表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
116/270

居合わせた者

【キャラ】

シュウ……ウィルと一番最初に仲良くなった風の精霊の中の一人。ツンツン頭の男子でウィルに愛称を教えるまでは「つんつんさん」と認識されていた。

 レクス山の渓谷はきれいな景色といい風が吹いており、風の精霊たちのお気に入りの場所の一つになっている。


(ひまだなー……)


 そよぐ風を感じながら空に寝そべっていた風の精霊シュウは大きく一つ伸びを打った。


(カシルはどっか出かけてるし、アーシャはいつも通りウィルの家に行ったし……)


 馴染みの精霊たちの顔を思い浮かべてシュウが鼻で笑う。

 アーシャとはアジャンタの愛称である。


(アーシャなんてウィルに真名まで教えちまって……)


 シュウもカシルも、ほとんど毎日のように人間の男の子の家に出かけるアジャンタの様子を微笑ましい気持ちで見送っていた。


(いい加減、契約しちまえばいいのに……)


 精霊たちはその人間と契約しても問題ないか見定められる目を持っている。

 シュウの目から見てもウィルとアジャンタは契約可能だ。

 だが、アジャンタは躊躇っているのかなかなか契約に踏み切ろうとしない。

 カシルが言うには、どうも土の精霊シャークティに気を使っているようなのだ。

 ウィルとシャークティが契約するにはもう少し時間がかかる。

 それが抜け駆けしているようで気が引けてるのではないか、と。


(わっかんねー……)


 カシルと違ってシュウはその手の沙汰に疎かった。


(できる時にやればいいんじゃねーの?)


