表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ひきこもり異世界転移〜僕以外が無双する物語〜  作者: みやこのじょう
第6章 ひきこもり、帝国へ行く

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

97/188

89話・人が消えた街 2

ラトス誘拐6日目

 無人の街、ガルデア。


 ほんの数日前まで普通に生活していたはずなのに、誰も居ない。忽然と姿を消した住民の行方は分からないままだ。家財道具などの一切が残されており、荒らされた形跡もない。


 謎は深まるばかりだが、先を急がなくてはならない。住民の行方を探している余裕はない。


 しっかりとした塀と堀に守られた街での宿泊は、魔獣の襲撃もなく安全だった。何事もなく朝を迎えられた僕達は、宿屋の一階にある食堂に集まった。


 シェーラ王女もよく眠れたようで顔色がいい。


 厨房に残されていた傷んでいない食材を拝借し、アーニャさんがスープを作ってくれていた。数種類の根菜とベーコンが煮込まれていて、温かくて美味しい。それと、薄切りにした固パンにチーズを挟んだもので朝食となる。


 食べながら、本日の行程を決める。とは言っても、真っ直ぐ街道を南下するしか道はない。


 ユスタフ帝国の詳細な地図を広げ、まず現在地を確認する。



「昨日は昼過ぎに出発したから、まだここまでしか進めていない」



 オルニスさんが指さしたのは、地図で見ると国境から然程離れていない街。そして、すっと街道沿いに指を滑らせる。


「今日は日中ずっと移動出来るから、日暮れまでには『キュクロ』まで行けると思う」


「ふむ、まあそこらへんが妥当だねェ」



 国境と帝都の丁度真ん中あたりにある大きな街、キュクロ。位置からして、このガルデアより栄えているはずだ。


 朝食を終え、早速出発の支度をする。


 幸いなことに、宿屋の中庭には井戸があった。持参した食糧と水はそんなに減っていないが、今後どうなるか分からないので、きちんと補給していく。


 オルニスさんは宿屋を出る際、カウンターに金貨を数枚置いていった。宿泊費や食材費、厩舎の利用代金として。勝手に使わせてもらった迷惑料も含めているのだろう。例え無人でも、きちんと対価は支払う。こういう所に人柄が出る。


 建物から出ると、既に隠密さん達が馬を引いて準備していてくれた。飼い葉と水をしっかり摂って、馬達も調子が良さそうだ。昨日と荷物持ちと人が乗る馬が入れ替わっている。これも馬の負担を軽くする為だ。



「南門周辺、魔獣はおりません」


「分かった。では行こうか」



 昨日入ってきた北門ではなく、反対側の南門から出る。


 隠密さんの先導で街のメインストリートを馬で進む。もう夜が明けたというのに、どの家からも炊事の煙は上がっていない。もしかしたら、夜のうちに住民が戻っているかもしれないという予想は外れた。


 不気味なほどに静かな無人の街を後にして、街道へと出る。早朝の冷えた空気が肌を刺す。


 ガルデアの周辺には集落跡地が点在していた。全て廃墟と化している。やはり、頑丈な塀のない場所は魔獣の被害に遭っているようだ。


 徐々に馬の速度を上げ、南を目指す。途中、何度か魔獣に出くわしたが、全て振り切った。


 たまに足の速い魔獣に追われると、オルニスさんが長針を投げて対処していた。謙遜してたけど、オルニスさんも十分強い。


 街と街を繋ぐ道を走っているにも関わらず、僕達は未だに誰とも遭遇していない。魔獣が多いとはいえ、護衛を付けた荷馬車くらいは走っているかと思ったが、それもなし。



「みんな大都市に避難してるのかねェ?」


「それにしては不自然かと」



 そう、不自然過ぎる。


 ガルデア以降、立ち寄る予定のない街の側を通り掛かったが、やはり街には住民の気配はなかった。荒らされたり、避難していった形跡もない。


 隠密さん達に軽く探索してもらったけど、ガルデアと同じで、住民だけが姿を消している状態だった。


 まだ、帝国で人を見掛けていない。


 何だか嫌な予感がする。





 太陽が真上に来た頃、休憩を取る事にした。街道から少し離れた場所に小川があり、そこで馬を降りて休む。周辺は隠密さん達が警戒してくれているので、安心していられる。


 持参した携帯食と水でおなかを満たす。ボソボソした食感の、甘くないカロリーメイトみたいな携帯食が口の中の水分をかなり奪う。美味しくはないけど、シェーラ王女が文句も言わず食べているのだ。庶民の僕は黙って我慢するしかない。



