村の守護者
お世話になっております。
「ウィル様は今日も魔法で遊んでいます。3」と「コミック版ウィル様」の1巻は5月28日に発売されます。3巻には書き下ろしもございますので、ぜひぜひ。小説に漫画に可愛いウィル様を堪能していただければ嬉しいです♪
村の花畑にいたのは樹の精霊たちであった。
ここは昔から魔素溜まりがあり、彼らは村ができる前からここで暮らしていたという。
村の人口が増え、子供たちが花畑に集まるようになってからもそれは変わらず、代を重ねても花畑を大切にしてくれる村の子供たちを精霊たちは見守り続けていた。
「なるほどね。魔素を纏っていた大人たちはこの村出身だったわけね」
納得したアローが村の子供たちに視線を向ける。
彼らは花畑でお見舞いの花を摘んでいる。
その周りには可視化した精霊たちが集まっていた。
最初は驚いていた精霊たちであったが、ウィルの仲介によって心を開き、村の子供たちの前に姿を現してくれたのだ。
これには村の子供たちも大喜びで、今は仲良くなった精霊たちと花摘みに興じている。
『僕たちは弱いから、特に何かしてあげられることもないんだけど……』
「それでも、あなた達がいたからこの村の被害はこの程度で済んだ。そうでしょ?」
セレナの膝の上に座った樹の精霊がアローにそう指摘され、照れ笑いを浮かべた。
精霊の様子を見たニーナが落ち込むゲイボルグの背を撫でながら不思議そうに首を傾げる。
「どういう事?」
「精霊に護られた土地というのは基本的に魔獣を遠ざけるの。それに加えて、樹の精霊は魔獣を追い払うのが得意な子が多いわ」
『どうも興奮してたみたいで守護は受け付けなかったんだけど……その代わり、竜種が嫌いな匂いを、ね』
アローの説明を樹の精霊が補足する。
今までは守護だけで村から魔獣を遠ざけていたらしい。それが今回の飛竜には効かなかった為、魔力で花の香りを操って飛竜を追い払ったのだそうだ。
冒険者たちが利かせた機転と精霊の魔法が合わさって、飛竜は早々とこの村を飛び去ったのだ。
「守護は、しょうがないわ。レクスの守護でも効かなかったんだもの」
地の大幻獣であるレクスの守護でも遠ざけられなかったのに力の弱い精霊たちでは無理でもしょうがない、とアローは説明してくれた。
「でも、大丈夫? しばらくは荒れるんじゃないかしら?」
『そうなんだよね……』
アローの言葉に精霊が落胆する。
飛竜の襲来で魔素が乱されたせいで精霊の守護が弱くなってしまうそうだ。しばらくすれば落ち着くとはいえ、それまでは魔獣を遠ざけることができない。
「こまったねー」
「でも、お父様たちが村の周辺を巡回してるみたいだし……」
セレナがウィルを安心させようとした時、何かに気付いたアローが立ち上がった。
「アローさん?」
緊張感を漲らせるアローにニーナが首を傾げる。
「早速、来たわね……」
「えっ?」
子供たちもアローに習って立ち上がった。村の外れの方から近付いてくる大きな牛にセレナが息を呑む。
「みんな、魔獣よ! こっちへ!」
「きゃあ!」
『はやく、はやく!』
セレナが慌てて村の子供たちに声をかけると、魔獣に気付いた樹の精霊たちが子供たちの手を引いてウィルたちの方へ駆けて来た。
ゆっくりとだが近付いてくる牛の魔獣は遠目にも友好そうには見えない。
「おにくだ……」
牛の魔獣に見覚えのあったウィルがポツリと呟く。
魔獣は精霊魔法研究所の帰り道にウィルたちを襲った魔獣と同種であった。その後、樹の精霊フルラによって振る舞われた肉料理をウィルはしっかりと覚えていた。あれはとても美味しかった、と。
一人ホクホクとした表情で杖を取り出すウィルを他所に村の子供たちは怯えていた。
「あれはミノスブルだよ……草原の暴れ牛だ」
