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ひきこもり異世界転移〜僕以外が無双する物語〜  作者: みやこのじょう
第5章 ひきこもり、王宮に移り住む

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67話・王宮への引っ越し

 僕の王宮行きが決まった。



「以前だったら反対してたかも」


「ボクたちも王宮に行くし、別にいいよ」



 マイラとラトスの反応はこんな感じ。やはり、週二回出入りするようになったから、王宮が身近な場所に思えているようだ。


 その辺も考えて、僕の引っ越し前にマイラ達を講義に参加させたんだろうな、ヒメロス王子。



「王宮に行ったら絶対講義も一緒に受けるのよ! でなきゃ許さないんだからね!」


「わ、分かったよ」



 やっぱり外交の講義を受けさせられるみたい。


 慣れ親しんだ辺境伯邸ともこれでお別れかぁ。王都に来てからずっとお世話になってたから、正直離れたくない。


 でも、荷物を片付けて出て行かなくては。まあ、僕の私物なんかほとんどないんだけど。


 持っていくものは、僕用に仕立てて貰った普段着数着と靴、トマスさん作の猪革の財布、通行証、あとは盗聴防止の魔導具だけ。

 

 うーん、トランクひとつで済みそう。


 僕が持参するもので一番大きいものは間者さんかも、と真顔で言ったらドン引きされた。



「間者さんは? 荷物ないの?」


「え。自分はいつでも辺境伯邸(こっち)に帰れるんで」



 なにそれズルい。

 

 まあ同じ王都内だし、距離はさほど遠くない。王宮出入りの許可さえあれば、屋敷に戻るのは簡単だ。



「ヤモリ様、お手伝いする事はありますか」


「いえ、荷物少ないんで大丈夫です。ありがとうございます」


「……寂しくなりますな」



 家令のプロムスさんは気落ちしているようだ。荷造り中の僕の様子を見て、小さな溜め息をこぼしている。


 僕がアリストスさんに連れ去られる時、プロムスさんは必死に止めようとしてくれた。その事があったから、無事に帰って来てからはよく喋るようになったんだ。



「王宮暮らしがお嫌になりましたら、いつでも戻っていらして下さい。エニア様とオルニス様から、この部屋はこのまま維持するようにと申しつけられておりますので」


「え、いいんですか」


「勿論でございますとも」



 にこやかに頷くプロムスさん。


 王宮行き快諾の裏には、そんなやり取りがあったのか。僕の逃げ場を用意してくれているなんて。辺境伯邸の人達には、本当にお世話になりっぱなしだ。


 実際に戻るかどうかは別として、王宮以外にも居場所があるのは有り難い。





「やあ、アケオ君。よく来てくれたね」


「おっお世話になります」



 翌日、馬車で王宮へ行ったら、ヒメロス王子が直々に出迎えてくれた。めちゃくちゃ畏れ多い。


 間者さんは普通に僕の後ろに付いてきている。びくびくおどおどしている僕とは違い、堂々とした立ち居振る舞いだ。



「殿下。ヤモリ君をよろしくお願い致します」


「あんまり虐めないであげてねー」



 同じ馬車で王宮まで来たオルニスさんとエニアさんは、途中でそれぞれの執務室へと向かう為に別れた。


 毎日仕事で王宮に来るからか、二人ともあっさりしたものだ。


 持ってきたトランクは、建物に入った時点で侍女らしき女の人達が回収して何処かに持って行ってしまった。中身をチェックしてから部屋まで運んでくれるのだろう。



「ここまでが政務用の議事堂で、中庭を挟んだ奥の建物が王族の居住区になるんだ」



 正門から見える建物が、色んな役職の人達が出入り可能な政治の場、日本で言うなら国会議事堂みたいな場所だ。その奥、手前の建物に三方を囲まれるように建つのが王族の住む建物らしい。


 周りを囲まれているといっても、広い庭に樹々が生い茂り、空も見えるから閉塞感は全くない。


 建物を繋ぐ回廊の両端には警備の騎士さんが立っている。僕に対しても笑顔で敬礼してくれた。見慣れた顔だ。アールカイト侯爵家の騎士さんだろう。



「君の部屋もここに用意させて貰ったよ」



 王族と同じ建物で暮らすとか、大丈夫か?


 僕は一般人だぞ? 異世界人だからって、優遇し過ぎじゃない? 僕が非力で魔法も使えないから、無害認定されているんだろうか。


 しかし、王族用の建物は何から何まで豪華だな。天井は高いし、廊下は鏡のように磨かれているし、ただの柱や梁にも細かな彫刻がびっしり。要所要所に宝石らしきものが埋め込まれている。


 用意された部屋も豪華だったら困るな。



「エーデルハイト卿から聞いたよ。君は華美な装飾を好まないそうだね」

 

「あ、ハイ。そういうの苦手で……」


「侍女達と相談して、落ち着いた雰囲気の部屋を用意してみたよ。気に入って貰えるといいけれど」



 僕の為に、わざわざ辺境伯のおじさんに聞いたり、侍女さん達に相談したりしてくれたのか。


 ノルトンの辺境伯邸では豪華な部屋が嫌過ぎて、無理を言って屋根裏部屋に住まわせて貰ったからな。


 ヒメロス王子が案内してくれたのは、二階の中央付近にある部屋だった。大きな両開きの扉を、部屋の前で待機していた侍女さん達が開けてくれた。



「わあ……!」



 室内は、ダークブラウンを基調とした家具で統一されていた。敷いてある毛足の長い絨毯も同じ色合いのもので、落ち着いた印象を受ける。


 しかし。


 よく見れば、家具の側面には全て飾り彫りが施され、金具は全て金。表面は傷一つなく艶やか。さり気無く部屋の隅に置かれた一抱えもあるような壺。カーテンを留めるタッセルの端に宝石。大きな額縁に収まった美しい絵画。そして、天井には煌めく水晶のシャンデリア。


