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ひきこもり異世界転移〜僕以外が無双する物語〜  作者: みやこのじょう
第10章 ひきこもり、戦場に立つ

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155話・進化

 玉座の間に飛び込もうとしたところを妨害され、サクラちゃんの巨体はバルコニーの手すり部分に乗り上げた。


 シヴァの周りに現れた数人の男女が周りを取り囲む。ロープを投げて翼や手脚を拘束したのは彼らだ。先に戦っていた少年、アグニと同じ赤毛と黒服姿。強化人間に間違いない。


 一人でナヴァドとランガの二人と渡り合うくらい強いのに、それが更に五人も増えた。これはかなりマズい状況だ。



「さあ、躾け直してやる。二度と逆らえんようにな」


「やってみなよ。おまえには絶対従わない」



 拘束されたままのサクラちゃんの背の上で、イナトリが啖呵を切った。強化人間達の後ろに立つシヴァを睨み付ける。


 それを庇うようにティフォーとナヴァド、ランガが立ち塞がった。ティフォーの腕の中にはまだセルフィーラが囚われている。さっき一度だけ抵抗をしたが今は大人しい。シヴァの指示がなければ自発的に行動するつもりはないようだ。


 周囲にいる帝国兵の無力化に成功し、僕達の動きを妨害する者はいなくなった。玉座の間の下段から壇上へと移動を開始した。


 強化人間達が一斉に飛び、ナヴァド達に襲い掛かる。体格の良いランガが前に出て攻撃を受け、その隙にナヴァドが反撃する。


 しかし圧倒的に手数が足りない。強化人間六人のうち、半数がナヴァド達をすり抜けてティフォーとサクラちゃんの元に向かった。


 攻撃が当たる、という瞬間、僕の魔導具の『風の障壁』が発動。強化人間三人を弾き返した。



「……はぁ〜、間に合ったぁ……」


「あ、明緒(あけお)クン」



 敵の注意がイナトリ達に向いている間に近付く事に成功した。盗聴阻害機能のおかげで足音や話し声は消せる。イナトリとサクラちゃんに注目が集まる中、無力な僕は誰にも警戒されずに移動出来た訳だ。


 もっとも、同じ手はもう使えないけど。



「やっぱり魔導具持っておいてよ。心臓に悪い」


「……しつこいよ」



 さっきまでの険しい表情がふと緩んだ。


 こんな会話をしている間にも猛攻は続いていた。ティフォー達を魔導具の効果範囲に入れて休ませているので、全ての強化人間と真紅の魔獣の攻撃が風の障壁に集中している。一撃一撃が重くて負荷がすごい。ガンガン魔力が削られていく気がする。これでは長く保ちそうにない。


 更に新手が現れた。


 セルフィーラの叫びで呼ばれた魔獣達だ。白、新種、真紅。王城付近にいた魔獣が次々と玉座の間になだれ込んできた。帝国兵には目もくれず、一心不乱にセルフィーラを目指す。バルコニー下の広場にも魔獣が集まってきたようで、ギャンギャン吼える声が聞こえてきた。


 風の障壁に加わる衝撃が更に重くなる。僕には魔力が見えないから、あとどれだけ魔力貯蔵魔導具(キューブ)に魔力が残っているかは分からない。次の瞬間に魔力が切れて、障壁が無くなるかもしれない。


 それをじっくり待つつもりなのか、シヴァは強化人間達の後方で余裕の笑みを浮かべていた。




 本当に、よく油断してくれている。




 強化人間達はセルフィーラを取り戻すべく、全員が僕達の方を向いて攻撃を繰り返している。そこに魔獣が多数加わった事で勝利を確信しているのだろう。


 慢心で気持ちが緩む瞬間を待っていた。



「竜のお嬢さん、大丈夫かい?」



 サクラちゃんを拘束し、バルコニーに縛り付けていたロープがバラバラに散った。カルスさんが長剣で全て切り落としたからだ。ギャア、と小さく鳴いて応えるサクラちゃんを見て、カルスさんは嬉しそうに笑った。


