第二回魔法作成会議
【人物】
カシル……ウィルが最初に出会った風の精霊の内の一柱。名乗るまではウィルに「やさしいさん」と認識されていた。
「……ん」
微かな歓声が耳に届いて、意識が引き戻されていく。
身じろぎをすると横たえた体と何かが擦れて優しい感触を返してきた。
「セシリア、起きましたか?」
「レン……?」
セシリアが聞き慣れた声に反応して薄っすら目を開ける。
セシリアの隣にはセシリアと同じようにレンが横たわっていた。
「ここは……」
体の自由が利くことを確認したセシリアが身を起こす。と、その背後から声がかかった。
「起きたか……」
「…………っ!?」
唐突にかけられた声にセシリアがビクリと身を震わせ、ゆっくりと向き直る。
そこに居たのは微かに紫色の光を放つ女性――ライアであった。
「精霊さま……?」
「安心しろ。敵ではない」
「素直に味方だと言えばいいじゃない……」
横から歩み寄ってきた樹の精霊と思しき女性――フルラが呆れたようにため息を吐く。
高位の精霊の出現に呆然としていたセシリアだったが、慌てて周囲を見回すと我が子がいないことに気付いて跳ね起きた。
「精霊さま! あ、あの、小さな男の子を見かけませんでしたでしょうか?」
座り直して正面を向くセシリアにライアが落ち着いた様子で小さく頷く。
「ウィルのことか? それなら、今は外で精霊たちと遊んでいる」
「そう、ですか……」
ウィルの無事を知ってセシリアの体から力が抜ける。
その様子に樹の精霊からも笑みが溢れた。
「精霊さまがお救い下されたのですか? なんとお礼を申し上げて良いか……」
「いや……」
深々と頭を下げようとするセシリアをライアが手で制する。
「お前たちが落ちた場所にたまたまシュウたちがいたんだ。私ではない。礼ならシュウたちにしてくれ」
「シュウ様が……」
セシリアは少し驚いたように口に手を当てたが、柔らかく微笑んで頭を下げ直した。
「それでも、私共を保護して頂き、誠にありがとうございました」
「う、むぅ……」
照れたような曖昧な返事をしたライアが視線を外して頬を掻く。
「ごめんなさいね。ライアは礼を言われることに慣れてないのよ」
「いえ、お気遣いなく……」
フルラにも同じように頭を下げるセシリア。
それを見たフルラが笑みを浮かべる。
「そちらに寝てらっしゃる方も……毒は抜けてる筈だけど、全快にはもう少し掛かりそうかしら?」
「どう? レン……」
フルラに促され、セシリアが心配そうに向き直った。
レンはまだ敷き詰められた草の上に横たわったままである。
注目を集めたレンがセシリアを見返して微かに笑みを浮かべた。
「鍛え方が違います」
「……そういうのは起き上がれるようになってから言うものだと思うわ、レン」
一先ず大丈夫そうな友人にセシリアが困ったような笑みを返す。
レンは小さく反動をつけるとゆっくりと体を起こした。傷ついていたはずの腕と体の感触を順に確かめていく。
「直ぐに戦闘は差し支えるでしょうが……少し休めば問題ありません」
「さすが、と言ったところかしら。治療した精霊の話だと、軽い毒ではなかったようだけど……」
レンの頑丈さにフルラが少し呆れた調子で息を吐く。
それを見たライアは小さく笑みを浮かべると、視線をまたセシリアの方へ向けた。
「自己紹介がまだだったな。私の名はライア。そして、そっちの樹の精霊がフルラだ。もう一人の上位精霊はウィルに付き添っているので後で紹介しよう。二人が起きたことを伝えればウィルもきっと喜ぶだろう」
ライアの言葉にセシリアとレンも笑みを浮かべる。
だが、ライアの話には続きがあった。
「その前に、少し聞いておきたい。ウィルの事について……」
真剣な表情を向けてくるライアにセシリアとレンは驚きを隠せず、思わず顔を見合わせるのだった。
「相変わらず……話題に事欠かないね、ウィルは」
「えへへぇ♪」
小さく笑みを浮かべるカシルにウィルが照れて身をくねらせた。が、おそらく褒めてない。
ウィルが自力で飛んでから風の精霊たちはウィルの魔法をなんとか形にしようとしていた。