「どうして村の近くにミノスブルが……普段は平原の中央にいる筈なのに」
「飛竜のせいでしょうね」
村の子供たちの疑問にアローが答える。
飛竜が暴れたせいで近隣の生態系に混乱が生じたのだ。結果、強い魔獣が村に接近してきたのだろう。
幸い、ミノスブルは一匹である。近付いてくるならアローだけで十分に対処可能だ。
「ウィル――」
アローが前にいるウィルを自分の後ろに下がらせようと声をかける。
しかし、ウィルはそれより早く魔法のイメージを編み上げて、杖を魔獣に向けていた。
「まかせてー!」
「下がって」
ウィルとアローの声が被って変な間が開く。
「「えっ?」」
思わず声を上げてウィルを見下ろすアローとポカンと口を開けて不思議そうにアローを見上げるウィル。
意味を成した魔力が地を走り、ミノスブルの正面に生成された魔法ゴーレムが勢い良く腕を振り上げる。そのまま、ゴーレムは威嚇するミノスブルの頭部に岩の拳を叩きつけた。
強烈な一撃が勢い余って地面にめり込み、土砂を巻き上げる。
「あっ……」
一瞬の出来事に全員がゴーレムと魔獣を見てポカンと口を開けてしまった。
「あー……」
ウィルがやり過ぎた、という顔をして焦ったようにアローを見上げる。その表情にアローは思わず吹き出してしまった。
一度は騒然となった花畑が微妙な沈黙に包まれる。
(そういえば、忘れてたわ……)
一息ついたアローが前髪をかきあげる。
ウィルは精霊の力を借りてとはいえ、単独で竜種を狩ってしまうような子供なのだ。魔獣相手の一対一だとそうそう遅れは取らないかもしれない。
(それにしても器用ね……)
アローはウィルの魔法を見て素直に感心していた。
本来、ゴーレム生成の魔法は術者の近くで発動する。そういう魔法だと言ってしまえばそれまでなのだが、魔法の消費魔力は術者から離れれば離れるほど増加する傾向にあり、操作が難しくなる。
ゴーレム生成はもともと術者を護る魔法なので近場に発動して困ることはないのだが、ウィルは今、その場で魔法を発動させず、発動地点を操作した。
ウィルと魔獣の間には花畑があり、そのままゴーレムを生成して戦闘すると花畑が荒れてしまう。なのでウィルは組み上げた魔力を操作して、わざわざミノスブルの前でゴーレムを生成したのだ。
それは明らかに高度な魔法技術であった。
「うっかりね、ウィル」
「うっかりー」
ニーナに笑顔でフォローされたウィルは照れ笑いを浮かべて頭を掻いた。
やってしまったものは仕方がない。本当は狩る前の状況判断も必要なのだが、幼いウィルに言ったところですぐに理解させるのは難しい。
魔獣にはウィルに見つかった不運を嘆いてもらうしかない。どちらにせよ狩られるのだが。
(その辺はおいおいかしらね……)
アローの心配ももっともだが、魔物討伐の知識の習得に自分が音頭を取るのもおかしな話だ。シローたちに報告しておけばいいだろう。
まずは魔獣が村に接近していた報告をするのが先決だ。
心配そうな村の子供たちを見回してアローが笑みを浮かべる。
「お見舞いの花は摘み終えたかしら?」
「は、はい……」
子供たちが手に握られた花をアローに掲げてみせる。
アローはそれを見て頷くと今度はウィルに視線を向けた。
「ウィル、ゴーレムは?」
「もどってきたよー」
花畑を迂回したゴーレムが牛の魔獣を担いで戻ってくる。今日の夕飯である。
「一先ず、戻りましょうか。この事を大人たちに報告しないとね」
「そうですね……」
ウィルの成果を見上げて苦笑いを浮かべたセレナが相槌を打つ。
ウィルたちはシローに報告すべく、もと来た道を引き返すのだった。
ちょっと短めで申し訳ないです。
三話くらいで終わるかと思ったんですが……
さすが、ウィル様(泣)