 ドラゴンが戒めから解放された事で、意識のある帝国兵達がどよめいた。剣が効かないドラゴンは一般の兵士では歯が立たない。玉座の間は天井が高い。このまま歩いて進むだけで脅威だ。ドラゴンの暴走を恐れ、動ける帝国兵はみな玉座の間から逃げ出そうとした。


 その混乱に乗じて動く黒い影があった。


 間者さんだ。


 死角からシヴァに近付き、長針を投げつける。が、黒い鎧に全て跳ね返された。針に気付いて振り返ってももう遅い。素早く反対側から振り抜き、間者さんの小刀がシヴァの首筋を薙いだ。



「ぐっ……」



 だが浅い。咄嗟に避けられ、切っ尖が僅かに頬をかすった程度で終わった。シヴァは強化人間達を呼び戻し、自分の周りを固めさせた。不意打ちに失敗した間者さんは、すぐに飛び退いて距離を取った。



「……親に刃を向けるとは、辺境伯の躾はなっとらんようだな」


辺境伯(あるじ)の教育通り育ったから、こうして悪人を倒そうと努力してるんすよ」


「フン、言ってくれる」



 頬の血を拭いながら、シヴァは眉間に皺を寄せた。単なるかすり傷程度、大したダメージではない。しかし、直接攻撃された事で余裕の態度が崩れ、怒りを露わにした。



「異世界人が他に二人も居るから生かしておいてやろうかと思っていたが……気が変わった。おまえもここで殺す」


「出来るモンならやってみろよ」



 シヴァの言葉に応えるように、六人の強化人間が一斉に飛び掛かった。全方向からの同時攻撃。


 間者さんが装備している魔導具の指輪には風の障壁の機能が追加されているが、魔力を溜め込む地金部分が少ない。その上、魔力貯蔵魔導具(キューブ)を持つ僕とは距離が離れている。何度も攻撃を防ぐ事は出来ないし、そもそも効果範囲が狭い。


 一回、二回は撥ね返す事が出来たが、案の定すぐに魔力が切れて風の障壁は掻き消えてしまった。


 全くの無防備な状態で強化人間達の攻撃を喰らえばただでは済まない。援護しに行きたくても、僕達の周りには魔獣がひしめいていて身動きが取れない。



「クドゥリヤ様ッ」



 シヴァの背後から、女官さんが悲鳴のような声を上げた。


 ドガッと鈍い音がした。強化人間達の拳と蹴りが全て命中。一撃でもまともに喰らえば命はない打撃を六人分も。


 ところが、間者さんは無傷だった。多少痛そうにしてはいるが、あまりダメージを受けていないように見える。



「……はは、今のはちょっと危なかったっすね」


「ホントだよ。間に合わなかったらどうするつもりだったんだい」



 入り口の扉の方から聞き慣れた声がした。アーニャさんだ。手を前に突き出したまま、玉座の間にずかずかと入ってくる。


 そうか、身体強化の魔法を何重にも掛けて一時的に防御力を底上げしてくれたんだ。



「アーニャさん!」


「ヤモリ、イナトリ。二人とも無事で良かった」



 倒れている帝国兵の間を縫うようにして、アーニャさんは僕達がいる壇上へと歩み寄る。


 シヴァは強化人間達に標的変更を指示し、即座に排除するように命じた。だが相手が悪い。アーニャさんはサウロ王国で一番魔法を使いこなせる人物で、魔力さえ尽きなければほぼ無敵だ。


 真っ先に突っ込んできた一人が炎の柱に包まれた。全身を焼かれ、絶叫しながら石の床に倒れてのたうち回る。それを見て、他の五人は蒼褪めて足を止めた。


 これはアーニャさんが得意とする幻覚魔法だ。実際は燃えていないが、対象は身体を焼かれる熱さと痛みを感じる為もがき苦しむ。魔法を解かない限り、幻覚の炎と苦痛は消えない。



