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王女様たち

また、キャラクターが多くなってしまったのであとがきに載せてます(汗)

 謁見の間を出たウィルたちは執事の案内で城の更に奥へと進んだ。

 その先は王族のプライベートスペースになっている。


「こちらへどうぞ」


 執事に促されるまま室内に入ると中にはアルベルトと王妃、そして彼らの娘たちである王女がウィルたちを待っていた。


「よく来たな」

「お待ちしておりましたわ」


 アルベルトの隣で美しいドレスに身を包んだ王妃がウィルたちを出迎える。

 その後ろで王女たちがスカートを広げてお辞儀をし、更には控えていたメイドたちが頭を下げた。


「王妃様がた、ご機嫌麗しゅうございます」


 前に出たセシリアがスカートを広げて礼をするとトルキス家の子供たちもそれに倣う。


「ウィル……」

「ウィル様……」

「ん!」


 ズボンの端を広げて挨拶のポーズを決めるウィルにアルベルトもトマソンも困ってしまった。

 それを見た王妃と王女たちが思わず笑みを浮かべ、セシリアが恥ずかしそうに頬を赤らめる。


「ウィル様、男の挨拶はこうですぞ」


 トマソンがウィルの横で礼をしてみせる。

 軽く握った右の拳を左胸に当てて頭を下げる貴族式のスタイルだ。実に様になっている。


「こー?」

「そうです」

「こー」


 ウィルがトマソンを見倣って、もう一度お辞儀をした。


「上手にできましたね」

「えへー」


 王妃に褒められたウィルが恥ずかしそうに顔を隠す。

 その無邪気な仕草に王妃は思わず頬を緩ませた。


「まぁ座ってくれ」


 王妃と同じように相好を崩したアルベルトが一番奥にあるソファーへと腰掛ける。

 続いて王妃や王女たちもソファーに腰を下ろし、倣ってウィルたちも腰を下ろした。

 ちょうど両家が向かい合う形になる。


「子供たちは初対面であったな。アルティシア、簡単でいい。紹介を……」

「はい、お父様」


 アルベルトが促すと年長の王女が立ち上がった。

 王家の子供たちはトルキス家の子供たちと同じ年齢なので、彼女はセレナと同じ七歳だ。


「初めまして、第一王女のアルティシアと申します。隣に座っているのが妹のフレデリカとテレスティアです。以後よろしくお願いします」


 アルティシアがペコリと頭を下げる。

 それを見たアルベルトは満足そうに頷いた。


「うむ。ではセレナもよろしく頼む」

「は、はい!」


 アルベルトから指名を受けたセレナが少し緊張したように返事をして立ち上がる。


「お初お目にかかります。トルキス家の長女、セレナと申します。隣に座っているのが妹のニーナと弟のウィルベルです。こちらこそよろしくお願い致します」

「はは、身内にする挨拶としてはまだ固いな」


 お辞儀をするセレナにアルベルトが笑みを浮かべて頷く。


「セシリアが嫡女ではなかったにせよ、私たちとお前たちに血の繋がりがあることに変わりはない。どうかそれぞれが良き友であってほしい」

「は、はい」


 セレナの固い返事に大人たちが笑みを浮かべていると不思議そうな顔をしたウィルがこくんと首を傾げた。


「おともだちー?」

「そうだ。ウィルにも私の子供たちと仲良くして欲しいのだ」

「わかりましたー♪」


 アルベルトの言葉に満面の笑みで答えたウィルは目の前に座る第三王女のテレスティアに向き直った。


「よろしくね!」


 ウィルが嬉しげに微笑んで声をかける。

 ウィルもまだ精霊を除けば友達は少ない方だ。

 新しく友達ができるのは大歓迎だった。しかし――


「…………!」


 ビクリと肩を震わせたテレスティアは慌てて王妃にしがみついてウィルから隠れてしまった。

 ショックを受けて肩を落とすウィル。


「ああっ……! ウィルがしょんぼりしてる!」

「テレス!」


 ニーナと第二王女のフレデリカが騒ぎ出すのを見てアルベルトが深くため息をついた。


「ウィルでもだめか……」


 なんとなく察したセシリアが小さく笑みを浮かべる。


「少し人見知りをされてしまうのですね」

「うむ。この子だけ、な……」


 これには王妃も困っているようで、王妃のスカートで顔を隠してしまったテレスティアをなだめるが、彼女が顔をあげようとする気配はない。


「これくらいの年の頃ならばよくあることでは?」


 セシリアの言葉にアルベルトがため息をついた。

 テレスティアはウィルと同い年。まだ三歳だ。

 人見知りするということは家族との愛情がしっかりと育まれていて心の拠り所となっている証である。

 一人で行動するには時間がかかるかもしれないが、無理に引き離す必要はない。


「そうなのだが……少し心配でな」

「今はよろしいのではないですか?」


 アルベルトの心配も将来を思えばこそだ。

 だからこれを機にウィルと仲良くなってもらいたいと考えたのだろう。


「お父様もお母様も心配し過ぎなんですよ。テレスは少し怖がりなだけなんですから……」


 第一王女のアルティシアがテレスティアを弁護して、しかし落ち込むウィルを放っておけずに席を立ってウィルの頭を撫でた。


「ごめんなさいね。少しずつ仲良くなってあげてね」

「……あい」


 ウィルがアルティシアの手に身を任せてからその顔を見上げる。

 アルティシアはウィルの顔を見返してにっこり微笑んだ。


「安心して。私とウィルちゃんはもう仲良しよ?」

「ほんとー……?」

「ホントよ」

「うん……」


 まだショックから抜け出せていないのだろうが、ウィルは頷くと少し持ち直した。

 その様子にアルティシアの笑みが深まる。

 そこで部屋の扉が開いて見知った人物たちが姿を現した。

 ワグナーとオルフェスである。


「おお、来とるな」

「なんじゃなんじゃ、お前たちだけで楽しみよって」


 顔を綻ばせるオルフェスに対し、ワグナーが拗ねたように悪態をつく。


「「おじーさま!」」


 その姿を確認した瞬間、テレスティアとウィルは同時に二人の下へ駆け出した。


(((そこはシンクロするんだ……)))


