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ひきこもり異世界転移〜僕以外が無双する物語〜  作者: みやこのじょう
第3章 ひきこもり、拉致監禁される

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45話・対となるもの

 王国軍が大規模遠征に出発してから一週間。


 辺境伯邸は警備の人員を増やし、邸内や庭園、厩舎の裏手に至るまで兵士を見掛けるようになった。マイラ達が貴族学院に通う時も、必ず馬車の前後に護衛を付けている。かなり物々しい雰囲気だ。


 王都の街は相変わらず活気がない。食べ物屋さんや服屋さんはまだお客が入るけど、観光客向けの土産物屋さんは開店休業状態だ。


 トマスさんの働くペリエス革工房店も、軍から依頼された革鎧などを作るのを優先し、一般客用の革製品の製作は後回しにしていると聞いた。


 ちなみに二十年前の戦争時は、ほとんどノルトン駐屯兵団が戦い、王国軍は第一、第二師団が防衛に出ただけという。他国との戦争より、今回の方が出兵規模が大きいんだけど。


 そして、今回の大規模遠征の行き先には、クワドラッド州は含まれていない。応援要請が出されていないからだ。一番魔獣が多いと聞くし、団長さん達は大丈夫かな。


 辺境伯のおじさんも最前線で戦ってそうで心配だ。


 キサン村、荒れてないといいな。


 そう思っていた頃、アールカイト侯爵家の隠密さん達が無事帰還したと連絡が来た。僕のスリッパを回収しに行った件だ。


 侯爵家に行くと、以前僕が監禁されていた最上階の客室に通された。学者貴族さんは、本宅に滞在する間はこの部屋を使う事に決めたそうだ。



「ヤモリよ。これで間違いはないか?」



 学者貴族さんの前には木箱が置いてある。バリさんも、傍らでワクワクしながら待機している。


 蓋を外して布を捲ると、箱の中央にはスリッパが片方収まっていた。



「うん、これ、僕のだ」



 足の形に凹んでて、やや端がほつれている。この微妙な履き古し具合、間違いなく元の世界で僕が使っていた物だ。数ヶ月間野晒しだったので、やや傷んでいる。


 大体の場所しか伝えてなかったのに、よく見つける事が出来たなあ。流石、侯爵家の隠密さん達だ。……優秀な人材の無駄遣いをしてしまった。


 いや、現在のクワドラッド州は魔獣がたくさん出るらしいから、強い人に行ってもらうのが一番ではある。



「隠密さん達、ケガとかしてないかな」


「うん? 特に何も言われてないが」



 学者貴族さんは全く心配をしていないっぽい。それだけ彼等の実力を認めているのだろう。



「キサン村とか、ノルトンがどんな感じだったか聞きたいんだけど、お話聞ける?」


「そうだな、直接聞いた方が早いだろう」



 学者貴族さんがテーブルの端をコツンと指で弾くと、何処からともなく隠密さんが二人姿を現した。間者さんみたいに黒っぽい服を着ている。違うのは口元を布で覆っているところかな。



