暇人・三衣
●某日、ショッピングセンターにて●
千「三ちゃん。これ、どっちがいい?」
三「ん、赤い方やな」
千「じゃこれは?」
三「俺はライン無い方がええと思う」
千「季節を先取りした服の方がいいし……。
うぅーん……悩むなあ」
三「千づっちゃん、千づっちゃん。これなんかどや?」
千「おお、いいね!似合うと思う!!」
三「せやろ。三衣チョイスにかかればこれくらい。ってコラ。」
千「ん?なぁに?」
三「何で俺が買い物につき合わされとるんや?」
千「アタシ、プレゼント、買う。
三ちゃん、ヒマ。手伝う、当たり前」
三「確かに期間限定ながら暇は持て余しとるからなぁ。何でカタコト?」
千「理由は無いわよ。
でもさ、普通そんな時は何かしら動くものじゃないの?」
三「もちろん、頭の中では常に日常、非日常が回っとるよ。
思いついた事を記録するメモもほれ、この通り」
千「携帯にテキストで保存とかじゃないんだ。意外」
三「手書きに勝る記憶方法はあらへん。
記録方法としては効率悪いけどな」
千「そんなもんなの?」
三「そんなもんやな」
千「見せて見せて」
三「ほい」
千「……解読できないんだけど。
"意外性、三下、マフラー"……何これ」
三「舞台はある会社。彼氏と社内恋愛しとる主人公。
その彼氏の上司から迫られて揺れ動く心……。
と、そんな話」
千「どこのハーレクイン!?
それより、メモの要素はどこ!?」
三「本人にだけ分かったらええんよこんなんは」
千「そうかも知れないけど……。
マフラーってのはプレゼントか何か?」
三「いや、違う違う。彼氏からのプロポーズがやね。
たまたま横を通ったバイクのマフラー音でかき消されるんよ」
千「そっちのマフラーなの!?
……小宇宙ね。三ちゃんの脳内は」
三「小宇宙と書いて"コスモ"と読むんやで。覚えとき」
千「またアニメか何か?
未知の知識を相手に押し付けるのはオタクの悪い癖だと思う」
三「発音がアカン。訂正を要求する」
千「なんでそんなに拘るの。これだからヲタクは」
三「ヲタクは褒め言葉やと思うけどなぁ。
ま、知識の押し付けは確かにあかんわな」
千「でしょう?」
三「きっちりと、興味が持てるように一から話して聞かせるべきやったな。
まず聖闘士っちゅうのがおってやな……」
千「ストップストップ!!まさに押し付けようとしてるよ三ちゃん!!」
三「世界を共有したいと思うのは人として当然の欲求や」
千「なんかそれらしいけど、アタシをそっちの世界へ連れていかないで!」
三「へいへい。で?決まったん?プレゼントは」
千「そうね。無難にジャケットにする。買ってくるから待ってて」
三「や、二階の本屋に行っとるで。新書、何かないか見てるわ」
千「分かった。また後で」
三「ほいほい」
メモは偉大です。それも、手書きの。
自分の中で奥底にしまい込まれたような記憶でも、メモを見れば自然と浮かんできます。メモをとった瞬間に意識だけがタイムリープする感じですね。
機械的なメモだとこうはいかない。筆跡や乱雑さ、メモのどの部分に書かれているか。それら全てが情報の断片です。
しかしメモをどこかに置き忘れた時に限って浮かんでくるイメージ。
それを覚えておくのも難しいので、そんな時は三衣はその場でショートストーリーを作って遊び、あっさりと忘れてしまいます。
世の中は一期一会。浮かんできたイメージよ、機会があればまた会おう。くらいの感覚で。
執着しすぎると、それを使わなければいけない義務感に駆られますからね。
本当に良いイメージだったか吟味してから使わなければいけません。




