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ひきこもり異世界転移〜僕以外が無双する物語〜  作者: みやこのじょう
第2章 ひきこもり、王都へ行く

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26話・魔力制御

 学院から帰って夕食を食べた後は、僕の部屋に来てダベるのが日課になっているマイラとラトス。


 前までは異世界について聞かれたりしてたけど、最近は学者貴族さんの話題が多い。


 僕が週に二、三回、学者貴族さんの屋敷に通う事が決まったからだろう。マッドサイエンティストに無体な真似をされてないか心配してくれている。


 学者貴族さんは辺境伯より位の高い侯爵家の人だから、何かあっても守れないから尚更だ。


 特に、ラトスは学者貴族さんにかなり怯えていて、そんな人の所に通わねばならない僕に同情しているみたい。


 妙に気を使われたり優しくされると調子が狂うから、普通に接してほしいんだけどな。



「そういえば、魔法学の試験どうだった?」


「……ギリギリ及第点だったわ」


「学年一位でした」



 苦々しく答えるマイラと、無表情のラトス。


 表情も結果も正反対だ。


 ラトスは顔には出ていないが、自慢げなのは分かる。



「ご、合格したなら良かったじゃないか」


「そうなんだけど、あたしにも立場ってものがあるのよ!」



 マイラ達が通う貴族学院は、その名の通り貴族の為の学校だ。生徒はみんな貴族の子なのでプライドが高い。優秀な成績を残さなくては面子が保てないらしい。



「最近魔力が安定しなくなっちゃって、うまく魔法が使えないのよね」


「ねえさまは生まれつき魔力量が多いのだから、他のひとより制御がたいへんなのはあたりまえかと」


「へぇ、じゃあ仕方ないんじゃないか」


「そんなの、言い訳にしかならないわよ……」



 思ったより結果が悪かったのを気に病んでる。マイラはクッションを抱き締めたまま、大好きなお菓子も食べずに俯いている。


 魔力量には個人差があり、多ければそれだけ扱いが難しくなるという。古参貴族の子供が魔法学を学ぶ目的は、魔力制御を完璧にして暴発を防ぐ為だ。


 試験に合格出来ないと、放課後や休みの日に補習を受ける必要があるのだとか。それはかなり嫌だろうな。



「じゃあさ、魔力制御の練習しようよ。どんな事やるのか僕も見てみたいし」


「えっ、アケオの前でやるの?」


部屋(ここ)で魔法使ったら危ないか。どこか良い場所ないかなあ、ラトス」


「もう外は暗いけど、庭園の中央なら灯りもあるし広くて丁度いいのではないかと」


「うん、じゃあ庭園に行こっか」


「待って、今から!?」



 嫌がるマイラを連れて、僕達は外へと向かった。


 庭園には馬車が通れる幅広の道があり、中央付近は何も植わっていない円形の広場のようになっている。


 周囲には等間隔にランタンが吊るされていて、夜でも十分明るい。


 それに、ここなら多少何かあっても大丈夫そうだ。



「──で、魔力の制御ってどうやるの?」


「そんな事も知らずにあたしを外に連れ出したの?」


「だって僕、何にも知らないし」



 知らないけど、魔法への興味だけはあるんだよ。

 

 王都に来る途中に休憩場所でちょこっと見せてもらっただけだから、ちゃんと知っておきたいし。



「しょうがないわね。いい?やるわよ」



 マイラが立ったまま両手を前に突き出し、掌を上に向けた。徐々に何かが掌から迸り、淡く光る球体が目の前に現れた。



「これがあたしの魔力よ」



 そう言いながら、マイラは目を閉じて集中した。


 すると、光の球は更に大きくなった。最初は卓球の球くらいだったのに、今は大きめなバランスボールくらいの大きさになっている。



「一度放出した魔力の一部を魔法に変換したり、残りを再び自分の中に取り込んだりするのが魔力制御の試験内容。ねえさまの魔力量はボクの倍はあるから、扱いは数倍難しくなるんだ」



 少し離れた所からマイラを見守りながら、ラトスが説明してくれた。


 正直見てるだけの僕には分からないが、魔力の塊を出し入れするだけでもかなりの集中力が要るという。魔力量が多いと一箇所にまとめておくのに苦労するとか。


 自分の素質が高ければ高いほど試験の難易度が上がるというのは確かに大変だ。



「ちょっとだけ魔法に変換してみるわね」



 息を吐いてから、マイラが右手だけ光の球から離して上に掲げた。光が一瞬揺らいだ次の瞬間、右手の指先に小さな炎の塊が現れた。それを石畳に落として消し、更にもう一度炎の塊を作り出す。


 この炎の塊を風に乗せて飛ばすと初級の攻撃魔法になる、とラトスが教えてくれた。炎の塊を増やしたり大きくしたりすると、その規模に応じて中級から上級の魔法になるのだとか。


