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ひきこもり異世界転移〜僕以外が無双する物語〜  作者: みやこのじょう
第5章 ひきこもり、王宮に移り住む

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73話・戦争の前の静けさ

 王様が僕に内密の話をした翌日の早朝。


 週末なので、政府機関や貴族学院はお休みだ。しかし、それにしては表が騒がしい。


 テラスに出て議事堂の方を見てみるが、庭園を挟んでいるからよく見えない。なんだか大勢の人達がザワザワしてるみたいなんだけど。



「これから出兵するらしーっすよ」


「え、そうなの!?」



 昨日の会議で一師団を派遣する目処がついたとか言ってた気がする。クワドラッド州の南端、ユスタフ帝国との国境まで行くから、準備や根回しの為にみんな忙しかったんだ。


 つまり、エニアさんとアーニャさんが出陣するって事だ。二人は国境の壁を破壊する攻城兵器代わりに行く。壊れた壁から侵入し、帝都まで攻め込むのは辺境伯のおじさん率いる少数部隊だ。師団は、壁から漏れ出た魔獣を退治する為の守りに付くそうだ。



「戦争、しに行くんだよね」


「そーっすね」



 事の発端は、ユスタフ帝国から溢れ出した魔獣だ。


 人為的に魔獣を増やし、戦争に利用しようとしていた帝国軍の上層部。二十年前の戦争時に、辺境伯のおじさんが研究施設を全て破壊して事なきを得た。


 しかし、最近になって魔獣が激増し、近隣の国々を襲った。魔獣の出所は帝国領内。帝国が再び魔獣を増やし始めたのは間違いない。


 今度こそ帝国を完膚無きまでに叩きのめし、二度と同じ事を繰り返させない為に出兵するのだ。


 ユスタフ帝国を放置したら、またキサン村の人達のように犠牲者が出てしまう。あの日の夜、血溜まりの中で死んでいった村長の奥さんや、魔獣と相討ちになって斃れた村長さんとロフルスさんの姿がまぶたの裏に蘇った。


 必要な戦いだと理解はしているつもりだけど、戦いに行けば必ず誰かが傷付いてしまう。平和な日本で生まれ育った僕には、やはり抵抗があった。



「間者さんは平気なの? 帝国出身なんでしょ」


「そう言われても、自分(ジブン)が赤ん坊の時の話っすよ? 何も覚えてないし、帝国が滅んだとしても何とも思わないっすねー」



 僕の問いに、ケラケラ笑って答える間者さん。


 そういうものか。こう、感傷とかないのか。


 もしユスタフ帝国が滅んだら、間者さんの家族を探す手掛かりが完全に消えてしまう。尤も、本人は記憶に残っていない両親や祖国には一切関心がなさそうだけど。


 表の騒めきはまだ収まらない。



「……ちょっとだけ、見に行きたいな」


「んじゃ行きますかー」



 人混みは苦手だけど、離れた場所から見るくらいなら平気だろう。


 間者さんが人気のないルートを案内してくれて、議事堂前の広場が見渡せる場所まで来る事が出来た。休日だから出仕してる人が少ない上に、殆どの人は見送りの為に外に出ている。端にある空部屋に侵入し、そこのテラスから下を見下ろす。


 一師団二千人は城壁の外で待機しているらしい。


 王様やヒメロス王子達が、師団長や兵士長達に激励の言葉を掛けているのが見えた。王様の後ろには、宰相のおじいさんとオルニスさんが控えている。エニアさんとアーニャさんの姿を見つけた。二人は揃いの軍服を着ていた。


 アーニャさん、王国軍所属じゃないのに軍服? これから戦場に行くし、軍服の方が丈夫で動きやすいからかな。


 エニアさんは、いつになく真面目な表情をしている。これから行くクワドラッド州は、エニアさんの父・辺境伯のおじさんが守る領地だ。戦いの展開によっては、領民が危険に晒される可能性もある。


 それに、早く行かねば、痺れを切らした辺境伯のおじさんが単騎で帝国に突っ込み兼ねない。


 エニアさんが家を開ける事で、またマイラ達が寂しい思いをするだろう。しかし、近隣諸国の安全の為にも、今のうちにカタをつけなくてはならない。


 王様が、アーニャさんに何かを手渡しているのが見えた。離れているので、何を話しているかは聞こえないが、間も無く出発するようだ。


 これまで、帝国側に悟られぬように極秘に準備を進めてきたが、大軍を動かせば流石にバレる。ここからはスピード重視で兵を移動させねばならない。だから、兵達はみな馬に乗っていくらしい。


 王都からクワドラッド州ノルトンまで、馬車で休み休み行けば二泊三日だが、軍馬で駆ければ一日半位で着く。食料などを載せた荷馬車はそれより足が遅い為、既に野営地に向けて出発しているという。流石、遠征慣れしている。


 こうして、王国軍の一師団と軍務長官、司法長官は、ひっそりと出発していった。


 



