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広場での出会い

 広場に到着するとウィルたちは目を輝かせて駆け回り始めた。

 ここは住人たちの憩いの場ともなっており、ウィルたちと同じような子連れや年寄りが陽に当たりに来ている。もう少しすれば学舎に通っていた子供たちも増えるだろう。


「うぃるさまー、あれやってくださーい」

「いーよー」


 一通り広場を巡ったウィルはティファに催促されて快く頷いた。

 ウィルが向かい合ってティファの手を取る。嬉しそうな表情を浮かべるティファと対照的にムッとするラテリアを見てメイドたちが苦笑した。


「いくよー」

「はい」


 短くやり取りしたウィルの手に優しい魔力が溢れ出す。それがティファの手を伝って広がり、魔力を揺り動かした。

 これは魔法の練習方法の一つでお互いの魔力を合わせ、巡らせるというものだ。一定以上の者同士が行うと魔力はスムーズに流れ、そうでない場合は相手の魔力を揺り動かす程度に留まる。

 特に大した魔法が使えるわけではないが、この魔力を揺り動かす感覚は未熟な者であれば自身の魔力を知覚するのに役立つ。

 ティファはウィルに魔力の感覚を教わると同時に堂々と手を繋いでいるのである。なかなかの策士であった。


「どーおー?」

「あったかくてやわらか――まりょくがうごいてるー」


 嬉しさのあまり本音が飛び出しかけて、ティファが慌てて言い直す。そんなティファの様子にウィルは不思議そうに首を傾げた。


「うぃる、わたしも……」

「ぼくもおねがいしていーい?」

「いーよー」


 ラテリアとモンティスが手を上げるとウィルは快く引き受けた。

 順番にラテリアとモンティスの魔力も動かしていく。それを遠巻きに見ていた子供たちも集まってきており、どうも三人だけでは済まなさそうな様子だ。


「ウィル様って不思議な影響力をお持ちですよね……」

「そうですね……」


 感心するルカエの横でレンが笑みを浮かべる。

 それがウィルの守護属性からくるものなのか定かではないが、ウィルは周りの人間を引きつける不思議な魅力がある。


「最近、ティファ様がウィル様みたいになるんだ、って魔法の練習を始められまして……」

「それはまた……」


 少し心配そうなルカエの表情を察して、レンは思わず申し訳なさそうな顔をした。

 一般の共通認識として、ウィルたちくらいの子供に魔法を教えるのは危うい。教えて簡単に覚えられるものではないが、それでも子供たちの成長速度というのは時折大人の予想を容易く上回る。