 置いてある調度品は高価なものばかりだ。



「どうかな、アケオ君」


「いや、これは……」



 なんと言って良いものか。


 気を遣ってシックな感じにしてくれたんだろうけど、地味なのは色合いだけだ。


 侍女さん達が、扉の陰から僕の反応を窺っている。恐らく彼女達がヒメロス王子の相談に乗り、この部屋の家具選びをしてくれたんだ。


 ここで、もし僕が不満を漏らしたら、彼女達の仕事にケチを付ける事になってしまう。



「す、すごく素敵なお部屋です、ね」



 僕の言葉を聞いて、侍女さん達が小さくガッツポーズしている。



「そうか。気に入って貰えたようで嬉しいよ。ちょっと地味な気もするけど」



 生まれながらの王子様とは、地味の基準が違い過ぎる。かなり豪華で派手ですけど、と言いたい気持ちをぐっと堪え、僕は笑顔を繕って部屋の中を見て回った。


 アールカイト侯爵家の客室に似た構造で、廊下側の扉から入るとまず侍女さんの待機する小部屋がある。そこを通過してもう一つ扉を開けると、広いリビング。正面には中庭を見下ろせるテラスがあり、右奥にはバスルーム、左側には寝室。十分過ぎる広さだ。


 護衛の控え室として、隣に部屋が用意されていた。寝室と護衛の控え室が扉一枚で繋がっているので、万一の時も安心だ。ここは間者さんに使ってもらおう。


 寝室にはトランクが既に運び込まれていた。


 基本的に、来客などの取り次ぎは侍女さん達が対応してくれる。



「必要なものがあれば、彼女達に頼むように」


「ヤモリ様、何でもお申し付け下さいませ」



 エプロンドレスの裾を摘み、深々と頭を下げる侍女さん達。これから毎日顔を合わせる人達だ。



「お世話になります」



 僕も頭を下げて挨拶し返したら、侍女さん達が目を丸くした。あれ、なんか変だったかな。



「さて、私は仕事に戻るよ。君は少し休むといい。午後のお茶の時間までにはアドミラ達が帰ってくるはずだ」


「わかりました」


「──ああ、そうだ。腕輪を見せてくれないか」


「へ? はい」



 去り際、急に思い出したかのようにヒメロス王子が振り返った。腕輪と言うのは、先日司法部で貰った盗聴阻害の魔導具だ。


 上着のポケットに入れてあった腕輪を取り出し、ヒメロス王子に手渡した。



「普段から身に着けておくと良い」



 そのまま、王子は僕の左手首に腕輪を嵌めた。淡い光が腕輪を包む。あたたかい魔力を感じる。数秒後、光は消えた。



「これからは、私が魔力を入れてあげよう」


「あ、どうも……」



 間近でにこやかに微笑まれ、僕はたじろいだ。王族はみんな美形揃いだから、あんまり側に居られると恥ずかしい。


 というか、王族も魔力持ちなんだ。




 ヒメロス王子が出て行った後、侍女さん達はお茶とお菓子を用意してから控えの間に下がっていった。


 部屋にいるのは僕と間者さんのみ。


 ソファーにぐったり凭れ掛かり、僕は大きく息を吐いた。気疲れがすごい。至れり尽くせりなのが逆にツラい。



「大丈夫っすか?」


「ダメだー。慣れない」


「ついに王宮暮らしっすもんねー」



 ケラケラ笑いながら、テーブルに並べられたお茶菓子を貪り食う間者さん。全然緊張してないみたいで羨ましい。



「ほい。これは毒入ってないっすよ」



 間者さんはそう言って、僕の方へクッキーの皿を差し出した。


 え、毒?



「な、なんの話?」


「いや、だから、毒見したから大丈夫って」


「違うよ、なんで間者さんが毒見するの? ていうか、そんなことする必要ある?」



 僕は体を起こして間者さんに向き直った。彼は不思議そうに首を傾げている。


 侍女さん達が聞いたら気を悪くしないかな。


 幸い、さっき盗聴阻害の魔導具に魔力を込めて貰ったばかりだ。この会話は控えの間には届いていない。



「ヤモリさん、ここ王宮っすよ。一番安全に見えて、一番狙われやすい場所でもある。警戒するに越したことはないんすよ」


「でも、間者さんが体を張るのは……」


「王子様が、なんで自分みたいな奴の同行を許したと思ってるんすか。ヤモリさんの身を守る為でしょーが」


「僕、そんな事させる為に一緒に来てもらったんじゃないよ……」



 ただ、一人で知らない場所に行くのが怖かっただけだ。気を許せる話し相手が欲しかっただけだ。


 そんな軽い気持ちで頼んだのに。



「とにかく、毒見なんか要らないよ。僕は普通に飲み食いするからね!」



 僕はまだ間者さんが手を付けていない皿に手を伸ばし、マドレーヌを掴んで齧った。めちゃくちゃ怒られた。


ヤモリ「かなしみ(´・ω・`)」



次回更新は10月5日土曜の夜の予定です。

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