 王宮の居住区域にある自室に戻り、ふかふかのソファーで寛ぐ。人目を忍んで議事堂まで行ったから、ちょっと疲れた。同じ王宮の敷地内だけど、僕の部屋からは距離があるからね。



「何事もなく帰ってきてくれるといいけど」


「エニア様なら大丈夫っすよ。辺境伯(あるじ)も今回ばかりは本気で戦うと思うんで」



 間者さんは全く心配していないようだ。それだけあの二人が強いという事だろう。


 そう言えば、辺境伯のおじさんやエニアさんが戦ってる所って見た事がないな。僕が基本ひきこもってるからだけど。


 外に出るの嫌いだし。おうち大好き。いや、ここ王宮だけど。最初は嫌だったけど、何日か暮らすうちに馴染んできた。慣れって怖い。


 二人でだらだらしていたら、控えの間にいる侍女さんから声が掛かった。



「ヤモリ様、間もなく殿下達が参られます」


「え」



 すぐに姿勢を正した。さよなら寛ぎタイム。


 師団とエニアさん達の見送りが終わったから来るのだろう。ちょうど午前のお茶の時間でもある。


 侍女さん達が手早く部屋を片付け、テーブルにお菓子を並べている。ヒメロス王子達が来て席に着いてから、淹れたてのお茶が振舞われるのだ。


 また間者さんが姿を消している。ずるい。



「やあ、ヤモリ君」


「い、いらっしゃい」



 王族の居住区域を間借りしておいて『いらっしゃい』と言うのも変な話だな。


 ヒメロス王子に続いて、アドミラ王女も入ってきた。シェーラ王女は、ラトスが居ないなら行かない、と自室へ戻ったという。まあ、そうなるよね。



「さっき、上の空き部屋から見てただろう?」


「え、バレてたんですか」


「私の隠密が教えてくれたんだ。キミの護衛は議事堂の造りに詳しいようだね」


「いやー、ははは……」



 前々からオルニスさんの使いで出入りしていたからね、間者さん。


 しかし、王子の隠密は優秀だな。今もこの部屋の周辺にたくさん居るに違いない。もしかしたら、見えない場所で間者さんがまた針のむしろになってるかも。


 アドミラ王女は、何故か今日は元気がない。ヒメロス王子の隣でおとなしく座っている。


 そう言えば、昨日授業中にマイラの魔力が暴走し掛けたんだった。もしや、その事で気落ちしている?



「あの、大丈夫ですか」



 声を掛けると、アドミラ王女は顔を上げ、小さく頷いた。やはり元気がない。



「……(わたくし)、お友達失格だわ。昨日、マイラが困っている時、咄嗟に動けなかったの」


「まだ思い悩んでいたのかい、アドミラ」



 涙目のアドミラ王女に、ヒメロス王子が困ったように小さく息を吐いた。恐らく、昨日帰宅した時からずっとこうなのだろう。



「あの、授業中にマイラの魔力が暴走しそうになったとは聞いたんですけど……被害はなかったんですよね?」



 怪我人はいなかったとアーニャさんが言っていた気がする。



「ええ。先生方がマイラの魔力に干渉して中和して下さいましたから。私も含め、近くにいた生徒はみんな無事でした。でも、とても危険な状態だったわ」


「それで、何故王女様が気に病んでいるんですか」


「……私がもっと魔力操作が上手ければ、一番近くに居たのだから、大事に至る前に対処出来たのにと思って」



 暴走未遂後、マイラが司法部送りにされた事に対して悔やんでいるようだ。


 アドミラ王女のせいじゃないのになぁ。どうも王族の人は、周りの責任まで勝手に背負いがちだ。



「マイラなら大丈夫。司法長官が何とかしてくれましたよ」


「まあ。ヤモリさんはご存知なの?」



 あ、もしかして、昨日の事はアドミラ王女に報告が行ってない? 出兵準備で忙しい最中の話だから、司法部もバタバタしてて忘れていたのかも。


 僕は、昨日司法部に呼び出され、マイラに付き添った時の事を掻い摘んで説明した。


 魔導具を借りたので、今後は暴走の危険はないと言ったら、アドミラ王女は安堵の表情を浮かべて笑った。



「良かった。なら、明日学院に来てくれるわね」



 本当にマイラが心配だったんだな。アドミラ王女が元気になって何よりだ。


 アドミラ王女の気掛かりが解消され、今度はヒメロス王子が口を開いた。



「さて。昨晩、父上がお邪魔したそうだね」


「え、ええ。まあ」


()()()、聞いたんだろう?」


「……ええ、まあ……」



 昨晩の事、王様から直接聞いたのだろうか。


 僕の顔を正面から見据えるヒメロス王子。穏やかな表情をしているけど、なんか怖い。

キャラ紹介イラストを描いてみました


1話の前にイラスト置き場を設置したので

良かったら見てやってください

随時更新しております

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