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ひきこもり異世界転移〜僕以外が無双する物語〜  作者: みやこのじょう
第10章 ひきこもり、戦場に立つ

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151話・人語を解する魔獣

 幼い頃の間者さんを殺そうとしたのは実の父親であるシヴァ、と女官さんは言った。


 それを聞いて、間者さんはしばらく沈黙したあと深い溜め息を吐いた。



「……まあ、そんな気はしてたんすよねー」



 はは、と笑いながら握り締めた拳に更に力を籠める。強がってはいるが、当事者である女官さんから聞かされた事実は間者さんの心を深く抉ったに違いない。


 親が我が子を殺す?


 そんな事があってたまるか。



「クドゥリヤ様が黒髪でお生まれになった事が原因でございます。カサンドール復興の旗印とするため、白髪(はくはつ)の御子の誕生が期待されておりましたので」


「そ、そんな理由で……?」



 髪の色なんて、生まれてくる子供には選べない。しかも、父親のシヴァが黒髪だから確率は半々だ。そんなどうしようもない理由で命を奪われかけたなんて。


 それに、わざわざ殺す必要なんかない。確かに黒髪ではカサンドールの旗印にはなれないかもしれない。でも、そのまま大事に育てていれば妹のセルフィーラを支えて国を盛り立てる力になったはずだ。



「シヴァ様は、ご自分と同じ異世界人を集めておいででした。しかし、そう簡単に見つかるものではありません。それならばと、子供を作る事で異世界人の血を引く者を増やそうとなさったのです」



 もう全てを話すと決めたのか、女官さんは知り得る限りの情報を伝えてくれた。



「異世界人を集めて、シヴァは何を?」



 一番気になっていたのはそこだ。異世界人の血が一体なんだというのか。何か意味があるのか。



「……シヴァ様は、異世界人の血を引く者を獣に喰わせる事で、人語を解する魔獣を造り出そうとしておりました」


「え」



 人語を解する魔獣って、リーニエやサクラちゃんみたいな?



「ま、待って。今の話だと、それじゃ」


「──そうです。シヴァ様は、クドゥリヤ様を獣に喰わせるつもりでございました」



 そんなバカな。幾ら何でも我が子を獣に喰わせるなんて、そんな非道で残酷なこと。


 流石にこれには間者さんも言葉を失った。



「もちろん、魔獣云々についてはタラティーア様は一切ご存知ありません。シヴァ様が事故や事件を装ってクドゥリヤ様を獣に喰わせる算段をしているのを偶然聞いてしまい、戦争のどさくさに紛れて私がサウロ王国の方に託したのです」



 母親は関知していないという事だけが唯一の救いか。王族の出でプライドが高い人みたいだし、お腹を痛めて産んだ我が子が獣の餌にされるなんて知ったら猛反発するだろう。


 でも、シヴァは全て知った上で、人語を解する魔獣を造るという目的のためだけに我が子を犠牲にするつもりだった。最悪だ。



「ねえ、そろそろ引き上げないとマズいかも〜」



 廊下で周囲を警戒していたカルスさんから声が掛かった。


 王城内には兵士は少ないが、全くの無人ではない。あまり長居をするべきではない。もう少し話を聞きたいところではあるけれど。



「あの、セルフィーラは今どこに」



 これだけは絶対に聞いておかなくてはならない。女官さんは数秒沈黙した後、ようやく教えてくれた。



「陛下は数日前からシヴァ様と船で南に。ですが、そろそろ戻ってこられる予定です」



 船で南に?


 だから王都(ここ)には帝国兵の数が少なかったのか。


 戻ってくるなら迎え撃てばいい。あと一日も経てばエニアさん率いるサウロ王国軍と合流出来る。真紅の魔獣には苦戦するかもしれないけど、多分何とかなるだろう。



「クドゥリヤ様、シヴァ様は恐ろしい方です。どうか、もうこれ以上関わらずにサウロ王国へお帰り下さい」



 部屋から出る間際、女官さんさんが震える声で懇願してきた。この人は間者さんの命の恩人だ。そして、今も心から案じてくれている。



「……それは、出来ない」



 苦笑いで応え、間者さんはそのまま女官さんに背を向けて部屋から出た。扉が完全に閉まるまで、女官さんさんは深々と頭を下げ続けていた。


 廊下側から再び扉に鍵をかける。


 カルスさんが気絶させて縛り上げていた兵士の拘束を解き、胸元に鍵を戻した。まるで見張りの最中に居眠りしたかのように壁にもたれ掛からせておく。侵入者などなかったのだと思わせるための小細工だ。あとは女官さんが口裏を合わせてくれれば誤魔化せる、と思う。



「んじゃ、行きますか」


「う、うん」



 これ以上ここに居ても仕方がない。王都から出て、イナトリと合流しなくては。


 王城から出て市街地を抜ける際、真紅以外の魔獣を十数匹見掛けた。


 どうやら城壁に囲まれた市街地の中に白と新種ばかりを野放しにして争わせ、効率的に進化させているようだ。強い魔獣が増え過ぎると後々厄介になる。進化前の魔獣を見つける度にカルスさんが倒してくれた。


 しかし、これもやり過ぎると気付かれてしまう。数匹減らしたところで王都から離脱し、海近くの岸壁で待つイナトリ達の元に向かった。







「……人語を解する魔獣……?」



 異世界人、またはその血を引く者を獣に喰わせて造り出された魔獣は人の言葉が分かるようになる。この話を聞いて、イナトリはサクラちゃんを見上げた。


 頭から尻尾の先まで全長十五メートルはあるドラゴンの魔獣、それがサクラちゃん。元はイナトリの妹で女子高生だったが、この世界に転移した直後に喰われ、意識だけをドラゴンの魔獣に宿している状態だ。