 そもそも、精霊の契約には共にあるという意味の他に契約者を護るという意味がある。

 その人間に惹かれていて契約できるのであれば傍にいて護ってやればいい、とシュウは思うのだが。


『ねー、シュウー』

「ん……?」


 物思いにふけっていたシュウに呼ぶ声がかかり、シュウが体を起こす。

 見れば風の精霊の小さな子供が二人、シュウの下へ飛んできていた。


『シュウー、あそぼー?』

『ねぇ、一緒に遊ぼーよー』

「分かった分かった」


 しょうがないな、とシュウが頭を掻いた時だった。

 大きな爆発音が響き、大気が震える。


「なんだ……?」

『上からだよー』

『なんだろー?』


 精霊の子らが指差す先には人間の造った橋がある。

 シュウはそこで魔力の波動を感じた。

 嫌な魔力と妙に澄んだ魔力だ。

 パラパラと砂埃も落ちてくる。

 シュウが注視していると、今度は風の魔力が解き放たれた。

 見慣れた槍の魔法が橋をぶち抜く。

 シュウはその魔力の気配に覚えがあった。


「……ウィル?」


 不思議に思うシュウたちの前で乱れ飛んだ魔法が橋ごと破壊していく。


「おいおい……?」

『橋、壊れちゃうよー?』

『ねー』


 橋が石の破片を撒き散らして軋む。

 予想違わず、シュウたちの目の前で橋が崩落した。

 と、同時に牛車と魔獣が落ちてきた。


『えー!? こんな所に魔獣!?』

『うそー!?』

「いいから、牛車を受け止めるぞ!」

『『はーい』』


 驚いていた精霊の子供たちがシュウの言葉に揃って手を上げる。

 落下してきた牛車が精霊たちの魔力に触れて減速する。

 その横を巨躯の魔獣が素通りして落ちていった。


「おーい、誰かいるかー?」


 シュウが声をかけながら壊れた牛車の入り口を覗き込む。

 予想通りの小さな子供が目をぱちくりさせて、シュウを見上げていた。


「やっぱりウィルだった」

「しゅう!」


 シュウを確認したウィルの表情がパッと華やぐ。


「いったい何があったんだ?」

「まじゅーさんがおそってきてはしをこわしちゃったのー」


 悪びれた様子もなくそう告げるウィルに精霊たちが見た光景を思い出す。

 明らかに橋を壊していたのはウィルである。

 シュウは頭を掻いてとりあえずウィルの発言を不問にした。

 彼は細かいことをあまり気にしないタイプだ。


「大丈夫か、ウィル?」

「うぃるはへーき。でも、かーさまとれんが……」


 ウィルが表情を曇らせてセシリアとレンを見る。

 シュウからも二人が怪我をしているのが見えた。

 意識も失っているようだ。


「ちょっと待ってろよ。今、引き上げてやる」


 シュウが魔力で牛車を支えながら、空いた手でウィルたちを浮かせる。

 シュウの魔力に導かれたウィルは牛車から出て平坦な屋根部分にセシリアとレンを寝かせた。


「傷を治さないと……ウィル、できるか?」

「できるよ……でも……」


 確認するシュウにウィルが応えて空を見上げる。


「うえにねーさまたちがいるの……まじゅーもいっぱいなの……」

「そんなにか……? ここは魔獣が立ち入らないことで有名なのに……」

「うん……」


 心配そうにウィルが頷く。

 シュウも見上げるが、この場所からでは上の様子が確認できない。


「わかった」


 シュウが視線をウィルに戻してその肩に手を置いた。


「俺が上の様子を見てくる。その間にウィルは二人の怪我を治しておいてくれ」

「うん」


 頷くウィルにシュウが頷き返す。

 それから視線を隣にいる精霊たちに向けた。


「俺が行ってる間、二人で牛車を支えといてくれ」

『えー!? シュウ抜きでー!?』

『無理だよー!』

「なんとか頑張れ!」


 シュウはそう告げると自身の魔力を解いた。


『わー! やっぱり重いー!』

『沈んでっちゃうー!』

「まってて! うぃる、かーさまとれんのおけがなおしたらおてつだいするからー」

『『ウィルー、はやくー』』


 ウィルと精霊たちのやり取りを聞いて、一先ず安心したシュウは上空にかかる壊れた橋に視線を向けて一気に上昇した。



▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽



「お母様! ウィル!」

「いけません、ニーナ様! 戻って!」

「ニーナ!」


 いてもたってもいられず牛車から飛び出したニーナの後を追ってターニャとセレナも飛び出した。

 その様子を察したエリスとアイカが後方を一瞬確認して、油断なく魔獣と対峙する。

 飛び出したいのはエリスもアイカも同じだったが、魔獣はこちらの事情を察してはくれない。

 当然、上空の男も。

 ウィルの魔法で数を減らしたとはいえ、魔獣はまだ五匹残っており、目標をエリスたちに定めている。

 ウィルたちの牛車は橋の下へと転落し、魔獣とエリスたちの間には牛車から振り落とされた御者が一人地に伏していた。

 ウィルたちを確認するにも御者を救出するにも魔獣が邪魔だ。


(戦闘になれば、子供たちが巻き込まれてしまう……)


 エリスが歯を噛みしめる。

 状況は最悪と言っていい。

 装備のない二人では目の前の魔獣を圧倒できない。

 圧倒できない以上、後方の子供たちにも危険が及ぶ。

 ウィルやセシリアの安否が分からない現状、エリスとアイカはせめて子供たちだけでも無事に逃さなければならなかった。


「エリスさん、あの魔獣……マンティコア、ですよね?」

「ええ……間違いないでしょう」


 マンティコアとは密林に潜む魔獣で人のように見える頭部と獅子の体が特徴で強力な毒も有している。

 冒険者ギルドでも高難易度に指定されるような魔獣である。

 だというのに――


「減らされてしまったな」


 上空のローブの男が新たな筒を取り出して魔獣を召喚する。

 新たなマンティコアが姿を現し、その数が十匹に増えた。

 エリスたちはますます不利な状況に陥っていく。

 取れる手段はそう多くはない。

 こちらが動けば相手も黙ってはいないだろう。

 御者を見捨てて子供たちを牛車に戻し、子供たちだけを逃がす。

 それが最善に思えるが、エリスたちが突破を許せば子供たちを守る手段はない。

 守るためには同時に撤退する隙がいる。

 それを上空の男と魔獣が許してくれるかどうか。


(やるしかない……)


 セシリアたちと御者を見捨てた誹りは自分が引き受けよう。

 エリスがそう心に決めてアイカに目配せしようとした時だった。


「狩れ!」


 ローブの男が魔獣たちに指示を出し、魔獣たちが身構える。

 その横を何かが上空へ突っ切った。


「うげっ!? 魔獣、めっちゃいんじゃん!」

「なっ……!?」


 突然現れた精霊にローブの男が驚愕する。

 エリスもアイカも驚きこそすれ、その精霊に見覚えがあって歓喜した。


「「シュウ様!」」

「おりゃあっ!」


 シュウが腕を振り上げ、突風を巻き起こす。

 エリスたちに意識を向けていたマンティコアの群れがその不意打ちに体勢を崩した。


「そら!」


 その隙をついてシュウが足下に伏せる御者に魔法をかける。

 ふわりと浮いた御者の体が風に運ばれてエリスたちの方まで流されてきた。


《ウィルたちは無事だ! 少しだけ足止めするからこっちは任せて、今のうちに逃げろ!》


 エリスたちの頭の中に直接シュウの声が響いてくる。

 ウィルたちの無事を知れたエリスたちは一瞬安堵して吐き出しかけた息を呑んだ。

 シュウがこのまま長く足止めすれば上空のローブの男の矛先がウィルに向く可能性が出てくる。

 それは危険だ。

 目配せをして頷きあったエリスとアイカはすぐに踵を返した。


「セレナ様、ニーナ様、牛車に戻ってください!」

「ターニャ様、お手を!」

 アイカがセレナたちを促して、エリスは気を失った御者に肩を貸し、ターニャと牛車の中に運び込んでいく。


「逃がすか!」


 シュウの風にあおられながらもローブの男は手を伸ばし、牛車に向けて魔法の矢を放った。


「通しません!」


 アイカの無詠唱の防御壁が男の魔法を阻む。

 その間にエリスは自らも牛車に乗り込んだ。


「アイカ!」

「任せてください!」


 エリスと短いやり取りしたアイカが飛び上がって牛車の屋根に着地する。


「何をしている! 牛車を追え!」

「出してください!」


 男の苛立った声を聞きながらアイカが屋根の上から御者に指示を出す。

 急かされた御者は安全確認もままならぬまま、手綱を操って牛車を走らせた。

 その後を追おうと魔獣が向きを変える。


「簡単に追わせるか!」


 シュウが溜めた魔力を解放する。

 一直線に伸びた緑光の刃が牛車を追おうとしていたマンティコアを貫いた。


(潮時だ……)


 これ以上は矛先がこちらに向きかけない。

 そう判断したシュウが身を引いて谷の下へ降りる。


「くっ……」


 シュウの後ろ姿を見送って、精霊に強襲されるという未知の経験をしたローブの男が苦々しげに吐き捨てた。


「牛車を追うんだ! 逃がすんじゃねぇ!」


 阻む者のいなくなったマンティコアの群れが我先にと牛車を追いかける。


(このままじゃ気が済まねぇ……絶対に狩ってやる!)


 暗い欲望を吐き出して、ローブの男も牛車の後を追い始めた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