ウィルの友達
ある日の昼下がり――
「おとーさま、るかえ、はやく! はやく!」
「慌てなくてもウィル様は逃げないよ、ティファ」
「ティファお嬢様、走られると危ないですよ」
「いそがないと!」
幼い少女とその父親、付き添いのメイドがそんなやり取りをしながらトルキス邸を目指していた。
幼い少女――ティファの家は外周区にあり、トルキス邸のすぐ近くにある。しかし、その距離も彼女にとっては障害でしかないようだ。
馴染みの門の前まで到達したティファが嬉しそうに門番を見上げる。
門番も少女に人の良い笑みを浮かべていた。
「じょんさん、きました!」
「いらっしゃい、ティファちゃん」
ジョンが門を開けるために守衛室を出る。
その様子をティファは目を輝かせて見守っていた。
「ウィル様、ティファ様がお見えになられましたよ」
「はーい」
リビングで絵本を見ていたウィルがレンの声に顔を上げる。その横に立つ少女を見て、ウィルが表情を綻ばせた。
「うぃるさまー」
「いらっしゃーい」
嬉しそうに駆け寄ってくるティファと出迎えるウィル。
周りから見ればとても微笑ましい光景だ。が、ある一点に気付いてティファの動きが止まった。
「らてりあちゃん……」
「まってた……」
先着していたラテリアとティファが見つめ合う。
遠雷響く二人の様相に苦笑いした大人たちは一先ず自分たちの用件を済ますことにした。
「叙爵、おめでとうございます。シロー様」
「ありがとうございます」
祝いの品を持参したティファの父親――ドナテロが包みをシローに手渡す。
シローはそれを受け取って隣に控えたトマソンへと手渡した。
「こんな形でお貴族様と懇意になるとはなぁ……」
「それは私も同じ気持ちだよ、アーガス君」
ラテリアと先に来ていたアーガスがドナテロに声をかける。二人とも貴族からの仕事を請け負う事はあっても、ご近所付き合いとは縁がなかった。それがまさか娘たちの付き合いから人脈が広がろうとは思いもよらない出来事であった。
それも新興だが国民や冒険者に大人気の元テンランカーである。
優良貴族との付き合いは商家繁栄の第一歩。ドナテロとアーガスはこれ以上ない幸運に恵まれたと言える。二人がトルキス家を裏から支えようと誓い合うのにそれほど時間はかからないだろう。
「それにしても……」
「アレはなんとかしませんと……」
傍から見ていたレンとルカエがウィルたちに視線を向けてため息をつく。
ティファとラテリアが無言で見つめ合い、その間に挟まれたウィルがアワアワしている。ウィルはどうやら同じ年頃の女の子に挟まれるのが苦手なようだ。
「れんー、おでかけー……」
困り顔で催促してくるウィルにレンが苦笑する。
風雲急を告げそうな幼子たちはメイドたちに付き添われて、一先ず今日の目的地――市街区の広場へと向かうのであった。
市街区の広場は学び舎の近くにあり、住民たちの憩いの場として親しまれている。
ウィルたちは広場に向かう前に、一軒の店へと足を運んだ。
「「やおやさん……?」」
首を傾げるティファとラテリアを他所に、ウィルが店内へと入っていく。
「おや、ウィル様?」
「もんちゃんいますかー?」
ウィルに気付いて腰を屈める店主にウィルが元気よく尋ねる。
「広場まで行きますのでお誘いに」
「なるほど」
レンが補足すると店主は快く頷いた。それから店の奥に顔を向ける。
「おーい、モンティス。ウィル様が外で遊ぼう、って」
店主の呼びかけから少し待つと男の子がひょこりと顔を出した。ウィルより一回り大きく、細目で気の優しそうな男の子だ。ウィルと同い年の友達である。
ウィルの顔を見た男の子が笑顔を浮かべる。
「もんちゃん、あそぼー」
「いーよー」
ウィルのお誘いに男の子――モンティスは快く返事をすると一緒に外へ出た。
「すみません。宜しくお願い致します」
女将がレンに頭を下げてモンティスを送り出す。モンティスの両親は店を切り盛りしているので、ウィルが誘いに来るといつもレンたちメイドが一緒に面倒を見ていた。
「どうぞ、お気遣いなく」
笑顔で応じたレンがモンティスも子供たちの輪に加える。
モンティスと初対面のティファとラテリアは大きな男の子にポカンと口を開けてしまった。
「ウィル様はモンティスちゃんとお知り合いだったんですね」
「そーなのー」
ルカエも仕入れで店を利用しているのでモンティスの事を知っていた。
ウィルはこのモンティスをとても尊敬しているのである。
「もんちゃんはすごいんだよ!」
驚いたままのティファとラテリアにウィルが得意げに賞賛する。
何事かな、と耳を傾ける大人達の前でウィルは続けた。
「もんちゃんはすききらいがないんだ!」
なんとも可愛らしい理由に大人達が笑みを零す。
しかし、子供たちは衝撃を受けていた。それはティファたちのみならず、買い物に付いてきていた他の子供たちも同様だ。遠巻きにウィルやモンティスに視線を送っている。
「とまとも……?」
「きゅーりも……?」
「ぴーまんだって、なーんでもたべちゃうんだ!」
注目を浴びて照れ笑いを浮かべるモンティスの前でウィルが渾身のドヤ顔を放つ。
そんなウィルの様子にレンが胸中でため息をついた。
(なんでウィル様が自慢げなんですか……)
凄いのはウィルではなくモンティスだろうに。だが、ウィルにとってモンティスはそれ程自慢の友達なのだ。
「すごい……!」
「もんちゃん、すごいわ!」
ラテリアとティファも次々と賞賛し、ウィルに尊敬される幼児――モンティスはすぐに受け入れられた。と、同時に周りから一目置かれる存在になった。
「どう?」
(どう、って……)
ドヤ顔を続けるウィルに思わず困った笑みを浮かべてしまうレンなのであった。
【人物】
ティファ……ウィルの友達。カルディの謀反で魔獣に襲われていた時にウィルに救われる。それ以来、ことある毎にウィルの名前を出しているそうな。
ドナテロ……ティファの父親。大きな商家の当主。ウィルの名前を出す娘に複雑な心境を覚える良き父親。
ルカエ……ドナテロの家に仕えるメイド。ティファと共にウィルに魔獣から救われた。
ラテリア……ウィルの友達。父親がカルディの謀反にて大怪我を負い、ウィルに魔法の義手を手渡された。将来、一緒に世界樹の迷宮へ行こうと約束した仲。
アーガス……ラテリアの父親。片腕が義手。魔獣に襲われ、腕を失い途方に暮れていたところをウィルの魔法の義手に救われる。腕のいい鍛冶屋。
モンティス……ウィルの友達。トルキス家も御用達の八百屋さんの息子。食べ物に対する好き嫌いがなく、ウィルに尊敬されている。年頃にしては大柄で気は優しい。




