないかと」

「まてまてまて!」


 レンとマイナのやり取りにキースが割って入る。


「なんで城壁、乗り越えてくんの? おかしいでしょ? 城門から回ってくるでしょ、普通は!」


 キースが慌てるのも無理はない。せっかく城内を孤立させたのに思いもよらぬところから突破されたのである。

 城壁は高く、普通ならそこを登って飛び降りようとは考えない。しかも離れた場所にある拠点の位置まで知られてしまっている。

 一瞬、敵からの指摘を訝しんだマイナであったがそれを不敵に笑い飛ばした。


「はっ! ウィル様をお相手に常識だなんだと言ってたら間に合わないのよ!」


 仕えている家の子供にその評価もどうかと思うが。魔法の常識を日々覆しているウィルだからしょうがなくもある。

 結局、マイナにとってキースは適当にあしらうだけの存在だったのか、気にせずレンに向き直った。


「それではレンさん、私は先にウィル様の所へ参ります!」


 機敏に手を上げて、マイナは返事も待たずに走り出した。


「ちょっ、待て!」


 キースの制止も一目散に駆け出したマイナの背中は風属性の魔法も相まって瞬く間に遠ざかる。もはや腕ずくで止めることも叶わない。


「どうされますか、キース様」


 呆然となりそうなキースを仲間の声が呼び戻す。囲みを突破されたとはいえ、即作戦終了になるわけではない。

 気を取り直したキースが再びレンと対峙する。


「……しょーがねぇ、ありったけの魔獣を出すぞ」

「作戦続行ですね」

「いや……」


 前掛かりになりそうな白いローブの刺客たちをキースは冷静に制した。


「魔獣を解放後、撤収する」

「撤収、ですか……?」


 キースの判断は刺客たちの中でも早いものだったのだろう。

 だが、キースの中でこれ以上現場に留まるメリットはなかった。


「俺たちの任務はあいつらが作戦を遂行するまでの時間稼ぎだ。一応、人質の確保にも成功したみたいだし、メイドには突破されたがそれくらいは自分たちで何とかするだろ」

「しかし……」

「義理のねぇ相手のために俺たちが留まり続けてリスクを負う必要はねぇよ。俺からしたらお前らが欠けることなく無事逃げ延びる方が大事だしな」

「キース様……」

「それに――」


 レンを注視していたキースの頬を汗が伝う。

 レンの立ち姿は変わらない。しかし、そこから発せられる圧力は徐々に増していた。


「そこをどきなさい。すぐマイナを追わなければならない」


 一歩一歩踏み出すレンの手甲から黒炎が溢れて揺らめく。その温度は熱い筈なのに見る者の背筋を凍らせた。

 脇にいたリザードマンがレンの気に当てられたのか、吼えてレンの行く手を遮る。

 薙ぎ払われるリザードマンの鋭利な爪をレンは無駄のない動きで掻い潜った。


「炎獄穿」


 眉一つ動かさずに突き出したレンの貫き手がリザードマンの胴体を貫通し、背中から黒炎が噴き出す。

 全身を黒炎に包まれたリザードマンが為すすべなく崩れ落ちた。

 黒炎の向こう側に佇むレンの圧力がさらに増していく。


「もう一度言う。どきなさい」


 レンの言葉が静かに響く。気を抜けば本当にそのまま道を譲ってしまいそうになるほど、その言葉には言いようのない圧力があった。


「くっ……」


 キースが気を取り直して手にした魔獣召喚の筒に魔力を込める。

 その姿に我に返ったローブの刺客たちも次々と魔獣を召喚し始めた。

 レンの前に魔獣たちが次々と形成されていく。その反対側でキースは素早く指示を飛ばした。


「撤退信号を! 引くぞ!」


 実力者であるキースはレンと相対してすぐに察した。あれは危険だ、と。

 実力差は何とか戦える程度。それにしたって危険すぎて踏み込むわけにはいかなかった。それなのに今はその隙すらなく、気配だけでキースを押し込んでくる。

 力のない者であればその実力と凄みだけで圧倒されてしまうだろう。


(時間稼ぎに徹してよかった……マジで……)


 撤退しながら、キースは己の判断が間違いではなかったと確信した。

 一方、素早く身を引く白いローブの集団をレンは追いかけようとはしなかった。

 今必要なのはウィルとの合流、そして子供たちの救出だ。

 沸騰しそうになる頭でレンが状況を整理する。


(子供たちを誘拐したということは身柄に利用価値があるということ……手荒には扱わないでしょうが……)


 とはいえ、必ずしも安全というわけではない。セレナやニーナが巻き込まれたと考えればレンが冷静を装い続けるのは難しい。


(おそらく狙いはこちらの武装解除……)


 時間が経てば経つほど相手に準備する余裕を与えることになる。他国の子供たちも一緒ということであれば貴族たちの足並みが揃わないことも容易に想像ができる。

 しかし裏を返せば相手の準備が整う前に子供たちを救出できれば相手を無効化することも可能なはずだ。

 それにはまず目の前の魔獣を迅速に排除し、一刻も早く足止めから抜け出さなければならない。


(この魔獣の追加もおそらくこちらの戦力を魔獣の討伐に当てさせ、子供たちの救出を遅らせるのが狙い……)


 時間をかけては相手の思うつぼだ。

 波のように押し寄せる魔獣と対峙したレンの両手の黒炎が勢いを増す。


「押し通る!」


 レンの手甲が先頭を切って襲い掛かってくる魔獣の頭部にめり込み、そのまま頭部を吹き飛ばした。


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― 新着の感想 ―
[一言] 更新ありがとうございます。レンさんの活躍、カッコいい!ウィルが出てこなかったのは寂しいですが、次回も楽しみにしています。
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