 特に彼女たちの身近にはウィルという存在がいる。何かの拍子に攻撃的な魔法を覚えたりしないか、気が気でないのだ。


「ティファ様がウィル様のように魔法を覚えるとも思えないのですが……」


 それでも仕える家の娘の成長を願わずにはいられない。

 ルカエは真剣に悩んでいた。


「そうですね……分かりました」


 しばし黙考したレンがルカエに笑みを向ける。


「シロー様に、ティファ様がウィル様と一緒に学べるよう進言してみます」

「ほ、ほんとですか!?」

「ええ。ウィル様の影響で無茶をするよりも、共に正しく学んだ方がティファ様の為にもなります」

「ありがとうございます!」


 はち切れんばかりの笑顔で深々と頭を下げるルカエにレンが頷く。これはウィルの為にもなる。一緒に学ばせる事で力に対する責任感に芽生えてもらうのだ。

 レンはそう決めると視線をウィルへと戻した。


「…………?」


 動かず一点を見つめるウィルの様子にレンが首を傾げる。周りの呼びかけに反応せず、ウィルは遠くを見ている。


「ウィル様、いかがなされました?」

「レン、あれ……」


 レンがウィルに歩み寄ると、ウィルは一度レンを見上げてから視線を戻した。その先に、ベンチに腰掛けた不審な人物がいる。

 冒険者だろうか。フードを目深にかぶり、横に食材の入った紙袋を置いている。お世辞にも裕福そうには見えない。


「あの方がどうかされましたか?」

「うぃる、あのひとしってる……」


 ウィルの人付き合いは限られている。レンに覚えがないところを考えると最近手伝いをしている治療院で知り合ったのだろうか。

 チラチラとレンの様子をうかがうウィルからは話しかけてもいいか、レンに催促しているようだ。


「しょうがありませんね……一緒に参りましょう」

「やった!」


 レンから色よい返事が貰えてウィルが満面の笑みを浮かべる。

 レンやティファたちも連れてウィルはフードの冒険者に歩み寄った。冒険者は俯いているせいか、ウィルたちに気付いていない。

 傍まで寄ると、ウィルは冒険者の顔を覗き込んだ。


「おねーさん」

「…………え?」


 声をかけられ、ようやく気付いた冒険者が顔を上げる。ウィルの顔を見て驚き、そしてさらに視線を上げ、レンを見上げる。


「あなたは……」


 レンに直接的な面識はない。だが、亜種族の少ないフィルファリアにおいて、彼女の外見は簡単に忘れられるものではなかった。

 彼女はウィルが初めてゴーレムを生成した時に出会った猫獣人の女性であった。


「やっぱり! じゅーじんのおねーさんだった」


 ウィルの角度から見ても目深にかぶったフードの表情は見えない。ウィルは彼女の魔力を覚えていたのだ。

 突然の再会に驚きを隠せない猫獣人の女性を他所に、ウィルは彼女の横に腰掛けた。


「こんにちは!」

「こ、こんにちは……」


 ウィルが元気いっぱい挨拶をすると釣られて女性も挨拶をした。

 その様子から警戒は意味がないと判断して、レンも体から力を抜く。

 獣人の女性の方はというと例の一件を気にしているのか、所在なさげにしている。


「お買い物帰りでしたか……」

「は、はい……」


 レンの言葉に獣人の女性が慌てて答えて荷物に視線を向ける。


「買い出しに……その、妹を待たせてますので……」

(妹……?)


 そそくさとこの場を後にしようとする女性にレンが首を傾げた。彼女の荷物は二人分の買い出しにしては少ないような気がしたのだ。

 生活が苦しく必要に迫られて冒険者になる者も多いが、それでも稼げない者はいる。で、あれば街の仕事に従事した方が余程いい生活を送れる。王都にあって、獣人だから仕事を得られないという事はないはずだ。


「いもーとさん、いるのー?」

「え、ええ……」


 ウィルたちから離れようとする女性のローブをウィルが捕まえる。その顔にはキラキラとした笑みが浮かんでいた。


「うぃる、あってみたいー」

「え、ええ?」


 ウィルのお願いに女性は驚いて困った笑みを浮かべた。優しくウィルの頭を撫でる。


「ごめんなさいね。妹は病気なのよ……」

「ごびょーきー?」

「ええ……人には移らないけど、重い病気よ……」

(なるほど……)


 レンは合点がいった。

 治療用の薬は一般的に高価なものが多い。普通に働いていたのでは手に入れるのが難しいものもある。それに対し、冒険者であれば依頼の内容によっては報酬の融通が利くシステムだ。