 並んで走る二人の後ろ姿に見守っていた者たちが苦笑する。

 二人はそれぞれ己の祖父に抱き上げられ、その腕の中へ収まった。


「どうした、テレス?」


 顔を押し付けたまま上げない少女にワグナーが首を傾げる。

 ワグナーはテレスティアが心を許す数少ない人物の一人だ。

 テレスティアを一通りあやしたワグナーは隣のウィルの様子を見てなんとなく察した。


「お主、照れとるのか?」


 ワグナーの問いかけにテレスティアが首を横に振って顔を強く押し付ける。

 その様子にワグナーは笑みを崩さず続けた。


「照れとるんじゃろうが。ほれ、隣のウィルの顔をよく見てみよ」


 促されたテレスティアがモジモジしながらオルフェスに抱きかかえられたウィルの方を見る。


「見たか? あの顔は今にいい男になるぞ? そのうえ、性格も良いし、魔法の素養も申し分ない。今のうちに手を付けとかんと……」


 テレスティアはウィルと目が合うと、また慌てて顔を背けてしまった。

 肩に顔を埋めてくる孫にワグナーがくっくと喉の奥で笑う。


「まぁ、よい。それよりもテレス。ウィルたちが来たら見せてもらいたいものがあったんじゃなかったのか? もう頼んだのか?」


 今のテレスティアの様子を見れば、頼みごとがまだなことぐらい容易に想像できた。

 しかし、なんでも大人の手で解決してしまっては全く進歩がない。

 できるできないは兎も角、目的に誘導してやるのが大人の努めだ。

 テレスティアが首を横に振るとワグナーはその顔をのぞき込んで口の端を釣り上げた。


「頼んでみよ、テレス。儂も付いておる」


 必要なのはきっかけを作るという事だ。

 ワグナーに促されて頷いたテレスティアはその腕から降りてウィルに向き直った。

 察したオルフェスもウィルを降ろし、ウィルとテレスティアが向き合うように仕向ける。


「あ、あの……」


 ワグナーに背を支えられたテレスティアがおずおずと尋ねた。


「げんじゅーさん、みせてもらってもいい?」


 一瞬、キョトンとしたウィルの表情がみるみる笑顔に染まっていく。


「いーよ!」


 快く頷いたウィルは両腕を広げた。


「れびー、おいで!」


 ウィルの呼び声に応えるようにウィルの体から緑光が溢れ、その体からレヴィが飛び出した。

 床に着地し、後ろ足で耳の後ろを掻くレヴィを見たテレスティアの表情がパッと華やいだ。


「さわってもいい?」

「やさしくね」


 レヴィを囲んで打ち解け始めたウィルとテレスティアに周りの者たちからも笑顔が溢れる。


「さて、私たちもそろそろ……」


 お互いの弟妹を微笑ましく見守っていたアルティシアが腰を上げ、セレナも立ち上がる。

 これから二人は子供たちの社交会に参加しなくてはならない。


「いいなぁ、お姉様。私も木剣振りたい……」


 支度を始めるアルティシアを見たフレデリカが頬を膨らませる。

 それにニーナが喰いついた。


「木剣、振れるんですか!?」

「ええ。私はいつもお庭で剣のお稽古してるから」

「見たい、行きたいです!」


 前のめるニーナに目を瞬かせていたフレデリカが我が意を得たりと笑みを浮かべる。


「剣の道は険しいわよ?」

「わたし、お父様のような剣士になりたいんです!」


 お互いがっしりと腕を組む少女たちに王妃とセシリアが頭を抱えた。