「そういえば、隠密さん達って食事はどうしてるんですか? 荷物用の馬に乗せてるのは僕達の分だけなんでしょ?」


「彼等は個人で携帯している。必要があれば現地で補給するだろう」



 そういうものなのか。


 てっきり何人かは一緒に休憩するかと思っていた。何か報告がある時以外、隠密さん達は常に姿を消している。軽装だし、水や食料を持ってるようには見えなかったけど。



「気に掛かるのかい?」


「え、そりゃまあ心配ですよ」


「はは。ヤモリ君に心配されるようではね」



 何故か笑われてしまった。



「だって、隠密さん達ずっと走ってるんでしょ? 僕だったら馬と同じ速度で走り続けるとか無理だし、大丈夫なのかなって」



 昨日移動した距離は七、八十キロくらいだろうか。しかも走るだけじゃない。移動中は先行して周囲を警戒し、街に着いても探索や馬の世話をしたり、夜も休まず警護に付いている。


 ちょっと働かせ過ぎなんじゃないかな。



「……私、生まれた時から隠密が付いてましたから、特に考えた事もありませんでしたわ」


「アタシもだよ」



 シェーラ王女とアーニャさんは、そういった存在が身近にあり過ぎて、疑問も抱いていないみたいだ。王族と高位貴族の生まれだもんな。周りに超人的な隠密ばかりだったのもあるだろう。


 僕は庶民だし、隠密的な存在で関わった事があるのは間者さんだけだ。だから、どうしても彼等を同じ目線で見てしまう。気配を消したり素早く移動出来たりはするけど、僕達と同じ人間なんだって。



「……そんな風に考える人が他にもいるとはね」



 オルニスさんは目を細めて笑っている。何故か機嫌が良さそうだ。



「さて。馬もたっぷり水を飲んだようだし、そろそろ出発しようか」



 再び馬に乗って街道を南下する。


 先行した隠密さんが倒したと思われる魔獣の死骸が、街道の左右に点々と転がっている。それ以外、何も変わった事は無かった。


 やはり、人は居ない。


 馬車も通らない。


 国内に魔獣が大量発生したら、軍が討伐に出ていそうなものだけど、兵士も見掛けない。


 お陰で予想より順調に進めてはいるけど、ただただ不気味で仕方がない。


 日が暮れる前に、今日の目的地であるキュクロに到着した。


 しかし、この街にも住民が居なかった。ガルデアと同じように、数日前まで人が生活をしていた痕跡があった。内部に入り、軽く探索してみたが、やはり誰もいない。


 街の大通りにある一番立派な宿屋に入り、今日はここに泊まる事にした。宿屋の主人は居ないので、勝手に部屋を使わせてもらうのだ。


 まさか二日連続で、ちゃんとした布団で眠れるとは思わなかった。今日は野宿を覚悟していたから、ちょっとラッキーだ。



「流石に妙だな」



 大きな街の住民がいない。それも二箇所連続で。帝国領に入って1日半経つが、未だに人を見ていない。



「この街の規模なら二千人は住民がいるはずだ。地方のガルデアだけならともかく、中心部に近いキュクロが何故……」



 僕達が確認していないだけで、街道から外れた街も無人かもしれない。


 得体の知れない恐怖を感じる。


 シェーラ王女も、口には出さないが怯えているようだ。



「万が一という事もある。今日は大部屋で一緒に休むとしよう。よろしいですか、殿下」


「え、ええ。構いません」



 オルニスさんの提案に、明らかにホッとした様子で返答するシェーラ王女。やっぱり怖かったんだな。


 宿屋の二階にある団体用の客室を選んで入る。ベッドが四つ、真ん中にはテーブルがある。



「んじゃ、ちょっと机を借りるよ。今日の分の連絡をするからねェ」



 そう言って、アーニャさんはカバンから小さな紙切れを何枚か取り出し、テーブルの上に並べた。それぞれに何か書いてある。



「アーニャさん、この紙何ですか」


「これはアンタもよく知ってる『引き合う力』を応用した連絡手段だよ。まあ見てな」



 並べた紙の中から目当ての一枚を選び、それ以外の紙は再びカバンにしまった。選ばれた紙には『旅程順調、異常無し』と書いてある。



「これと対となる紙は、国境手前に敷かれた陣にある。元は一枚の紙を半分に切って対にしたのさ」



 説明しながら、アーニャさんは紙切れの『異常なし』の部分に線を引いて消し、『キュクロ住民0』と書き込んだ。


 そして、テーブルの上から手を翳す。


 まさか、この場でやるの?


 以前、アールカイト家で行った『引き合う力の実験』ではかなりの魔力を消費していたけど……


 不安そうな僕を見て、アーニャさんが笑った。



「大丈夫さ。同じ世界なら大して魔力は使わないからねェ」



 翳した手から光が放たれる。そして、一瞬で光が消え、テーブルの上の紙切れも消えていた。


 予想より随分アッサリと終わった事に驚く。



「昨晩も同じように向こうに報告してある。まぁ、街の住民がいなくなってるなんて言われても困るだろうがねェ」



 そうだったのか。昨日は別の部屋を使ったから知らなかった。いや、オルニスさんは知ってるか。



「さあ、休めるうちに休んでおこう。この建物内は安全が確認されているが、出来るだけ離れずに。単独行動は避けてほしい」


閲覧ありがとうございます。


次回更新は11月30日(土)の予定です。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