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ひきこもり異世界転移〜僕以外が無双する物語〜  作者: みやこのじょう
第10章 ひきこもり、戦場に立つ

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148話・旧カサンドール領

後書きに小話があります


 ユスタフ帝国領、中央部からやや西の地点。サウロ王国軍は岩山を背にした平地に拠点を設営し、この日はそこで夜を明かす事となった。


 一刻も早く先を急ぎたいところだが、アーニャさんの魔法『身体強化』を掛けられた兵士は反動でしばらく動けなくなる。無理に進軍しても満足に戦えない為、一晩ゆっくり休む事にしたのだ。サクラちゃんもずっと飛んで移動してきたから翼を休める必要がある。


 夜間の見張りは、エニアさんと共に合流した軍務長官直属部隊の人達に任された。全員王国軍の兵装ではなく、それぞれに適した防具や武器を身に付けていて、見た目に統一感は全くない。



「将軍シヴァの目的地が旧カサンドール領ぉ!?」


「は、はい、帝国軍の兵士から直接聞き出したので間違いな──……ありません」



 エニアさんから聞き返され、つい敬語で答えてしまうイナトリ。何故か正座で軍議に参加している。


 その身をもって恐ろしさを叩き込まれたせいか、オルニスさんに対する忠誠心と恐怖心に似た感情をエニアさんにも抱いているみたい。



「ちょいと、エニア! 大声出すんじゃないよ。イナトリが怯えてるだろう?」


「え〜? いつも通りなんだけど」


「じゃあ、もう少し抑えるんだね」



 すっかりイナトリの保護者と化したアーニャさんから叱られ、エニアさんは頬を膨らませて拗ねた。


 記憶を読み、その境遇に同情したアーニャさんは、イナトリを自分の庇護下に置く事に決めた。これは帝国側に付いていた過去があり、まだ周りの信頼を得ていないイナトリの立場を守る為だ。サクラちゃんの記憶をうまく読み取れなかった罪滅ぼしの気持ちもあるかもしれない。



「なら、明日から進路を真西にしましょ。ここからだと、兵士の足を考えると……うー、えーと、カサンドールまでどれくらい掛かるかな」


「は。およそ二日程で国境に辿り着くかと」



 広げられた地図を前にウンウン唸るエニアさんに、すかさず兵士長さんが答えた。勿論、これは順調に進軍出来た場合の試算だ。途中で魔獣に道を阻まれれば時間が掛かる。



「ん〜……帝国領内にいる王国軍を集めて、一気に移動した方がいいかしら」


「いや、時間が掛かり過ぎる。これ以上新たな魔獣を造らせん為にも早めに行かねばならんじゃろう」


「でも、ここの兵だけじゃ数が少ないし」



 今後の方針について、エニアさんと辺境伯のおじさんとの間で議論が交わされている。軍隊の運用については僕達は素人だから口出し出来ない。



「取り敢えず、ボク達は先行します。飛んでいけば早いので」


「でも危なくない? 確かに竜は強いけど、ヤモリ君もイナトリ君も一人じゃ戦えないでしょ」


「一応、護身用の魔導具は身に着けてるけど……」



 魔力貯蔵魔導具(キューブ)と、盗聴阻害と風の障壁の機能が付加された腕輪型魔導具、そして、マイラが王都から持ってきてくれた護身用の魔導具が幾つか。どれも装備している人を攻撃から守る機能が付いている。これはイナトリと間者さんに着けてもらう予定だ。



「魔導具は万能じゃない。あくまで補助的なものだから頼り過ぎは駄目だよ。内蔵魔力が尽きたらただの飾りだからねぇ」



 以前、僕が魔導具頼みで危ない橋を渡った時の事を思い出し、アーニャさんが念を押してきた。もっとも、その時に敵対していたドラゴンとイナトリが今は仲間になっている訳だけど。



「しかし……オルニスが許可したとはいえ、兵士でもない者を前線に向かわせるのは気が進まんのぉ」



 辺境伯のおじさんは、これまで僕を戦場から遠去けるように言ってくれていた。でも、今回はもう諦めているみたい。既にオルニスさんの策を聞いているのだろう。うまくいくかは分からないけど、僕は僕の役目を果たさなければならない。


 帝都のアークエルド卿と中継点のブラゴノード卿にはアーニャさんの空間魔法で連絡済みだ。


 これで、サウロ王国軍に帝国軍の行き先は伝えた。あとは僕達が先に向かってセルフィーラを救い出し、シヴァを打ち倒すだけだ。






 翌朝、日の出前に出発する。


 サクラちゃんに乗り、早朝のやや冷えて湿った空気の中、西を目指して飛んでいく。時折眼下に魔獣の群れを見掛けたが、やはり黒と灰のみだった。帝国領に入ってから、何故か白や新種の魔獣を見掛けていない。



「ゆうべ辺境伯(あるじ)に殴られた……なんもしてないのに……」



 まだ赤みの残る頬をさすりながら間者さんがボヤいた。言葉とは裏腹に、その表情はどこか嬉しそうだ。


 出自が明らかになってからも変わらず接してくれる辺境伯のおじさんの存在は大きい。イナトリを揶揄(からか)う時以外は割と沈みがちだったから心配してたけど、もう大丈夫そう。



「いやあ、竜のお嬢さんが大人しいからって興味本位で触りにくる奴が多くてね〜。昨晩は気が抜けなかったよ」


「そう言いながら咲良(さくら)を撫でるのはやめろ!」



 カルスさんは相変わらずだ。サクラちゃんの背に座りながら、さり気なく翼の付け根を撫でているのが見つかり、イナトリから滅茶苦茶怒られている。これから敵地に赴くというのに緊張感がない。