 既に幾つか炎の塊を出しては消しを繰り返していたが、マイラの魔力の塊である光の球の大きさは変わらない。もっと大きな魔法を使わないと減らないくらい魔力量が多いからだ。


 とは言え、中級以上の炎を出したら庭園の木々が焼けてしまう。制御しやすくなるまで魔力を消費する必要がある。


 多分だけど、この炎の魔法は魔力消費が少ない。

 ただでさえ大きな魔力を持つマイラが、他の生徒と同じ初級魔法で魔力を消費するのは効率が悪いように思えた。



「ラトス。もっと魔力消費が大きくて、周りにあんまり影響のない魔法ってないのかな」


「……ボクはまだ習ってないけど、水の上級魔法で氷を作り出すものなら割と大きいと思う」



 何もない所から水を創り出し、更に凍らせる。確かに手間が掛かる分だけ魔力の消費が大きそうだ。



「マイラ、氷って作れる?」


「はぁ?上級なんてまだ理論しか習ってないわよ!」


「でも今の魔法だと、百個炎作っても魔力減らないよ。制御できないと危ないんじゃない?」


「不慣れな魔法を使う方が危ないのよ!」



 ぶつくさ文句を言いつつも、マイラは炎を出すのをやめ、氷を作る為に意識を集中し始めた。


 やがてマイラを囲むように水が生まれ、それが風の魔法によって渦を巻く。あとはこの水を凍らせるだけなんだけど、それが一番難しいらしい。


 マイラの前にある光の球がやや小さくなっている。


 このまま水を魔法で冷やし固めて氷に出来れば、制御しやすい魔力量になるだろう。


 ところが、凍らせるはずが、水の量がどんどん増え、マイラを中心に竜巻のようにぐるぐる回り始めてしまった。



「マイラ、大丈夫!?」


「だ、駄目だわ。凍らない」


「水を出すのはやめて、風も止められる?」


「……やってるわよ、でも抑えが効かなくて」



 なんと、既に魔力の制御が出来なくなっていた。無理に上級の水魔法を使わせようとしたからだろうか。



「ボクがねえさまの魔力に干渉してみる」



 ラトスが前に出て手を伸ばした。


 その途端、マイラの前にあった光の球が揺らぎ、ラトスの方へと流れ出した。姉弟だから互いの魔力が使えるのだろうか。


 それでも、僅かに魔力の塊を小さくしただけで、ラトスに限界が来た。許容量を超える魔力を受け取るというのは、かなり負担が大きいらしい。


 しかし、魔力が少し減った事でマイラの制御が可能になり、水の竜巻の勢いが収まってきた。



「い、今なら何とか出来そう」



 掲げた手を振り下ろした瞬間、マイラの周りにあった水がバキッと音を立てて一気に凍りついた。それと同時に魔力の塊である光の球は更に小さくなった。


 これくらい減らせば何とか出来るようで、マイラは氷に囲まれたまま、魔力を体内に戻し始めた。暴発を防ぐ為、ゆっくり慎重に魔力を取り込んでいく。


 離れた所で見守っていた僕は、光の球が完全に消えたのを確認してからマイラに駆け寄った。


 そばに居るラトスもかなり疲れた顔をしている。



「ねえさま、また魔力増えましたね」


「そうなのよ。これ以上増えたらもう扱えないわ」



 氷の隙間から出てきたマイラは、暗い表情で溜め息を吐いている。


 魔力制御は僕が思っていたより大変なものだった。でも、上級魔法を使えばかなり魔力の消費が増えるので、今後の為にもマイラには頑張って会得してもらいたい。


 それにしても、庭園のど真ん中に高さ十メートル超えの氷の柱を立ててしまった。朝までに全部溶けるといいんだけど。


 三人で氷の柱を見上げていたら、馬の蹄と車輪の音が聞こえてきた。


 こんな夜に、誰か訪ねてきたのだろうか。


 音のする方を向くと、一台の馬車がこちらに向かって近付いてくるのが見えた。そして、僕達の手前で止まった。


 馬車の御者さんと馬達は、目の前にそびえ立つ氷の柱を見て驚いている。


 びっくりするよね、こんなのがあったら。



「おや、ウチの庭にこんな柱があったかな」



 馬車の扉が開き、誰かが降りてきた。


 庭園のランタンに照らされたのは、三十代半ばくらいの金髪碧眼の男の人だった。細かな刺繍の入ったグレーの上着を羽織っている。


 温厚で優しそうな人だ。



「お父さま!おかえりなさい!」


「おかえりなさい!」


「ああ、ただいま。久し振りだねマイラ、ラトス」



 お父さま!?


 なんと、優しそうな男の人はマイラ達の父親だった。


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― 新着の感想 ―
[一言] ラトスが同情してくれている! てっきりザマァとか思ってるんじゃないかとばかり……。 お父様登場だあああああ\( 'ω')/
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