人間が使う属性魔法というのは、使用者に危険が及ばないように創られている。精霊と違い、人の身で魔素に同化したり、魔力を自在に操れたりしない為、現存する魔法の殆どにはそういった配慮がなされているのだ。
属性魔法が精霊からの贈り物と言われる理由の一つである。
『カシルッ! 笑ってないで手伝えよ!』
精霊の輪の中から声を張り上げるボレノにカシルが苦笑する。
「いや、僕、さっき帰ってきたばかりなんだけど」
『分かってるよ、そんなこたぁ! ちくしょー、とんでもない魔法考えつきやがって……』
『飛んでるケドねー』
『やかましいわ!』
茶々を入れる他の精霊にツッコんで、ボレノが頭を抱えた。
『どう考えても安全とは言い難いんだよなぁ……』
風の精霊たちの話し合いは難航しているらしい。
というのも、ウィルの飛行が明らかに力任せだったからだ。
それはとても危うく、ウィルが空中で魔力切れを起こせば墜落してしまう可能性もある。
本来なら飛行魔法というのは精霊か飛行可能な幻獣が補佐をする。
しかし、ウィルの場合、飛行可能にしているのは風狼であるレヴィだ。
当然、狼の姿をしたレヴィに空が飛べるはずもなく、補佐はできない。力尽きたら一緒に真っ逆さまだ。
「風で飛翔する以上、浮遊魔法を基にするほかないんじゃないかな? それを身に纏うくらい狭めるか、ウィルを中心とした範囲に留めるか……」
カシルの提案に風の精霊たちが唸る。
『身に纏う方は少ない力で飛行可能だけどコントロールが難しい。範囲だと移動自体は楽だけどかなりの力がいるな』
「それだけじゃねーぞ」
天を見上げるボレノの横でシュウが指を一本立てた。
「身に纏う方は細やかな動きが可能だが、姿勢制御も必要だろ? 範囲だとその辺は大雑把になるが範囲内の人間は全員飛ばせるんじゃないか?」
「安全装置、ウィルだけどね」
付け足されたカシルの一言を皆で思い浮かべる。
小さな男の子主導による遊覧飛行である。オススメは当然できない。
『あー、まてまて! 何が良くて何が悪いのか分からなくなってきたー!』
再び頭を抱えて掻きむしるボレノ。
その様子を見ていたウィルが傍にいたネルを笑顔で見上げた。
「みんなたのしそー」
『ウィルの為に頑張っているのですわ』
「えへー♪」
ウィルが嬉しそうに身悶える。
『ボレノも態度は問題ありますが、身内の面倒見はいい子なのですわ。許してあげて下さいまし』
「あの態度は嫌いだわ」
『嫌いだね』
『正直、イヤ』
『……私もちょっと』
ネルの訴えにアジャンタを始め、マークや水の精霊、クララまで拒絶を示す。
みんな、ウィルに取った態度をまだ許していないらしい。
そんなこととは知らず、驚いたウィルはポカンと口を開けたままネルへ向き直った。
「あのね、うぃるね、ぼれのはもーちょっとおんなのこにやさしくしてあげたほーがいーとおもうのー」
ウィルの発言に周りの精霊たちが顔を見合わせ、クスクスと笑い出す。
なぜ笑われているのか分からないウィルは不思議そうにネルと精霊たちを交互に見上げた。
ネルも思わず笑みを浮かべてウィルの頭を撫でる。
『それじゃあ、後でそのことをボレノに教えて差し上げなさいな』
「…………? わかったー」
納得したのか、ウィルがこくんと一つ頷く。
そんなウィルたちの周りで何かに気付いたクララが顔を上げた。
同属性の精霊たちが連絡に使う魔法が近くの花を揺らす。
それはフルラからの知らせだった。
『ウィル、ネル。ウィルのお母さんたち、起きたみたい』
「ほんと!?」
ウィルの顔がパッと華やぐ。
その様子にアジャンタが腰を屈めてウィルの頭を撫でた。
「良かったわね、ウィル」
「うん、うん!」
しきりに首を縦に振り、ウィルが待ちきれないと走り出す。
『お待ちなさい、ウィル!』
「かーさまー! れーん!」
慌てて呼び止めるネルの声を無視して、叫びながら駆けていくウィル。
その後をネルとアジャンタたちも慌てて追いかけていった。
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