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ひきこもり異世界転移〜僕以外が無双する物語〜  作者: みやこのじょう
第2章 ひきこもり、王都へ行く

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30話・初めての街歩き

 マイラ達を元気付ける為、ひきこもりの癖に「街に買い物に行こう!」と勢いで誘ってしまった。


 各自部屋に戻って支度をしてから出発する予定なんだけど、まだ何を買うか決めてない。僕の買い物を口実に誘ったんだから、買いたい物を事前に決めておかないと不自然だ。


 さて、何を買ったらいいのか。


 ていうか僕、お金持ってないんだった!


 マイラ達に出させる訳にはいかないし、どうしようかと悩んでいたら、部屋の扉がノックされた。


 家令のプロムスさんだ。



「オルニス様よりお渡しするよう頼まれた物でございます。お受け取り下さい」



 黒いトレイに乗せられていたのは小さな布袋だ。口元が綺麗な組紐で縛られている。持ち上げると、かなりの重さを感じた。



「あの、これって」


「気兼ねなく使うように、との事でございます」



 布袋を僕に渡し、プロムスさんはすぐ部屋から出て行ってしまった。


 紐を解いて中身を確認すると、金色に輝く小さな硬貨が百枚ほど入っていた。


 これ、もしかして金貨?


 こっちの世界に来て初めてお金見た! というか、金貨ってすごく価値があるのでは?


 それをポンと百枚くれるとは、流石貴族。


 しかし、このタイミングで金貨を渡してくるとか、オルニスさんには僕がどう動くか分かっていたのかな。


 資金ゼロだったから、正直助かる。有り難く使わせてもらおう。


 そして、これで僕の買うべき物が決まった。



「え?お財布?」


「そうなんだ。僕に合いそうなの選んでくれるかな」



 街に向かう馬車の中で、マイラが聞き返してきた。


 そう、僕には財布がない。布袋のままじゃ金貨を持ち歩くには不便だし、どうせならちゃんとした物が欲しい。



「うーん、小物を扱ってるお店にあるかしら」


「ねえさま、革細工職人の工房はどうですか」


「そうね、そこへ行ってみましょう」



 馬車は貴族街を抜け、様々な店が立ち並ぶエリアに入った。ここから先は徒歩での移動となる。


 物々しい警護は逆に目立つから、と護衛の人達は事前に街のあちこちに散っているそうだ。もちろん間者さんも姿を消して何処かに付いてきている。貴族の子供が街歩きをする時は大体こんな感じなのだとか。


 身分が高いと、本当の意味で一人になる事はないんだなーと実感した。



「確かこっちに職人通りがあったわよね」



 マイラが確認しながら石畳の道を進んでいく。


 周りの人達は、突如現れた上流階級の子供に驚き、邪魔にならないよう左右に分かれて下がっている。見た目からして、かなり仕立ての良い服を着ているから、すぐ貴族だとバレてしまう。


 でも、避けていくのは観光客だけだ。街の住人や店員さんには顔見知りが多いみたいで、何度も声を掛けられている。


 巡回中の兵士さん達にも挨拶されていたけど、あれはきっとエニアさんの部下なんだろうな。


 マイラ達が通行人の視線を集めてるからか、数歩後ろを歩く僕は目立たずに済んでいる。人通りの多い街中に行くのは嫌だったけど、マイラ達と一緒なら平気かもしれない。


 もちろん、横並びに歩いたらめっちゃ注目されるだろうけど。


 色んな店を覗きながら、革細工工房を探し歩く。



「あら、マイラ様。お買い物ですか」


「そうよ、革細工のお店を探してるの」


「それなら角を曲がったとこにあるペリエスさんの店なんかどうかしら。手頃な物が色々ありますよ」


「ありがとう、行ってみるわ!」



 果物屋の奥さんから店を教えてもらい、早速僕達はその店へと向かった。


 教えてもらった通り角を曲がると、街並みがガラッと変わった。飲食店などは一切無い。職人通りには、木彫りの彫刻や陶器、金属製品などの店が並んでいた。


 目当ての革細工店はすぐ見つかった。


『ペリエス革工房』と大判の革に店名が焼きつけされた看板がとても目立っている。店の前には革のブレスレットや通行証ケースなど、比較的安価な商品が籠盛りにされ、道行く人達の関心を引いている。カバンや靴など、少し高価な物は店の奥にあるようだ。


 迷わず店内に入るマイラとラトス。僕はその後に続いて店の入り口をくぐった。


 明らかに身分の高い来客に、店番の少年が奥にいた店主と思われるおじいさんを呼んできた。店主さんは慣れた様子でマイラ達を出迎えてくれた。



「ようこそ。何かお探しですか」


「お財布を見せてほしいのだけど」


「はいはい、色々ございますよ。ええと、お嬢さんがお使いになりますかな?」


「違うわ。この人のよ」



 そう答えて、マイラは後ろの陳列棚を見ていた僕を引っ張り出した。店主さんは穏やかに微笑んで「男性用ならこの辺りかな」と、奥の棚から幾つか持ってきてくれた。


 カウンターに並べられたのは、二つ折りやガマ口、コインケース、ポーチ、巾着など、様々な形状の財布だ。


 ここで好みの形状を選ぶと、類似商品を出してきてくれるらしい。



「アケオにはどんなものが良いかしら」


「財布の品格に持ち主がまけてるよね」



 マイラとラトスが僕より熱心に財布を見ている。


 どれも僕が持つには勿体ないくらい立派な革製品で、ちょっと気後(きおく)れしてしまう。


 コインケースが一番小さくて持ち運びしやすそうだけど、あんまり硬貨が入らなそう。二つ折りは革が厚く、どっしりと重い。ガマ口とポーチは可愛らし過ぎる。巾着は、今持ってる布袋の素材が革になっただけだ。