「お前達、ヤモリの問いに答えよ」

「「はっ」」



 隠密さん達は、僕と学者貴族さんの前に片膝をついて頭を下げた体勢のまま受け応えしている。


 ちょっと申し訳ないな。



「あの、スリッパ取ってきてくれてありがとうございました。遠いから大変でしたよね」


「は、任務ですので」



 淡々と返事をする隠密さん。あまり感情を表に出さない感じだ。



「道中、魔獣が出ませんでしたか」


「我等は気配を消してやり過ごしましたので。ただ、森の中ではかなりの頻度で見掛けました」



 成る程、戦わなくて済むなら安心だ。動物相手にも気配を消せるって、何気にすごい。魔獣の数が多いのも本当だった。



「キサン村はどんな感じでした?」


「駐屯兵団が常駐しておりました。畑の世話もされていたようです」



 良かった。今は誰も住んでないけど、魔獣に荒らされたら再建が難しくなっちゃうしね。


 他の村もそんな感じで、畑や家畜の世話も兵士さん達が交代でやっているみたい。兵士さん達の食料にもなるし、一石二鳥だ。


 住民が避難している間に荒れ果てたらどうしよう、とトマスさんは心配してたけど、大丈夫そう。



「それで、ノルトンは? 辺境伯は?」


「街中の広場に仮設住居が建てられ、避難民の受け入れをしておりました。配給もされており、混乱はありません。街の者の話だと、辺境伯は魔獣討伐に行っている、と」


「はあ、やっぱり」



 辺境伯のおじさんがじっとしてる訳なかった。



「……クワドラッド州、大丈夫そう?」


「駐屯兵団は魔獣退治で苦戦しておりません。ただ領地が広大な為、隈無く巡回するのは難しいようで、苦労しているようです」



 サウロ王国で一番広いからね、クワドラッド州。全てを隈なくチェックして、潜む魔獣を倒していくのは簡単じゃないだろう。



「教えてくれてありがとう、助かりました」



 頭を下げて御礼を言うと、隠密さん二人は無表情のまま姿を消した。感情豊かな間者さんと違って新鮮だな。実際に見てきた人の話が聞けるのは有り難い。


 振り返ると、学者貴族さんとバリさんはスリッパを囲んで何やら真剣に話し込んでいた。



「へー、これが『すりっぱ』かあ」


「我らが寝室で使う室内履きのようなものか」


「でも布張りだよ、すぐ傷みそう」


「使い捨てなのではないか?」



 使い捨てじゃないし。僕は履く頻度が人より多いから、半年くらいでボロボロになっちゃうけど。その度に見兼ねたお母さんが新しいのを買ってきてくれてたな。


 こっちの世界では、貴族の寝室用室内履きは革製のサンダルみたいなものが主流なんだって。



「あのー、そのスリッパで何か分かるの?」


「良い質問だ! 先日話した『引き合う力』の検証実験に用いる! 魔法により、対となる物と引き合うよう働き掛けるのだ!」


「そうする事で、対となる物が引き寄せられるか、こちらの物があちらに行くかするんだよ。面白いよね」



 それはすごい。元の世界にある片方のスリッパがこっちに来るかもしれないし、こっちにあるスリッパが元の世界に行くかもしれないという事か。


 ……スリッパが移動するだけじゃないか?



「これにより、移動元もしくは移動先の座標が判明するかもしれん。そうすれば、異世界の場所が明らかになる可能性もある!」


「そ、そういうことか……」


「何度か実験してみたいが、今のところ残念ながらコレしか対象となる材料がないのだ」


「うーん、対となるものとなると難しいよね」



 座標が分かれば元の世界に戻る手掛かりになる。しかし、何度か実験を繰り返さないと座標は特定できないという。


 他に対となるような物ってあるかな。


 僕はもう何も持ち込んでないから、新たに何か異世界の物が発見されるのを期待するしかない。


 物だけ転移してきたりしないかな?



「で、実験ってどうやるの?」


「司法部の長官に頼むつもりだ。しかし、大規模遠征に駆り出されてしまってな、暫く暇はないらしい」


「え、王国軍の人じゃないのに遠征に行くの?」


「国でも有数の攻撃魔法の使い手だからな」


「そうなんだ」



 スリッパを使った実験はまだ先になりそうだ。




 マイラ達はずっと元気がない。オルニスさんはずっと王宮に泊まり込んでいるし、エニアさんは北部に遠征に行っている。平日は貴族学院に通ってはいるが、あまり勉強に身が入っていないみたいだ。


 他の生徒も身内が危険地域の領主であったり、騎士として遠征に出ていたりするらしく、学院内の雰囲気は暗いらしい。


 気晴らしに買い物に連れ出しても、街にも活気がないから逆効果だったりする。


 王宮と言えば、アリストスさんも侯爵家の騎士さん達を引き連れ、泊まり込みで警備をしている。あの件で、オルニスさんはアリストスさんに対してかなり怒ってたそうだから、もし顔を合わせたらどうなるか。アリストスさん気が強いし、人の話を聞かないから心配だな。


 王宮自体は王都のど真ん中にあるし、魔獣が出る心配はないと思う。


 でも、なにか起きそうな気がする。


 最近色んな事があったから、ちょっと神経質になってるのかもしれない。早く元通りの生活に戻れたらいいな。

 

間者さん「ヤモリさんて誰に対してもああなワケ?」


アケオ 「へ?なにが?」


間者さん(無意識…!)




***


これにて3章は終了です。

閑話を挟んで4章に移ります。

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