「……魔法使いか、面倒な相手だ」



 一度に制圧されては困ると判断したか、シヴァは他の五人を下がらせる。そして女官さんを殴り飛ばした。



「やはり、おまえの仕業だったのか」


「……申し訳、ありません……」



 二十年前に間者さんを辺境伯のおじさんに託した事を言っているのか。それとも、僕達の侵入を敢えて見逃していた事か。おそらく両方だ。


 女官さんは赤くなった頬を押さえ、冷たい石の床の上で平伏した。



「……セルフィーラに免じて赦してやる。どうせ全員すぐに殺すしな」



 振り返れば、ティフォーの腕の中にいるセルフィーラが必死の表情で女官さんを見つめていた。


 あれ以上手を上げていれば、セルフィーラはシヴァに対してマイナスの感情を抱いたかもしれない。それを悟り、すぐに許したのだろう。



「アーニャさん、早かったですね」


「イナトリが場所を教えに来てくれたからねぇ。馬に身体強化かけて急いで来たんだよ。本隊は後から来るが、エニア達も一緒に来ているよ」



 その言葉が終わらないうちに、王城の何処かから派手な破壊音と兵士の悲鳴が聞こえてきた。なるほど、確かに来ているようだ。恐らく、王城周辺にいる帝国兵や魔獣を片付けているのだろう。


 セルフィーラはこちらの手の内にある。あとはシヴァと強化人間、魔獣を倒すだけ。味方も来てくれたし、これなら勝てる、と思ったが──突然、シヴァが高笑いを始めた。


 追い込まれておかしくなったか?



「……いやはや、こうも邪魔が入るとはな。だが、まあ()()()だ」


「えっ」



 その時、バルコニーの下にある広場から悲鳴が響いた。女性の悲鳴。しかも、この声には聞き覚えがある。



「あれ、エニア様の声だ」



 カルスさんが下を覗きこみ、驚いたようにビクッと身体を揺らした。僕も続けて下を見る。


 すると、そこには恐ろしい光景が広がっていた。



「やだーっ、気持ち悪ーい!」



 泣き言を言いながら周りの帝国兵と魔獣に攻撃をかますエニアさんと辺境伯のおじさん。その前には、広場中央の水路に浮かぶ筏船(いかだぶね)に乗った禍々しいドラゴンの姿があった。


 数時間前は普通のドラゴンだったはずなのに、今は身体の至る所がボコボコと膨らんでいる。傷付き弱っていたドラゴンは、まるで出来損ないの合成獣(キメラ)のような姿に成り果てていた。



「うえっ、何アレ」



 こうしている間にも、ドラゴンの身体はボコボコと音を立てて新たな膨らみを増やしていく。鱗の色は元の黒から灰に変わり、斑らに白が混じり始めていた。


 まさか、この短時間に進化してる!?



「あ〜あ、折角の竜が……」



 カルスさんは別の意味で残念そうにしている。他に言う事はないのか。


 広場には玉座の間(こっち)の六人とは別の強化人間達がいた。エニアさんに対応する以外の人は、近くにいる魔獣を次々捕まえて差し出し、ドラゴンはそれを一心不乱に食べていた。元々の超回復力に加え、強力な魔獣ばかりを餌にしているからか、みるみるうちに大きくなっていく。



「無理やり進化させてるんだね、最低」


「僕も魔獣が進化するとこ初めて見たけど……なんだか様子がおかしくない?」



 ドラゴンの変わり果てた姿に、イナトリは顔を顰めた。


 既に広場のドラゴンは何重にも巻かれていたロープや鎖を引き千切っていた。四肢の先端に楔が打ち込んであるのでまだ動けないようだが、それも時間の問題だ。


 僕達が王城に侵入する前はあんな状態じゃなかった。さっきのセルフィーラの叫び以降に進化させ始めたのだろうか。今は白の魔獣になりかけ状態だ。ただでさえドラゴンは剣と魔法が通じないというのに、更に進化したら手が付けられなくなる。アーニャさんやエニアさん達が来てくれたけど、倒せるかどうか。


 シヴァの本当の狙いは、ドラゴンを元に強い魔獣を造り出す事だったんだ。


まだまだ戦いは続きます。

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