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ひきこもり異世界転移〜僕以外が無双する物語〜  作者: みやこのじょう
第6章 ひきこもり、帝国へ行く

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84話・ラトス救出作戦会議 1

ラトス誘拐3日目

 夕食後、再び応接室へと移動した。これから、ラトス救出の作戦をみんなで考えるのだ。


 念の為、置き型の盗聴阻害魔導具を作動させている。シェーラ王女付きの隠密が応接室の周囲を警戒をしているはずだが、万が一という事もある。作戦を漏らす訳にはいかない。


 参加者は、辺境伯のおじさん、エニアさんとオルニスさん、アークエルド卿、ブラゴノード卿らアーニャさん、シェーラ王女、おまけで僕。


 他に、従者や護衛が各参加者の後ろに立って控えている。僕の後ろにはクロスさんがいる。まだ僕の護衛の任は解かれていないみたいだ。


 そして、新たに駐屯兵団から団長さんが加わった。僕が異世界に来て最初の頃にお世話になった人だ。



「ヤモリ君、久し振りだな。こんな時で無ければ再会を祝えたのだが」


「そうですね。でも、また団長さんに会えて嬉しいです」


「私もだよ」



 ポンポンと肩を叩かれ、ちょっとだけ心が軽くなった。


 団長さんは、僕にとっては年の離れた兄のような存在だ。魔獣の大量発生で怪我を負った様子も無いし、元気そうで何よりだ。



「さて諸君。我が孫ラトスの救出の為に集まってくれて感謝する。これより、作戦会議を始める。意見のある者はすぐ発言するように」



 辺境伯のおじさんの仕切りで会議が始まった。


 中央のテーブルに、大きな地図が広げられた。サウロ王国の南半分とユスタフ帝国全土が描かれている。今まで僕が見た地図はサウロ王国中心のものばかりで、ユスタフ帝国は国境付近しか描写がなかった。しかし、この地図には、目的地となる帝都もしっかりと描かれている。



「これは二十年以上前の、ユスタフ帝国が国交を閉ざす前に作られた地図じゃ。現在はどうなっとるか正直わからん。だが、帝都の位置は変わらんじゃろう」



 地図によると、帝都はノルトンを真っ直ぐ南下した位置にある。街道沿いに南を目指せば迷う事なく辿り着けるだろう。


 問題なのは時間だ。


 帝都での人質交換の期日が迫っている。ラトスが攫われたのが三日前の夕方。十日以内に帝都に行くには、あと七日残っているが、今日はもう移動は無理だろう。実質六日しかない。



「さて、これまでユスタフ帝国との国境を直に見た事が無い者もおるじゃろう。ラキオス、その辺りの説明を頼む」


「はっ」



 辺境伯のおじさんに促され、末席に座っていた団長さんが立ち上がった。会議の参加者達は国家の重臣ばかりだ。ちょっと緊張しているようだ。



「えー……我が国とユスタフ帝国との国境には、高さ五メートル程の石壁が建造されております。これは、二十年前の戦争終了後から数年掛け、帝国が作り上げたものです」



 指し棒で地図上の国境ラインをなぞりながら、団長さんが説明を続ける。



「この石壁には、所々に通用門らしき大きな鉄の扉がありますが、普段は固く閉ざされております。魔獣は、この通用門から我が国に放たれていると予想されます」


「その門は、塞いだり出来ないのか?」



 アークエルド卿が口を挟んだ。



「勿論、こちら側から石を詰んで塞いだり、鉄の扉を動かないよう固めた事もあります。しかし、門の数が多い為、全ての門に対応する事は難しいかと」


「実際に見てきたよ。確かに数が多い。ありゃ全部塞ぐのは手間だねぇ」



 アーニャさんが溜め息まじりにそう言った。ノルトンに到着してすぐに国境まで下見に行ったらしい。



「それに、石壁も相当頑丈な作りだった。崩すのは骨が折れそうだよ」



 当初の帝国侵攻作戦では、魔法で石壁を壊し、そこから兵を投入する予定だった。今回のラトス救出作戦では、騎士や兵士は帝国領へは入れない。少数精鋭で赴く為、無理に石壁を壊す必要はない。


 だが、ラトスを助け出した後の報復として攻め込むには、やはり石壁の存在は邪魔となる。いずれにせよ、いつかは壊す時が来るだろう。



「帝都までの距離は、国境から馬で三日、徒歩で八から九日程掛かる。明日出立せねば間に合わんじゃろう」


「門を一つ抉じ開け、全員馬に乗って行くべきでしょうな」



 歩いて行ったのでは間に合わない。馬に乗っていけばなんとか間に合うくらいか。


 ……って、馬???