「どれくらいで着くと思う?」


「サクラの飛ぶ速さなら、境界までなら十時間もあれば着くんじゃない? でも、そこから先どうするかだよね」



 旧カサンドール領は元は一つの独立した国だ。地図で見る限りかなりの広さがある。国土の南側は海に面していて、王都も南端に位置している。ただし、これは古い地図だ。街の配置が昔のままとは限らない。



「すぐに見つかるといいけど」


「軍を連れてるはずだから、近くまで行けば分かるんじゃない? 取り敢えずカサンドールの王都を目指そっか」



 時折地上の集落跡地に降りて休憩を挟む。弱い魔獣はサクラちゃんがいるだけで近寄ってこないから安全だ。



「あ、この辺は確かティフォー達の村があったとこじゃないかな。一度いっしょに来た事があるんだ」


「……完全に廃墟だね」


「獣の群れに襲われたって言ってたし、こんなロクに柵もない集落じゃひとたまりもなかっただろーね」



 ティフォーの故郷という事は、ナヴァドやランガの故郷でもある。イナトリからは特に聞かれていないので、僕からも何も言ってない。というか、言いづらい。彼らが死んだ事を知っているのだろうか。






 風向きにも恵まれ、空の旅は順調に進んだ。


 その日の午後には境界に辿り着いた。サウロ王国との国境と同じような石の壁が間を隔てているのが見えた。暫く壁に沿って飛んでみたが、周辺に人影はない。


 その代わり、地上をうろつく魔獣の姿が目に付いた。帝国側より旧カサンドール領側の方が何故か数が多い。黒と灰ばかりで、ここにも白と新種の魔獣は見当たらなかった。上空のドラゴンに気付くと、一斉に逃げ出したり遠くから吠えたりしてくる。



「どうかした? 明緒(あけお)クン」



 下を見たまま眉間に皺を寄せる僕を見て、イナトリが声を掛けてきた。



「これまでは群れに最低一匹は白の魔獣がいたのに、帝国領に入ってから全く見なくなったんだ。少ないんじゃなくて『ゼロ』だよ」



「……ああ、そういえばおかしいね。もしかして、シヴァが戦力として何処かに掻き集めてるとか? この先、白と新種だらけだったらヤだねー」


「……そうかも」



 何の確証もないけど嫌な予感がする。


 壁添いに南下して更に飛び続けるが、帝国軍の姿はない。壁の内も外も魔獣だらけのせいか見張りもいない。



「後からサウロ王国軍が来る時に邪魔になるかな」


「エニア様なら自力で壊せるんで大丈夫っすよ」


「は? あの人そんな事まで出来るの!?」


「ああ見えて王国軍で一番強いんだよ〜。グナトゥス様もだけど、あの父娘はホント別格でさ〜」



 間者さんとカルスさんからエニアさんの強さを聞かされ、イナトリは身体を震わせた。


 サクラちゃんに体当たりで壊しておいてもらおうかと思ったけど、境界線が意外と長かったので諦めた。王国軍が何処に到着するか分からないし、サクラちゃんの身体が幾ら頑丈でも負担が大きい。


 当初の予定通り、このまま王都に向かう。



「王国軍がこの辺りに着くまであと一日は掛かる。それまでにシヴァの居場所を見つけて、まずはセルフィーラの身柄を確保する……で、いいんだっけ? 明緒クン」


「うん。セルフィーラさえ押さえれば魔獣はこれ以上増えない。今いる魔獣を全部倒せば終わる」



「ん、わかった。でも、咲良で近くを飛び回ると気付かれる。夜はともかく昼間は注意が必要だな」



 もうすぐ日が暮れる。


 帝国軍が野営をしていれば篝火の明かりがある。もし休みなく行軍していたとしても、ランプや松明無しとは考えにくい。


 今夜は夜通し探索する事になる。一旦境界の壁の上で休憩を取った後、再び上空からの探索を開始した。


【おまけの小話】


国境の壁の上での休憩中、サクラちゃんはいつものように魔獣を食べに何処かへ飛び去っていった。



「……休憩の度に思ってたんだけど、魔獣ならその辺にいっぱいいるよね? なんでわざわざ離れた場所まで食べに行くんだろ」


「なぜか一緒に連れてってくれないし、一時的とはいえ、竜のお嬢さんと離れるのは寂しいかな〜」



何気ない僕の呟きにカルスさんと間者さんは同意し、イナトリだけが鼻で笑った。



「お前らホントにデリカシーないな! 咲良はああ見えて十六才の女の子なんだぞ? 魔獣を食べてる姿なんか他人に見られたくないに決まってるだろ!」


「そ、そういうものか……」


「それに、いくら竜の姿でも男の前で用を足す訳にはいかないだろーが」


「「「た、たしかに……!」」」



飲み食いすれば当然排泄しなくてはならない。そりゃあ僕達の前で出来るはずないよな。



「同時に、これは咲良からの気遣いでもある。……今のうちに済ませておきなよ」



そっか! それは僕達も同じだった!!


ドラゴンの姿とはいえ、サクラちゃんは年頃の女の子。男性陣のトイレなんか見たくないよね……。


サクラちゃんが飛び去る度にイナトリがトイレを促してきたのはこういう理由があったんだな……。ドラゴンとはいえ女の子と旅してるんだし、色々気を付けよう。



▶︎ヤモリ は 気遣い を覚えた!

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