 治癒術士の依頼を請けて、金銭ではなく魔法薬を格安で賄ってもらう事も可能なのだ。


「もう治らない、って言われてる」

「そんなー……」


 獣人の女性の言葉にウィルが肩を落とした。


「せっかくおねーさんとなかよくなったのにー」

「仲良く……?」


 いつの間にか仲良し認定されてしまった獣人の女性が目を瞬かせる。その様子に傍で見ていたルカエが思わず笑みを零した。


「そーだ!」


 何かを閃いて、ウィルが顔を上げる。みんなの視線を浴びながら、ウィルは自信満々に言い放った。


「すてらさんに、おいしーごはんをつくってもらおー! おいしーごはんをたべればきっとげんきになるよー!」

「「「おお……」」」


 子供たちが名案だと言わんばかりに声を上げる。

 逆に大人たちは困った笑みを浮かべた。事はそう単純なものではない。それでも、ウィルは彼女とその妹を自宅へ招待したいようだ。


「いいでしょー、れんー?」

「ウィル様。相手にもご都合というものがございます」

「えー?」


 レンの対応にウィルが不満げな声を上げる。

 レンは獣人の女性に向き直ると丁寧に話しかけた。


「ご無礼を承知でお伺い致します。妹様のご病名をお伺いしてもよろしいでしょうか?」

「そ、それは……」


 レンの態度に戸惑いつつ、女性は肩を落として答えた。悲しさと悔しさを混ぜたような表情で。


「……魔暴症です」


 その病名を聞いてレンとルカエが思わず息を呑んだ。致死率百パーセント。遙か昔より全ての種族を蝕む死の病だ。

 突発性の病であり、遺伝も感染も確認されていない魔力由来の病気ということ以外は謎に包まれていた。


「レンさん……」


 事の重大さに思い至ってルカエが声をかける。彼女は市井の出とはいえ聡明だ。偏見を持っているわけではない。

 必ず死の訪れる病。そんな境遇の獣人を幼い子供たちと触れ合わさせるべきなのか、という危惧であった。


 レンはレンで彼女のあらましをだいたい理解してしまった。

 彼女は生活と妹の治療薬の為、冒険者となった。とはいえ、生活は楽ではなかっただろう。そこへカルディの依頼だ。給金は破格であったと聞く。元々素性を隠して浮いていた彼女はその依頼に誘われ、そして縄についた。


 シローはガイオスに彼女を預けていたから、当然、彼女の身の上を聞いていた筈だ。ひょっとしたら、カルディ側の内情を打ち明けてくれたのは彼女かもしれない。

 でなければ彼女が今なお冒険者として活動し、王都に滞在する事はできなかっただろう。彼女が冒険者として活動を続けられるよう恩赦を出したと考えるのが妥当だ。


 問題は彼女の妹が魔暴症と知って、シローが行動に出なかったことだ。シローは子供たちの為に、この話を胸に秘めた可能性がある。

 トルキス家にとって――とりわけ、セシリアたちにとって魔暴症は抗うに値する病なのだ。

 シローの判断とトルキス家の内情、双方を理解した為にレンはしばし迷った。


(困りましたね……)


 シローの判断は責められるものではない。レンでも同じ立場であれば秘密にしただろう。

 しかし、今は状況が違う。ウィルは彼女たちの存在を知ってしまった。

 たとえ救われぬ命とはいえ、伸ばした手を引っ込めるような真似はさせたくはない。


「分かりました」


 一息ついて、レンははっきりとそう告げた。今度はレンがみんなの注目を集め、その中で獣人の女性を正面から見返す。


「ご家族をトルキス家へご招待できるよう、取り計らいましょう」

「えっ……? ええっ!?」


 レンの言葉に女性が飛び上がるように硬直する。

 レンは女性からウィルに視線を移すと、ウィルの前にしゃがみ込んだ。


「とはいえ、今すぐにとは参りません。相手のご都合もありますので」

「おうちへ、ごあんないー?」


 ウィルの疑問にレンが頷いて返すと、ウィルの表情は見る見る綻んだ。事はそう単純ではないのだが。やはり、ウィルは理解していない。

 レンは毅然とした態度で続けた。


「迎え入れる以上、何が起こっても目を逸らさぬよう。お覚悟を、ウィル様」

「おかくごー?」


 なんの事だが分からない、といった風にウィルが首を傾げる。

 しかし、賽は投げられた。この出会いが何をもたらすのか、その全ての責任をレンは一人背負う覚悟をするのだった。


【人物】

獣人の女性……ウィルが初めてゴーレムを召喚した時に出会った女性が。ウィルに魔力がきれいと言われている。

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― 新着の感想 ―
[良い点] まりょくのきれーなじゅーじんのおねーさん、おひさしぶりです! きっとうぃる様がいもーとさんもおげんきそーでなによりにしてくれます…と、信じて [気になる点] > 人には移らないけど、重い病…
[一言] おー!懐かしの獣人のおねーさん! なかなか出て来ないからもう出て来ないのかと!(笑) 致死率100%の奇病…ウィル君が追っ払いましょう!ww
[一言] お疲れ様ですm(*_ _)m 猫のお姉さん!ここ出来た! 妹さんも心配ですね
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