 


「あの、僕、馬に乗った事ないんですけど」



 恐る恐る手を挙げてそう告げると、師団長達が頭を抱えた。


 なにしろ、僕が行かなくてはラトスが救えないのだ。役立たずの足手まといだとしても、僕だけは絶対に帝都まで連れて行かなくてはならない。



「私の馬に相乗りしたらいい。ヤモリ君は小柄だから問題ないだろう」


「では、オルニスの後ろに乗せてもらうように」



 良かった、オルニスさんと一緒なら安心だ。


 何故かエニアさんから羨ましそうな視線を向けられた。この件が片付いたら二人で好きなだけ相乗りしたらいい。



「殿下はどうですか」


「……小型の馬ならば一人で乗れます。でも、長時間の遠駆けは経験がありません」



 アークエルド卿に尋ねられて、少し申し訳なさそうにシェーラ王女が答えた。


 馬での移動が出来なければ、帝都行きのメンバーから外されると思ったのだろう。だからといって、偽れば現地で迷惑を掛けてしまう。正直に申告したのは、それだけラトス救出に対して真剣だからだ。


 それにしてもシェーラ王女、馬に乗れるんだ。貴族の嗜みなんだろうか。というか、十一歳の女の子より何も出来ない僕って、本当に役に立たないな。



「その件ですが、アーニャ司法長官に同行をお願いしたい。長官は騎士でも兵士でもないから条件に(かな)う。どうでしょう」


「勿論そのつもりさ。それで、アタシが殿下と相乗りすりゃいいのかい?」


「そうしていただけると助かります」



 あっさり快諾してもらえた。


 シェーラ王女は女の子だ。馬で相乗りするならば、女性のアーニャさんが適任だ。


 これで、帝都行きのメンバーにアーニャさんが加わった。強力な魔法使いであるアーニャさん。めちゃくちゃ心強い仲間だ。



「話は変わりますが、昨晩宿泊地の街が魔獣の群れに襲われました。明らかに私達を狙った襲撃です。魔獣を誘導、もしくは服従させている者がいるのでは?」



 小さく手を挙げ、オルニスさんが質問する。それに対しては、辺境伯のおじさんが難しい顔をして口を開いた。



「有り得る話じゃ。そもそも、魔獣が群れで行動する事自体がおかしい。彼奴らは普通の獣より遥かに強い。群れる必要などないのじゃからな」


「上位種には従う場合もあるけど、違う種の魔獣とは絶対に相容れないはずよ」



 辺境伯のおじさんの言葉に、エニアさんが同意した。


 大規模遠征時、白鰐が灰大鰐を率いていた事がある。灰大鰐は上位種である白鰐に服従していたらしい。同じ鰐の魔獣同士だから、それは有り得る。


 しかし、同じ種でも同じレベル、つまり白の魔獣同士や灰の魔獣同士では、通常群れる事はないという。


 キサン村の時は白狼が六匹一度に襲い掛かってきた。白の魔獣同士が群れるのは明らかにおかしい。


 昨晩の襲撃も、僕達の部屋に現れた白狒々と、街を荒らした黒と灰の狼の魔獣は種が違う。



「普通じゃない動きをする魔獣は確かに居る。恐らくは、行動を操られておるんじゃろう」



 じゃあ、あの事件はやはり人為的なものだったのか。わざと魔獣を村に差し向けた奴がいるんだ。トマスさんの勘は当たっていたのかも。



「帝国領に入れば、魔獣が多数出てくるだろう。しかも、操られている可能性もある。普通の魔獣とは違う動きをするやもしれん」


「騎士や兵士が同行出来ない以上、魔獣対策をしっかり考えておかねばな」



 帝都行きのメンバーは、まず異世界人の僕。ラトスを解放してもらう為に、身代わりの人質として行く。戦力にはならず、完全なお荷物である。


 次に、ラトスの父親、オルニスさん。第一文政官であり、騎士でも兵士でもない。魔法は使えないが、毒針のような武器で敵の動きを封じる。他にも何か武器を持っているかもしれない。


 そして、シェーラ王女。彼女はラトスに好意を抱いており、自ら救出メンバーに志願した。まだその腕前は見ていないが、かなり魔法が使えるらしい。


 先程加わったのが、アーニャさん。魔法と教育を統べる司法部の長官だ。この国一番魔法が使える人物であり、攻撃魔法以外にも幻覚魔法や空間魔法を得意とする。


 他に、王族とエーデルハイト家の隠密から選り抜きで十名ほど。彼等は基本姿を隠して同行する。索敵能力もあり、戦力としては申し分ない。


 魔法は魔力が尽きたら使えない。アーニャさんとシェーラ王女には、出来るだけ魔力を温存しておいて貰わなくてはならない。


 という事は、戦えるのは実質オルニスさんと隠密さん達だけ。大丈夫かな。



「魔力に関しちゃ、コレがあるからそんなに心配いらないと思うがねェ」



 そう言って、アーニャさんが懐から何かを取り出した。それは、何処かで見たような小さなキューブだった。


いつも閲覧ありがとうございます。


次回も会議です。

11月19日(火)更新予定です。

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