 珍しく大人しくしていた二人だったが、とうとう我慢の限界がきたようだ。


「待たんか、フレデリカ……」


 深々と嘆息したアルベルトも声をかける。

 いつも楽しみにしている習い事だとしても今日ぐらいは自重してほしい、と。

 その様子にワグナーが頷いた。


「そうじゃぞ、フレデリカ。そんな格好では剣を振れまい。着替えてからにしなさい」

(違う……)


 見当違いな実父の発言にアルベルトが微妙な顔をする。

 だが、ワグナーは特に気にした様子もない。


「せっかく歳も近いんじゃ。気の合う友は大事にせねばのう」

「「はいっ!」」


 元気よく返事をするニーナとフレデリカ。

 結局、二人は揃って剣のお稽古をすることになった。

 セレナとニーナの供をするため、トマソンとエリスが席を外す。


「ところでセシリアよ」


 子供たちのいなくなった席に腰掛けたオルフェスがセシリアの顔を覗き込んだ。

 座り直したセシリアが姿勢を正し、正面からオルフェスを見返す。


「はい、お父様」

「ウィルに精霊魔法研究所を見せたいそうだな」

「ええ……」


 エリスの進言を得て以前から考えていたことだ。

 それによって魔法に対する見識を深めて貰えれば、と。

 ただ、精霊魔法研究所は国益に直結しているため許可のない人間の見学は原則禁止されていた。

 本来なら子供に見学させたところで無害なのだが、見た端から魔法を修得してしまうウィルに見せてもいいものなのだろうか。


「うーむ……」


 アルベルトは顎に手を当てて唸りながらウィルの方へ視線を向けた。

 自分の娘と楽しそうにしている姿を見ると本当に普通の子供だ。

 ワグナーやオルフェスに視線を移すが二人ともアルベルトの判断を待っている。

 二人はすでに引退した身であり、全ての決定権はアルベルトにあるのだ。


「……分かった。ゆっくりと見学してくるといい」


 結局、アルベルトは国益を損ねる可能性よりもウィルが何を得てくるかという興味の方が勝った。

 それに例え国益を損ねたとしても、ウィルにはそれを補って余りある利益をもたらしてもらったのだ。


「ウィル、テレス、こっちへ来なさい」


 アルベルトが二人を呼ぶとウィルとテレスティアが並んでアルベルトの下まで戻ってきた。もうすっかり打ち解けたようだ。

 二人を抱き上げたアルベルトがウィルと視線を合わす。

「ウィル、この国で魔法を研究しているところがあるんだが、行きたいか? 少し遠い所にあるんだが……」

「まほー?」

 研究という言葉がいまいち分かっていないようだが、魔法がある場所なら行きたいのがウィルである。

 なのでウィルは真面目に答えた。

「いくます!」

(((いくます?)))

 それが「いきます」と言いたかったのだと気付くと、大人たちは思わず笑ってしまった。


【人物】

・アルティシア……第一王女。

・フレデリカ……第二王女。

・テレスティア……第三王女。


・オルフェス……ウィルたちの祖父。ワグナーの弟。

・ワグナー……先代の王。王女たちの祖父。オルフェスの兄。

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― 新着の感想 ―
[一言] 今後も出ないのかもしれないけど王妃の名前も教えてほしいです
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