 僕達異世界人は何故かこちらの世界の言語が全て分かる。魔獣と化してからもその特性が残るという事か。



「だから言葉が分かるのか……」


「うん、そうみたい」



 瞬きも忘れ、何かを考え込むイナトリ。


 あ、これは悪い方に思考が傾いてるな。



「イナトリ、わざと魔獣になろうとか考えてない?」


「! ……あ、いや」



 誤魔化しても分かる。サクラちゃんと一緒にいる為に魔獣になるとか平気で言い出しそう。


 サクラちゃんはイナトリの頭を鼻先で突いた。「わかった、やらないから!」とイナトリが弁解してもサクラちゃんは許さず、腕や足に軽く歯を立てて抗議している。


 確実に()()なる保証がない以上、わざと獣に食べられるなんて真似は絶対にさせない。いや、保証があっても駄目だけど。



「それって生粋の異世界人でなくてもいいワケ? この世界、割と混血いると思うよ〜」


「え、そうなの?」


「昔は異世界人保護法とかなかったしさ〜、生きてくために現地の人と結婚とか普通にあったんじゃない?」



 『異世界人保護法』は、ミクちゃんを亡くした王様が作ったサウロ王国独自の法律だ。まだ保護法制定から十数年しか経っていない。カルスさんが言うように、こっちの世界でひっそりと子孫を残した人もいるだろう。


 もしかしたら、リーニエもそうだったのかもしれない。帝都の廃教会でティフォーが操っていた魔獣達も人の言葉を理解しているようだった。過去、故郷の村に異世界人がいたのだとしたら説明がつく。


 やっぱり、僕達異世界人がこっちの世界を乱している。まるで悪性のウイルスのようだ。


 王城から戻って以来、間者さんは岸壁に座り込み、無言で海を眺めている。


 なんて言葉を掛けたらいいか分からない。この半月程の間に色んな事が起きた。間者さんにとって辛い事実がどんどん明らかになった。まだ気持ちの整理がついていないんだ。



「あ。そうそう、明緒(あけお)クン達が調べに行ってる間にアーニャ様と連絡取れたよ」


「え、ホント?」


「うん。連絡用の便箋を何枚か預かってるんだ。今日の昼の分がさっき消えたから、ちゃんと届いてるはずだよ」



 引き合う力を用いた一方通行の連絡手段だ。連絡事項を書いておけば、あらかじめ決めておいた時間に空間魔法でアーニャさんが回収してくれる。連絡手段が手紙や伝令しかないこの世界では画期的な方法だ。



「え、待って。僕そういうの任された事ないんだけど」


「…………そうなんだ」



 なんかちょっと悔しい。ていうか、アーニャさんは本当にイナトリを信用してるんだな。


 僕は???



「これで帝国軍の居場所はサウロ王国軍に伝わった。順調にいけば明日には合流出来る」



 それはつまり、決戦が近いという事だ。


 セルフィーラを保護し、シヴァを倒す。そして、今いる魔獣を殲滅すれば、こっちの世界に平穏が戻ってくる。


「えーと、現在カサンドールの王都にいる帝国兵は数が少ないから、サウロ王国軍が到着したら先に全員倒して、船で戻ってくるシヴァ達を迎え撃つのが一番効率がいいかな」


「ん。でも、そう上手くはいかないかもね」



 最初に気付いたのはサクラちゃんだった。急に顔を上げ、真っ直ぐ南を睨み付ける。何も見えない内から気配を感じ取っているようだ。


 次に、間者さんが船影を発見した。


 水平線の向こうから近付いてくる十隻ほどの帆掛け船の船団。中央に位置する船には帆がないが一番大きく、周囲の船にロープで繋がれて引っ張られているように見えた。陸までの距離は二、三キロほどのだろうか。



「あっちの方が早かったね」



 間違いなくシヴァ率いる帝国軍だ。しかも、あれだけの船の数。一体どれだけの帝国兵が乗っているのか。



「どうする〜? 今なら竜のお嬢さんと突っ込めば船ごと沈められると思うけど」


「そ、それは駄目。セルフィーラを保護しないと」


「でもさぁ、そんな悠長な事言ってられなくない? 陸に上がられたら厄介だよ」


「でも……!」



 カルスさんの言う事は正しい。セルフィーラを助けたいのは僕のエゴだ。確実に倒すには、相手が海上にいる内に急襲するのが一番手っ取り早い。


 でも、セルフィーラは間者さんの妹だ。父親にも母親にも絶望した間者さんに残された最後の希望。死なせたくない。



「……待って。真ん中の船に何か乗ってない?」



 目を凝らすと、確かに船上に大きなかたまりがあるのが見えた。僕達が見ている前で、黒い小山のような()()が不意に動いた。


 ギャア、という鳴き声が辺り一帯に響く。


 その声を聞いたサクラちゃんが飛び立とうとしたが、イナトリが慌てて制した。


 今の鳴き声は確かにあの船から聞こえてきた。



「ねえ、あれってもしかして──」


「間違いない。……咲良以外のドラゴンだ」



 帝国軍が運んできたのは、一体の黒いドラゴンだった。


誤字報告ありがとうございます

とても助かっております

誤字ゼロで更新できればいいのですが、

結構見落としがあってお恥ずかしい限りです


もしまた見つけたらお気軽にご報告ください

お待ちしております(*⁰▿⁰*)

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