「あの、二つ折りで、もっと薄くて軽いお財布ってありますか?」


「はいはい、ございますとも。──おーい、この前作った財布を幾つか持ってきておくれ」



 店主さんが店の奥に声を掛けると、前掛けを付けた職人さんが製品の乗ったトレイを運んできてくれた。

 

 奥には工房があるらしい。



「ほらよ、これでいいかい、……!?」



 職人さんはカウンターに二つ折り財布を並べ、顔を上げて僕を見て、そこで動きを止めた。


 急に動かなくなった職人さんに、店主さんもマイラ達も困惑した様子だ。



「どうしたトマス。何かあったか?」



 店主さんが職人さんに声を掛ける。


 トマス? 何処かで聞いたことがあるような──



「え、トマスさん!?」


「ああっ、やっぱりヤモリさん!!」



 なんと革細工店の職人さんは、キサン村村長の息子のトマスさんだった。ノルトンで一度会ったきりだったので、お互い顔を見てもすぐには分からなかった。



「王都で働いてるって、このお店だったんですね」


「そうなんですよ。この前やっと王都(こっち)に戻って仕事を再開したとこでして」


「なあに、知り合い?」


「そうだよ、キサン村出身の人なんだ」



 僕がそう言うと、マイラは「まあ!」と驚いた。


 それにしても、たまたま入った店に知ってる人がいるなんて、なんて偶然だろう。



「じゃあ、このお財布はトマスさんが?」


「ええ、この辺は俺が猪の革で作った物です。薄くて軽いのに丈夫なんですよ」



 猪といえば、思い出すのはキサン村のロフルスさんだ。 材料の革の仕入れ先はキサン村だったのでは?と聞いてみたら当たりだった。


 村の畑を荒らす害獣である猪を駆除し、肉は燻製に、革は商人のロイスくんを通じて王都に送られていたという。現在はノルトン周辺の別の村から取り寄せているとか。


 財布を手に取ってみた。トマスさんの言う通り、とても薄くて軽い。


 猪の革で作られた財布は幾つかあったので、色と大きさを見て好みのものを探す。



「これ下さい。トマスさんの作ったお財布」



 一つ選んで差し出すと、さっきまで笑顔だったトマスさんが眉間に皺を寄せて俯いた。


 急にどうしたんだろう。何か気分を害すような事言っちゃったかな。


 焦ってアワアワしていると、トマスさんは肩を震わせて涙を流しながら、僕に頭を下げた。



「……ノルトンでは、俺、失礼な事ばかり言ったのに、怒るどころか、白狼(しろおおかみ)の毛皮を遺族に全部くれて……ヤモリさんには、なんてお礼を言ったらいいか」


「え、いやそんな!僕はなんにもしてないし、毛皮も皆さんが受け取ってくれた方が村長さん達が喜ぶと思って」



 僕の言葉に、トマスさんはまた頭を下げた。


 恩を着せるつもりじゃなかったので、普通に受け取ってほしいと伝えると、やっと落ち着いてくれた。


 事情を聞いていたのだろう、店主さんまで「ウチのトマスが世話になったようで」と頭を下げてきたので全力で止めた。


 財布もタダで渡してこようとしてきたから、これも止めて正規の代金を支払わせてもらった。


 猪の革は加工が難しいらしく、他の革製品よりやや高かったが、金貨一枚で足りたので安心した。


 帰り際、店先まで見送りに来たトマスさんが、



「王都に戻る前、団長さんからカバンを受け取りました。あれ、俺が若い時に見様見真似で作ったやつなんだけど、親父は仕舞い込むだけで使ってくれなくて。ヤモリさんが使ってくれて嬉しかったです」



 と言ってくれた。


 あと、トマスさんは村の再建を諦めていないという。いずれキサン村で革細工の店を出したいと、将来の夢を語ってくれた。実現したら、村長さんや奥さん、村の人達がどれだけ喜ぶだろう。


 応援してます、と握手して店を後にした。




 奇跡的な再会を果たし、僕の買い物も済んだ。


 今日の本当の目的は、マイラ達を気分転換させて元気にすることだ。まだ目的は達成されていない。



「さ、次は何処に行こうか」


「決まってるわ!お菓子を買いに行くのよ!」


「向こうの通りにねえさまお気に入りの砂糖菓子店がある。そこに行こう」



 あれ?なんだか元気になってる?


 街の人達や兵士さん達からたくさん声を掛けてもらったおかげかな?


 その後、砂糖菓子店で買い込んだものを全部持たされ途方に暮れてたら、何処からともなく間者さんが現れて半分持ってくれた。


 馬車まで笑い合いながら歩いて戻り、この日のお出掛けは無事に終わった。街歩きなんてと思ってたけど、今日はとても有意義で楽しかった。


 元の世界でも、きっと楽しい事があったはずだ。


 もし戻れたら、お母さんが買っておいてくれた靴を履いて外に出掛けてみよう。


 こんな風に思える日が来るなんて、以前の僕なら思いもしなかった。




 こっちの世界に来た事は、無意味なんかじゃない。


 帰りの馬車に揺られながら、僕はそう思った。


二章はこれにて終了です。


閑話を挟み、二章までの登場人物紹介を入れたら、いよいよ三章に突入します。

三章からは、アケオを取り巻く環境に変化が起こりますのでご期待ください。

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― 新着の感想 ―
[一言] ひきこもりの癖に勢いで二人を誘ったとは言え、アケオも偉いぞ( *ˊᵕˋ)ノˊᵕˋ*) ナデナデ お金の件はオルニス様が解決だあああ! 素敵、オルニス様……、愛じnゲフゲフンン……! ああ、ト…
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